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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十四章 つかの間の出来事…

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日誌 第百四十七日目  その2

講堂の中は暗闇の色に染められており、その中に映写機から流れ出る光の帯は広がって正面の白い画面に映像を映し出していた。

何機もの二式大艇が並び、その手前の広場には、二式大艇のパイロットたちが並ぶ。

彼らは見送る人達に敬礼をすると自分の搭乗機に向って走っていく。

そして、全員が乗り込み、エンジンがかかってプロペラをまわし始めるのにあわせて講堂に設置された大型スピーカから盛大な音楽に合わせて歌が流れる。

「翼を広げし者たちよ~。闇夜に紛れし者たちよ~。霧のように忍び寄り、渡り鳥のように力強く羽ばたいて~。我らフソウの矛となりて大空の先へ駆け抜けん~」

その音楽と歌にあわせて、二式大艇が水面から飛び立つ。

それを手を振ったり、帽子を振ったりして見送る兵と整備士達。

「たのんだぞ…」

なにやらイケメンのりりしい軍服を着た男がそう呟いて敬礼する。

まさに中盤のクライマックスのシーンなのだが、ずっと見てきて払拭しきれない違和感があって心底楽しめていない。

かなりストーリーも演出や展開もいいとは思うし、面白い作品になっていると思う。

それに、確かに長官の台詞の一つ一つは自分で似たような事を言った記憶はあるし、似たような場面場面もある。

しかしである。

しかし、違和感がぬぐえないのだ。

その原因はわかっている。

その違和感とは、この話の主人公である長官がイケメンすぎることなのだ。

どう考えても、僕はあんなかっこよくないだろう…。

美化しすぎだ。

JAROに訴えたら100パーセント負けるレベルだろう。

つまり、その点が気になってしまい、物語に感情移入できないのである。

さすがにどうなんだろうと思い、他の人の様子を診るためにちらりと周りを見回すと、全員が普通に見ている。

かなり楽しんでいる様子だ。

特に隣の東郷大尉なんか、食い入るように見ていたりする。

その様子に、なんかすごく悔しい気持ちになったが、いろいろ言っても仕方ないし、試写会の邪魔になってもいけないので仕方なく画面に視線を向けなおす。

今は、機雷の投下設置が終わり、海戦へと向かうシーンだ。

艦艇なんかは実物を使っているし、敵艦も鹵獲したものを使って撮影しているので実にリアルで大迫力だ。

波の音一つとっても実に臨場感溢れる。

現代の音響システムなら臨場感抜群だろう。

だが、それがなくてもすごいのは伝わってくる。

だからこそ、長官のイケメン過ぎる事に違和感がぬぐいきれない感じであった。

そんな中、作戦は進み、最大の見せ所、一大決戦の艦隊戦のシーンとなる。

本当なら酸素魚雷を使って一気に畳み掛けるのだが、やはり見せ場であるため砲撃戦で敵を圧倒していく表現に変更されている。

ついに激しい砲撃戦の末、帝国艦隊は敗走するも、港は機雷で埋め尽くされ、殲滅されていくしかない帝国艦隊。

そして、場面が変わり、報告を聞いた長官がほっとして力を抜いて椅子によりかかる。

「お疲れ様でした。長官」

そう言いつつお茶を差し出す女性士官。

どうやら東郷大尉のポジションの人らしい。

優しいふんわりした感じの美人で、癒し系と言った方がいいだろう。

かなりの美人だが、うーん…なんか違うなぁ。

東郷大尉はこう…何と言うか……。

うーんっ…。

ともかく説明しにくいが、映画に出てくる役者さんには悪いけど、あのタイプは東郷大尉とは違うし、僕の好みじゃない。

やっぱり本物の方がいいな…。

そう思ってちらりと横を見る。

なんかイケメン長官と美人女性士官の会話シーンを羨ましそうに見ているけど…ああいったやり取りなんかは普段からやってるじゃないかと言いたい。

それとも、やっぱりイケメンじゃないといかんのかなぁ…。

少しがっかりした心境のまま、最初の映画『夜霧の渡り鳥』は終わった。

暗幕が開かれ、会場が明るくなる。

盛大な拍手が沸き起こり、中には涙を流している者たちがいる。

よく見るとどうやら涙を流して喜んでいる者たちの大半は付喪神達のようだ。

なるほど…。

人の姿では映ってはいないが、艦の姿は実にかっこよく映っていたからな。

自分らの勇ましい姿をいろんな人に見てもらえるというのは、彼らにしてみれば感無量なことなのだろう。

そんな事を思っているとアンケート用紙が回ってきた。

どれどれ…。

結構細かいアンケートのようだ。

短時間の間にしっかりしたものを作ってきたな。

そんな事を思いつつ、きちんと書き込んでいく。

そして最後に気になった事を記入してくださいという部分があった。

どうしょうか少し迷ったが、思った事を書く事にした。

長官がイケメンすぎること。

東郷大尉役の人が美人だけど、タイプが違って違和感が沸くこと。

この二つだが、まぁ、個人的意見だからとも付け加えておく。

そして、アンケート用紙を回収してきた杵島中佐に渡すと、ちらりとアンケート用紙を見た後、なにやらニタリと笑って他の人のアンケートを回収に向かう。

なんか嫌な予感がする…。

そうは思うものの、書いて出してしまった以上、もうどうしょうもない。

腹をくくるしかない。

そんな僕に東郷大尉が少し不思議そうな顔で聞いてくる。

「どうかしましたか?」

「いや。どうもしないさ。ところで、大尉…」

「はい。なんでしょうか?」

「すごく面白い映画ではあったが、違和感を感じなかったかい?」

少し遠まわしで聞いてみる。

「違和感ですか?」

「ああ。違和感だよ。ほら…その…長官役の人さ…かっこよかったじゃないか…」

僕がそう言うと、ぱーっと笑顔になって東郷大尉は同意する。

「はいっ。すごいイケメンでしたね。なんか目立ってましたし、演技もすごかったですね。まさに主役って感じでした」

「だからさ…それでだね…なんかさ…かっこよすぎないかなと…」

恐る恐るそう言うと、きょとんとした表情で少し考え込んだ後、僕の言いたい意味がわかったのだろう。

笑いつつ僕の肩をポンポンと叩く。

「何言ってるんですか。映画は映画です。あれはあくまで作り物だし、それに本物の長官の方が味があってすごくいいと思います」

その物言いに、うーん…喜んでいいのか迷っていると、察したのだろう。

少し頬を朱に染めつつもにこやかに言う。

「私は、うすっぺらなイケメンより、本物の長官の方が大好きですよ」

「あ、ありがとう…」

なんかそう言ってもらえて少しほっとしている自分がいる。

「自信を持ってください」

「ああ…」

そう僕が答えると暗幕が締められ、会場が暗くなる。

どうやら次の映画が始まるようだ。

そんな僕の耳に微かに東郷大尉が何やら呟く声が聞こえたような気がしたので、気になって聞き返す。

「えっと…何か言った?」

すると東郷大尉は慌てて「何にも言ってません」といった後、画面を指差して囁く。

「長官、ほら、始まっちゃいますよ」

「ああ」

そう返事をしつつ、なんか誤魔化されてしまったような気分になっていたのであった。


本編で出ている『夜霧の渡り鳥』の映画の歌詞は『きんぼー』さんから投稿いただいたものを許可をいただき、少し変更して使用しております。

きんぼーさん、ありがとうございました。

なお、きんぼーさんも作品を投稿されていますので、気になった方はそちらも覗いてみてください。


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