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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

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E級駆逐艦 エクリプスにて

「てめえらなにやってやがるっ!!ちんたらしてんじゃねぇっ!!」

ストップウォッチを持った三十代後半の坊主頭の筋肉質の男性の罵声がエクリプスの甲板に響く。

エクリプス…。

外洋艦隊の駆逐艦の主力となるE級駆逐艦の一番艦で、先行製造された艦艇の一隻だ。

すでに、E級駆逐艦二隻と重巡洋艦一隻が海軍に引き渡されている。

「何やってやがんだっ。おままごとじゃねぇぞ。そらっ、そこっ、遅れてるぞっ。一秒の遅れで敵の攻撃がくるかもしれねぇんだ。迅速にやれ。おいっ、そこっ、ミスを誤魔化すなっ。やり直せっ。今の時点で完璧にしろとは言わん。だがな、誤魔化したりするなっ。誤魔化す事を覚えたやつは、成長せんっ。ミスを無くす為、何度もやれ」

甲板には、水兵達が必死になって作業をしている。

まさに特訓中といったところだろう。

ならば、怒鳴る男は、さしずめ鬼教官といったところだろうか。

彼らは外洋艦隊の部隊に配置される兵士達の第一期生たちだ。

ここでの特訓が終わり次第、それぞれの乗艦に配属され、その後に配属される新兵達を鍛え育てていく事になる。

つまり、艦艇で働く兵士達の中核となるべき兵士達だ。

だからこそ、よりきちんとした教育が必要となる。

鉄拳制裁こそないものの、そのハードさは普段の訓練の比ではない。

しかし、それでもみんな必死で喰らいついている。

彼らは自分たちの立場がわかっているのだ。

外洋艦隊に配属の意味…自分達がフソウ連合海軍の代表として海外の人々に見られるという事を…。

それは肩に圧し掛かる重い責任であり、そして、同時にそれに匹敵する誇りでもある。

だからこそ、彼らは必死なのだ。

そして、教官もそれがわかっているのだろう。

罵倒はするものの、誇りを傷つけるような相手を侮蔑するような言葉は使っていない。

「相変わらずだな、工藤特務兵曹」

甲板を歩いていた真田少将は懐かしい相手を見つけたかのように鬼教官にそう声をかけた。

指導に集中していてして気がつかなかったのだろう。

「はっ、これは失礼いたしました」

工藤特務兵曹はそう言って慌てて真田少将に敬礼すると、横を向いて兵達に声をかける。

「よしっ。十五分休憩だ」

汗だくで必死に訓練していた水兵達が息を吐き出して力を抜く。

そしてその場に座り込んだ。

その様子をちらりと見た後、工藤特務兵曹は一人の水兵に声をかける。

「班長、全員に水筒を渡せ。いいな、水分補給を忘れるな。それとしっかり汗を拭いて来い。着替えも許可する」

声をかけられた班長は、立ち上がって隅に寄せてあった木箱から水筒とタオルを出して各自に手渡していった。

それを受け取り、水兵達は汗をぬぐいつつ水筒の水を飲み、何人かは立ち上がって艦内に下りていく。

着替えるつもりなのだろう。

そんな水兵たちの様子を懐かしそうに見つつ、真田少将は口を開いた。

「どうかね、兵達は…」

「訓練を始めてあまり時間が経ってませんからまだまだですよ。しかし、ほとんどが予備役の連中ですからね。かなり飲み込みはいいし、彼らなら艦隊の中核として働いてくれるでしょう」

その言葉に真田少将は満足そうに頷いた。

「君の口からそう言った言葉が出るとはな…。実に心強い」

「はっ。期待に答えられるよう、十分にしごくつもりです」

「まぁ、無理はさせんようにな。それはそうと、後の二人はどうした?」

真田少将の言葉に、工藤特務兵曹は苦笑した。

「武藤と金子の事でしょうか?」

「そうそう。その二人だ」

納得したような顔で真田少将が答える。

「武藤は、このエクリプスと同時期に完成した重巡洋艦エクセターの方におります。本日は、訓練航海の予定だったと思いましたから、訓練海域にいるはずですね。あと、金子は、E級二番艦エコーの確認作業でドックの方にいるはずですよ」

