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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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検分

共和国駐在武官の一人である半田一平少尉は、共和国のドックにいた。

王国海軍の襲撃からなんとか生き延びた装甲巡洋艦の検分の為だ。

彼の前には案内役の技術士官が、後ろには他に数名の軍人と兵が続いている。

要は後ろの面子は監視役と言う事だろう。

まぁ仕方ないのかもしれない。

フソウ連合と共和国はほんの数ヶ月前まで戦っていたのだから…。

もっとも、それは戦争と呼べるものではなく、共和国が宣戦布告もなく攻め寄り、そして大敗してしまったという実に惨めな結果だったからだ。

まぁ、喧嘩ふっかけてきた方が反対にボコボコにされたという感じたろうか。

どちらにしても実にみっともないといったのは変わらない。

だから、歓迎されるわけもなく、こんな雰囲気になるのも致し方ないといったところか…。

まぁ、どちらかと言うとさっさと帰って欲しいという雰囲気だ。

まぁ、わからないではないな。

そんなことを思いつつ半田少尉はまず最初に被弾したという区画に入る。

無線などを扱う通信室周りだという。

さすがに破損した機材なんかは運び出されているようだが、見るのはそこではない。

ふむ…。

なんとか消火して戻ってきた時のような悲壮感は薄れているとはいえ、壁などにのこった傷跡が実に痛々しい。

そんな中、半田少尉は壁の装甲の厚さや破損した範囲を調べて回る。

メジャーなどで図ったり、しばし考え込んではメモ帳になにやら数値を書き込んでいる。

そして一通り、壁などの検分が終わると次ははいつくばって床なども細かく見て回り始めた。

その様子を共和国の軍人達は呆れた様子で見ていたが何も言わない。

好きなように調べさせろ。

それが上から受けた命令だからだ。

しかしそんな事は気にかけることなく、半田少尉は調べ続ける。

そして大事な部分と思ったところをカメラに収めていく。

その部屋を一通り調べ終わった後、半田少尉は膝についた汚れを落しつつ呟く。

「やはりか…」

「えっと…どうしたのでしょうか?」

気になったのだろう。

技術仕官が共和国の言葉でそう聞いてきたので半田少尉は彼の顔を見る。

そこには少し驚いたような表情の技術士官の顔があった。

どうやらこの破損から得られる情報に気が付いていないらしい。

恐らくだが、フソウ連合に比べて、装甲についての技術が遅れているようだ。

破損箇所を調べる事で色々わかるというのに…。

それに壁に使われている装甲プレートの断面も、フソウ連合では民間船で使うようなプレートをただ厚くしただけのような感じだ。

これではフソウ連合海軍の軍艦に一般的に使われれている装甲プレートの三分の二程度の耐久力しか出ていないだろう。

その事をここにいる軍人の中では唯一の友好的な態度をとり同じ技術屋という事もあり、思わず口からその事を説明してしまいそうになった。

しかし、それは軍事機密である。

同盟を結び戦艦等の軍艦の取引のある王国でさえも最近になってやっと一部の人間のみに情報公開された内容だ。

ぺらぺらと話していい事ではない為、笑って誤魔化す事にした。

「いや。きちんと保存されているなと思いまして…」

「当たり前です。王国への交渉の際の証拠として保存していないと駄目ですからね」

そう説明する技術士官に、『確かに保存してあったというのはこっちとしても助かりますが、ただ、今見た感じだと王国に対しての証拠にはならない可能性が高くなったんですがね』と心の中で思いつつもにこやかに笑っておく。

「まぁ、証拠云々はおいておくとしても保存してあるおかげで検証出来るんですからわが国としてはすごく助かってますよ」

少し怪訝そうな顔をされたものの、あまり気にしなかったのだろう。

すぐににこやかな微笑を浮かべて技術仕官は口を開く。

「そうですか。それはよかった」

「では、次の被弾箇所に案内をお願いします」

「ええ。こちらです」

さて、この調子なら、半日程度で現場の検分は終わるな。

結果をまとめて、明日の午後には報告書を送れそうだ。

しかし…うちの長官の勘というか思考はどうなってるんだ?

あの人の言ってたとおりの結果が出そうだぞこれは…。

そう思いつつ、「お願いします」と言って半田少尉は案内する技術士官の後をついて行くのだった。


「艦の検分は終わったのかしら?」

アリシアは書類整理を終わって時計を見るとちょうど休憩用の紅茶を持ってくる執事にそう聞く。

その質問に、驚いた様子もなく、ただ淡々と執事は答える。

「ええ。お昼過ぎには終わったようです」

「で、どうだったかしら?」

「詳しくはわかりませんが、思ったとおりの成果が得られたようですな。検分に参加したフソウ連合海軍の駐在武官が昼食を断って資料を持って慌てて帰っていきましたから」

その言葉に、アリシアは苦笑した。

「ほんと、あの人の前では何でもお見通しみたいな気がしてきたわよ」

そう呟く様に言った後、表情を引き締める。

「それで他には?」

「後は後日に報告書はこっちに送るとだけ…」

「そう。なら待ちましょう。その報告書を…」

「はい」

そう返事をするとデスクの上に紅茶の入ったカップと砂糖をまぶしたように白い粒を身にまとった数枚のクッキーを乗せた皿を置く。

頭を使った為、糖分を欲しており実にありがたい。

「気が利くわね」

「書類整理にお疲れのようでございましたから」

「ふふふっ。本当に助かるわ。ありがとう」

アリシアはそう言うと、紅茶を取りカップを口元に寄せる。

独特の、それでいて気が安らぐ様な気分にさせてくる香りが鼻の奥をくすぐる。

本当に…これはアリよね。

今や、このハーブティはアリシアにとって欠かせないものになりつつあった。


「おいっ…あれを見ろっ」

高橋少尉が下の島を見えやすいように晴嵐の機体を傾ける。

かなり大き目の三日月のような形の島があり、無人島なのだろうか…緑で覆われているが、その島の湾の入り込んだ一番奥には緑色が途切れており、その付近には灰色の人工物がある。

横から見られても目立たないように色々偽装されているようだが、上から見れば丸見えだ。

そしてその近くには港の施設もあり、その施設には駆逐艦クラス、軽巡洋艦クラスの軍艦らしきものが十隻ほど停泊しており、どの船も国旗は掲げておらず、まるで自分達の所属を隠すかのようだ。

「ありゃ…海賊ですかね?」

後ろに座る爆撃手の八川二等兵曹が聞き返す。

「さあな。だが、そういうを判断するのは俺らじゃねぇ。さっさと撮影始めろ」

そう返事をしつつ撮影しやすいように機体を操る。

「助かります」

八川二等兵曹がそう言いつつ、カメラで撮影していくが気になったのだろう。

「うーん…。あれって輸送船ですかね?」

そう聞いてくる。

「どいつだ?」

「あの大きなやつですよ、三隻並んでいる…」

そう言われ、高橋少尉が機体を操りつつ確認する。

「うーん…。ありゃ、輸送船と言うより、商船に近いな」

「商船ですか?」

「ああ。防御用の武装が最小限だし、船の塗装がどちらかと言うと派手だ」

「もしかして…」

「ああ。もしかしてかもしれんな」

二人は黙ってそのまま撮影を続ける。

「十分撮ったと思います」

「そうか。では無線で伊-401に報告だ。文面は『海賊と思われる拠点発見。撮影終了し帰艦する』以上だ」

「了解しました」

晴嵐はゆっくりときびすを返すと来た方向に向きを変える。

情報を急いで持ち帰る為に…。

そして、帰艦後、写真はすぐに現像されて確認され大鯨に報告されたのだった。

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