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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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日誌 第五日目 その1

翌日、少し無理はしたがなんとか完成した4隻を自分の家にあるジオラマのドッグに載せて自宅から長官室に向う。

「どうしたんですか?」

少し落ち着きがなかったように感じたのだろう。

後ろから付いて来ながら東郷大尉が聞いてくる。

「いや、昨日作ったやつをジオラマに設置したから、どんな感じで始まったのか見てみたくてね」

僕の答えに、東郷大尉はくすりと笑う。

「なんかおかしいかな?」

思わず聞き返すと「失礼しました。なんか…子供みたいで…」とうれしそうな笑顔で東郷大尉が答える。

「そうかなぁ…。でもさ…なんかワクワクしてんだよね。僕の作ったものが、実物になるって考えるとさ」

そう言って長官室に着くと机の上に置かれてある書類には目もくれずに屋上に向う。

「仕方ないですね…」

なんて言いながらも東郷大尉も後ろから付いてくる。

エレベーターに乗り込む時に大尉の顔を覗き込むとなんかすごくワクワクしている表情。

「なんだ、大尉も楽しそうじゃないか」

引き締めた表情をしているようだがどちらかというと照れ笑いに近い感じに崩れかけている。

「わ、私だって見るのは初めてなんですから…」

少しふてくされた様に言うものの、楽しみの方が勝っているって感じだ。

「じゃあ、今回はお互いに不問ということで…」

僕がそう言うと、大尉は咳払いをした後「じゃ、それで手打ちという事にしておきます」なんて言ってくる。

なんかかわいいなと思う。

だから、「わかったよ。それでいこう」と返事をする。

するとその言葉を待っていたかのようにエレベーターのドアが開き、屋上につながる部屋に着いた。

ここに来たのは、こっちの世界に初めて来て世界を確認する為に来て以来だ。

そして、そのまま屋上につながるドアに向う。

目の前にある防弾の重たい鉄製のドアを開けると開いた隙間から入ってくる潮の匂いが鼻の奥をくすぐる。

そして完全に空けた先に広がるのは僕のジオラマが実体化した世界。

僕は無意識のうちに駆け出していた。

「ちょっと待ってくださいよ」

うしろから大尉の声が聞こえたが、興味の方が強かった。

そのまま屋上の隅のほう、ドッグの見える位置に走って移動する。

そしてそこから目に入るのは、いくつもある艦船用のドッグとドック内ですごいスピードで建造されている四隻の艦船があった。

「すごいな…」

僕の口から自然と言葉が出た。

そして、それは後から来た東郷大尉も同じようだ。

「すごい…」

二人で食い入るようにその光景を見ている。

まさにフイルムの早回しって感じだ。

しかし、実際に作業をおこなう場合、作業する音が生じるはずだが、それらしい音が不思議な事にない。

「音がないのはなんでだ?」

無意識のうちに疑問が口から漏れる。

するとドアの方から答えが返ってきた。

「それは魔法だからだよ。実際にそのまま早送りで作業をしているわけじゃない。時間の移り変わりを見せているだけだ。本来ならかかる時間、そうだな、この場合はあの船とその影響を受ける場所や物や人に対しての歴史と言った方がいいのかな。その歴史が改ざんされていく様を早送りで見せているだけなんだよ」

その声に驚いて振り返ると、ドアの近くに大きな封筒を持った三島さんが立っていた。

そして、その後ろにはいくつかのファイルとボードを抱えた広報部の杵島大尉もいる。

どうやら長官室にいないので探していたようだ。

「す、すみません…。つい気になってしまって…」

僕がそう言って頭を下げると「いやいや。その気持ちはわかる、すごくわかるわよ。だから気にしなさんな」と三島さんが笑う。

「ありがとうございます」

そう言って長官室に戻ろうとドアの方に歩き出しかけて何気なくドッグの方を再度見た。

そこには、もう半分以上完成しつつある海防艦二隻と駆逐艦一隻。それにやっと半分程度完成した特設給油艦の姿があった。


「お待たせしました。それで、用件はなんでしょうか」

長官室のソファーに三島さんと杵島大尉に座るように薦めて、僕もソファに座ると用件を聞く。

「そんじゃ、私からね」

そう言って持っていた封筒から何枚かの紙を出す。

どうやらどこかの地図のようだ。

「今日の朝一で、ガサ地区の角間さんから海軍に提供できる島の情報を送ってきたわ」

「早かったですね」

「まぁ、角間さんは抗戦派だし、実際に襲撃されて、海軍によって最小限の被害で収まったからね。そりゃ、いの一番で協力するでしょうね。それにね、海軍と襲撃してきた連中の戦いを見ていた街の人も多かったみたいよ。ガサの議会では、角間さんの提案に満場一致で賛成ですって」

