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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

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翌日…

いつもの時間より十分ぐらい早い時間に目的の場所につく。

いつも通り中央通りの中心、そこにある噴水の前にはいろんな人達が誰かを待っていた。

ここは待ち合わせの場所としてよく使われている。

だから、待ち人が来た人はドンドンと離れていくが、それを埋めるかのようにまた新しい待合の人が来るといった感じでつねに人が多い。

まるで流れる水のように常に動いている…まさにそんな感じだ。

そして、そんな人込みの中、十分前だというのに周りを見回してはそわそわとしている一人の少女を見つけた。

その少女を見てほっとする。

あそこにいるのは、チャッマニー姫ではなく、私のよく知っている少女…マムアンだとわかったからだ。

自信がなかった。

あの時、咄嗟に思いついた方法だったが、うまく伝わっただろうかという事だけでなく、彼女は私の事をそれほど別に思っていないんじゃないだろうかとか、嫌な事ばかりが頭を過ぎってしまい、昨夜はあまり眠れなかった。

最初は、これは恋なんだろうかとも思ってみたが、それは違うような気がした。

確かに恋とは違うものの、彼女に好意を持っているのは間違いないとも思う。

うーん…なんといったらいいんだろうか。

それに彼女は一国の姫であり、唯一の王族、それにまだ十一歳だと聞いた。

さすがにそれは不味いだろう。

そういう部分もブレーキになっているのかもしれないな。

そんな事を考えて近づいていくと、私に気がついたのだろう。

彼女の視線が私を発見すると不安そうな顔が一気に笑顔になった。

まだ幼い女の子の独特の喜びとうれしさに満ち満ちている、まさに満面の笑みと言うやつだ。

やばい…。

なんか心臓が脈打つのが早くなった気がする。

しかし、それと同時に、彼女の後ろに立つ女性とも視線があった。

女性は私にニコリと笑うとぺこりと頭を下げた。

見た事がある顔だ。

まさか…。

すーっと血の気が引いた。

この時点で初めてやばい事をやっている事に気がついたのだ。

さっきまで会えるだろうかという事ばかりしか考えてなかったが、姫と密会とか間違いなく国際問題になってもおかしくない。

不味い、不味いぞ…。

そんな思考で頭が一杯になった時だった。

どんっと身体に衝撃が走り、慌てて僕は踏ん張って身体に当たってきたものを受け止める。

私の身体に勢いよくぶつかってきたものは、マムアンだった。

「キーチ、キーチ、キーチっ」

何がうれしいのか、私に抱きつくと頬をすりすりしている。

もっとも、身長の差で私のお腹あたりになってしまうのでかなりくすぐったい。

そんなマムアンを見て女性がクスクスと笑っている。

それでどうやら最悪の事態は避けられそうだとわかり、ほっとする。

それと同時に、回りの視線が気になった。

いかん、いかん。

人の目がありすぎる。

私は慌ててマムアンを引き剥がす。

「あーんっ、なんでーっ。キーチにせっかく会えたのに…」

ぷーと頬を膨らまして抗議するマムアンをなんとかなだめて女性の方に視線を向けた。

それでわかったのだろう。

マムアンがうれしそうに紹介する。

「私の侍女の一人で、プリチャっていうの。私のおねぇちゃんみたいな人で、よく相談に乗ってくれるの。今日の抜け出すのも手伝ってくれたんだ」

そう言われて思い出す。

そう言えば、姫付き侍女が彼女だった。

しかし、マムアンと同じで雰囲気が違う。

やはり、あの時の顔は余所行きの顔と言うやつだろう。

まぁ、悪い事ではないし、私だっていろんな顔を持っている。

だけど、本当の何も隠さない顔って言うのは、見てて実に気持ちいいものだ。

「お話しするのは初めてですね。私、マムアン様の侍女をしておりますプリチャと言います。今日は、一人で会うのが怖いという姫様の…」

そこまで言った時、真っ赤になったマムアンが慌てて横から私とプリチャの間に入り込んで手をバタバタ振り回して口を挟む。

「駄目っ、駄目だって。それ言っちゃ駄目なのっ」

その様子を見て、プリチャはくすくすと笑う。

「ふふっ。なら、こういうのはどうでしょう。今日に何を着ていくか悩んで…」

「あーっ。駄目っ、駄目っ」

面白いようにからかわれ、必死になって誤魔化すマムアン。

なんかすごく仲がいいのがわかる。

少し年の離れた姉妹と言われたら納得しそうだ。

そんな二人のやり取りを見ているとなんかほっとしてしまう。

