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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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日誌 第百八十五日目

「ふう…。終わったか…」

ため息のあと身体の力を抜いて椅子に身体を任せながら思わずそう呟くと、東郷大尉が見計らって用意したのだろう。

すーっと僕の前に紅茶を用意する。

いつもの愛用のではなく、リラックスする為のハーブティのようだ。

その独特の香りが鼻の奥をくすぐする。

その香りにおや?といった感じの表情でこっちを見るアリシア。

そう言えば、彼女にお土産で渡したのもこれと同じやつだったな。

そう思って何か言ったらいいかと思っていると、アッシュが笑いつつ声をかけた。

「お疲れさん。しかし、大成功じゃないか」

かなり興奮しているらしい。

少し落ち着いたらいいのにと思う。

まぁ、途中であわや作戦がひっくり返るかもといった感じの勝利だからな。

スポーツで例えると、序盤リードしていたものの中盤逆転されて、後半に逆転して勝ったみたいなものじゃないかな。

「大尉、二人にも同じものを…」

僕はそう言って東郷大尉に二人の分の紅茶の追加をお願いするとアッシュに答える。

「大成功…。まぁ、こっちの損害も軽微だというし、目的も達成できたから結果だけ見ればね。もっとも、途中冷やりとした場面があったのはいただけないよ。だから、作戦としては六十点ってところかな…」

「かなり辛口だな。でもきちんと対応できて修正できたじゃないか」

「ああ。でもね。念のために用意した戦力を出さなきゃならないと言う事は、その時点で作戦が上手くいっていない、計画通りになっていないという事だからね」

「だけど、こういった事は相手ありきの場合はよくある事じゃありません?」

そう言って会話に入って来たのはアリシアだ。

「そうだね。その通りだ。でも、相手の動きを読みきれていないと言うのは、計画立案者としては、マイナスだよ」

「しかし、今回は用意される戦力も、未知数だからいい方じゃないのか?」

「確かに、王国海軍と共和国国軍がどれだけ戦力を用意してくれるかで大きく作戦は変わる。だから、今回の場合、実は作戦は三つ用意したんだ」

僕のその言葉に、アッシュは苦笑し、アリシアは驚いている。

「派遣できる戦力を早めに知らせればよかったな…それなら…」

「そうですわ」

「まぁ、今回の作戦自体が急遽決定したものだからね。慌てて頼んだ以上、その辺の苦労は発案者が背負って当たり前だよ」

「ほんと、サダミチはそういうところは律儀だな。もう少し、周りを頼れよ」

「いや。頼っているさ。僕だって無理はしているつもりはないから…。ねぇ、大尉」

そう言いつつ、僕は飲み終えたティカップを東郷大尉に差し出す。

お代わりのつもりだったのだが、それを受け取る東郷大尉の表情は苦笑していた。

「長官の欠点は、自分を過小評価するところと、なんでも自分で背負おうとされるところですわ」

お代わりの分を用意しつつため息を吐き出してそう言うと、僕の前にお代わりの紅茶を置く。

アッシュはそれ見ろといった感じの表情で見ているし、アリシアはくすくす笑っていたりする。

くそっ。大尉の裏切り者っ。

僕の味方はいないのかっ。

ちらりと周りを見渡すも味方になりそうな人物はおらず、このまま話すと余計に深みにはまりそうなので話題を返ることにした。

「それはそうと、あの基地の事だけども…」

僕の言葉に、アッシュとアリシアの表情が引き締まる。

「あの辺りは、無人島ばかりで誰も手をつけていないはずだ」

「ええ。よほどの事がない限り、無人島は利益をもたらす要素がない場合はほとんどがスルーされるわね」

「なら、世界中にそういった無人島だから管理されていない島なんかが結構あるってことか…」

僕の問いに、アッシュは頷く。

「まぁ、島の数があまりにも多い上にそれらを管理する艦艇もないからな」

なるほど。

飛行機と言う存在がないから空中からの広範囲の警戒が出来ない以上、そうなってしまうのか…。

しかし、どうりで海賊が多いわけだ。

そういった島々も国が管理しているのなら、海賊がここまで多くなるはずもないはずだしな…。

しかし、それは裏を返せば、僕の計画の拠点としても使えるって訳か…。

ふむ…。

少し考え込んでいる僕を見て、アッシュがニヤリと笑う。

「サダミチ、何か悪巧みを考えているだろう?」

その言葉に、アリシアも笑いつつ頷く。

「まるで裏で悪事を働く悪役のような表情でしたわ」

どんな表情なんだよ?

