表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/840

攻防準備

「んーっ…」

バチャラは背を反らして伸びをしながら首を回すとパキパキといい音がした。

軽く手を肩から首に当てて揉んでみる。

かなり硬くなっており、揉み解すと少し気持ちよかった。

何気なく外を見るともう暗くなっている。

時計は十九時をまもなく過ぎようとしていた。

昼過ぎから始まった話し合いは、結局何も成果らしい成果はなくて一枚岩だった我らの意思をバラバラにしただけの結果となった。

ちらりとデスクの上に置かれいる書簡を見る。

フソウ連合から送られた書簡だ。

あの書簡一つでおろおろして混乱している我々を、もしフソウ連合が知ったら笑われ呆れられる事だろう。

だが、もしそれを狙っての行動なら、実に見事と言うしかない。

おかげで国の内部を取りまとめ直さなければならなくなった。

実に頭が痛い。

ただでさえ共和国が一気に手を引いたおかけで国がガタガタになっているというのに、これ以上仕事を増やされたら過労死してしまうぞ。

そう思いつつ、デスクを見るとデスクの隅にうず高くつまれた書類が、今日は家に返さないと主張しているように見える。

疲れているな…。

自然と当たり前のようにため息が漏れた。

ともかくだ、夕食をとって少し仮眠を取るか…。

そう思って執務室のドアに歩き出した時だった。

ドアが荒々しく叩かれた。

「何事だっ」

思わず声を上げて聞く。

その声で少し我に返ったのだろう。

慌てたような兵士の声がした。

「も、申し訳ありませんっ」

「まぁいい。入りたまえ」

「はっ。失礼します」

兵士はドアを開けて部屋に入ると敬礼した。

「で、用は何かね?」

「はっ。フソウ連合海軍の木下大尉が至急お会いしたいと…」

「はぁ?!」

バチャラの口から思わず声が出た。

何を考えてる?

もうほとんど夜と言っていい時間になりつつあるというのに、何を言っているんだ。

一瞬、追い出せと怒鳴りつけそうになった。

しかし、相手はフソウ連合の使者である。

そんな態度をすれば、どんな事態になってしまうか…。

すーっと冷たい汗が流れた。

いかん、いかん。

疲れているためかイライラしているようだと自己分析する。

落ち着け、落ち着け…。

自分自身に言い聞かせる。

バチャラの険しい表情に、びくりと兵士は反応して言いにくそうに口を開いた。

「お帰りになってもらったほうが…いいですかねぇ…」

ふー…。

息を吐き出し、バチャラは言う。

「先方は至急と言っているのだろう…。会わないわけにはいかんだろうな…」

「ですかね…」

なんか腰の低い感じでこっちをちらちら見ながら兵士が相槌を打つ。

「会議室にご案内しておけ」

そう言って指示を出した後、鏡の方に向かう。

そして、鏡を見ながらきちんと身なりを整えた後、バチャラは会議室に向って歩き出す。

しかし、至急とは何用だ?

