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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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『トライデント』作戦  その1

「敵艦隊喰らいついてきました」

監視兵の報告に、リープラン提督は敵が我々を発見して艦隊を派遣するであろう予想地点よりかなり手前で敵艦隊と遭遇した事に引っ掛かりを覚え聞き返す。

「間違いないのか?」

「はい。恐らくですが大きさから判断するに重戦艦、戦艦クラスが六隻、装甲巡洋艦クラス十隻、その他二隻、計十八隻を確認しております」

かなりの数である。

重戦艦六、戦艦二、装甲巡洋艦十三、輸送船四、その他十の敵の戦力の報告が正しければ、主力戦闘艦艇二十一隻のうち十六隻を引きずり出した事になる。

まだ重戦艦、戦艦クラスが二隻、装甲巡洋艦が三隻残っているものの、出てこないという事は、補給か修理中という事だろう。

それに、警戒はしているだろうが、まさか続けてすぐに港が襲撃されるとは考えるまい。

ならば別働隊の王国艦隊の重戦艦一隻、戦艦一隻、装甲巡洋艦四隻の計六隻でも十分に対応できるであろうし、なにより動ける艦艇と停泊している艦艇が戦えば、圧倒的に停泊側が不利となる。

また、地上からの特殊部隊の攻撃があるために敵の基地はかなりの混乱に落ちるだろうし、それでも手に余るようならフソウ連合海軍の予備戦力を追加で投入する予定となっている。

実際、新田丸のいる後方には、駆逐艦六隻と軽巡洋艦一隻の予備戦力が待機しており、それだけあれば十分すぎる戦力となるだろう。

それに我々の任務は、喰らいついた敵艦隊をこのまま主力艦隊との合流地点まで誘導していく事だ。

他の艦隊の心配は、自分達の任務が終わった後にするべきだ。

「よしっ。合流地点に向うぞ。夕日に向って進め」

事前に確認しておいた通り、夕日のある方向に艦隊を進める。

これで夕日によって敵は射撃しにくいはずだ。

すべては作戦通りに進んでいる。

「通信兵、他の艦隊に報告。『熊は穴倉から出た。数は一と六』だ。念のために二回だ」

「了解しました」

そして、その報告は各艦隊に届く。

こうして『トライデント』作戦は大きく動き出す。

しかし、ここまでの状況で実は作戦に大きなミスが生じていたのである。

だが、それがわかるのは作戦が第二段階に進んだ時だった。


「報告きました。囮艦隊、敵艦隊を港から引きずり出したようです。数は十六とのこと…」

その報告にべテルミア大尉は命令を下す。

「思った以上に引きずり出したな。おかげでこっちは助かるってもんだ。さて、諸君、我々も共和国の連中に王国海軍の力を見せ付けてやろうではないか」

歓声が上がると兵達の顔が決意の意思によって染められ艦橋内の熱気が上がる。

いい表情だ。

王国と共和国との確執はもう何十年も続いており、決してそう簡単に氷解するものではない。

それゆえに相手に見せ付けてやろうと言う気持ちが強いのだろう。

だが、今はそれでいい。

確執がそう簡単に氷解するなら、憎しみや恨みなんて言葉は生まれるはずもないのだから。

ともかく、今はこの戦いをうまく終わらせる事だ。

べテルミア大尉はそう考えつつ口を開く。

「時間はどうなっている?」

「はっ。報告のあった時間が予想よりかなり早かったものの、その後の連絡も上がって来ていませんから、作戦は順調に進んでいると思われます」

「そうか。なら、我々は時間通り、敵の港に向って移動を開始する。各艦、戦闘準備だ」

「了解しました。各艦戦闘準備。砲撃戦用意っ」

ゆっくりと旗艦が動き出したのにあわせ、回りの艦艇も動き出す。

各艦の砲塔が少し旋回したりして動いているのは、動きの確認の為だろう。

準備万端。

そのはずであった。

しかし、港に接近する別働隊に予想外の事が起こる…。


「報告きました。『熊は穴倉から出た。数は一と六』」

その報告に、アリシアとアッシュは少しほっとした表情を見せる。

しかし、鍋島長官だけが怪訝そうな顔をしていた。

それが気になったのだろう。

東郷大尉が鍋島長官の傍に来て二人には聞こえないように聞いてくる。

「長官、何か気になることでもありましたか?」

その問いに、鍋島長官は苦笑する。

「大尉には僕の心の動きはお見通しみたいだな」

そう言った後、表情を真剣なものにして囁くようにいう。

「敵が喰らいつく時間が早すぎる。それに、艦隊出撃の報告が来ていないのも気になる。今の時間帯なら連絡つくと思うから、すまないけど今すぐに港の動きの確認をお願いできないかな?それと第六水雷戦隊の方にいざと言うときの王国艦隊援護の為に動ける位置までの移動を命じておいてくれ」

