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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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『トライデント』作戦  その3

「なかなか肝っ玉の据わった指揮官のようだな、あの艦隊は…」

潜望鏡から回りの状況を確認をし、圧倒的不利にもかかわらず突撃体勢に入ろうとする王国海軍艦隊を見て有明芳樹少尉は呟く様に言う。

「そのようですな」

何かうれしそうにニタニタしつつ答えるのは伊-56の付喪神だ。

「なんだ?うれしそうだな」

「まぁ、不利とわかりながらも決死の覚悟で戦おうとするその熱意と決心は実に尊敬に値しますからな。どうしてもニヤニヤしてしまいます」

その言葉に、潜望鏡から視線を外し、有明少尉はあきれ返ったような表情を向ける。

「相変わらずだな…」

「ええ。相変わらずです…」

「はあ…」

ため息を吐き出し、有明少尉が潜望鏡に視線を戻した時だった。

「長官から命令がきました。『攻撃を許可する。秘密裏に王国艦隊を援護せよ』以上です」

「よし。他の艦艇も指令は受けているとは思うが、確認させろ。これより、我ら、第三潜水艦隊は、秘密裏に王国艦隊を援護する。敵艦隊の左舷からの雷撃により敵を減らすぞ」

その有明少尉の命を受け通信兵が敬礼する。

「了解しました。連絡入れ次第、各艦に所定の位置への移動と雷撃攻撃を開始させます。後、通信用ブイはどうしましょうか?」

「所定の位置に移動し雷撃が終わるまでは収納だ。そして雷撃が終わり次第、再度展開し、次の指示を待つぞ」

「了解しました」

すぐに艦内が慌しくなる。

今までじっとしていた分、より活発化したようだ。

「さて、勇気ある王国海軍の艦隊に花道を用意いたしましょうか…」

うれしそうにそういう伊-56に、有明少尉は苦笑したのだった。


「くそっ。なんて事だ。あの時、艦種の確認を急がせていれば…。」

リープラン提督の口から愚痴が漏れる。

自分の油断が、自分の失敗が王国艦隊を危機におとしてしまった。

自責の念に駆られる。

これで作戦が失敗すれば、共和国国軍の栄光に泥を塗るだけでなく、王国に大きな貸し作ることになる。

それにフソウ連合も黙ってはいまい。

アリシアはフソウ連合は敵とはならないと言っていたが、今回の件が原因になる恐れさえある。

つまり、祖国に大きな被害を与えたことになるのだ。

もし。リープラン提督がそれほど愛国心のない人物なら、もっと早く切り替えられただろう。

或いは、開き直れたかもしれない。

だが、彼は国を守ることに喜びさえ感じるほどのガチガチの愛国者だ。

そう簡単に振り切れないでいた。

しかし、今は後方からは我々を仕留めようと敵艦隊が向かって来ている。

この艦隊の数ではそいつらを潰す事は不可能であり、主力艦隊に追いかけて来ている艦隊を任せ、きびすを返して王国艦隊と合流したいとは思っても主力艦隊と合流する地点はまだ先だ。

