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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
外伝3 戦艦 大和改はもっと打っ放したい

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戦艦 大和改はもっと打っ放したい  その6

実弾訓練から三日後…。

長官室では、ソファに座りこんで五人の男たちが資料を見ながら会議をしていた。

実弾訓練から得られた結果と今後の方針についての確認である。

出席メンバーは、鍋島長官、実働部隊の長である山本大将、作戦本部部長新見中将、ドック長である藤堂少佐、それと最近創設された技術研究部の部長である戦辺技術大佐である。

各自が提出した報告書と資料がそれぞれに配られて議論が始まった。

「やはり、どうしても実戦とは違う結果になりますな」

そう切り出したのは、山本大将だった。

「まぁ、それは仕方あるまい。しかしだ。今回の訓練でもかなりいいデータは取れたと思うし、ただの実弾訓練よりは実戦的で参加した兵達の士気も高まったと思うぞ」

そう言ってなだめるのは新見中将で、彼は今回の標的艦艇の動きを用意し、それに対しての反応のデータと兵器のより正確なデータを手に入れることができたので、かなり満足しているようだった。

ただ、山本大将としては、指揮官の育成において今回のような実戦に近い実弾訓練をより活用したいと思っているらしく、言葉の歯切れが悪い。

「それは確かにそうだが…、出来ればより実戦的になって欲しいものだが…」

「ふむ…。真剣にやっていないわけではないが、やっぱり反撃がないというのは少し緊張感に欠けるかな…」

鍋島長官が少し考え込みながら言葉を漏らす。

「そうですな。相手の攻撃があるからこそ、それに対応しつつ、実弾訓練できるのが理想です」

鍋島長官の言葉に、山本大将がその通りだといわんばかりに相槌を打つ。

「しかしだ、反撃するようなものというのはかなり無理ではないか?今回だって事前に入れておいた動き以外は出来ないわけだし…」

新見中将はそう言いつつ戦辺技術大佐の方を見る。

その言葉に戦辺技術大佐は頷き、口を開く。

「そうですね。現時点では、事前に用意しておいた通りに艦艇を動かすので精一杯ですね。特に大きなモノになればなるほど難易度は上がっていきますし…」

「そうか…。難しいか…」

山本大将はがっくりと肩を落とす。

指揮官を育てていく必要性がある以上、できるかぎりの事はしておきたいと思っているのだろう。

いい師匠になれるなと鍋島長官は思って、ふと聞いてみる。

「そう言えば、新田中尉はどうしたね?」

長官の言葉に、山本大将は苦笑いをする。

「思いっきり説教のつもりでしたが、かなり本人が凹んでいましてね。説教しにくかったですわ」

「そうか…。でもいい傾向じゃないか。反省している様子なんだろう?」

「ええ。反省はしていますが、これで凹んだままでも困るんですがね。より成長してくれないと…」

「なあに、まだ若いんだ。少しぐらいの挫折は、いい経験になると思うぞ」

「それならいいんですがね…」

そう言いつつ考え込む山本大将から鍋島長官は視線を新見中将に移す。

「新見中将は、今回の訓練で何か反省点とかはあるかな?」

そう聞かれて新見中将は「そうですね…」と言いつつ少し考えた後、言葉を続けた。

「私としては、各兵器のスペックの見直しをこれを契機にやっていきたいと思っています」

「やはり、違いが出たかな?」

「ええ。カタログスペック以下というのではないんですが、より正確な兵器の性能は作戦を立てる際に重要な資料となりますからね。それと敵艦隊の動きに対しての反応というのは、もう少しデータを集めたいですね。絶対にそう対応すれば成功とはいかないまでも、こうした方がいいのではないかという参考があれば、より育成に生かせますし、作戦立案のたたき台にも使えますから…」

「ふむ。それなら、今度の実弾演習の機会があれば、また違う艦種でもいろいろとやったほうがいいな。それと航空隊も参加させよう。飛行機による戦艦や大型艦艇への攻撃なんかもより実戦的にできるだろうし…」

鍋島長官の言葉に、新見中将は頷くも、納得し切れていない様子だ。

「何か問題でも?」

「いや、確かに航空隊の戦力はかなりのものだと思います。実際に先の戦いでその力は証明されていますし、長官が力を入れられているのもわかります。しかし、あの戦いの相手は装甲巡洋艦や輸送艦です。私としては飛行機が戦艦を越える存在になるとは思えないんです。だから、他の艦艇の訓練ではなく、そこまで飛行機の訓練にやる必要はあるのか疑問に思うこともあるんですよ」

