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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

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防衛戦  その1

一月二十五日午前六時。

アルンカス王国の沖でついに海賊の一団とフソウ連合海軍は戦闘に入った。

当初の予定通り、フソウ連合海軍側は艦隊を三つに分け、三段構えの対応だ。

第一陣が、第四護衛隊駆逐艦 松、桜、第五護衛隊駆逐艦 樅、榧の四隻。

第二陣が、他の地域からの増援である駆逐艦 野風、若竹の二隻。

そして最終ラインの第三陣が、アルンカス王国の特別警戒艦隊の旗艦であり、南部海域警戒任務についている水上機母艦 瑞穂だ。

しかし、形としては三段と言う構えだが、実質は二段と考えるべきだろう。

最後の瑞穂は水上機母艦であり、砲は積んでいるものの、あくまでも自衛用でしかない。

速力もそれほど早くない上に、火力も高くない。

ましてや、水上機用の航空燃料などの可燃物を多く積んでいる母艦なら、本来なら敵との砲撃戦など避けるべきだろう。

だが、瑞穂の後ろにはアルンカス王国の主要港であるエンカレッド港とその傍にある首都コクバンが見える。

つまり、ここを突破されればどうしょうもないと言う最終ラインだ。

だからこそ、そんな愚を犯してもアルンカス王国を守りたいという必死な毛利大尉の心境がもたらした布陣といえよう。

「戦闘始まりました。第一陣の駆逐艦隊が敵艦隊に突入しました」

上空で戦況を確認を行っている零式水偵から送られてきた報告を無線士が読み上げる。

「そうか始まったか…」

前方の海面を見つめ、毛利大尉が呟く。

その表情は苦虫を潰したように皺が刻まれている。

「うまくやってくれますよ。第二陣には、海辺中尉がいますし…」

苦笑しつつ、そう言って瑞穂の付喪神が声をかける。

「ならいいんだが…」

「ええ。それに保険の準備はしているんでしょう?」

「ああ。準備はしておいた。だがな…」

少し困ったような表情を浮かべて毛利大尉が言葉を続ける。

「あれを使っちまうと、責任取らなきゃならないだろうからな…」

その言葉通りに、毛利大尉の表情には心底責任取りたくないという感情がにじみ出ていた。

そんな毛利大尉に、瑞穂はニタリと笑って言う。

「やっぱり向いてないと思いますか?」

「ああ、向いてないね。こういった重い責任は背負いたくないものだ。いくらなんでも一つの戦いの全ての責任を背負い込むなんて出来ないよ」

「なら、なぜ撤退しなかったのですか?」

その問いに、毛利大尉はため息を吐き出した。

「ふう…なんでだろうな…。だが、あの時の選択肢に、撤退という選択は思いもしなかった。あの時は、松や桜達には、誇りだとか色々理由は言ったが、今思い返してみるとそんな建前じゃなく、今にして思えば、なんというか海賊に対して腹が立って許せなかっただけじゃないかと思う」

「それはまた…どうしてですか?」

そう問いかける瑞穂に、毛利大尉はちらりと後ろ側を見た。

艦橋の横の窓からは、後方に位置するアルンカス王国首都の町並みがわずかに見れる。

「なあに、色々報告を受けているが、いいところみたいじゃないか、アルカンス王国は…。だが、そんなところが自分の欲望を満たす為だけの連中に蹂躙される。それだけは決して許してはいけないと感じた。それだけかな…」

