日誌 第四日目 その3
なんか二人の話が気になるところではあるが、まぁ考えても仕方ない。
ガールズトークと言われてしまえば、男の僕は参加できない。
もっとも、男の娘ならいけるのかもしれないが、残念なことにノーマルなのです、僕は…。
そういうわけで、そっちは諦めるとして、こっちはこっちでやることやっておきますか。
そう思って船の模型のコーナーをざっと見る。
お目当ては、1/700の洋上モデルだ。
1/700は、基本、洋上モデルがメインとなっている。
ただ、気をつけないとフルハルモデルも混じっているから、インターネットでの購入よりこういうお店での購入の方が箱の中身が確認できるのでありがたい。
もっとも、最近は選択式なんてのもあるみたいだが、その分価格が高くなる。
それに使わないパーツが増えてもなぁ。
アンテナや余った砲台、カタパルトなんかは他の艦船の改造や強化に結構使えるから、そういうのは大歓迎なんだけどね。
そんな事を思いつつ、棚を細かく見て周る。
相変わらず品揃えいいなぁ。
もちろん、ジャンルごとに分けてあるだけでなく、スケールやメーカーなど、実に見やすく並べられていて欲しいものが探しやすいのもありがたい。
そして、やはりどうしても目立つのは、有名艦や大型艦といったキットたちだ。
誰もが知っているであろう戦艦や空母といった花形の艦船達。
しかし今回はそういうのを買いに来たのではない。
艦隊や地区ごとの輸送を担う補給艦や給油艦、それにそれらを護衛する海防艦などの補助艦艇が目当てだ。
それに、施設の増設などで必要になると思うので、クレーンや施設関係のアクセサリーなんかもあればいいかな。
そう思ってみていたら、早速目当てのものを見つけた。
情景アクセサリーのクレーンセットだ。
これは、クレーンだけでなく建物や備蓄タンクも入っていて、それでいて値段も安いというかなりお得なキットとなっている。
もちろん、他のメーカーで、より精密なペーパークラフトのクレーンや建物なんかもあるけど、あれは結構値が張るからなぁ…。
予算の上限があるし、数が必要となるだろうからある分買っていくか。
まずは置いてあった5個をキープと…。
それにF社の特設給油艦がそろってるなぁ。
今、二隻あるけど、これも買いこんでおくか。
たしかこのキットはコンパチでいろいろな艦にできるんだっけ。
えっと…國洋丸に厳島丸、極東丸/東亜丸のセット…。
まずはこの四隻と…。
で、あとは…そうそう小艦艇セットと一等、二等輸送艦のセットもあるだけ買っておくか。
おっ…。海外の護衛艦みたいのもあるな。
でも、まずは日本海軍のやつでそろえておきたいから今回はパスっと…。
次は…海防艦は…っと…。
おっ、PT社のやつがあるじゃないか。
二隻セットか…。
いいねぇ。数か必要だからありがたい。
占守に御蔵、丙型、丁型。あと、水雷艇の鴻…。
そうだなぁ。これもあるだけ買うか。
おっと…同形艦がどれだけあるかをチェックしないとな。
確か三島さんの話だと、実在する艦以外は実物化しても付喪神が憑かないと言ってたな。
付喪神が憑く条件としては、製造されなくても計画だけでもいいから、こっちの世界で実際に人の思いが関わったものだけしか駄目だという話だった。
あわててスマホで、日本海軍の事を詳しく書いてあるHPにいって艦艇リストをチェックする。
ふむ。今ある分は問題ないようだ。
あ、それと警戒のために水上機を活用するだろうから、水上機母艦をいくつかチョイスしておこう。
A社の千歳、千代田、瑞穂があるじゃないか。
ふむふむ。それに艦艇修理だけでなく基地設置にも活躍するだろうから工作艦も買っておくか。
確か、明石型は、造られたのは一隻だけだけど、計画では三隻だったから、あと二隻はいけるな。
後、駆逐艦も買っておかなきゃな。
白露型は、F社のセットがあるからそれを…。
吹雪型はYH社のが良さそうだ。
こんな風に模型を選択していく。
そして気がつくとカウンターに模型の箱の山が出来ていた。
その内訳は…
F社
特設補給艦 極東丸/東亜丸
特設給油艦 國洋丸
特設給油艦 厳島丸
駆逐艦 時雨/五月雨
駆逐艦 村雨/夕立
駆逐艦 涼風/海風
A社
水上機母艦 千歳
水上機母艦 千代田
水上機母艦 瑞穂
工作艦 明石(二番艦 三原にする予定)
YH社
駆逐艦 電
駆逐艦 天霧
駆逐艦 狭霧
駆逐艦 曙
PT社
海防艦 占守×2
海防艦 御蔵
海防艦 鵜来×2
水雷艇 鴻×2
海防艦 丙型
海防艦 丁型
その他
一等二等輸送艦×2
小艦艇セット×2
クレーンセット×5
プラ版、プラ角棒、パテ、塗料、真鍮線、などなど
あとは、小型艦模型の資料の本なんかを数冊
ざっとこんな感じだ。
しかし、これだけ一気買いは初めてだな…。
そう思って店長達が戻ってくるのを待っていると、店長と大尉が工作室から出てきた。
東郷大尉の顔がとても紅いのだが、何があったんだろうか。
なんか失礼なことがあったのかもしれないから、一応大尉には後で声をかけておくか…。
そう思っていたら、出来上がっている模型の箱の山を見ながら呆れた顔をした店長に声をかけられた。
「えっと…これ全部買うの?」
店長がかなり驚いているようだ。
まぁ、そうだよね。
普段買うとしてもせいぜい模型が二つ、三つに塗料や材料だったからなぁ。
ここで一万越えた買い物はしたことなかったし…。
値段チェックしないで必要ものをただ単に選んだだけだけど、多分、五万超えそうな気がする。
しかし、これくらいは補充しておかないとなぁ…と言う訳で、こう答えるしかない。
「え、ええ。買って行きます。あとですね…」
そう言いつつ、いくつかの模型を指差して聞く。
「F社のこの辺の特設給油艦とか、T社の小艦艇セットや一等二等輸送艦のセット、在庫あります?」
「そうねぇ。確か在庫にはなかったわ。でも、取り寄せはきくと思う」
そう言いつつ店長が少し覗き込むように聞いてくる。
「そんなに必要なの?」
「ええ。欲しいんです」
「わかったわ。問屋に聞いておくけど、各種一個ずつぐらいでいい?」
「はい。F社の補給艦はそれOKですけど、小艦艇セットや一等二等輸送艦のセットは五、六個でお願いします」
僕の言葉に、少し呆れ顔の店長。
それはそうだろう。
いくらジオラマを作るとはいえ、飛行機ならともかく小型艦艇がそれほど必要とは普通は思わないよなぁ。
「仕方ないなぁ…。いいわ、発注かけとくから。もしもっと必要になったら言ってね」
どうやら、これだけで終わりそうにないと感じたのだろう。
理由も聞かずにそう言ってくれる。
実にありがたい。
「本当に感謝します」
「いいわよ。うちの愛しい旦那様の従兄弟の頼みだもの」
にこにこと楽しそうな笑顔を作って惚気気味にそう言ってくれる店長だが、その笑顔はすぐに別のものへと変化する。
ニタリといった感じの笑みを浮かべて…
「それに面白い話も聞けたしね」
そう言いきる。
その言葉に合わせるかのように落ち着いていた東郷大尉の顔が再び真っ赤になった。
うーーん。
やっぱり気になるなぁ…。




