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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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日誌 第百六十九日目


それぞれの駐在大使から送られてきた報告に絶句し、より詳しい情報を集めるように指示してから二日後の三月三日に細かな情報と共にまたとんでもない連絡が来た。

王国、共和国それぞれの国からフソウ連合に話し合いでの仲裁依頼が来たのである。

二つの仲裁依頼の連絡が書かれた紙をテーブルに置き、僕は目の前の二人に困った顔をして聞いた。

「これって…多分…示し合わせて送ってきたなんてことないよね…」

その僕を面白そうに見ていた山本大将がまず口を開く。

「二カ国の関係からまずありえないでしょうな」

「だよねぇ…」

思わずそう言って苦笑する。

すると今度は苦笑した表情で新見中将が話す。

「かなり期待されているようですな」

「そんなつもりはないんだけどなぁ…」

「まぁ、長官はその気がなくても、周りはそう思わなかったということですかね」

「それが困るんだよなぁ…」

ため息を吐き出してぐったりと肩を落とす。

「まぁまぁ、来ちまったもんはしょうがないとして。それで長官としてはどうするんです?」

山本大将は、実に楽しそうに聞いてくる。

「なんか楽しんでないかい?」

僕がそう聞くと、からからと笑いつつ山本大将は答える。

「楽しんでますとも、なんせ、長官のおかげで今までならありえない状況や体験をさせてもらっているんですから」

その言葉と態度に悪意はなく、純粋にそう思っているのだろう。

だから、僕も素直に受け止めるしかない。

だから、困ったなというジェスチャーをしつつ言う。

「これはまいったね。そうきたか…」

「ええ。せっかくの人生だ。楽しまなきゃ損ですよ、長官」

「そうだな。そうする事にするか…」

「で…どうされるんですか?」

今度は新見中将が聞いてくる。

その問いに僕ははっきりと答える。

「やるさ。わざわざわが国をご指名だからね」

「まぁ、そう言われると思っていましたよ」

新見中将がため息を漏らしつつそう言うと、今度は真剣な表情と口調で聞き返してくる。

「それで誰を派遣するんですか?」

その質問に僕は即答した。

「誰も派遣しない」

「えっ?!派遣しない?」」

「だって僕自身が行くつもりだからね」

しばらく間が空いた後、山本大将は驚いたという表情で、新見中将は信じられないといった顔で固まってしまっていた。

そして我に返ったのだろう。

新見中将がすごい剣幕で慌てて言う。

「何を言っているんですかっ。長官にもしもの事があったらどうするんですかっ」

「大丈夫だよ。僕がいなくても、君たちがいるじゃないか」

「何を言うんですか。長官の代わりなんていません。お考え直しください。そ、そうだ。王国駐在大使の斎賀露伴殿ならうまくやるでしょう」

そう言ってなんとか考え直させようとする新見中将。

その気持ちはうれしいんだが、僕は首を横に振る。

「駄目だ。僕がやるべきだと思うんだ」

「しかしっ…」

まだ何か言おうとする新見中将の肩をポンポンと叩きつつ、山本大将が口を開いた。

「まぁ、待て、新見」

「山本、止めるなっ。今のフソウ連合海軍に、いやフソウ連合と言う国に長官は必要な人なんだ。そんな人を…」

「新見が長官の事を考えて言っていることも長官がフソウ連合に必要な重要人物と言う事もわかるし、俺だってそう思う。だがな、やる前から危険だなんだと言うのはなぁ…。そんな事を言っていたら、何も出来なくなっちまうぞ」