そこまで言って思いついたことがあったのだろう。

少しおどけたような表情を浮かべると毛利大尉は言葉を追加した。

「それにあの国の姫様は、十一歳らしいな。うちの娘と同じくらいだからな。情が移ったのかもしれん」

毛利大尉の言葉に瑞穂は楽しげに微笑む。

「ふふふ。大尉、大変かもしれませんが、今の選択をした事を将来きっと娘さんは誇りと思うでしょう。だから、頑張りましょう」

「ああ、ありがとう」



「くそっ。小型の上に数が多すぎる。いいかっ。足を止めるなっ。かき回せっ。ありったけの弾を撃ち込め」

松の声が艦橋に響く。

戦いが始まってすでに三十分が過ぎ、状況は混戦となっている。

最初こそ、縦一列の艦隊行動をして砲撃を開始したが、統率のない海賊達はバラバラに動き、まとまりがなかった。

これが普段の艦隊戦なら、統率されていない艦隊はただの烏合の衆であり、あっけないほど簡単に決着がついて勝てただろう。

だが、それはきちんとした軍が相手の場合だけだ。

彼らは、そのまま崩れる事もせず、それぞれが予想外の動きで突破を試みる。

そして、それを阻止しようとして駆逐艦が間に入るような動きをしたため、いつしか敵味方入り乱れての状態になっていた。

味方に当たる恐れがあるため魚雷は使えず、戦いは砲撃戦となっていたが、相手の機動力と小ささに第一陣の駆逐艦達は翻弄されつつある。

「くそっ。こんなに数が多いと、手がまわらねぇ。ともかくぶっ放せ。それと破損状況の報告と消火を徹底させろ」

樅が叫ぶように指示を出す。

もちろん、敵の反撃ですでに艦体には幾つもの損傷がある。

相手が小型艦という事もあり、致命傷とはならないものの、楽観できる状況ではなかった。

「敵艦、六隻、突破されましたっ」

監視員の叫びが艦橋に響く。

「くそったれ。後部砲塔狙えないかっ」

「無理です。回りの敵艦に対応するだけで手一杯です」

「他の艦は…」

樅はそう言いかけたものの、他の艦に余裕があるとは思えず「無理だよな…」と口から言葉が漏れる。

だが、そんな事を気にかけている暇などない。

「次、三隻、左舷から来ます」

「よしっ、今度こそ、確実にしとめろ」

こうして第一陣の奮戦により三十の敵艦のうち、実に十八もの敵艦を足止め、撃沈に成功したものの、十二隻が第一陣を突破し、第二陣へと向ってきたのだった。



「思った以上に、第一陣は奮戦したようですね。我々も続きますよ」

海辺中尉はそう言うと、敵艦隊に腹を見せるように横に艦艇を並べた。

「まずは魚雷を全弾発射。その後は、残った敵に突っ込みかく乱させるぞ」

「各艦、雷撃戦用意っ」

号令の元、艦の中央近くに設置されている53cm連装発射管二基が動きだす。

そして、入力が終わり、発射命令と同時に魚雷が発射された。

予備の魚雷はない。

また、第一陣から混戦になると報告もあり、だからこそ、最初に出し惜しみなく発射したのだ。

二隻の計八発の魚雷が敵艦十二隻に襲い掛かったが、しかし命中したのは三隻のみだった。

命中した三隻は轟沈したものの、残り九隻が突破を試みる。

どうやら駆逐艦よりも一回り小さい小型な艦艇のため、魚雷が反応しにくく当たりにくかったようだ。

「くそっ、やりづらいな。まぁいい。砲撃戦を開始だ。ここを抜かせるな」

海辺中尉が命じると二隻の駆逐艦は、敵に舳先を向けると砲撃しつつ突っ込んでいく。

だが、敵も第一陣の戦い方からこっちの魂胆がわかったのだろう。

敵艦艇は二つのグループに分かれて行動を開始した。

おそらく、一つのグループが足止めしている間にもう一つのグループが突破を狙うつもりなのだろう。

「敵を行かせるな。なんとしてでもここで足を止めさせろ」

海辺中尉が叫ぶように命令するものの、今の状況ではどう考えても無理な命令であり、どうする事もできない。

「くそっ。瑞穂に連絡っ。『テキトッパ 三 ソチラニムカウ』以上だ」


「やはりきたか…」

毛利大尉は、前方から近づいてくる黒い点を睨みつつ呟く。

「ええ。それでどうしますか?」

同じように前方から近づいてくる敵艦を見ながら瑞穂が聞く。

「砲撃戦用意」

ただ命令だけを口にする毛利大尉。

かなり緊張しているのだろう。

一瞬、ちらりと毛利大尉を見た後、瑞穂は命令を復唱する。

「了解しました。砲撃戦用意っ」

12.7cm連装高角砲が旋回し、敵艦に砲身を向ける。

初弾は敵の方からだった。

大きさの割りにかなり大型の砲を積んでいるのだろう。

だが、それでも砲撃の衝撃で艦が揺れる為だろうか。

かなり離れたところに水柱を作るだけだ。

「撃ち方、はじめっ!」

命令と共に砲撃が開始される。

互いに近づきつつ砲撃するものの、敵艦は牽制で砲撃はするが瑞穂を撃沈する意思はないのが丸わかりだった。

連中にとって、瑞穂の後ろにあるモノが目的であり、彼らはただ突破のみを狙っている。

そして、それは瑞穂も同じだ。

本来、砲撃戦で使うために作られたわけではない為、突破されないように牽制するのが精一杯だった。

だが、そんな均衡はあっけなく崩れ去る。

瑞穂の機関の不調により動きが遅くなった為だ。

一気に三隻が瑞穂の横を突破していく。

「どうしたっ。動きが遅いぞっ」

「申し訳ありません。四号機、五号機のデイーゼル機関の不調により、速力落ちます」

「くそっ。こんな時にっ」

毛利大尉がだんっと床を踏み鳴らす。

「すみません。大尉」

瑞穂が申し訳なさそうに頭を下げた。

そんな瑞穂を見て、拳でとんとんと額を叩いた後、毛利大尉は気持ちを切り替えたのだろう。

さっきまでの声とは違う落ち着いた声で命令を下す。

「機関、点検急げ。それと…待機している連中に攻撃許可を出せ」

「いいんですか?」

通信士が聞き返す。

「かまわん。責任は私が全て取る。だから、連中に伝えろ。『敵を誰も上陸させるな』とな」

その言葉に秘められた決意に、通信士が頷くと命令を伝える為に機械を操作し始める。

腕を組み、ふーっと息を吐き出した後、毛利大尉は首都方面を見ながら呟く。

「頼むぞ…」

その命令は、毛利大尉の願いでもあった。


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