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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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ガサ沖海戦 その後…  ある人物の視点から

海面に漂流物につかまって何とか漂っていた私を助け出してくれたのは、敵国の船だった。

マストには、あの白地に紅い丸の旗が掲げられている。

だから間違いないだろう。

黒い髪に黄色い肌をした軍人らしき水兵が、海面からボートに私を引き上げ、そのままボートの母艦と思われる軍艦に移送された。

甲板には、私と同じように救い出されたであろう私の艦隊の兵が何人もいた。

あるものは座り込み項垂れており、またあるものは落ち着きなくきょろきょろと周りを見ている。

そして、その中で一際違和感を感じたのは、なにやらこそこそと小声で話をしている二人組だった。

ほとんどの者が疲れ果ててぐったりしている中、なにやら鋭い目で周りを見回している。

ああ、何かやるつもりだな。

なんとなくそうわかったが、疲れ切っていた私は、それをぼんやりと見ていた。

止める気は起きなかった。

もうただその場に座り込んで身体を力を抜いてぐったりしたかった。

そしてどれほど時間が経っただろうか。

白い軍服らしき服を着た男が水兵らしき兵を二人率いて我々の前に立った。

ほとんどの者はぼんやりとそれを見ている。

自分たちがどういう運命になるのか、恐れおののいているか、疲れきって投げやりになっているかのどちらかだと思った。

白い軍服を着た男が軽く咳払いをすると口を開いた。

「諸君、わかっているとは思うが、諸君らは戦いに敗れた。今は、わがフソウ海軍の捕虜である。諸君の国とは条約も何も結んではいないが、最低限の事は保障するつもりだ。もちろん、協力してくれるならだが…」

そこまで彼が言った時だった。

何かやらかすと思っていた二人組みが、白い軍服の軍人と二人の水兵に襲い掛かったのは…。

白い軍服の軍人は高級将校と思われるから、人質にでもしようとしたのだろう。

慌てたように水兵が銃を構えて前に出ようとしたが、タイミング的に間に合うとは思わなかった。

疲れ切っていた者達にとっては余計な事はしないで欲しいと思ったが、また一騒動あるかとうんざりすると同時に巻き込まれないように離れようとした。

しかし、そうはならなかった。

なぜなら、白い軍服の軍人に襲い掛かった男達は、あっという間にねじ伏せられていたからだ。

一人は軍人に足を引っ掛けられてその場に倒れたところを水兵に取り押さえられていたし、もう一人はまるで手品のように軍人に組み伏せられていた。

あっという間の出来事だった。

白い軍服の軍人は、取り押さえた男を水兵に手渡し、何やら指示をするとニコリと笑ってこっちを見た。

その笑みには悪意は感じられなかったが、それが余計に私には怖く感じられた。

「さて、抗議は以上でよろしいかな?」

その言葉に、その場にいた私を含めた全員が頷いたのは言うまでもない。

そして、その時になって、私ははじめて気がついた。

その軍人が、わが国の母国語を話している事を…。


翌日、昼過ぎに港に着いたのだろう。

私達捕虜は船を下りるように言われた。

船を下りる際に念のため手錠をかけられた上に縄でつながれたため、見た目は酷い目にあったかのように見えるかもしれないが、実際はそんな目にはあっていない。

結構うまい三度の食事はきちんとあったし、寝る際にはベッドがないのは申し訳ないと謝罪されて毛布などを渡されたし、なにより救い出された後にシャワーを浴びさせてもらったのは初めてだった。

確か、わが国と他国では捕虜待遇の条約を結んでいるが、それでも食事は一回でもあればいい方で、寝るときに寝具どころか毛布も渡されず、暴力や虐待は当たり前なのである。

その上、海水に浸かっていたとしてもそのまま濡れ鼠のまま放置が普通であり、シャワーを浴びるなど絶対にないことだし、洗濯された服を返されたときは驚くしかなかった。

ましてや、我々はやってないとはいえ、今までこの国に侵入して好き勝手に暴れまくった事もあるわが国の兵士に対してである。

もし逆の立場なら、捕虜に対してのリンチ騒ぎは普通にあるだろうし、ここまでの厚遇はないだろう。

いくら条約が結ばれているといってもそれは建前でしかない。

裏で何かあったとしても、それは不幸な事故で済まされてしまう。

しかしだ。

この軍隊は違っていた。

全てにおいて規則正しく、統制が取れている。

それは上官だけではない。

末端の兵士でさえ規律正しく対応しているのだ。

その様子は、まるで別次元の出来事の様に見えた。

そして、それと同時に、私はこの軍に興味がわいてきた。

世界でも上位にあるわが国最新鋭の重戦艦を殲滅する戦力と、士気の高い統率された軍隊。

それは、自分が望む理想の軍の姿だった。

だから、私は尋問に対して聞かれた事には正直に全てを話した。

進んで協力したいと思った。

もう祖国の事などどうでもいいとさえ思えるほどに…。

そして、私が捕虜になって二日後、午前中の尋問が終わって他の捕虜達と昼食を済ませて独房で大人しくしているときだった。

私の独房の前が騒がしい。

靴音と人の話し声などが混じりあった音が響いてくる。

どうやら何人もの人が来たようだ。

ガチャリという金属音が響き、鍵が開けられてドアが開く。

すると厳しい目つきの白い軍服を着た軍人と兵士たちが部屋に入ってきた。

そして、軍人が短く言葉をかけてくる。

「少し話を聞きたい。来てもらえるかな?」

その言葉に私は躊躇なく頷く。

今日は、このまま終わるかと思っていたから、取調べや尋問があった方がありがたい。

彼らが暴力や薬を使ったりすることはないとわかっていたし、なにより彼らとの会話から、この国の事、軍の事が少しでもわかればいいなと思っていたからだ。

私が立ち上がると、後ろにいた水兵が白い軍服の軍人に何やら手渡している。

それを受け取ると、今度はそれを私に差し出した。

「すまないが、こっちに着替えてくれないか?」

そう言われて、手渡されたものを見る。

それはどうやら灰色ではあるが軍服のようだった。

「これを着ないとダメなのかな?」

そう聞いてみる。

すると、白い軍服を着た軍人は頷いて口を開いた。

「ああ、お願いします」

私は、「わかりました」と返事をして着替え始める。

今来ている服でもただ話を聞くなら問題ないはずなのに、なぜ服を着替えさせるのか?

着替えながらそう考えていた私はある答えにたどり着いた。

「どなたが会いたいといわれたのですか?」

私の質問に、聞いている意味がわかったのだろう。

少しムッとした表情をしたものの、白い軍服の軍人は口を開いた。

「フソウ海軍の最高司令長官閣下だ」

その言葉に、私の心は飛び跳ねんばかりに驚き、そして恋人との待ち合わせに行くかのようにワクワクが止まらなくなってしまっていた。

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