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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十六章 チャッマニー姫の決断、そして…

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バチャラ、動く…

「いや。絶対にいやっ」

強く拒絶するチャッマニー姫だが、その周りには政府の関係者がなんとか説得しようと声をかけ続けている。

「しかし、姫様っ。あの条件は…」

「そうでございます。それになぜ、あの男でしょうか?」

「あの人がいいの」

それらの問いかけにチャッマニー姫は答えるも、それは途切れることのない関係者の言葉に流され否定されてしまう。

「しかしですな。もしこれで今回の件が流れてしまったら、わが国は大損でございます」

「そうそう。それだけではない。赤っ恥をかいてしまうだろうし、国民だって納得しないですぞ」

段々と言いくるめられそうになりつつも、チャッマニー姫は必死になって説得を否定し続けている。

今の彼女にとって、この思いだけは譲れない。

その思いだけが今の彼女の心の支えの全てとなっていた。

そんな中、最初こそなんとか説得しようとしたバチャラではあったが、あまりにも強い姫の拒絶反応に困り、一歩後ろに下がって考え込んでいた。

以前の姫ならば、ここまで言われたら、国の為、国民の為に自我を殺す選択をしてきたし、それが王族の義務と納得していたはずだった。

前回の共和国の議員の息子との婚約の時でさえ、結局は受け入れたのだ。

しかし、今の姫様は違う…。

まるで別人のようだ。

そう、その姿は…。

そこまで考えがたどり着いたとき、バチャラの頭の中に、今回の件を解決できるかもしれない人物の顔が浮かぶ。

姫様の専属侍女プリチャだ。

彼女は、姫様に最も近く、そしてもっとも親しい人物である。

そして、なにより姫様の為に行動する。

だからこそ、彼女の考えが必要なのではないか。

そして、ここまで必死な彼女の原因も知っているのではないか。

そう思いついたからだ。

バチャラは慌てて控え室から退出するとプリチャのところに向う。

確か…今の時間帯は姫様の部屋の掃除をしているはず。

だが、いなかったらどうするか…。

他にいそうは場所は…。

そう考えつつも姫様の部屋に向かうと、そこで運よく掃除が終わったのだろう、部屋の前の廊下で掃除器具を片付けようとしているプリチャを発見した。

「ああ、いたか…。よかった」

バチャラはそう言ってほっとした。

「あ、あのう…なんでしょうか、バチャラ様」

まさかこんな時に会うとは思っていなかったに違いない。

「えっと…フソウ連合との対話は終わったのでしょうか?なら、そろそろ姫様も戻ってこられるのでしょうか?」

そう言ってプリチャは少し慌てたような表情を見せた。

多分、姫様が戻ってくるなら、考えていた仕事の手順を変えなければとでも思っているのだろう。

そんな様子は、実に好感が持てる。

そんな事を考えてしまったバチャラだったが、慌ててその考えを奥にしまい込むと口を開いた。

「あ、違う。違うんだ。対話は延長されていてな、まだ時間がかかる」

「そ、そうですか…」

少しほっとしたような、残念そうな顔をするプリチャに、バチャラは意を決したように現在の状況を話す事にした。

もっとも、まさか廊下でこんな話をするわけにはいかず、姫様の傍にある侍女用の控え室に移動した。

「えっと…お話とはなんでしょうか?」

警戒するような表情でそう聞かれ、バチャラは心の中で苦笑しつつ対話での経過を話す。

その話を難しそうな顔で聞いていたプリチャであったが、姫様が最後に木下大尉のアルンカス王国の残留を条件に出した時表情が変わった。

「ふふっ。困った姫様ですね」

そう呟くとプリチャは困ったような笑みを浮かべたのだ。

それでバチャラはここに来て自分の考えが正しかった事を確信する。

彼女は今回の件で何か知っている。

だから、慌てたように口を開く。

「すまん。わかっている事があったら教えて欲しい。このままではどうにもならないのだ。頼む…」

バチャラはそう言うと深々と頭を下げた。

その様子に、プリチャは慌てたように両手を振る。

「そ、そんな…。バチャラ様、頭を上げてください。私に出来る事なら何でもいたします。もちろん、それが姫様の為なら喜んで…」

「すまん。感謝する」

そう言ってバチャラは今回の話を聞くこととなる。

チャッマニー姫や木下大尉ではなく、マムアンとキーチの出会いから、今までの話を…。

そして知る事になる。

二人の思いの強さを…。

そして最後に、プリチャは言った。

「姫様は、今まで最後の王家の生き残りであり、この国の姫という重荷を背負って生きておいででした。ですが、そんな姫様が、ただの十一歳の少女として初めて抱いた感情と思いを大切にして欲しいんです。バチャラ様はこの国の宰相という地位におられます。そんなバチャラ様ならきっとそれが出来ると、私は信じています」

