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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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宰相の執務室にて…

「なんだ?まだ残っていやがったのか?」

そう言って執務室に入って来たのは、『海賊メイソン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿だ。

その顔を恨めしそうに見ながら『鷹の目エド』こと宰相のエドワード・ルンデル・オスカー公爵は言葉を返す。

「なぁに、色々と忙しいんだよ、どこぞと違ってな…」

皮肉を込めた口調だが、それも気にせずに笑いつつメイスンは言う。

「本当にご苦労な事だ。俺じゃ絶対に無理だぜ」

「何を言いやがる。お前だって今の時間帯まで仕事をしてたんだろうが…」

そう言い返すと、メイスンは苦笑する。

「まぁな。フソウ連合からの返信があったからな」

その言葉に「ほほう…」と宰相は興味を示す。

まだこっちまで情報が流れて来ていないと言う事は、最新情報なのだろう。

「それで相手の返事はどうだった?」

そう聞くと、メイスンはずかずかと部屋のソファに座り込むと右手に持っていたワインのボトルを上に上げてニタリと笑う。

要は、その話題を肴に一杯やろうという事らしい。

深々とため息を吐き出した後、宰相は立ち上がって棚においてあるワインオプナーをメイスン卿に投げて渡した後、ワイングラスを二つ持ってメイスンの向かいに座る。

メイスン卿は、手馴れた感じでワインをあけるとそれぞれのグラスにワインを注ぐ。

それを見ながら、宰相は口を開いた。

「結局、フソウ連合は仲裁役を受ける事になったのか?」

注ぎ終わったワインのグラスの一つを宰相に渡した後、もう一つを手に持ってメイスンは答える。

「ああ。問題なく引き受けるようだ。そしてその会合には、フソウ連合海軍最高司令長官自らが参加するらしい」

その言葉に、宰相は目を細め、楽しそうに笑う。

「ふむ。やはり同盟をしていると言う事だけでなく、アイリッシュ殿下の名前で出した事も大きいようだな」

「ああ。どうも二人は向こうで友誼を結んだようだ」

「ほう…」

「まぁ。いろいろ話を聞く限りでは、かなり面白い人物だな」

そう言いつつ、メイスンは王国駐在大使である斎賀露伴の顔を脳裏に浮かべる。

親友の息子であり、一年間苦楽を共にした仲間でもある彼の言葉は信じられるものだ。

だから、はっきりと言う。

「ほう。お前がそこまで言うとはな…。情報源は問題ないのか?」

「ああ。問題ない。もし騙されたのならそれは信じた俺が悪かったといえる相手だからな」

「ふむ。なら、大丈夫だろう。お前さんは、そういう人を見る目だけはかなりしっかりしているからな」

宰相の言葉に、メイスンは苦笑する。

「うるせぇ。『だけ』は余計だ」

そして二人して笑う。

ほとんどの政治関係者は、彼らは仲がよくないと思っているようだが、王と彼ら二人は親友であり苦楽を共にした仲間である。

ただ、立場上対立しているようなことが多いだけである。

そして、ひとしきり笑った後、メイスンが宰相に聞く。

「そう言えば、面白い事にフソウ連合から返信と一緒に送られてきた連絡に王国国内と国際的な物価変動のデータが欲しいってあったんだが、ありゃどういうことだと思う?」

ワインを飲みかけていた宰相の手が止まり、ゆっくりとグラスがテーブルに置かれ怪訝そうな顔で聞き返す。

「何が欲しいだって?」

「王国国内と国際的な物価変動のデータらしいんだが…」

メイソンの言葉を聞き、宰相は腕を組んで少し考え込む。

そして棚に向かい、いくつかの資料を出すとデスクに広げて見比べると何かわかったのだろう。

「そうか、そういうことか…」とぶつぶつ言い始める。

そしてその様子を最初はメイスンは楽しげに見ていたが、すぐに飽きてきたのだろう。

「おいっ、一人で楽しんでないで、俺にも教えろよ」と口を開いた。

すると。ニヤリと笑いつつ宰相はいくつかの資料を持ってテーブルに戻ってきた。

「いやなに、実に面白い」

その表情は普段のしかめっ面ばかりしか見た事がないものなら驚くほどの満身の笑顔だった。

「何がなんだか、俺はちんぷんかんぷんなんだがな…」

メイスン卿がそう言うと、宰相はニタニタ笑いつつ口を開いた。

「フソウ連合の連中め、我々を試しているのか?」

「どういうことだよ?」

「フソウ連合の連中は、今回の王国商業船団襲撃は、国家が引き起こした行為ではないという疑いを持っているようだな」

宰相の言葉に、怪訝そうな顔で聞き返すメイスン。

「なんだそれは?今回の件は他国の妨害じゃないのか?」

「ああ。もし本当に他国の妨害の場合なら徹底的にやるだろうから被害を与える前に撤退なんてしないだろうよ」

「確かに…、言われてみれば…」

「なら、被害を与えるのが目的ではない。では、何が目的か…」

メイスンは黙り込んで考えるも、何も浮かばないのだろう。

両手を軽く上げてわからないというジェスチャーをする。

その様子に苦笑しつつ、宰相は口を開いた。

「恐らくだが、目的は『襲撃された』という事実のみと言う事だ」

「なんだそりゃ?相手の国の印象を悪くして警戒されるだけじゃないのか?」

「その通りだ。私もそう考えていた。共和国との関係の悪化を狙ったものだと…。だが、引っかかる部分はあった。なぜなら、共和国と王国の間ではそんなものをしなくても十分すぎるほど嫌悪感があるということだ。だからずっと引っかかっていた」