その言葉に、鍋島長官は苦笑するしかない。

自分の世界でも、旧日本海軍は、飛行機の有効性を実施しながらも初期はまだどこか大艦巨砲主義を引きずっていたのだ。

砲撃戦がメインであり、飛行機という存在がないこの世界では、そういう思考がより強いのは仕方ないのかもしれない。

だが、時間が経ては、間違いなく海戦の主力は航空機になる。

それは間違いない。

だから、鍋島長官はあえて言う。

「これから先、飛行機やパイロットがより必要になってくるときが来る。その為に、今はより多くのパイロットを育成する為のシステムの構築と優秀な人材の準備をしたいんだ。だから、そこは無理にでもお願いしたい」

鍋島長官の言葉に、新見中将は渋々頷く。

「わかりました。我々フソウ連合海軍を作り出し、フソウ連合の力をここまで大きくした長官を信じます」

「ありがとう。これからもよろしく頼む」

「はっ。了解しました」

「そんじゃ、こっちの話もいいか?」

そう言ってきたのは、藤堂少佐だ。

横にいる戦辺技術大佐の方をちらりと見ると、大佐は頷いている。

どうやら来る前に話す順番を決めてきたようだ。

「艦艇に関して問題として今のところ提出されているのは、ただ一点。長官の言うとおり、キングジョージVの艦橋周り…あれは不味いな」

渋い顔でそう言って先に渡された報告書とは別に紙の束をバッグから出す。

日付が本日になっているから、どうやら会議前になって提出されたものらしい。

表題は『キングジョージV型戦艦報告書』となっている。

「後で目を通しておいてくれ、長官」

「ああ。わかった。それで読んだ感じどうだ?」

その言葉に、藤堂少佐の顔がますます渋い顔になる。

「はっきりいって…欠陥品だ。今すぐドックに戻して改装を勧める」

「そうか…。だが、改装するにしてもその設計はどうする?ただ、装甲を厚くするだけでは終わらないだろうしな…。それに何より時間はない。もう外洋艦隊は訓練を始めて動き出している」

「そうだよなぁ…」

ため息を吐き出す藤堂少佐。

それに変わって顔色を変えて聞いてきたのは、新見中将だ。

「どういうことですか?欠陥品とは?!」

山本大将も焦ったような表情になっている。

外洋艦隊の指揮を取る真田少将は、新見中将の父親であり、山本大将の師匠でもあるのだからそういう反応になるのは仕方ない事だ。

だから、鍋島長官は言葉を選びつつ口を開いた。

「キングジョージV型は、軽量化の為に艦橋周りの装甲が薄く設計されていてな、今回の実弾訓練でその危険性がはっきりと証明されてしまったというわけだ。だから藤堂少佐はその設計が欠陥品だと言いたかったんだよ」

鍋島長官の説明になんとか納得したのだろう。

「そういうことですか。機能的な欠陥や事故が起こるといった欠陥という事ではないのですね」

「ああ。だが、今回の事でそれがはっきりしてしまった以上、改修する必要があるということだ。だが、すぐに改修は無理だからどうすべきかという事だな」

鍋島長官はそう言った後、視線を新見中将から、藤堂少佐に向けた。

「改修プランの完成にどれだけかかる?」

「そうですねぇ…。最低でも一ヶ月はいるだろう。艦橋周りだけじゃなく、機関あたりも手を入れないと重くなるおかげで現行の速力を維持できないだろうしな」

「わかった。改造プランの設計を急いでやってくれ。こっちは、二番艦のプリンス・オブ・ウェールズの製作に入る。プリンス・オブ・ウェールズの改修も終わり引渡しが完了次第、キングジョージVは本国に戻らせて、改修作業に取り掛かる。その間に、プリンス・オブ・ウェールズを外洋艦隊旗艦としよう」

