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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十四章 つかの間の出来事…

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日誌 第百四十七日目  その1

食堂で昼食を食べている時だった。

「見つけましたっ、長官っ」

そんな事を言いながら僕の近くまで駆け込んできたのは、イタオウ地区で経済復興と映画会社を立ち上げる為に出向しているはずの杵島マリ中佐だった。

いきなり声をかけられ、ムセる僕の背中をトントンと叩きながら困ったような声で東郷大尉は杵島中佐に言う。

「マリさんっ。いきなり、それも食事中に声かけなんて駄目ですよっ」

親友である二人の間に階級の差はないのだろう。

その口調は、親しい友人に問いかけるかのようだ。

「あ…ごめん…」

しまったという表情で杵島中佐は慌てて右手で拝む格好をする。

「私はいいから、長官に言ってくださいよ」

呆れた声でそう言うと、東郷さんは僕の背中を叩きつつ聞いてくる。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ…何とかね…」

ナプキンで口元をぬぐってなんとか答える。

いやぁ…カレーじゃなくて良かった…。

カレーだったら、下手したら大惨事になっていたかもしれん。

今日はあっさりのつもりで天そば定食頼んだんだけど、正解だったようだ。

そんな事を考えつつ、東郷大尉に手でもういいよとジェスチャーしつつ、顔を杵島中佐に向けた。

「で…用事はなんだい?」

僕がそう聞くと、まずはきちんと謝っておかないとという気持ちからだろう。

「すませんでした」と言って頭を下げる杵島中佐。

そして、うかがうように東郷大尉の方に視線を向ける。

ふーっ。

ため息を吐き出した後、東郷大尉がちらりと僕を見た。

「許してあげてください…」

「ああ、それは構わないけど…」

東郷大尉の方を向いてそう言った後、再び視線を杵島中佐に向けて頭に浮かんだ事を聞く。

「えっと…中佐は何でここにいるのかな?」

「はい。今朝の連絡便で戻ってきました」

「あ、そうなの…」

「はい。実は…」

「実は?」

少し待たせるような間があり、じわじわと杵島中佐の顔が、体が喜びに膨れ上がっていくかのように震えている。

「やっと…映画が完成しました」

そう報告する杵島中佐。

その表情にはやりきった達成感と喜びで満ち満ちている。

「もしかして二本ともかい?」

「はい。二本とも完成しました。まずは、今回の映画作製の許可と指揮をされた長官にお見せしたくて…」

顔を真っ赤にして喜ぶ杵島中佐の姿に、僕も無性にうれしくなる。

「おめでとう。よくやったじゃないか」

「ありがとうございます、長官。これも長官が背中を押してくれたからです」

「何を言うんだ。君が、いや、君達が一生懸命にがんばったからだよ。だから、映画は完成した。映画完成は君達の成果だよ。だから、何度でも言うけど…おめでとう」

僕の言葉に感極まったのだろう。

杵島中佐の目に涙か浮かんでいる。

そして、いきなり僕に抱きついてきた。

「ありがとうございます、長官っ」

ぎゅっと抱きつく彼女をなんとか受け止める。

そのためか…かなり弾力があるものが胸に当たっている感触が…。

だが、次の瞬間、

「まぁぁぁぁぁぁりりりりぃぃぃぃぃぃぃぃっ」

地獄の亡者のような声が聞こえたかと思うと、東郷大尉が杵島中佐を僕から引っぺがす。

「えっ?あっ、ああ?」

変な声を上げて引き離される杵島中佐。

そして、すぐにしまったという表情になる。

なお、引き離されてしまった結果、もちろん、胸に当たっていた弾力があるものの感触は消えてしまっていた。

なんか残念…。

そう思っていたら、東郷大尉のぎらりとした鋭い目と合って、僕は慌ててその考えを心の奥にしまいこむ。

「た、助かったよ…、大尉」

「本当に、そう思ってましたか?」

「あ、ああ、もちろんだよ…ははははは…」

なんか心を見透かされているような鋭い目つきで僕を見る東郷大尉。

いやーん、怖いんですけど…。

いかん、いかん。

流れを変えなければ…。

そう判断し、杵島中佐に声をかける。

「そ、そう言えば…し、試写会はいつやるんだい?」

今の出来事で少し落ち着いたような感じの杵島中佐が答える。

「すぐに準備できますけど、長官の予定が一杯でしたら、二、三日位ならお待ちします」

そうは言ってくれるけど、見せたくてすぐに来たぐらいなのだから出来る限り早く見てあげたい。

それに個人的にすごく興味もある。

だから、僕は視線を東郷大尉に向けた。

僕の視線の意味に気が付いたのだろう。

少しむっとした表情をしていた東郷大尉だったが、ため息を吐き出したあと口を開いた。

「今日の午後は、急ぎの予定の入っておりませんし、本日の午後はどうでしょうか?」

「ああ。助かるよ。それとどうせ見るならいろんな人に声をかけてくれないか?どうせ試写会するならいろんな人の意見があったほうがいいだろう?」

僕の言葉に杵島中佐がうれしそうに言う。

「あ、それ助かります。次の製作の資料にもなるし、実際に配給する際の参考になるかもしれませんから…」

「そうですね、わかりました。いろんな人に声をかけておきます。それとどうせやるなら海軍本部の大型講堂でやりましょう。あそこなら暖房入りますしそれに部屋を暗くする為の暗幕なんかも用意されていますから…」

「そうだな。あそこだと結構な人数が入れるな。よし。杵島中佐、君は映写機の準備をしつつ、アンケートの用意を。東郷大尉は、手の空いているものがいたら会場の準備と試写会の参加を促してくれ。時間は…」

僕はそう言いつつ時間を確認する。

今は、十二時二十分といったところか…。

「えっと…十四時には始められるように出来るかい?」

「わかりました。任せてください」

「もちろん、間に合わせます」

二人がそれぞれ返事をする。

その返事に僕は満足すると、「では、それぞれ動いてくれ」と言って敬礼する。

二人もそれぞれ返礼して動き出す。

だが、言い忘れた事を思い出して僕が言葉を続けた。

「昼食はしっかり取ってくれよ」

「はいっ。わかりました」

「機内でもう食べましたから大丈夫です」

そう返事が返ってくる。

そして二人の後姿を見送った後、僕は思い出したかのように食べかけだった昼食に向き直った。

目の前にある天そば定食…。

それを見て、僕の口からため息が漏れる。

くそっ…ソバがのびて…汁が冷たくなってやがる…。

なんか一人敗北感を味わいつつ、僕は昼食を再開したのだった。

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