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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十四章 つかの間の出来事…

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星明りの下で…

月明かりもなく、ただ微かに光る星の明かりだけが周りを支配する。

そんな深夜。

一人の老人がテラスに出て眼下に広がる光景を眺めていた。

真っ白になった髪と胸元まである顎鬚、そして顔に浮かぶのは博愛に満ちた優しげな表情。

そんな老人が、目の前に広がる光景に見入っていた。

塔の上から見下ろす街並みは、真っ黒な墨のような暗闇の中に光の粒が広がっており、まるで今の星空をそのまま写し取ったかのように清らかで、そして美しかった。

老人は、一人そう思考しながらゆっくりとテラスを歩き、時間をかけて光景を楽しむ。

もちろん、部屋の明かりという無粋な光の暴力は、この美しい光景を台無しにする為に全て消し去っている。

だから、今ある明かりは、ぼんやりと浮かぶ星明りが足元を照らすのみだ。

「ふっふっふ…。実に美しい…。美しいのう…」

思いが思わず口から漏れた。

そんな感じで老人の口から言葉がこぼれる。

すると誰もいないと思われていた暗闇が動き、その言葉に反応して答えるかのように一人の男のシルエットを形作る。

しかし、形はわかるものの、星明りを避けるようにしている為か、シルエットでしかわからない。

ただ、そのシルエットでもわかる事がある。

どうやら男性のようだという事だ。

そして、それは発した声で確定される。

「まったくその通りでございます」

人影の発した声は間違いなく男性の低い声で、まるでさっきからそこにしたかのように老人の言葉に答える。

老人は白く伸びた顎鬚を撫でるとうれしそうに笑った。

「そうか、そうか。卿もそう思うか…」

「はい。私もそう思います。実に美しい光景だと…」

影がそう答えて頭を下げる。

「ふふふっ。卿と価値感を共有できて、実にうれしく思うぞ」

楽しそうに笑いつつそう老人が言うと、影は今度は深々と頭を下げた。

「もったいなきお言葉…。まことにありがとうございます」

「それで…例の報告は来たのかね?」

その言葉と共に、老人の博愛に満ちた優しそうな表情が薄れていき、ぴくりと眉がつりあがっていく。

同じ人物のはずなのに、まったく違う、言うなれば正反対の雰囲気に老人はなりつつあった。

しかし、影はそのことに動揺した動きもなく、ただ淡々と答える。

「はい。報告が今届きました」

「そうか、そうか。で、首尾はどうだった?」

「残念ながら…」

影が微かに揺れて答える。

それは残念な結果を報告しなければならないという無念さを現しているかのようだ。

しかし、老人はあっけらかんとして感じ口を開く。

「ふむ…。失敗したか…」

「はい。目的は達成できませんでした」

老人は黙ったままじっとしている。

その態度を詳しく話すようにと催促していると判断したのだろう。

影が言葉を続ける。

「首都攻撃は出来ませんでした。どうやら事前にフソウ連合海軍が艦隊を先行させておいたのでしょう。その艦隊にこっちの手配した者達は、全滅しました…」

その報告に、老人は深いため息を漏らす。

「本当に用心深い連中じゃな、そのフソウの海軍を率いるものは…。或いは先を読んでいるという事か?はっきりとは判らんが、どちらにしても手強い相手には違いないわ。しかし…そやつの名前は…なんだったか…」

考え込むような素振りでそう言う老人に、影が答える。

「フソウ連合海軍総司令長官 サダミチ ナベシマです」

「そうそう、そのナベシマと言う男だ。今までの動きや結果を見ても実に用心深い上に思慮に長けておるのがよくわかる。実に厄介な相手じゃな…」

感心したような口調で影の言葉に老人が言葉を続けた。

そして、老人の表情が変わった。

ぎろり。

そんな擬音が似合いそうな目の動きで影の方を見る。

「それで、こっちの事は…」

「はい。心配ございません。連中がもし捕虜となったとしても漏れないような手配になっております。フソウ連合、アルンカス王国にこちらの関与など微塵も感じさせないことでしょう」