「わかりました。改修プランの方は急がせましょう」

その言葉に頷いていると、戦辺技術大佐が鍋島長官に声をかける。

「あと、よろしいでしょうか?」

「ああ。構わないよ」

「実はこの前も提出しました主砲の火力増加の研究をより推し進めたいのですが許可をいただけないでしょうか?」

「ああ。この前出された提案書か。もちろん、研究は必要だが、今のところはそこまで力を入れて押し進める必要があるとは思えなかったが…」

鍋島長官の言葉に、戦辺技術大佐は首を横に振る。

「まだ報告書は出していませんが、今の金剛型戦艦の主砲である45口径四一式三十六センチ連装砲では、アイオワ型戦艦、大和型戦艦の装甲には効果が薄いと考えられます」

「まぁ、確かに。元々、それらの装甲は、四十センチ砲に対応する事を考えられているからな」

「この世界での艦艇には十分すぎるでしょうが、帝国のビスマルク型戦艦の事もあります。今後、それに匹敵する戦艦の出現も考えられる以上、より強力な火力の研究と開発は決して無駄にはならないと思います」

ふと、強い視線を感じ、その先に顔を向けると山本大将と新見中将がこっちをじっと見ている。

彼らにしてみれば、研究するのは当たり前だという認識なんだろうな。

だが、鍋島長官としては大艦巨砲主義はこれから先は尻すぼみになるということがわかっている。

ならば、どうするべきだろうか。

考えた挙句、鍋島長官の出した結論は新型の火薬の研究を許可する事であった。

火力の研究では、砲、それも大型砲に関しての研究開発に重点が縛られていたが、新型の火薬の研究開発なら砲だけではなく他の爆弾や魚雷にも応用がきく。

そう考えたのだ。

戦辺技術大佐は少し考えたが、全ての兵器の火力向上に繋がるという長官の説明に納得したのだろう。

「わかりました。新しい火薬の研究を推し進めていきます」という返事を返したのだった。


会議が終わってそれぞれが退出した後、鍋島長官は体の力を抜いてソファに身を任せると自然とため息が漏れた。

「ふう…」

そして、壁の時計を見る。

もう午後五時近くなっており、実に四時間近く会議をやっていたという事になる。

「しかし…参ったな」

思わず呟く様に口から言葉が出る。

順調に進んでいたからそこまで気にならなかったが、フソウ連合海軍の中でも航空戦力の軽視と大艦巨砲主義がここまで強いとはな…。

やはり何か手を打ったほうがいいんだろうが、しかし果たしてどういったことをすればいいのだろうか。

そんな事を思っていると、東郷大尉が入室して来ると黙ってコーヒーを僕の前に置いた。

「あ、ありがとう…」

気分転換に持ってきてくれたのだろう。

そう思った鍋島長官がお礼を言うと、東郷大尉は心配そうな顔をして隣に座る。

「何か悩んでませんか?」

そう聞かれて鍋島長官が思わず言い淀むと、東郷大尉は「私じゃ力になれませんけど、愚痴ぐらいは聞きますから」と言われてしまう。

その優しい言葉に、少し肩の力が抜けたかのようにリラックスした表情になって鍋島長官が口を開いた。

「人に伝えたい事があるんだが、それがうまく伝わらない時、どうすればいいのかなと思ってたのさ」

結局はそういうことだ。

鍋島長官の言葉に、東郷大尉は考え込む。

そして、口を開いた。

「そうですねぇ。それでも訴える事を続けていくしかないんじゃないかと思うんです」

「でも、どれだけやっても伝わらないかもしれないだろう?」

「それでもです」

そう言って東郷大尉は笑った。

「だって、諦めたらそれで終わりですもん。伝わる可能性ゼロですから。そうしたら…。でも…」

そこまで言って、鍋島長官の手を握り微笑みつつ東郷大尉は言葉を続ける。

「言い続ければ、可能性はゼロにはならない。だから、伝わると思って言い続けるんですよ」

「そうかな?」

「そうです」

その言葉と微笑みに少し元気付けられたんだろう。

やっと鍋島長官も微笑む。

「わかった。やってみるよ」

「その調子です」

そこまで言って、ふと思い出したのだろう。

東郷大尉はニコニコ笑いながら一枚の紙を差し出した。

「これなんかいい見本だと思いますよ」

その紙を受け取って鍋島長官は内容に目を通す。

そこには大和改からの実弾訓練を実施してくれた感謝の言葉が書かれており、そして最後は『また実弾訓練をお願いします。まだまだ打っ放し足りないのでよろしくお願いします』と締められていた。

「これは…また…」

「いい見本でしょう?」

「確かにいい見本だ。僕もこれくらい図太くやってみるか…」

「ええ。いいんじゃないんでしょうか」

そう言って、二人は笑いあったのだった。

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