そう言って深々と頭を下げるプリチャ。

姫を思う気持ちに満ちた言葉に、バチャラは圧倒されて思わず一瞬固まってしまったがその思いは心に伝わったのだろう。

すぐに頭を上げるように言ったあと、苦笑しつつ口を開いた。

「そんな事が私に出来るだろうか…。姫も、国も、フソウ連合も納得させることが出来る事が…」

「出来ます。バチャラ様なら…」

「そうか?」

「はい、だって、バチャラ様は、先王の意思を継ぎ、今までこの国を支えきった方ですから」

そう言って屈託ない笑顔を向けられ、バチャラはますます困惑したような表情をしたが、すぐに決心したのだろう。

表情を引き締めるてプリチャに礼を言うと、慌てて控え室に踵を返したのだった。


控え室に戻ってくると、現状はより悪化していた。

チャッマニー姫一人に対して、周りの関係者が否定し続ける場面は相変わらずだが、周りの人間もチャッマニー姫も感情的に走りすぎており、傍から見たらこれは絶対にまとまらないなとわかるような状況であった。

泣きそうになりながらも必死で否定し続けるチャッマニー姫の様子に、バチャラは強くなられたなと思うと同時に、その思いの強さを再度確認できた。

ならば…。

そう決心するとパンパンと手を叩き、周りに負けないような声を上げた。

「いい加減にしたらどうですかな?」

手の音とその声に、その場にいた者たちの視線がバチャラに集まる。

「双方、そんな感情むき出しではまとまるものもまとまりませんぞ。少し落ち着いたらどうですかな?」

「しかしだな…。もう時間がないのだ」

「そうだ。今更延期とかはできん。ましてや、白紙撤回などになったらどうするつもりか」

「そうだ。そうだ。我々の悲願である独立のこんないいチャンスを…」

そんな非難めいた言葉をバチャラはぎろりと睨み返して口を開く。

「なら、このままの状態でまとまるというのですか?」

その言葉に、関係者たちは口をつぐみ、視線を逸らした。

「それに、傍から見ていると実に気分が悪い。一人の少女を大勢の大人が言い分も聞かず攻め立てているようで…」

そう言いつつも、バチャラは心の中で苦笑した。

自分だって最近まではそんな中にいたというのに…。

本当なら、こんな事を言う資格があるのは、あの侍女だけなんだろうが、彼女の代理として今は言わせてもらうとするか。

そう思うことにして、黙り込んでいる関係者に向って言葉を続ける。

「実に見苦しいですな…」

その言葉に誰も反論できない。

落ち着いて行動を振り返ってみれば、そういわれてもおかしくない状況であった事を自覚してしまうからだ。

しかし、それで不満がなくなったわけではない。

「では、どうするというのだ?」

その声に、バチャラは苦笑した。

「それを考えましょう。ただ感情や自分の主張をぶつけ合うだけではなく、譲歩できる事、できない事を確認しつつ互いに納得できる結果にするのが我々の仕事ですからな」

正論に、全員が黙りれこんだ。

納得しきったわけではない。

だが、文句をつけようがないだけだ。

だからこそ、黙り込む。

今、感情的に叫ぶ事はできるが、それは自分自身を蔑む行為でしかないと誰もがわかっているのだろう。

全員が黙り込んだ中、バチャラはチャッマニー姫の側まで来ると腰を屈めてハンカチを手渡す。

「強くなられましたな、姫様」

「バチャラ…」

それを受け取り、チャッマニー姫は目元に当てる。

だが、それで今までなんとか押さえ込んでいた感情が爆発したのだろう。

チャッマニー姫は声を上げて泣き始めたのだった。

それは姫という肩書きはないただの十一歳の少女の姿だった。

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