たいした事がない内容なら皮肉の一つや二つは言っても罰は当たらんだろうよ。

そんなことを思いつつ到着して会議室のドアを開けた。

そして、作り笑いをしつつバチャラは「お待たせしました…」と言いかけたが、その後が言葉にはならなかった。

バチャラの前には軍服や使者が着るような礼服ではなく、普通の庶民が着るような服を着た木下大尉がいたからだ。

もちろん、それだけではない。

多分、知らせを受けて慌てて飛び出してきたのだろうか。

服は汗にまみれ、髪は肌に張り付いている。

あまりにも前日のきちんとした身なりとの差が大きすぎてバチャラは言葉を失った。

だから、先に挨拶をしたのは木下大尉だった。

「すまみせん。こんな時間に…」

そして、滴る落ちる汗に気がついて言葉を続ける。

「あ、あと、こんな格好で申し訳ない…」

それでやっと我に帰ったのだろう。

バチャラの口から言葉が漏れた。

「ど、どうされたのだ?」

その言葉に木下大尉が答える。

「海賊です」

「海賊?」

「そうです、海賊の艦隊がこの国に向っている。その数は三十以上…」

その言葉に、思わずバチャラは「またまた冗談を…」と言いかけたが、木下大尉の表情からそれが真実だと確信する。

「どうやら、本当のようですね…」

「ええ。間違いない情報です」

「到着予想時間は?」

「恐らく、明日の朝から昼前ぐらいになるかと…」

「そうですか…」

そう答えつつバチャラは考え込む。

つまり、下手をすると海賊に対抗する為の準備時間は、半日もないと言うことになる。

どうりで彼が焦って駆け込んできたはずだ。

バチャラは納得すると同時に、彼が焦ってここに駆け込んできた事に心の中で感謝した。

それは命令とは言え、余計な策など考えず、ただこの国の安全の為に彼は必死になって動いている証でもあった。

彼は信頼できるかもしれん。

そんなことさえ思えるほどに、彼の行動にバチャラは好意を感じていた。

だが、一つ確認しておかなければならない。

それは彼個人ではなく、フソウ連合という国の対応をという事だ。。

だから、バチャラは心を落ち着かせて冷静な声で聞く。

「それでフソウ連合は、これに対してわが国にどういう対応を求めるのですか?」

「もちろん、軍の出動をお願いします。海岸近くの町だけでなく港などの施設の防御、それに運送などの海運関係の停止をお願いしたい」

その言葉に、バチャラは少し残念そうな顔をする。

「もちろん、それは実施いたしましょう。ですが、相手は三十隻以上の艦隊です。せっかく情報をいただいたとしても残念な事に我々には海軍がない。どう対抗すればいいのか…」

最後のあたりは諦めとも取れるほど弱々しかった。

それは、裏を返せば現在のアルンカス王国の軍では、海賊に対抗できないという事を物語っている。

それはそうだろう。

海の上から砲撃されれば、いくら陸戦が強いとは言っても、手も足も出ないのだから…。

たが、木下大尉は当たり前のように言う。

「数は我々が減らします。しかし、相手が多すぎる為、漏れがあるかもしれない。だから、もし上陸した場合、その時の対応をお願いしたい…」

木下大尉の言葉に、バチャラが信じられない事を聞いたという顔をする。

いくら四月からはフソウ連合に権利が譲渡されるとは言え、今は共和国が権利を持ち、植民地を守る義務がある。

だから、アルンカス王国に対して彼らが何かをする義務は一切ない。

それどころか、ただ戦って損害を受けるだけなのだ。

つまりただ損をするだけという事になる。

なのに…フソウ連合は海賊と戦うといっているのだ。

「ほ、本当なのですか…」

「もちろんです。残念な事に、我々の先行している艦隊は、警戒用の艦隊の為、完全に対処できない可能性があります。ですが、出来る限りの事はします。だから…ぜひご協力を…」

そしてバチャラは気がつく。

木下大尉は命令ではなく、依頼として言っている事に…。

つまり、この件はもはやフソウ連合にとって他人事ではなく、自分たちの事として対応しており、そして、本当なら実際に被害の出るはずのアルカンス王国に協力を求めているのだと…。

心の中で何かが弾けたような感覚にバチャラは満たされていた。

だから無意識のうちにバチャラは木下大尉の右手を両手で握り締め、必死な表情を浮かべる。

まるで書いてあることを読み上げるアプリでも使っているかのように思考が言葉となり口から出ていく。

それはまるで自分が自分でないような感覚だ。

「もちろんです。我々のためにフソウ連合が協力してくださるのです。ですから、我々は進んであなたの指示に従いましょう」

そのあまりの急変に、木下大尉は慌てて言う。

「いや。指示に従うとかではなくて…」

「何をおっしゃるのですか。我々はあなたたちに報いなければならない。恩には恩を返す。それがわが王国の…いやわが民族の動かざる不動の掟でございます」

バチャラはそう言うと、顔を近づけて言葉を続けた。

「それを疎かにするは、末代までの恥であり、先祖に顔向けできません。だから、さぁ、ご指示を…木下大尉殿」

いや違うんです。

そう言いかけた木下大尉だったが、ここで色々言い合う時間は無駄な時間だ。

そんな時間を作るのさえ惜しい。

だから、木下大尉は諦めて口を開いた。

「それでは、海岸線の全体地図と、首都の港周辺の地図をお願いします。あと用意できる戦力ですが…」

どうやら、今夜は徹夜になりそうだ。

そんな事を思いつつ、木下大尉はどう部隊を配置していくかを考え始めていた。

●ブックマーク300突破を記念してイベント始めました。

よろしければ、活動報告をご覧ください。

皆さまのご参加お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