表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

228/839

『トライデント』作戦  その2

まるで必死に逃げるかのように装いながらある程度の砲撃を繰り返し行い、囮艦隊は予定の航路を進む。

別に当てる気は毛頭ない。

いや、ここで当たって被害を受けて港に戻られてしまったら、別働隊の後方に向かう事になって別働隊が挟撃される事になる。

それだけは避けなければならない。

だからある程度きわどいながらも実にうまく当てないように砲撃をしていた。

反対に、後ろに喰らいつくかのように追いかけてくる艦隊は必死になって当てようとしている。

あの港は、連中にとって知られては困る秘密の港といったところだろう。

実際、あの港とそこにある艦隊は、この海路を進む商業船団にとっては喉元に突きつけられた剣と同じだ。

だからこそ、知られた以上、一人として逃がすわけにはいかないといったところだろうか。

だが、いくら練度が高いとしても方向が悪かった。

真正面に夕日が差し込み、どうしても狙いは甘くなる。

ただでさえ移動する相手に当てるのにはある程度の技量と正確な照準と距離、それに予想が必要となる。

そうなってくると、その全てにおいて劣っていたり、そういったものがない連中にとっては、本当にとてつもない幸運がなければ当たらない。

実際、さっきから打たれる砲弾は、ギリギリどころか大きく艦艇から外れたものばかりだ。

「ふんっ…。素人がっ…」

リープラン提督は、そんな連中の射撃を見て鼻で笑う。

一応、軍人だったものはいるかもしれないが、食いつなぐ為に軍人なり、欲の為に祖国を売る程度の連中だ。

そんな連中が血の滲むような教練をまじめにするわけがない。

彼はそう思っていたし、今の現状がそれを示している。

よし…。

もう少しだ。

もう少しすれば、主力艦隊と合流できる。

そうリープラン提督が思ったときだった。

監視兵の一人が慌てて報告してくる。

「た、大変であります。追撃してくる艦艇のうち、一部が帝国製の艦艇と思われる形状をしています」

その言葉に、リープラン提督は一瞬思考が止まった。

今…何を言った?

慌てて聞き返す。

「どういうことだ?」

「は、はいっ。敵艦隊の艦種確認を行っていたところ、戦艦一隻と装甲巡洋艦四隻が帝国製のリンドンバール級戦艦、モリーアンタトル級装甲巡洋艦と思しき形状である事が確認できました」

「見間違いじゃないのか?」

「いえ。間違いないとこのことです。共和国製の戦艦にあの特徴的な形の艦橋の艦艇はございません」

その言葉に、リープラン提督は言葉を失う。

確かフソウ連合の情報では、あの港にいる艦艇は、共和国製のものばかりだという話だった。

フソウ連合の情報が間違っていたのか?

しかし、フソウ連合の情報が間違っているとは思えない。

なら、我々を追ってきている艦隊はなんなのだ?

この艦隊はどこから出てきた?

もしかして我々はまったく違う艦隊を引っ張り出してしまったのか?

