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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
外伝3 戦艦 大和改はもっと打っ放したい

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戦艦 大和改はもっと打っ放したい  その5

大和改の艦橋には戦艦金剛を初めとする午後の訓練に参加予定の付喪神が集まっており、彼らは今行われている午前の実弾訓練をそれぞれの表情を浮かべて見ていた。

最終確認の打ち合わせの為に集まったという建前だが、要は集まって午前の実弾演習の様子を見ようといったところだろう。

「実に面白い」

まず最初にそう言ったのは金剛の付喪神だ。

それに合意するかのように周りにいた他の付喪神も頷く。

「しかし、度肝を抜かれただろうな、あの司令官は…」

霧島が楽しそうに笑いながら言う。

「確かにな。しかし、予想外のところでどれだけ臨機応変にできるかは必要だぞ」

比叡がそう言うと、霧島が苦笑して答える。

「まぁ、実戦経験もないまだまだ殻をつけたひよっこみたいな新人だからな。いくら頭がよくても、それだけじゃどうにもならんという事がよくわかっただろうよ。今回はいい経験をしたと思っておくべきじゃないか?」

「それならいいんだが、あの反応の遅さは相手に付け入る隙を与えてしまうぞ」

「確かにな…。あの隙に付け込まれたら陣形が崩されてしまう恐れがあるからな」

そう返事をして霧島はさっきから黙ったまま、訓練風景を食い入る様に見ている大和改に話を振る。

「お前さんはどう思うよ?」

「そうだな…」

艦隊の動きを目で追いながら、大和改が口を開いた。

「もしも今後も今のままだと、あいつに艦は任せられねぇ。それだけははっきりわかったってだけ言っておくよ」

大和改の言葉に、回りの金剛達は苦笑する。

厳しい判断だと思ったが、誰も何も言わないという事は同じ思いなのだろう。

「ふむ…。なら私はそう言われないようにしっかりやらないといけないな」

そう言って彼らの後ろで時間を確認して笑っているのは、時頭三郎大尉だ。

年の頃は三十半ばといったところか。

黒く焼けた肌と短く切りそろえられた髪、太い眉毛とは反対に優しそうな目が印象的だ。

元々は護衛船団指揮などの裏方をメインに行っていたが、海軍の規模が大きくなるに連れて艦隊を指揮する司令官不足が指摘されるようになり、適性のあるものの引き上げが行われ、彼もその適性試験の為に今回の実弾訓練に新田中尉と同じように演習の指揮を命じられた口である。