「そりゃ、ありがたいなぁ…。これで他の地区も協力してくれるといいんだけどね」

ほっとした表情で僕がそう言うと、三島さんが苦笑しつつ言う。

「後は、カオクフ地区の新田さんからは、現在候補地を検討中って連絡が来てたわね。これで他の地区もだらだら先延ばしにして誤魔化したりはしにくいんじゃないかな」

「だといいんですけどねぇ…。こっちとしては、北と南にそれぞれ最低二箇所の拠点を作りたいと思っていますから、ガサ地区やカオクフ地区の協力はありがたいですよ。これで南の方はこの二つの地区が協力してくれるならなんとかなりますから。ただ問題は…」

「中立派だった連中のことだね。北側は、降伏派の影響を受けているところが多いからねぇ」

僕と三島さんの会話を聞いていた東郷大尉が、コーヒーを僕と三島さん、それに杵島大尉の分の三つをテーブルに並べつつ聞いてくる。

「でも、前回の会議のときは、こっち側に賛成してくれたんでしょう?」

その東郷大尉の言葉に、三島さんが苦虫を潰したような顔で答える。

「確かにあの時は射撃風景を見せてある意味脅迫に近いデモを見せたから賛成してくれけど、海軍の力が増す基地設置とかは非協力的じゃないかな。実際に被害が出たのはほとんど南からばかりだから北は関係ないと思っている節はあるし、なにより連中は降伏派である西郷氏との繋がりが大きいからねぇ」

「何ですか、それはっ。海軍は、もう一地区の組織ではなく、国の組織として認められたんじゃないんですか?」

東郷大尉が怒ったような口調で言う。

その気持ちはすごくわかる。

だが、利権が絡むと政治は実にややこしくなってしまう。

それはどこの世界でも同じだ。

だからこそ、僕だって腹が立つ。

「認められたさ。だからこそ、その為の新しい利権やらが発生してその為の綱引きが始まるのさ」

ぶっきらぼうに僕がそう言うと、三島さんがまぁまぁとなだめるように言う。

「しかし、今のところは本会議で海軍は国の組織として認められたんだし、それに軍港や空港、基地建設が決定したんだ。連中にできるのは、引き伸ばしといった嫌がらせぐらいだよ。そんなのに付き合う必要はないんだから、その間に出来る事をやっておこうじゃない」

「そうですね。すみません…」

僕が素直に謝ると、東郷大尉も慌てて謝る。

「すみません。なんか余計な事を言ったみたいで…」

「いいや。いいさ。大尉の感じた事は、我々も感じているんだからね」

三島さんはそう言って東郷大尉のいれてくれたコーヒーをすする。

僕は書類に目を通すことにした。

ガサ地区周辺の地図が一枚と島の地図が二枚。それに簡単な説明が書かれたレポートが付けられている。

ガサ地区の地図には二箇所に赤丸で印が付けられそれぞれ数字が振られていた。

そして、島の地図にも番号が振られている。

「ふむ。番号一の島が、この島の地図と言うことか…」

場所をチェックしつつ、それぞれ島の細かな形を確認する。

二島ともそこそこ大きめの島のようだ。

一つは無人島のようだが、一つは港があり、村のような部落が地図に書き込まれている。

「この島には村みたいなのがあるみたいだけど…」

僕の言葉に、地図を覗き込んできた三島さんが「ああ、この島か」と言って頷いている。

「どういうことですか?」

「多分、そっちのレポートにも書いてあると思うけど、そこは廃村だから」

「廃村?」

「ええ。ここ最近、外の国からの干渉が増え始めたでしょ?だから、そこの村に住んでいた人は、より大きな村のある島にみんな移ってしまったのよ」

「長官、こっちのレポートにも人は住んでいないから好きに使ってくれって書かれてあるみたいですよ」

僕が地図とにらめっこをしている間にレポートに目を通したのだろう。

開いたレポートの一部を見せつつ東郷大尉が言う。

「そういうことか。なら、遠慮なく利用させてもらおうかな。じゃあ、この島を南方基地の第一候補として検討するように参謀本部の新見大佐に資料を渡しておいてくれ」

資料を封筒に入れると、そのまま東郷大尉に渡しながらそう命令する。

「はっ。了解しました」

封筒を受け取り、東郷大尉が長官室を退出する。

「じゃあ、私も戻るわね。一応、私のコネでいろいろ中立派には働きかけてみるけど、あまり期待はしないで。それとまた何かあったら連絡するから…」

「ああ、お願いします」

「じゃあね」

手をひらひらさせつつ長官室を出る三島さん。

本当に頼りになるなぁ…。

さて…次は…彼女の番か…。

「待たせたね。では話を聞こうかな」

三島さんの横のソファーに座って黙って待っていた広報部の杵島大尉に声をかける。

「あ、あの…」

「なんだい?」

「今の話、私、聞いててよかったんですか?」

少し心配そうな表情をする杵島大尉。

「大丈夫だよ。もし聞かせたくないことなら、三島さんも東郷大尉も君を退室させているよ。心配しないで」

僕がそう言うと少し安心したのだろう。

ふうと息を吐き出し、僕の前に封筒やボードを広げ始めた。

こりゃ…少し時間がかかるかもな。

準備する彼女を見つつそんな事を僕は考えていた。

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