混乱し、思考が迷宮に彷徨い込む。

それでもなんとかはっきりさせるべく聞き返す。

「追ってきている艦隊の所属は?」

「はっ。所属旗は確認されていません」

所属旗を掲げていないという事は、六強の所属する艦艇ではないと言うことだ。

つまり…今の状態ではっきりとわかる事は…。

さーっとリープラン提督の顔から血の気が引いた。

「急いで他の艦隊に連絡だ。特に別働隊に急いで報告しろ。『熊は穴倉から出ていない。我、別の熊と遭遇す』以上だ。急げっ!!」

リープラン提督の悲鳴のような命令に、通信兵が慌てて通信機器にかじりつくように操作する。

どんっ。

リープラン提督が海図の乗ったテーブルを叩く。

艦種の確認を急いで行い、報告すべきだった…。

間に合ってくれ…。

必死な思いでそう願うものの、解き放たれた矢はもう戻らない。

すべてはもう遅いのだ…。


確認に出た東郷大尉が十分もしないうちに深刻そうな表情で部屋に戻ってきた。

それを見ただけでわかったのだろう。

鍋島長官は頷くと命令を発した。

「第六水雷戦隊を急がせろ。それと彼らに攻撃許可を出してくれ」

その命を受け、東郷大尉が再び部屋から退出する。

そしてそれと入れ替わるように通信兵が一枚の紙を持って慌てて部屋に飛び込んできた。

「失礼します。長官、大変です。只今、囮艦隊から緊急連絡が入りました。『熊は穴倉から出ていない。我、別の熊と遭遇す』以上です」

その報告に、アッシュとアリシアの顔色が変わる。

今までうまくいっていたと思ったものが根元から崩れ去ったのだ。

そして、それは別働隊の危機を意味する。

二人の視線が通信兵から、鍋島長官に向かう。

その視線を受け止めつつ、鍋島長官はなんとか微笑んだ。

「大丈夫です。念のために用心していた事が役に立ちそうです」

もちろん、彼自身、それで全てうまくいくとは思っていないだろう。

だが、これで流れが変わるはず…。

その自信はある。

だからこそ、鍋島長官は、通信兵に命令を下した。

「主力艦隊、囮艦隊、別働隊に連絡だ。『各々の役割をきちんと果たせ』と…」


「ど、どういうことだ…。これは…」

港のすぐ近くの海域には、重戦艦、戦艦八隻、装甲巡洋艦十隻からなる艦隊が別働隊を待ち構えていたからだ。

べテルミア大尉の顔から血の気が引き蒼白になる。

「囮艦隊に引っかかったのではないのか…」

六対十八。

数でこそ三倍だが、戦闘力を見るなら三倍以上の戦力差に誰もが言葉を失っている。

そしてその時になって囮艦隊から緊急連絡が入る。

『熊は穴倉から出ていない。我、別の熊と遭遇す』

つまり、囮艦隊は、囮としての作戦を失敗したという事なる。

「て、撤退しましょう…」

誰かがそう声を上げる。

艦橋内のスタッフにざわめきが走り、恐怖や恐れがその場を支配する。

しかし撤退するとして、無傷で撤退は無理だ。

ましてや、港の方から煙が上がっている事から特殊部隊の攻撃は始まっていると見ていいだろう。

もし、ここで撤退してしまったら、陸上の部隊を見殺しにしてしまう事になる。

ぐっと強く拳を握り締め、かなり強く食いしばっているのだろう。

ギリギリと歯ぎしりが響く。

引けない…。

ならば、戦うしかない。

アッシュが言っていた。

「あのサダミチが問題ないと言うんだ。大丈夫だ」

今はその言葉を信じるしかない。

そして続いて届いた後方部隊からの通信がより強くそう決心させた。

『各々の役割をきちんと果たせ』

その文面には、絶対的な自信に満ち満ちている。

そうする事で勝利は揺らぎない。

そう信じさせるほどに…。

べテルミア大尉は深呼吸をして意識を落ち着ける。

するとさっきまで感じていた焦りや不安が少し引いたような気がした。

そして慌てふためく艦橋スタッフに聞こえるように腹に力を入れて口を開く。

「聞け、王国海軍の精鋭たちよ。現状はかなり不利と言っていいだろう。しかしだ、ここで退くことは出来ない。我々がここで撤退してしまえば作戦は大きく崩れ、港制圧に動いている部隊は孤立する。だから、無理を承知で言わせてくれ。勝てとはいわない。だがなんとしても援軍が来るまで時間を稼ごう。なぁに心配するな。今の緊急連絡は、後方におられる殿下やフソウ連合海軍司令長官にも届いているだろう。すぐに救援が駆けつける。いいな。王国海軍の意地を見せるぞ」

その言葉に、艦橋内はさっきまでのざわつきが嘘のように静かになる。

そしてしばしの沈黙の後、誰かが呟いた。

「やってやろうじゃねぇか…」

その声はとても小さく、そして微かなものだ。

しかし、それで十分だった。

微かな、それも小さな一言。

だが、それはその場にいた全員の迷いを、恐れを吹っ切るのに十分なきっかけだった。

一気に燃え上がるかのような熱気があたりを包み込む。

「よしっ。やるぞっ」

「やってやるかっ」

「共和国の連中に後で文句を言ってやる」

それぞれがそれぞれの言葉で自分を奮い立たせる。

「いけるか?」

べテルミア大尉の声が響き、全員が答えた。

「もちろんです」と…。

そして、別働隊は隊列を組みなおすと敵の艦隊に突撃を開始した。

自分達の責務を全うする為に…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