「時頭大尉なら大丈夫ですよ」

そう言ったのは、比叡だ。

今のここにいる付喪神の中で、彼だけは時頭大尉と面識がある。

前回の共和国の艦隊との戦いの際、輸送船団の護衛をしていた艦艇の指揮をしていたのが彼で、その時会ったのだ。

その時の印象は、堅実的で、それでいて頭の回転が速い人物といった感じか…。

その時は、輸送船団の護衛艦隊指揮にしておくにはもったいないと思ったが、やはりわかる人にはわかるってことなんだろうな。

そんなことを比叡は考えていた。

「そうですかね?護衛と戦闘では戦い方は違いすぎますからね」

比叡の言葉に、時頭大尉は口を開く。

実際、そうなのだ。

戦闘が攻撃し相手を殲滅する為のオフェンスなら、護衛は味方を守り逃がすためのデフェンスと言ったところだろう。

その戦い方だけでなく、艦隊の隊形やら普段の動きからして違う。

そして、時頭大尉は腕を組むと前方で行われている訓練の様子を見ながら少し考え込む。

「どうしたんです?」

「いやね、あれって遠隔操作じゃなくて事前に動きを組んであるんだと思うんだが、どういう考えで組んであるのかなと…」

「そりゃどういうことです?」

金剛が聞き返す。

「恐らくですが、ただ適当に動かすってことで動きが組んであるとは思えないんだよ」

興味が沸いたのか、金剛以外の他の付喪神も興味津々と次の言葉を待っている。

「多分、今までの動きと編成から、水雷戦隊との戦いを意識した動きじゃないかと思うんです。ほら…今度はゆっくりと左舷に回りこんでいる…」

指を射しつつ標的となっている艦隊の動きを目で追って説明する時頭大尉。

「なるほど…。本当なら、今のところは敵艦隊から雷撃戦を仕掛けられてもおかしくないってところですかな?」

「そうですね。この距離とあの動きならほぼ間違いないと思います」

そう言った後、時頭大尉は顎に手を当てて黙り込む。

そして呟く様に口を開いた。

「要は…詰め将棋というところですかね…」

そこにさっきまでののんびりとした雰囲気はない。

その変化に、付喪神達はそれぞれの表情を浮かべる。

ニヤニヤしたもの、苦笑したもの、面白そうに目を細めるもの。

その反応はそれぞれだが、彼ら中で時頭大尉の評価が上がったのは間違いないだろう。


昼食と休憩を挿み、十三時三十分、実弾訓練の午後の部が始まった。

参加艦艇は、戦艦 金剛、比叡、霧島、榛名の金剛型四隻と大和改の計五隻であり、すぐにでも戦闘対応できるように大和改を先頭に、金剛、比叡、霧島、榛名の順で単縦陣を組んで進んでいる。

そして標的艦として投入されるのは、戦艦 金剛型一隻、大和型一隻、アイオワ型一隻、キングジョージV型一隻、クイーン・エリザベス型一隻の計五隻である。

「さて…どういう隊形であらわれますかね…」

大和改の艦橋で腕を組み、前方を睨むように立つ時頭大尉がそう呟く。

いつの間にか組んだ右腕の人差し指がまるでリズムを取るかのように小刻みに動いていた。

彼の頭の中では、もう今回の演習の動きを考えた者との思考戦は始まっているらしい。

そして、その横でうれしくてたまらないといった表情で大和改が落ち着きなくうろうろしている。

そんな緊張感と期待に包まれる中、ついに敵艦隊発見の方が届く。

「前方に敵艦隊発見。距離およそ四万。敵艦隊は複縦陣で左舷から右舷に向けて移動中」

「よし。きたぞ」

ぱんっ。

声と共に大和改が太ももを叩く。

「第一戦速っ。それと各艦に伝達。戦闘用意。このまま単縦陣で接近、距離三万から砲撃開始。観測機での修正はできないのを忘れるな」

時頭大尉の声が艦橋に響く。

「野郎どもっ。さぁ楽しい楽しい砲撃の始まりだっ。気合入れていくぞ」

その大和改の叫びに、艦橋の乗組員が気合の入った歓声を上げる。

時頭大尉は一瞬唖然としたが、すぐに苦笑した。

恐らくだが、これじゃ海賊みたいだなと思ったに違いない。

だがすぐに表情を引き締めなおすと双眼鏡で敵艦隊の動きを見る。

もし実戦なら、大和の射程距離内だから砲撃が始まってもおかしくないだろうし、大和改で反撃も出来る。

だが、アウトレンジ戦法は、精度の高い射撃ができてこそ効果を発する。

観測機で修正ができない以上、より近づいての砲撃戦で戦うのがベストだろう。

恐らくだが、上の連中は、これをただの射撃訓練とは見ていないに違いない。

実戦の資料として使いたいはずだし、それに実戦に近い状態での防御力の確認もしたいはず…。

なら、より実戦に近いダメージの方がいいだろう。

そう判断した為だ。

「距離三万五千…。敵、後方の隊列が速度を上げ始めました」

「艦種はわかるかっ」

「大体ですが、後方の隊列には金剛型、アイオア型が見えます」

「なら前方に、大和型、キングジョージV型、クイーン・エリザベス型ってことか…」

「はい。そのようです」

速力のある高速戦艦でこっちの狙いをかき乱し、後方に回り込もうというのだろう。

「霧島、榛名に伝達。二隻で敵の足の速い高速戦艦を牽制しろ。金剛、比叡は我に続け」

「距離三万一千」

「よし。左舷に回頭。このまま敵艦隊の主力の後方に回りつつ距離二万五千まで距離を縮めろ。最初の獲物は一番後尾のクイーン・エリザベス型だ。一隻ずつ攻撃を集中するんだ」