その言葉に新見中将はうつむき黙り込む。

そして、そんな新見中将をちらりと見た後、山本大将の視線は僕の方に向けて僕に聞いてくる。

「ただ、新見の言う事も一理ある。だからここはあえて聞きますよ、長官。なぜ、長官じゃなきゃいけないんですか?」

さっきまでの楽しんでいるといった雰囲気は掻き消えて、真剣な表情で山本大将はそう聞いてくる。

その視線を受け止めつつ僕は口を開く。

「まず一つ目だが、斎賀大使はあくまでも王国駐在大使だ。王国駐在大使という立場から、共和国側からクレームが来る恐れがある。それは共和国駐在大使を選んでも同じだ。だから、あくまでも仲裁役をする者は、駐在大使ではなく、フソウ連合本国の、それも高位の人間であるべきだろう。次に二つ目は、今回の件は、外交問題であり、軍事が大きく絡んでいる。それを考えれば、外交と軍事の責任者である自分が動いたほうがいいだろうということだ。そして三つ目としては、今回の仲裁に出てくる人物達だ。王国側からはアッシュが、そして共和国からはアリシアが出てくるとなっている。その二人両方に面識があるのは大きいんじゃないだろうか。それにこの二人は恐らく今回の件では穏健派だろうな。だから、それがわかっている人物が間にはいれば、最低でも戦いは避けられるんじゃないかと思っている」

「なぜ二人が穏健派だと?」

「僕から見て今回の件は、あまりにもおかしすぎるんだ。それがわからない二人じゃないと思う。だから調停の話し合いに参加するんだろうし、それにあの二人が一時的な感情だけで動くとは思えない」

「なるほどですな。そういう点は二人の事を知っている方しか判断できませんな」

新見中将が感心したように言う。

そしてすぐに山本大将が身体を乗り出して聞いてきた。

「それにおかしいというのは?」

「ああ。今回の件、二国間では誰もメリットがなさ過ぎるんだ」

「しかし、二カ国間は険悪の関係と聞いています。それなら…」

「いや、それならなおさらだと思う。商業船団をほぼ壊滅させたというのは、突発的な出来事とは思えないし、なにより王国も共和国も戦力を多く失って疲弊してしまっている。険悪な関係だからこそ、決定的な戦力の差がない今の状況は戦う事はしないと思うんだよ」

「なるほど。憎い相手だからこそ、勝てる状態か根拠がなければ手を出しにくいということですか…」

新見中将が腕を組み考えるような格好で呟くようにいう。

「そういうこと。そして最後に…。実は王国と共和国に提案したい話があるんだ」

「提案したい話…ですか?」

山本大将が聞き返す。

「ああ。今回の件で思いついた事があるんだ」

僕がそう答えると、新見中将も興味があるのだろう。

「何を思いつかれたんですか?」

そう聞いてくる。

僕は二人の顔を見てにやりと笑って言う。

「多国籍の艦隊による海路警備ってとこかな」

「多国籍ってことは…」

「そう。いくつかの国の艦艇でってことだよ」

二人は絶句してただ呆然と僕を見ているだけだ。

多分予想外の事だったのだろう。

確かに、今のこの世界で相互協力といってもたかが知れている。

同盟にしても、協力にしても一時期の借りそめのものでしかない。

なぜなら、この世界は弱肉強食なのだ。

強いものが弱いものを従わせるのが当たり前なのである。

だからこそ、六強と呼ばれる強い六つの国が世界を支配している。

それがこの世界の普通であり、常識なのだ。

だが、それが全てではないと僕は思っている。

だから、僕はそんな世界にまったく違うアプローチをしていきたい。

そのアプローチが、王国との同盟であり、アルンカス王国との相互軍事条約だ。

そして今回の件をうまく使ってより進められないかと思っている。

だから、僕は話を続けた。

「それぞれ各国が艦艇を参加させ、海路警備に参加したすべての国の商業船団を警備するんだ」

僕の言葉に山本大将が真剣な表情で聞いてくる。

「そんな事が出来るとお思いですか?」

「さぁ、なんとも言えない。でもね、この提案に参加する事で、いくつかの利点があるんだ」

「その利点とは…」

「一つ目は、ある程度まとまって動くから海賊に襲われにくい」

「確かに。最近は海賊の被害もかなりのものという話を良く聞きますな」

「二つ目に、今回のような事を未然に防げる」

「つまり、お互いに牽制する事で、互いの商業船団に手を出しにくくするという事ですね」

「そういうことさ。だから互いの目が光っていては、今回のようなことは起きない。そして三つ目は、互いの海軍との交流によりより良い協力関係を作れるようになるってところかな」