結局、作戦を放棄しても状況を悪化させるだけで、選べる最上の選択はこのまま作戦を遂行する事しかない。

しかし、そうはわかっていても、後悔はぐずぐずと心の奥に残り、じわじわと思考を侵食していく。

「くそっ…」

何度やったかわからない舌打ちをしたときだった。

「後方艦隊より入電。『各々の役割をきちんと果たせ』以上です」

その言葉に、リープラン提督の心を蝕んでいたものの侵食が止まる。

「今…なんと…言ったか?」

聞き返すリープラン提督に、通信兵が再度内容を口にする。

「『各々の役割をきちんと果たせ』です」

作戦中止や作戦変更の命令ではなく、ただ純粋に作戦を遂行しろ。

その命令に、すーっとリープラン提督の肩に重くのしかかっていたものが落ちたような気がした。

そうだ。作戦に集中しろ。

失敗を、ミスを悔やむのは後回しだ。

今やれる事を精一杯やるしかないじゃないか。

リープラン提督はぐっと拳を握り締め、表情を引き締める。

「よしっ。各艦、今は作戦遂行のみを心がけろ。ミスの責任は私が取る。だから、各々は自らの仕事に誇りを持ち、役割をこなせ」

リープラン提督の声に浮ついていた艦橋内の雰囲気が再度引き締まる。

その時だった。

「前方から迫る艦隊を発見。夕日の為、細かな艦種はわからず。数は十隻以上」

「なんだと?」

もう少しで主力艦隊と合流できるというところで、また別の敵と遭遇したのだろうか。

すーっとリープラン提督の背中に冷たい汗が流れる。

しかし、その心配はすぐに吹き飛んだ。

「前方の艦隊、あれは味方です。主力艦隊です。旗艦キングジョージVより入電。『少し早いが迎えに来た。命令どおり、各々の役割を完璧にこなそうじゃないか』以上です」

その声に、リープラン提督の強張った顔が崩れるように柔らかなものになる。

「くそっ。気を使われたか…」

そう呟くものの、リープラン提督の表情はうれしそうだった。

しかし、すぐに引き締めると再度命令を発する。

「よしっ。逃げる振りをするのはここまでだ。主力艦他と合流し、一気に敵を潰すぞ。そして、王国艦隊救援に向かう」

溜まっていた不安とストレスが開放されたのだろう。

その命令に、艦橋スタッフは歓声を上げる。

こうして、フソウ連合海軍外洋艦隊と共和国国軍艦隊の合同艦隊と引き寄せられた敵艦隊との戦いが始まった。


「長官から王国艦隊の援護命令が正式に届きました」

鬼怒の付喪神からの報告に、第六水雷戦隊を任せられている神宮勉中尉は前方を見たまま聞き返す。

「そうか。第三潜水艦隊は動いているか?」

「はい。敵艦隊の左舷から雷撃を行う予定となっております」

「そうか…。しかし…」

「しかし?」

思わずそう聞き返す鬼怒にやっと視線を向けて神宮中尉は言葉を続けた。

「長官も人が悪いと思わんか?」

その問いに鬼怒が苦笑した。

「潜水艦隊のことですか?」

「ああ。準備しているなら、準備しているといえばいいものを…。動き始めて初めて知らされてもなぁ…。恐らく外洋艦隊の連中も知らなかったはずだ。だからかなりモヤモヤしてると思うぞ…」

「まぁ、潜水艦の事は対外的に秘密裏にしておきたいんでしょう。それに今回みたいなことがなければ、彼らの任務は、情報収集と敵基地の索敵だけで終わっていたんでしょうしね。恐らく、長官にとっては念のための保険といったところでしょうか…」

そう返され、難しい顔をして神宮中尉は腕を組む。

そしてため息を吐き出すと前方に視線を戻した。

「やはり俺はそういった事まで考えるより、前線で指揮を取って戦っていた方が気が楽で性に合っているようだな」

その言葉に鬼怒がクスクスと笑うが、それをスルーすると神宮中尉は命令を下す。

「よし。全艦、第三戦速。急ぐぞ」

「了解しました」

そしてまもなく戦場となる海域になるというところまで来たときだった。

ついに戦闘が始まったのだろう。

前方に幾つもの水柱があがるのが目に入る。

そしてすぐに特に大きな爆発が幾つも起こった。

どうやら潜水艦隊からの雷撃も始まったようだ。

「さて、諸君、我々もパーティに遅れないように急ぐぞ。もちろん、プレゼントを忘れずにな」

その命令に、鬼怒はニタリと笑う。

楽しくて仕方ないといった風に…。

○第三潜水艦隊○

    第四潜水隊 伊-56(旗艦)、伊-58

    第五潜水隊 伊-68、伊-71 

    第五特殊潜水隊 伊-361、伊-370


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