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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十六章 チャッマニー姫の決断、そして…

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お茶会  その2

午前中の公務をテキパキと終わらせ、昼食を済ましたチャッマニー姫は自室に急いで戻った。

午後のお茶会に着ていく服を選ぶ為にだ。

「うーん…。これがいいかなぁ…。でも、これも捨てがたいし…」

そんな服選びに迷うチャッマニー姫を部屋の隅に控えてプリチャは微笑ましく見ていた。

好きな人とのデートは迷ったわよねぇ。

特に会えなかった時間があると気合が入ったわよね…。

うんうん。わかる。

そんな感じで時々頷いたり遠い目をしているとついに一杯一杯になったのだろう。

チャッマニー姫は泣きそうな表情でプリチャに助けを求める。

「プリチャぁぁぁっ」

「はいはい。わかっております。姫様」

そう返事をすると、少しワクワクしてプリチャはチャッマニー姫に近づく。

「今の最終的候補はどれでございますか?」

「これとこれ…」

ベッドに広げられているドレスのいくつかの中から、少しピンク色のかかった白と爽やかな水色のものを指差す。

二つとも姫に実に似合うだろうが、多分彼女が求めているのはそんなことではないだろう。

プリチャは少し考えた後、ちらりとチャッマニー姫の方を見る。

そして、聞き返す。

「姫様は、どういうふうにキーチ様に見てもらいたいのですか?」

「えっ…そ、それは…」

真っ赤になりつつ言葉に困っているチャッマニー姫。

初々しくて可愛いなぁ。

そんな事を思いつつ、キーチ様と会うのはマムアンとして会っていることが多いし、その時は普通の街娘みたいな格好をしている。

だが、今回は一応公式の場だ。

なら、マムアンらしい感じを出しつつ、公式の場に出てもおかしくないのを選ぶといいのではないだろうか。

二つのドレスを見比べる。

ピンクっぽい白の方がフリルが多めで可愛らしい感じだ。

なら、こっちの方がいいだろう。

そう判断したプリチャは、ピンクっぽい白の方のドレスを指差す。

「こっちの方が私はよいかと思います」

「少し子供っぽくないかな?」

まだ十一歳というのに、本当にうちの姫様は実に言う事が時々子供っぽくない事がある。

やはり、公務を通じて大人と同じような世界に身をおいているためだろう。

もう少し、子供っぽくていいのになとも思う。

だが、それが許されない状態であり、そのストレスを外出する事で発散しているのだろう。

「ですが、こっちの方がマムアンらしいかなと…」

その言葉に、びくんっとチャッマニー姫が反応した。

「そ、そうかな…」

「そうですとも。姫様は、姫としてキーチ様に会いたいのですか?」

その言葉に、チャッマニー姫は慌てたように首を横に何度も振って否定する。

「それと、キーチ様に買っていただいたアクセサリーとかありますか?」

「えっと…あるけど…」

チャッマニー姫はそう言いつつ、おずおずとベッドの脇にある棚の引き出しから大切そうにアクセサリーの入った箱を持ってきてプリチャの前で開く。

中には、シンプルながらも綺麗なチェーンネックレスがあった。

銀色に輝き、アクセントに中央に小さなプレートが付いていてガラス球だろうか。

三色の色の付いた小さな球体が付けられている。

「あら…すごく綺麗ですわね」

プリチャはそういったが、よく見たら決して高いものではないのがわかる。

だが、すごく丁寧に作られており、ばっと見た目ではわからないだろう。

恐らくだが、デザイン的にアルンカス王国のものではないようだが、シンプルな分、どんなドレスにでも合いそうだし年齢とかも関係なく使えさそうだ。

ふむ。

キーチ様はなかなかいいセンスをなさっているわね。

思わず感心していると、チャッマニー姫が恐る恐るといった感じで口を開いた。

「えっと…この前、キーチにいただいたの…。どうかな?」

恐らく、このドレスに合うかどうか考え込んでいると思ったのだろう。

そう聞いてくる。

「ええ。いいと思います。それに男性としても、贈った物を使ってくれているというのは嬉しい事だと思いますよ」

プリチャは微笑んでそう言ってニコリと笑う。

「そうなの?」

驚いた顔で食いつくように聞き返すチャッマニー姫。

「ええ。そうみたいですよ。特に贈ったアクセサリーを愛しい人が身につけてくれるのはかなり嬉しいと父から聞いた事があります」

「うふっ。そうなんだ~。うふふっ」

プリチャの言葉にチャッマニー姫は嬉しそうにそう言うとくすくすと笑う。

そんな姫様を微笑ましく見ていたいが、ちらりとプリチャは時計を見た。

もう少しこういう時間が続けばと思うものの、お茶会まであまり時間はないので気持ちを切り替える。

「姫様、もうあまり時間がございません。テキパキといきましょう」

「ええ。がんばるわ。よろしくね、プリチャ」

「はい。お任せください」

こうして、チャッマニー姫のお茶会への準備は進んでいく。

限られた時間内で、最高の状態を表現する為に。

それはある意味、女にとっての戦いの準備であった。


十四時三十分。

王宮のアンピラットの間は多く人達が集まっていた。

アルンカス王国の民族衣装やアルンカス王国の軍服に身を包んだ者。

ドレスを着て美しく着飾った女性達。

そして、フソウ連合の軍服やスーツを着ている者。

それらの人々が指定された席に座って待っている。

もっとも、まだ正式に始まったわけではないので、隣同士で軽くおしゃべりなどにしている。

ここアンピラットの間はパーティや行事が行われる際に使われる部屋で、風向きなども考えられて作られており窓を開けると穏やかな風が流れる。

高温多湿のアルンカス王国では、暑さや湿度対策で涼しさを優先して設計されているのだろう。

用意されたお茶は、温かい紅茶だけでなく、涼しげなアイスティなどいろいろあり、お茶請け用のお菓子もアルンカス王国の代表的なものからフソウ連合のお菓子などもあり、実にバラエティにとんでいて見ているだけでも楽しい。