思わず心の中でそう突っ込む。

しかし、アッシュもアリシアも実に酷い。

「し、失礼な…。悪巧みじゃないぞ」

「そうか?」

「そうですか?」

二人ともニヤニヤとしたままそう言ってくる。

「だから…、僕が考えていたのは…」

そう言いかけてふと気がつく。

二人がのめり込むように身体をこっちに寄せ、興味津々の表情だと言う事に…。

それでピンと来た。

「おっと…。その手には乗らないぞ」

慌ててそう言ってニヤリと笑い返す。

「くそっ。引っかからなかったかっ」

「うーん…。警戒されましたわ」

二人は実に楽しそうにそう言ってきた。

つまり、二人で煽って僕の考えている事をいろいろ引き出そうとしたらしい。

油断も隙もないな…、この二人は…。

「まぁ、僕が考えている事は、後日きちんと話すし、その時には二人の協力をお願いするから楽しみにしておいてくれ」

僕がそう言うと、「うーん…。サダミチもなかなか酷いな。蛇の生殺しみたいじゃないか」とアッシュが文句を言う。

「まぁ、楽しみにしておいてくれ」

僕はそう言うと諦めたのか、両手を軽く上げて「仕方ない」と返事をした。

「あと、敵の基地だが…どうする?」

「証拠を探したりするわけですよね?」

「ああ。今回の件は、計画した連中は別々だが、裏でそいつらをうまく操って何か図っているやつがいるんじゃないかと思っている。そうでなきゃ、タイミングがこうも上手く重なるとは思えない」

僕の言葉に二人は頷く。

「だから、あの基地は当面はフソウ連合海軍で管理したい」

「まぁ、占拠したのがそっちなんだから、当たり前だよな」

「蓄積してある物資や鹵獲した艦船に関しては、報告書が上がり次第話し合おう」

「ええ。それは構いません。後、駐留軍として共和国も数隻ですが、戦力をこちらに残しておきたいと思います」

アリシアが真剣な表情でそう言う。

「いいんですか?」

「ええ。それに艦船のほとんどが共和国製のようですから、それらの事は、我々の方が詳しいですしね」

「助かります。アッシュもそれは構わないかな?」

「ああ。構わないよ。うちはそっちにまわせるほど艦艇の余裕がないからな。もっとも武官を何人かは派遣させてもらうが…」

アッシュは苦笑まじりにそう言う。

彼としては王国からも艦艇を駐留させたいのだろうが今回は諦めてもらおう。

「わかった。王国の関係者の方々はフソウ連合海軍できちんと対応する」

「すまないな、助かるよ」

「何、気にするなって」

そんな事を話していたら、連絡員が報告を持って来たのだろう。

東郷大尉になにやら紙の挟まったバインダーを渡している。

それをざっと目を通すと、そのバインダーを僕に手渡した。

「簡単ですが、被害報告だそうです」

「そうか…」

少し憂鬱な気分になる。

それは仕方ないのかもしれない。

戦いに人の死や怪我はつきものなのだから。

物はまた作れる。

しかし、人は作り出すことは出来ない。

「長官…」

少し心配そうな東郷大尉の声で我に返る。

そうなる事はわかっていてやってるはずだ。

戦いの度に、落ち込んでいては部下の手前、どうしょうもないじゃないか。

しっかりしろ。

自分にそう言い聞かせると思考を切り替えて被害報告に目を通す。

やはり、被害は王国海軍が一番大きいようだ。

航海に支障はないものの、参加した艦艇のほとんどが、大なり小なり損害を受けている。

「アッシュ、すまない。王国艦隊に負担がいってしまったようだ」

そう言って二人にそれぞれの母国語で書かれた被害報告書を手渡す。

こういうのは東郷大尉の指示できちんとやってくれている。

本当にありがたい。

渡された報告書に目を通すとアッシュはほっとした表情になった。

「何、これくらいなら問題ない。皆よくやってくれたよ」

「アルンカス王国に工作艦が待機している。そこで応急修理を行う予定だ。後、負傷者の方はこっちでも医療スタッフを用意している。手が足りないようなら言ってくれ」

「ああ、それは助かるな」

「それと…戦死者だが…」

僕がそう言いかけると、アッシュがキッと僕を見て言う。

「それは心配するな。王国が全てきちんとやる。フソウ連合の配慮はうれしいが、そんなに気を使わないでくれ」

その表情と口調に、僕は後悔する。

彼らには彼らのやり方がある。

こっちが良かれと思っても、相手はそうとらない場合も多いのだから。

余計なお世話だったかな…。

そんな僕の気持ちがわかったのだろう。

慌ててアッシュが張り詰めた表情を崩して言う。

「この戦いは、我々の戦いでもあったんだ。だから、もし手が足りないときは、きちんと相談する。それでいいだろう?」

「あ、ああ。すまん…」

僕とアッシュの会話を聞いていたアリシアも頷くと口を開く。

「共和国も手が必要になったらお願いしますが、基本、自国の事はその国にお任せください。ナベシマ様はそういった事まで気にかける必要はありません」

遠まわしであるが、彼女なりに注意をしてくれる。

実にありがたい。

ある意味、僕は交渉相手に恵まれていると思う。

自分で言うのもなんだが、これが腹黒いやつならなんか簡単に騙されそうな気がしてきた。

注意しておこう。

しかし、言わなきゃいけないことは言わせて貰おう。

「わかった。その辺りは皆に任せる。だけどね…」

二人が怪訝そうな顔をする。

これ以上、何を言うつもりだ?

そんな顔をしている。

だから、僕はその顔にニヤリと笑い返す。

「勝利の宴に関しては、我々が行いたいと思うが、問題はないだろう?」

アッシュとアリシアは互いの顔を見合わせる。

そして僕の方に顔を向けると微笑んだ。

「もちろん、我々も招待されるんだろう?」

「当たり前じゃないか。共に戦い、共に勝利したんだからな」

「ふふふっ。なら…」

二人はタイミングを合わせたかのように言った。

「「喜んで…」」

その返事に僕はほっとしたのだった。

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