だが、このままという訳にはいかないだろう。

ここは有名な待合の場所であり、他の人の邪魔になってしまうし、何よりマムアンの事がばれてしまっては問題になってしまう。

本当ならもう少しぐらい見ていたかったが、ぐっと我慢をすると私は声をかけた。

「そろそろ移動しませんか?」

私の言葉に、二人ははっと我に帰った感じで周りを見回し、慌てて頷いた。

「そうですわね」

「うん」

「じゃあ、いつもの屋台の方にいきませんか?」

私がそう言って空を見上げる。

今日もいい天気だ。

ギラギラと太陽が照り、むっとした湿度が忘れかけていた暑さを再確認させるほどに…。

「あっ、あの屋台?」

「ああ、あの屋台だ。まだ飲んでないやつがあったろう?」

「うんっ。あそこのは美味しいから、全部飲んでみたいっていってたやつだよね。ふふふっ。今日は何を飲もうかな…」

いつもの調子で答えるマムアン。

実にうれしそうだ。

「プリチャさんもどうですか?」

「ええ。マムアン様がこの前美味しかったといっていた屋台のですね。ふふっ。一度飲んでみたかったんです。ぜひお願いします」

そう言って興味深々に視線をマムアンに向ける。

その視線に、マムアンはうれしそうに答える。

「プリチャ、本当に美味しいんだよ。きっと、プリチャも気に入ると思う」

「そう、楽しみね」

そんなやり取りをしつつ、私達は場所を離れたのだった。



そんな頃、王宮の一室では、何人かの男達が頭をつき合わせて唸っていた。

ただでさえ暑いのに情報が漏れるのを恐れてか、窓は閉じられており、また人の熱気で蒸し暑さが倍増している。

「フソウ連合が打診してきたこの提案について…。皆の意見を聞きたいのだが…どうかね」

そんな中、そう立ち上がって言ったのはこの国の宰相であるバチャラ・トンローだ。

各自の前には、その提案が書き写された紙が配られており、各自はそれに目を何度も通している。

ここにいるのは、この国の政治の中枢に関わるものたちであり、それと同時に裏では共和国に対しての反抗を行う抵抗運動や独立運動を支援する者たちだ。

一人が恐る恐る声を上げる。

「これは本当にフソウ連合が提案してきた事ですか?」

その問いに、何人かが同意するかのように頷く。

「皆もそう思うだろう…」

全員を見回し、苦笑気味な表情をしてバチャラは言葉を続ける。

「私だって信じられなかったさ。一晩何度も何度も見直したが、そこに書かれている内容は間違いなく事実だ」

そう言ってフソウ連合の使者から渡された親書の原本を全員の前で広げてみせる。

全員が身を乗り出し、親書に視線を向ける。

そして順に親書を回し読みしていく。

そして、親書がバチャラのところに戻された時、その場にいた全員がため息を吐き出した。

「信じられん…」

「本当だ…」

「何てことだ…」

それぞれの口から、そんな言葉が漏れる。

だが、どんなに疑おうが、どんな事を言ってみょうが、現実がそこにあるのはかわらない。

沈黙があたりを包み込む。

そしてそんな中、ポツリと呟く声が響く。

「我々が躍起になってやってきた独立のチャンスがこんなに簡単に来るとは……なんか拍子抜けですな」

その言葉は、今ここにいる全員の感想でもあった。

しかし、しばらくするとあまりにも有利な条件に勘ぐる意見も出てきた。

「しかし、あまりにも条件が良すぎる。もしかしたら裏があるのかもしれん…」

「それは確かに考えられる。この提案の裏に、実はフソウ連合の利益になる事があるに違いない」

「そうだ、そうだ。それしか考えられん」

それらの意見をじっと聞いていたバチャラだったが、それらの意見に頷いた後、口を開いた。

「皆の意見はもっともだと思う。だから、油断なく対応していく事に変わりはない。ただ…」

全員の視線がバチャラに集まる。

その視線を受けて苦笑しつつバチャラは言う。

「いや、弱肉強食の国際関係で、一つくらいは国同士の友情と言うか、お互いに納得出来る関係があってもいいかもしれんなと思っただけだ」

「しかし、そんなことがあるのだろうか…」

そう一人が言うと、周りからも賛否両論の意見が飛び交う。

その熱気が、いろんな意味でまた部屋の中を暑くさせていくが、全員がそれぞれの意見を出し合って熱心に議論している為、そんな簡単に終わりそうになかった。

そんな様子を見ながら、バチャラは自分の元に戻ってきた親書に目を落として呟く。

「とんでもない、爆弾だよ。こいつは…。がっちりと一枚岩だった我々の意思をバラバラにしてしまいやがった。本当に…下手な侵攻よりタチが悪い」

そして苦笑いを浮かべるのだった。

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