「了解しました。しかし、それではここの守りが薄くなってしまいますけど…」

「なぁに、ここの守りは第二護衛隊の三隻で十分だよ」

そこまで言った後、鍋島長官は少しお茶目な口調で言葉を続ける。

「それに…いざとなったらさっさと逃げ出すからね」

その最後の言葉に思わずぷっと噴出しかけた東郷大尉であったが、なんとか手で口を押さえ込むと慌てて表情を引き締めなおす。

なかなか手強いな。

そんな事を思ってしまった鍋島長官に軽く頭を下げるとすぐに部屋から退出した。

退出する東郷大尉に視線を送りつつ、アッシュが口を開く。

「おいおい、どうしたんだ?」

その顔には興味深々と言った感じの色が現れており、アリシアも同じなのだろう。

じっとこっちを見ている。

「いや、何、ちょっと気になったことがあったからね。東郷大尉に確認をお願いしたんだよ」

「相変わらず、用心深いな、サダミチは…」

そう言いつつも、アッシュは窓の外に視線を向けた。

その視線の先には、ゆっくりとだが速度を上げて進んでいく第六水雷戦隊の艦艇がある。

多分、アッシュは今の指示で艦艇が移動を始めたとわかったに違いない。

視線を外から鍋島長官の方に向けるとニヤリとした。

その視線を受け止め、鍋島長官は何気ない振りをして口を開く。

「なぁに、用心はしすぎるって事はないと僕は思っているからね。もし無駄になったときは、笑えばいいだけだしな」

「確かに。用心した事を笑い話に出来るっていう事はいい事だ」

「そういうこと…」

鍋島長官が笑ってそう言うとアッシュも笑う。

そしてそのやり取りを羨ましそうにアリシアは見ていたのだった。


「おっ、思った以上に早く敵が喰らいついてきたな」

真田少将の言葉に、副官である三上少佐が作戦概要の書かれた計画表を止めてあるボードに目を落としながら答える。

「ええ。かなり早かったですね。敵の警戒網が思ったよりも広かったという事でしょうか?」

「ふむ。恐らくだが付近の各島々に偵察用の拠点を用意していた可能性が高いな…」

「しかし、事前の報告ではそういったものは発見できなかったとなっています」

外を見ていた視線を三上少佐に向けて真田少将が言う。

「今回、事前調査の時間があまりなかったという話だから、見落としがある恐れは大きいな」

「確かに…。ここは今までの戦いのように細かく調査した場所でも、よく知っている自国領海でもありませんからな。その可能性はありますね…」

「それに作戦は始まったんだ。臨機応変に対応していくしかないだろう。なんせ、こっちだけでやっているわけではない。相手がいる事だからな」

その言葉に、三上少佐はボードに下ろしていた視線を真田少将に向け、軍帽を脱ぐと苦笑して右手でポンポンと自分の頭を叩く。

「そうですな。相手がいる事を忘れていましたよ」

「それはいかんな。出世できんぞ」

そう言って苦笑する真田少将。

その言葉に、笑いつつ三上少佐は答える。

「何、私は上に立つ器じゃありませんからね。精々、その人物を横から支えるのがお似合いといったところでしょうか…」

「ほう…。自らをそう評価するか。しかし…それでは困るのだがな…」

そう呟く様に言った後、真田少将は時間を確認する。

「少し早いが、連絡のあった時間を考えればそろそろだな」

「はい。そろそろです」

「では、我々も動き始めるか…」

「了解しました。艦隊、前進っ」

主力艦隊が動き出す。

囮艦隊に喰らいついた敵艦隊を潰す為に…。

○第六水雷戦隊 構成○

  旗艦     軽巡洋艦 鬼怒

  第十七駆逐隊 駆逐艦 磯風 浜風 野分


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