そこまで言った後、口が渇いたのだろうか。

ワインを口に流し込む。

そして言葉を続けた。

「だが、今回のフソウ連合の調査以依頼で、なぜ引っかかりを覚えていたのか、そしてフソウ連合が何を考えているのかがよくわかった」

「つまりなんだってんだよ?」

「フソウ連合は、今回の件を一部の一勢力によって行われた事ではないかと考えているらしい」

「こんなに大事になっているというのにか?」

メイスンが驚いたような声で聞き返す。

「ああ。偶々共和国の件と重なったが為にここまで大事になった。しかしだ。もし、共和国の件がなければ、恐らくだが共和国に文句を言って終わっていた。共和国にしたって、王国がいちゃもんつけてきた程度の認識で終わったろう」

「確かにな…。その可能性が高い…」

「なら、なぜそんなことをしたのか…」

考え込むメイスンだがすぐにお手上げのジェスチャーをする。

「わからねぇ。お前さんは判るっていうのか?」

「ああ。恐らくだが、フソウ連合は富を得るという理由から今回の事が引き起されたと考えているようだな」

「なんだって?富を得るために、商人達が王国の商業船団を襲撃した振りをして見せたって事か?」

「恐らく実行した連中はこの海域から運び込まれる物を取り扱う商人たちではないかと考えているようだ」

そして、宰相はメイスンの目の前にいくつかの物価の価格変動表を見せる。

「ほれ、襲撃前と後での物価変動を見たまえ。あの海路を使って海外から流れてくる物が一時的とは言え全て一気に値上がりしている」

そう言って宰相は襲撃があった前後の価格の位置を交互にトントンと指で叩くように示す。

それを覗き込み、メイスンはあきれ返った顔で呟くようにいう。

「確かに…。襲撃があった直後なんか、二倍近くなってやがる」

「まぁ、その後、なぜか大量に物が市場に出回ったからすぐに価格は下落して今では襲撃前と変わらない程度だが、価格が上昇した時に一気に売りさばいた連中は倍の売り上げを上げたことになる…」

宰相の説明に、メイソンは呆れたような顔する。

「ぼろ儲けじゃねぇか…」

「ああ。傭兵か、海賊を雇い、ちょっとちょっかい出すだけでこれだけ暴利が得られるんだ。少しぐらいの危険は犯す価値はあるということだ。ある意味、新しいタイプの商売といったところか…」

「そんなのは商売じゃねぇ。詐欺とかわらねぇじゃないか」

「だが、今のところ、それらを取り締まる法律はない上に、証拠がない…。そうなってくると罰する事もできないから我々はどうしようもない。」

メイソンがイライラした口調で掃き捨てるように言う。

「なんて連中だ…。愛国心はねぇのかよ」

「ないと思うぞ。連中にとって富だけが正義であり、法律だからな…」

「世も末だな…」

そう言った後、真顔で聞き返す。

「くそっ、なんとかなんねぇのかよ、エドっ」

メイスンがドンドンとテーブルを叩き怒りを露にする。

その様子を涼しげな表情で見返しながら宰相は淡々と話す。

「まだ、それが本当に正解かはわからないが、可能性はかなり高いように思える以上、きちんと調べて見る必要性はある。それに、実際にもしそういった操作が行われているとしたら、それに対する対抗策や法律を急遽検討準備して対応できるようにしておく必要性があるな」

「やれそうか?」

「やれそうじゃなく、やるんだよ」

そう答えた後、宰相は少し微笑みながら言葉を続けた。

「確か、返信の相手はフソウ連合のナベシマとか言ったな。あえてキチンと言うのではなく、ヒントをだして我々を試しているということなのか?ふふふっ、実に面白い…」

その宰相の様子に、さっきまで怒りを露にしていたメイスン卿もニタリと笑う。

「ああ、俺もそのナベシマって男と会いたいと思っている。あの無気力だったアイリッシュをあれだけ変えた男だからな」

「そうだな。そのうち酒でも交わしたいものだ」

「ああそうだな」

そう言うメイスンの様子を見つつ、宰相はグラスに残ったワインを飲み干す。

テーブルに置くと、メイスンがワインを注ぐ。

その注がれる液体を見つつ、宰相の思考はめまぐるしく動いていた。

今回の件、恐らく一介の商人達が利益を得るために実行したと考えられるが、だがこんな事を商人たちが考えるだろうか…。

恐らくだが、入れ知恵した連中がいるはずだ。

商人たちは目先の利益に踊らされただけといったところだろう。

そしてその連中は、共和国のことにも絡んでいる恐れがある。

どうやら、裏でよからぬ事を考えてやがるやつがいるな

そこまで考えた後、宰相はワイングラスを持ちつつ口を開く。

「今回の件、根が深そうだ。情報は早めに回して欲しい」

「ああ。わかった」

空になった自分のグラスにもワインを注ぐとメイスン卿もグラスを掲げる。

宰相が淡々とだが決意の篭った口調で宣言するように言う。

「わが友であり、主である王と王国の為に…」

その言葉に、メイスンはニタリと笑い答える。

「おうよ」

そして二人は互いにワインを口に運ぶのだった。

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