「了解しました」

三万に入り、大和改、金剛、比叡の主砲が火を吹く。

しかし、相手が動いているのとこちらも動いている為かなかなか当たらない。

別働隊として動いている霧島、榛名の方もアイオア型と金剛型に砲撃を始めたがこっちもなかなか難しいようだ。

修正が入り、何度も射撃が行われる。

「距離二万六千」

「よし。そのまま敵艦隊左舷後方につけて二万まで距離を縮めろ」

じりじりと距離を詰めつつ射撃を行っていく。

そしてついに命中弾が出た。

大和改の二番主砲の一撃がクイーン・エリザベス型の後部司令塔付近に命中。

そして続けざまに、金剛、比叡の砲撃が命中した。

まるで痛みに震えるかのように艦体が揺れ、がくんっと力が抜けたようにクイーン・エリザベス型の速力が落ちる。

そして燃料に火が付いたのか、火災が発生してずるずると先に進む艦から引き離されていく。

そして、速度の遅くなったクイーン・エリザベス型に続けざまに砲撃が命中し、後部からゆっくりと沈み始めた。

「よし。次を狙うぞ」

時頭大尉の言葉に、大和改が口を開く。

「沈めないのか?」

「あれはもう沈んだと思っていい。それにまだ大物がいるからな」

「そうだな。そうだった」

大和改は前方に進む大和型、キングジョージV型の二隻を見てニヤリと笑うとそう言ったのだった。


午後の訓練は実に四時間にも及んだ。

そして、標的艦は、大破、炎上したものも多かったが全艦撃沈とはならなかった。

燃料に引火しての火災はあったが、火薬を積んでいないおかけで誘爆が起こらなかった事と事前に隔壁は閉めてあったために浸水が広がらなかった事で撃沈とまではいかなかったようだ。

訓練終了後、時頭大尉は鍋島長官に訓練結果を報告しつつ、かえってそっちの方が研究するほうとしてはありがたいんだろうなと思っいる。

「以上になります。詳しい報告は、後日、文章と図で報告いたします」

その言葉に、鍋島長官は楽しそうに微笑む。

「そうか。うんうん。実に面白い訓練だったよ」

「面白かった…ですか?」

「ああ。実に対応が的確で迷いがない様子だったからね。もっとも、相手の砲撃があればまた違った動きになるんだろうけどね」

そう言われ、時頭大尉は苦笑する。

その通りだと思ったからだ。

今回はこっちが一方的に叩くだけだが、本番なら反撃がある。

「そのとおりですね。あくまでも今回の訓練としては、自分としてはあれでよかったと思っています。ただ、実戦となると話は…」

「それがわかっているならいいよ。報告書を楽しみにしているよ」

そう言って笑った後、ふと思い出したのだろう。

鍋島長官が聞いてくる。

「そういや、大和改の様子はどうだった?」

そういえば、この実弾訓練は、大和改の提案から始まったものだったな…。

そう思いだし、時頭大尉は口を開いた。

「そうですね。そこそこ満足はしているみたいでした。ですが…」

「ですが?」

「今度は絶対に沈めてやるって叫んでました」

その言葉に、鍋島長官は楽しそうに声を出した笑う。

そして、呟く。

「大和改らしいな…」

そして、笑い終わると、鍋島長官は苦笑しつつ口を開いた。

「標的艦の検査と修理が終わったら、またやりたいと言い出しそうだな…」

その言葉に、後ろに控えていた東郷大尉は嫌そうな表情になり、時頭大尉は苦笑しつつ「ありえますね、それは…」と言い返すのだった。

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