その言葉に老人はやっと表情を和らげてニタニタと笑う。

「そうか。なら良い。勘ぐられなければ問題ない。それにあの海賊を偽装した連中程度の者など掃き捨てるほどいるからな」

「はっ。おっしゃる通りでございます」

「それで他の国の動きはどうだ?」

「はい。王国は、アイリッシュ派が力を持ち、まとまりつつあります。厄介な事に、アイリッシュ派の中核メンバーには我々の息がかかったものがおりません。おかげで連中の動きが掴みにくい状態です」

「もちろん手を打っておるのだろう?」

老人にそう聞かれ、影が恭しく頭を下げる。

「もちろんでございます。時間がかかるとは思いますが、少しずつ浸透していく手はずは整えております」

その報告に満足そうに老人は頷く。

「よい。それでよい。焦る必要はないぞ」

「はっ。続きまして、共和国ですが、こっちも厄介な事になっております」

「ほう…。確かあの国は目障りだったアランとかいう男が死んでガタガタになったと思ったが…」

その老人の問いに、影がすぐに答える。

「はい。ですが、今度は別の人物がのし上がってきております」

「興味深い話じゃな。続けてくれ」

「はい。アリシア・エマーソンと言う女です」

名前を言われ、老人は怪訝そうな顔をする。

「聞かぬ名じゃな…。ふむ…エマーソン…。もしかしてリッキードとかいう小物の関係者か?」

「はい。おっしゃる通りでございます。リッキード・エマーソンの娘でございます」

「しかし、父親からしてそれほどたいした影響力をもっていない小物と思っておったのだが…」

「父親とは違うようです。父に代わって政界に打って出て一気に勢力を拡大させたという話でございます」

「しかし、少し実力がある程度でのし上がれるほどあの国の政治は甘くはないし、アランと言う柱が消えた今、あの国の政界は混沌としているはずじゃが…」

「それが……フソウ連合との講和を倒れた父に代わって実質行ったのは彼女であり、その事が国民の絶大的な支持を受ける要因になっているようです」

老人は腕を組み考え込む。

「なるほどのう…。そこそこ実力もあり、カリスマもあるということか…。厄介だの…。そういう輩は足元をひっくり返しにくい…」

「それになんとか連中の中に手の者をもぐりこもうとして色々やっておりますが、厄介な連中が裏で動いているらしく、容易ではありません」

その言葉に、老人は驚いた表情をする。

「まさか…」

「はい。そのまさかでございます」

「そうか。連中相手なら中々上手くいくまいて…」

苦々しい表情をして老人は口を開く。

「こっちも少しずつやっていくしかあるまい…。しかし、なかなか思ったように動かないのも、神の意思と言う事かもしれんな…」

「それはどういう…」

「なあに、高みを目指すものに試練はつきものと言う事じゃよ」

そう言った後、影の方を見て聞く。

「それで他の国の動きはどうじゃ?」

「はい。他の国の方は問題なく遂行しております。ただ、気がかりなのは、帝国の行方といったところでしょうか…。各国の諜報部が裏でかなりうごめいており、政府もガタガタ、経済もガタガタ、民意も下がりきっておりますので…」

「ふむ。あの国は、今や各国の諜報部の遊び場になってしまっておるからの。しばらくは様子見じゃな…」

そして、景色を十分堪能したのだろう。

ゆっくりと部屋の中に戻りつつ口を開く。

「しかし、やはり予言の通りになっておる。そして世界の変化の中心にあの国が、いや…あの男の存在があるということか…」

そして老人は歩みを止める。

その顔には残酷な色がにじみ出ていた。

「やはり、元凶であるあの男を消すしかあるまいて…」

その呟きとも取れる言葉に、影は深々と頭を下げる。

「ご命令のままに…」

そして、老人の傍にいたはずの影の気配はかき消すように消え去っていた。

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