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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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『トライデント』作戦  その4

主力艦隊と囮艦隊の合同艦隊と敵艦隊の戦いは、実に一方的な戦いとなった。

もっとも、それは仕方ないのかもしれない。

火力、機動力、兵器の質、熟練度、地形…。

全ての点で敵を凌駕していたのだから。

旗艦キングジョージVを中心にVの字のように展開した主力艦隊は、囮艦隊が合流するまでの間、旗艦である戦艦キングジョージVと重巡洋艦エクセターの砲撃で敵の足を止め、そして敵が怯んで動きが鈍くなった時を見計らっての駆逐艦の突撃を敢行した。

砲撃する戦艦や重巡洋艦を猟師と例えるなら、突撃するE型駆逐艦の動きは素早く、まるで猟犬のようだ。

その圧倒的な攻撃に翻弄されながらも敵は反撃はするもののその動きは鈍く、しかしそれでも逃げようとはしなかった。

その様子は、まるで任務遂行が出来なければ死をと言わんばかりで、死ぬ事を恐れる様子は見られない。

「おかしいな…」

真田少将が呟く。

それを身近にいた三上少佐が気づき聞き返す。

「どうしたんですか?状況は我々の圧勝じゃないですか。被害だってほとんどないですし…」

戦いの繰り広げられる前方を見据えたまま真田少将が答える。

「そう。我々の圧勝だ。もうこの流れは変えられん。だからこそだ。連中…なぜ逃げない?」

そう言われ、三上少佐も気がついたのだろう。

「確かに…。おかしいですね…」

別に逃げ道を塞いでいるわけではない。

逃げ出してもおかしくない。

いや、この状況が判断できるなら、すぐにでも撤退を命じるだろうし、もし海賊なら利益にならない事には命を張るはずもないからすぐにでも逃げ出すだろう。

なら、なぜ逃げないのか?

そんな状況判断もできないやつが指揮をしているのか…。

それとも何か理由があって逃げ出さないのか…。

或いは…。

しかし、考えはそこで止められる。

「共和国艦隊から入電。『我らも殲滅の為突撃す』以上です」

「わかった。一旦砲撃中止。混戦になるぞ。我らは混戦から離脱する敵を狙う」

そう命じたものの、恐らくだが離脱するような連中はいないだろう。

それが今の状況から判断した真田少将の結論だった。

そして、事実、そのとおりの結果となる。

最後まで敵艦艇は、逃げ出すどころか降伏もせずに海の藻屑へと消え去っていった。


別働隊として動いていた王国艦隊は、旗艦である重戦艦を先頭に単縦陣で砲撃をしながらの突撃を開始した。

「いいか、足を止めるな。当てることより、当たらない事を優先させろ。すぐに増援が来る。それまでは時間稼ぎを優先させろ」

べテルミア大尉がそう叫びつつ指揮を取る。

その姿は堂々としており、恐怖と不安で萎縮しがちな兵士達を鼓舞している。

だが、当の本人であるべテルミア大尉は、この状態が長く続かない事はわかっていた。

声による鼓舞は一時的には効果があるものの、何かのきっかけで人の心など簡単に塗り替えられてしまう…。

だからこそ、なんとか目に見えるものを示さなければならない。

実際に目に見えたものこそ人はより信じるのだから…。

「よしっ。各艦砲雷撃戦用意ーっ」

主砲を初めとするすべての砲が動き始める。

頼むぞ…。

一発でもいい当たってくれ。

当てるのは二の次と言いながらもべテルミア大尉はそう願うしかない。

艦隊同士が近づき、敵からの砲撃が始まる。

敵は、扇形のように横に広く布陣をしいている。

圧倒的な数の差で包囲殲滅を狙っているのだろう。

「まだだっ、まだ、もっと近づいてからだ…」

べテルミア大尉が呪文のように呟く。

その額にはびっしりと汗が浮かんでいた。

彼自身、自分の心の中にある不安と恐怖と戦っているのだろう。

まるで包み込むかのように横に広がっている敵艦隊を前にして左舷回頭を命じようとしたときだった。

砲撃とは違う爆発音があたりに響き、その大きな爆発音と共に敵艦隊の右側に水面に砲撃で出来たものよりも大きな水柱が幾つも立つ。

そしてそれに巻き込まれたかのように敵艦艇が沈んでいく。

あるものは真っ二つに折れ、あるものはひっくり返り、あるものはまるで直立するかのように…。

それはまるで自分の願望を示した夢の中の出来事のように思えた。

「ど、どういうことだ?」

べテルミア大尉は叫びながら、近くにいた観測員に聞く。

「わ、わかりません…」

「こっちの砲撃が当たったのか?」

「いえっ。あのあたりはまだ砲撃していません」

観測員が砲撃の音に負けじと叫ぶように言う。

「なら…何が…」

だが、これは好機だ。

敵艦隊の右側は、今やガタガタで三方から包囲どころではない。

その上、動揺しているのか敵の砲撃が一瞬だが止まった。

まぁ、仕方ないのかもしれない。

予想外の事が目の前で起こっているのだ。

恐らくだが、連中は慌てふためいているに違いない。

なら…。

「各艦に伝達っ。『敵艦隊右側を突破し、敵の側面に回りこみ敵艦隊の後方につく。休みなく敵に砲撃を加えろ。勝機が見えたぞ』」

今まで言葉でしか感じなかったものが、何隻もの敵の艦艇の爆沈というはっきりと目で確認できたのだ。

当たり前のように兵士達の士気が一気に上昇する。

そして、それにあわせたかのように後方警戒していた監視員から報告が入った。

「後方より艦隊接近。恐らくですが味方のようです」

そして、それを見計らったかのように通信が入ってきた。

『我、フソウ連合海軍第六水雷戦隊。王国艦隊を援護する』

艦橋内が、いや、それを知った全ての兵士達が歓声を上げただろう。

「ようしっ。一気に敵をたたむぞっ」

べテルミア大尉の声と共に、王国艦隊は敵艦隊の右側面を食い破ると砲撃を加えつつ回り込む。

指揮系統が混乱しているのだろう。

敵艦艇の動きがバラバラだ。

王国艦隊に対抗しようとする艦もあれば、新たに接近するフソウ連合海軍艦隊に向かって対抗する為の動きを見せる艦もある。

その様子を見たべテルミア大尉は呟く様に言葉を掃き捨てる。

「なんだ…こいつら烏合の衆じゃないか…」

そんな連中を恐れていたのか、私は…。

さっきまでの自分に腹が立つほど、敵艦隊のその姿は無様だった。

しかし、そのためにべテルミア大尉は気が付かなかった。

逃げ出そうとする艦は皆無だったことに…。


予想外の事はあったものの、全ての海戦が終わる頃には特殊部隊によって港に残っていた艦船を含めた港全般を掌握に成功。

こうして三カ国による初めての軍事作戦『トライデント』作戦は無事終了したのだった。

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