もちろん、食べるともっと幸せになれるだろう。

形式としては、最初こそ指定された席に座るが、時間が経ってくるとそれぞれが話したい相手のところに移動して自由にお茶を楽しむのがアルンカス王国流だった。

参加者は実に六十人以上。

ほとんどが、フソウ連合とアルンカス王国関係者で、残りの何人かが王国と共和国の関係者といったところだろうか。

そして、全員が着席して待つ中、チャッマニー姫の到着が知らされる。

全員がおしゃべりをやめると立ち上がり、頭を下げる。

そんな中、しずしずとチャッマニー姫が侍女を連れて入室した。

ピンクっぽいフリルの付いた白いドレスと、銀色のチェーンネックレス。そして頭には略式の王冠。

まさに姫として相応しい質素でありながら、実に高貴な雰囲気を感じさせる。

だが、一部のアルンカス王国の関係者は少し違和感を感じていた。

こうした公式の場で着るにしては少し子供っぽいと…。

基本、チャッマニー姫は、大人っぽい格好を好んでいたからだ。

だがすぐに彼女の年齢を思い出す。

まだ十一歳の少女だという事を…。

そして、その事を最近はすっかり忘れてしまっている事に…。

チャッマニー姫は中央の席に着くと周りを見回して微笑むと口を開く。

「今回の茶会は、お互いに親睦を深めるものである。だから…、確か身分の関係なく楽しむ事をフソウ連合では『ブレーコー』と言うのだろう?」

いきなりそう聞かれ、一番姫の場所に近いフソウ連合の関係者らしき人物が慌てて「その通りでございます」と返事を返す。

「なら今回の茶会は『ブレーコー』だ。それぞれ楽しんでいって欲しい」

その姫の言葉でお茶会が始まった。


すでに何人と挨拶と言葉を交わしたのだろう。

にこやかに笑いつつそんな事を考えている。

もちろん、その間も思考とは別に入れ替わりに来る人々にきちんと挨拶をし、当たり障りのない返事を返す。

小さな頃、それも六歳で社交界デビューしているチャッマニー姫にとってそれはもう当たり前にできることであった。

あ…キーチに会いたいな。

でもあったら何と言えばいいのかな…。

久しぶり?

違う違う。

頻繁に会ってるのは姫じゃない。

マムアンとしてだし…。

うーーーん…。

難しいなぁ…。

普通の人だったらいつも通りでいいんだけど、キーチは違うからなぁ。

そこまで考えて、自分がキーチを特別に思っていることに気が付く。

そして嬉しくなる。

でもなぁ…。

そうなってくると、他の人にばれずに特別な人だってアピールしたくなる。

だけどなぁ…。

二人の関係は、プリチャ以外は秘密だし…。

うーんっ。困ったなぁ…。

そんな風に表面上はいつも通りの姫様モードで穏やかに、しかし心の中では悩んでいると、後ろからとんとんと背中をつつかれる。

プリチャだ。

プリチャが耳元で囁く。

「姫様、また別の事を考えておいでですね。ほどほどにしておいてくださいませ」

どうやら、姫様モードの笑顔である事は、侍女のプリチャにはバレバレらしい。

「わかったわ」

小さく頷いてそういった後、プリチャに頼む事にした。

「ねぇ、キーチの姿が見えないんだけど、連れて来てくれない?」

「いいんですか?まだ挨拶待ちの人がいるようですが…」

「すぐに会話できなくてもいいの。彼の姿が見たいの。話をするのは、落ち着いてからにするから…」

小さくため息をするとプリチャは苦笑した。

「わかりました。姫様。キーチ様をお連れします」

「ええ、お願いね」

頭を下げるとプリチャはすーっと下がった。

キーチを探しにいったに違いない。

しかし、キーチどこにいるのかしら。

私に合うために、お茶会したんでしょう?

真っ先は無理でも、せめて私の視界の中にはいなさいよ。

なんか落ち着かないんだから…。

そんな事を思いつつ、六人ほど挨拶と言葉を交わしたときだった。

慌てた様子でプリチャが戻ってきた。

その普段とは違う焦った様子に違和感を感じたのだろう。

チャッマニー姫は、今会話している方に謝罪して席を離れてプリチャの傍に近づく。

ブリチャもチャッマニー姫がこっちに来ているのに気が付いたのだろう。

人気のないベランダの方に二人は進む。

そして、周りに人がいない事を確認すると焦った声でプリチャは告げる。

「キーチ様は、お茶会に来られていません」

予想外の言葉にチャッマニー姫の表情が固まる。

しかし、それだけでもショックだったが、プリチャの言葉には続きが合った。

「それと、四月一日のアルンカス王国独立式典終了後には、キーチ様はフソウ連合本国に戻るように指示がでているようです」

チャッマニー姫の頭の中で、ブリチャの言葉が何度でも繰り返されていく。

信じられない。

信じたくない。

しかし、プリチャが嘘を言うはずもない。

だけど…。

ぐるぐると思考が回っているのに、何も考えられない。

すーっと血の気が引いていくのがわかる。

「うそっ…」

それだけを口にして、チャッマニー姫の視界は暗転した。

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