「そうか…。相変わらずだな。鬼の三羽鴉は…」

その真田少将の言葉に、工藤特務兵曹は困ったような顔をした。

「もう、それは勘弁してください…」

「何を言う。お前達がしっかり下の者たちをきちんと指導してくれるから助かっているんだ。鬼の三羽鴉は私的には褒め言葉だぞ」

驚いたような顔でそう言われ、ますます困ったような顔になる工藤特務兵曹。

「いや…子供が聞いてくるんですよ。おとうさん、鬼って言われてるけど、そんなに酷い人なのって…」

真田少将はその言葉にますます笑いつつ聞く。

「そう言えば、子供は幾つだ?」

「五つです。かわいいもんですよ。あの子の為なら死ねるって本当に思いましたよ」

さっきまでのピリピリした感じが完全に抜けて、今や父親の顔になった工藤特務兵曹が笑いつつ言葉を返す。

「そうか。そうか。かわいい盛りだな。でもな、絶対に死ぬなよ」

「もちろんです。当たり前じゃないですか。娘が嫁に行くまでは死ねませんよ」

きっぱりと言い切ると、工藤特務兵曹は真顔になって聞き返す。

「ところで…本日は、そんな話をしに来られたのではないのでしょう?」

「ふふっ。さすがだな…」

楽しそうにそう言うと、真田少将は言葉を続けた。

「なぁに、いつもの事だ。自分で実感しないと落ち着かない性分でな。ところで今度の艦艇はどんな感じだ?」

「E級駆逐艦の事ですか?」

「ああ。それと重巡洋艦の方もだな…。お前達の率直な意見を知りたい」

そう聞かれ、工藤特務兵曹は腕を組んで少し考え込む。

そして、ちょっと間が空き、考えをまとめたのだろう。

息を吐き出した後、口を開いた。

「そうですね。まずは本艦のE級駆逐艦ですが、今までのものと比べて目指す部分が違うんでしょうね。フソウ連合海軍主力の吹雪型や陽炎型に比べると大人しいというか、まとまっているという感じてしょうかね…」

「大人しい?」

怪訝そうな顔で真田少将が聞き返す。

「そうですね、バランスよくまとまっているとは思うんですが、派手に秀でた部分がないんですよ。吹雪型や陽炎型は、雷撃戦に特化した強さを持っています。しかし、E級は飛び出た部分はない分、なんでも対応できる器用貧乏な印象といったところですか…」

その言葉に、真田少将は腕を組み考え込むような姿勢で言葉を漏らす。

「確かに、酸素魚雷を装備しているわけでもないから、今までの雷撃戦を奥の手とした戦い方は変更する必要があるな」

「重巡洋艦のエクセターにしても、よくまとまっている分、少し物足りなさを感じますね。もっとも…」

そう言いかけて工藤特務兵曹はニタリと笑う。

「おかげで居住性はかなり良くなっています」

その言葉に真田少将は笑った。

「確かに、悪いよりも良いほうがいいからな」

「ええ。それは間違いありません」

二人してカラカラと笑っていると、時間が来たのだろう。

休んでいた水兵達が立ち上がって整列し始める。

着替えに下りていたものたちも戻ってきたようだ。

全員が工藤特務兵曹の前に並ぶ。

どの顔にも必死さがうかがえるいい顔つきばかりだ。

これなら安心できるな。

真田少将は、工藤特務兵曹に満足そうに頷いて敬礼すると、今度は水兵たちの方に顔を向けて敬礼する。

水兵達が一糸乱れぬ動きで返礼すると、真田少将は頷いて口を開いた。

「君達は、私の指揮をする外洋艦隊の中核を担う者たちだ。その君らがこれだけ努力をし、技術を磨く姿に私は感動すると同時に安心した。君達は、フソウ連合海軍の代表たる自覚があると…。だが、体調管理と怪我には十分注意してくれ。三月末には、外洋艦隊は正式に発足されるだろう。その時、また会える事を楽しみにしている。では、よろしく頼むぞ」

そう言って敬礼すると、水兵たちは「はっ」と短く返事を返して再度返礼をした。

その姿に満足そうに頷くと真田少将は、艦橋に向かう。

彼の後ろからは、工藤特務兵曹の声が響く。

本当に頼もしい事だ。

ならば、私もきちんとやる事をしないといかんな。

そう思いつつ足を速める。

なぜ艦橋に向かっているのか。

実際に艦橋に立ってみて、この艦の全体の感覚を掴む為だ。

自分の指揮する艦艇の事を知らねば指揮など出来ない。

それが彼の考えであり、一艦、一艦、見て周り、そこで働く兵たちの動きや装備を確認していく。

これからしばらくは、艦を見て回る事になりそうだな。

そんな事を思いつつ、真田少将は、しっかりと頭の中に自分の指揮する艦と人々を記録していくのであった。

エクリプスは、1931年から1932年度に英国で建造されたE級駆逐艦のフラグシップ艦で、英国は、第一次世界大戦の教訓を生かして製造されたA級、それを小改正したB級、大型化して燃料の搭載量増加を図ったC級、対潜戦能力を強化したD級といった感じで、改修設計変更をしつつ駆逐艦を建造しており、E級は好評であったC級、D級の設計を踏襲して装備に改正を加えたものです。


なお、1/700のキットはタミヤのウォーターラインシリーズから出ており、価格も安くて手に入りやすいし、説明書に同型艦の名前と番号が書かれており、数字のデカールもついているので数も揃えやすいです。

また、ウォーターラインでは英国艦が結構充実しているので、海外艦艇で艦隊を組むのなら英国がかなりお勧めです。

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