そこまで話した後、僕はふうと息を吐き出した。

二人はしばらく考え込むように黙っていたが、まず山本大将がぎろりとこっちを見た後、二タリと笑った。

「さすが…長官だ。よく考えておられる…」

そして次にため息を吐き出しつつ新見中将が口を開いた。

「確かに面白い提案ではありますな。やってみる価値はあるかもしれません」

そしてすーっと僕を見た後、続きを口にする。

「ただし、条件があります」

「条件?」

「ええ。長官に何かあった場合の事を考え、会合はフソウ連合海軍の勢力範囲でお願いいたします」

「しかし…それでは…」

「しかしも案山子もではありません。その点は絶対に譲歩できません」

その言葉には絶対に譲れないという思いが込められておりそう簡単に覆そうにない。

それにここまで譲歩してくれたのだ。

もうこれ以上はいえないだろう。

だから僕はその提案を受けることにした。

「わかったよ。その提案を受けいれよう」

「ありがとうございます、長官。それでどこで行うつもりですか?まぁ無難なところでは海外の窓口であるナワオキ島あたりでしょうか…」

候補地を言い始めた新見中将を遮るように僕が口を開く。

「なら…」

「なら?」

二人の視線が僕の発言に注目しているのがわかった。

だから、僕はゆっくりと発言した。

「アルカンス王国で行うというのがいいんじゃないかな」

僕の提案に、新見中将が固まる。

てっきりフソウ連合国内で行うと思っていたようだ。

「あの国も四月からはわが国の防衛圏内に入りますよね」

その言葉を聞き山本大将は腹を抱えて笑い出した。

「こりゃ一本取られたな、新見」

そう言いつつ、バンバンと新見中将の背中を叩く。

その痛みで我に返ったのだろう。

「長官っ」

そう言って睨まれてしまった。

いやちゃんと理由はあるんだって。

だから、僕は慌てて理由を言う。

「あそこは、独立を果たせば共和国にとっても、王国にとっても中立な地域じゃないか。それにもし提案した多国籍の艦隊による海路警備が受け入れられるようなら、あの国に本部を作るってことも出来る。なんせ、建前上は、六強でもなく、フソウ連合でもない独立国家だ。国際的な運用する組織の本部を置くには相応しいと思うんですよね」

そう説明すると新見中将の睨みつける力が弱くなったように感じた。

だから、そのまま畳み掛けるように考えを続けて言う。

「それにフソウ連合まで来るよりかは、あの国で行ったほうが、王国、共和国共に距離的にも本国に戻りやすいと思うんだよね」

その通りなのだ。

フソウ連合まで二つの国が本国から来るとしたら、大きく回りこまなければならなくなるが、アルンカス王国なら回りこむ距離が短くてすむし、近くには王国や共和国の植民地もある。

つまり、連絡や移動においてフソウ連合に来るよりはるかに両国とも負担やデメリットが少なくなるという事だ。

発言後、少しの間じっと僕を睨みつけていた新見中将だったが、諦めたのかため息を漏らして渋々承諾してくれる。

「ただし、警備や実施に難がある場合は、変更させていただきますがよろしいでしょうか?」

そう釘を刺してきたが、それは裏を返せば、よほどの事がない限りは僕の意見を実施できるようにするという意味でもある。

だから僕は微笑むと頷いた。

「ありがとう。よろしく頼むよ」

そんな僕の言葉に、山本大将は笑いながら、新見中将は苦虫を潰したような表情で敬礼したのだった。

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