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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

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会議  その1

フソウ連合暦 平幸二十四年一月十七日。

フソウ連合とフラレシア共和国は講和条約を締結する。

これにより、フソウ連合の当面の敵国は、帝国だけとなった。

そして、その帝国は、先の大敗によって海軍戦力の実に半分近くを喪失。

また、帝国海軍主力の遠征中を狙った王国海軍の攻撃により、残った艦隊とアレサンドラ軍港の機能の大半を失う大失態を犯してしまう。

特に痛手だったのは、ほぼ修理が終わりかけていたビスマルクの中破とグナイゼナウの湾内で大破浸水、着底だ。

施設の被害も酷く、整備や修理を担う熟練工を多く失い、両艦が復帰するのには半年、或いは一年はかかりそうな現状となっており、今の帝国に外に遠征する力はほとんど無く、講和も休戦交渉も行っていないがある意味休戦に近い状態であった。

もちろん、完全な休戦ではなく、ある程度の戦力が整って再度フソウ連合に侵攻してくるとしても、それはまだ先の話となる。

だからこそ、この生まれた時間を、フソウ連合は有効に使うために活動を活発化させていた。




「しかし、領土譲渡を本年度の四月からとしたのはどういった事を考えておられるのですかな?」

講和条約を締結してから二日後の一月二十日の午後一時三十分。

海軍本部の本会議室で行われたミーティングで新見中将がそう問いかける。

問いかける相手はもちろん、鍋島長官だ。

いつもの飄々とした感じの雰囲気で笑顔を浮かべている。

相変わらずだなと南雲中佐は思う。

しかし、この会議室に集まっているフソウ連合海軍中枢のメンバーの中で、この人に知略で勝てる人は誰もいないだろう。

人は見かけによらないといういい例だと思う。

もっとも、長官に会う前にこの言葉に当てはまる人物には出会っていたので、長官は二人目となる。

一人目は、俺の親友の的場良治だ。

士官学校時代、戦略においてあいつに勝てた事はなかった。

初めて会ったときは、噂の件もあり、いい印象はまったくといってなかった。

しかし、はじめての戦略の実習において、俺はまったく歯が立たなかった。

今まで、負けなしだった俺は、それであいつに興味を持った。

観察し、話をして、実際に一緒に行動してみると、あいつはすごく面白くて実に興味深い男だった。

大胆にして精細、堅実な戦法を好むくせにいざとなったら大博打を打てる度胸もある。

自信と責任を持つ、実に指揮官として一流の素質を持っている。

もっとも、見た目と噂でかなり損をしている部分はあるのが残念だ。

実際は違うのかもしれないが、だが、それさえもあいつは気にするどころか楽しんでいる風にさえ見えた。

多分、長官も同じタイプに違いない。

たが、的場と長官が大きく違うところは、実に突拍子もない事を言い出す事だ。

的場の言う事も結構突拍子もないが、長官はそれに拍車にかけるほど突拍子もない。

しかし、突拍子もないのにそれが実に的確である。

周りを見渡すと、みんななんとなくだが長官の答えを楽しみにしている雰囲気さえある。

こう言っては失礼だが、誰もがワクワクした気持ちがないとはいえないだろう。

作戦統括部の山本大将なんかもう隠す事もせず、楽しそうにニヤニヤしてる。

俺の経験から言うと、あの人があんな表情をしているときは面白い事が起こるときだ。

長官が俺らを見渡し、苦笑した顔になった。

「なんか、みんな変な事を期待してないか?」

その言葉に全員の口から失笑が漏れる。

そう。みんな期待しているのだ。

「まぁ、いいけど…。たいした事じゃないからね」

一応、そう前置きをおいた後、長官は再度口を開いた。

「譲渡されたアルンカス王国は植民地ではなく、きちんと自治権を持つ独立国にしたいと思っている。その為の準備期間だよ。領土譲渡を本年度の四月からとしたのは…」

その言葉に、場がざわめく。

誰もが、まさかそう来るとは思って見なかったようだ。

現に俺だって予想外だったし、どっちかというとあまり表情を見せない的場もかなり驚いている。

そんなざわめきの中、長官はその理由を説明し始め、誰もが理由を知りたい為にざわめきはあっという間に静かになる。

「まず、これは合衆国と王国から提供された資料をチェックしてわかったことだが、元々あの国はここ最近植民地にされた国で、まだ以前の政治機構がしっかり残っていること。また、独立心が強くて未だに抵抗運動が行われており、統治するにはかなりの労力が必要な事。そして何より…」

そこで長官は一旦言葉を停めて、ニコリと笑う。

「皆も知っての通り、僕は植民地支配が大嫌いだという事。だから、植民地としてではなく、独立国家にしたいと思っている」

場が再びざわつく中、的場が挙手し、進行役の東郷大尉に「的場大佐、どうぞ」と指名されて立ち上がる。

「長官の意見はわかりました。確かにその案は面白いと思います。しかし、それではすぐに他の六強から再度占領されてしまうのではないでしょうか?」

的場の意見を実に面白そうに聞いた長官は、頷くと口を開いた。

「そう。その通りだ。だから、僕はアルカンス王国と相互防衛条約を結ぼうと思っている」

「相互防衛条約?」

「ああ。アルンカス王国が攻められたらフソウ連合が助けるし、フソウ連合が攻められたらアルンカス王国が助けるという感じだね」

「しかし、それではあまりにも不公平なのではないでしょうか?」

的場が再度そう聞き返すと、周りの何人かが頷く。

あまりにもフソウ連合の方が負担が大きすぎると感じているのだろう。

実際、俺だってそう思う。

海軍は金食い虫だし、維持するのだけでもかなりの資材と物資を食う。

フソウ連合国内だけなら、マシナガ本島の結界の魔力によって維持はそれほど難しくない。

常に一定量の資材や補給物資が維持し続けており、それで十分まかなえるだろう。

しかし、国外は違う。

資材や物資を輸送するのだって無料ではないし、下手したら資材や物資不足に陥る事になりかねない。

イタオウ地区にそういったものの生産施設や工場を作る事になっているが、まだ本格的に動き始めるには何年もかかるだろう。

果たして、それだけの事をしてまで守る必要はあるのだろうか。

そういった疑問がわく以上、きちんとした答えが必要だ。

だが、その質問を予想していたのだろう。

答えはすぐに返ってきた。

「この相互防衛条約の利点は、二つある。一つは、アルンカス王国の陸上部隊はかなり優秀で、その戦力を自軍の陸上戦力として使える事。もう一つは、フソウ連合国外で活動する事が多くなる外洋艦隊の拠点として利用できる事。これらの事を考えれば十分結ぶ価値はあると思うんだが、どうかな?」

そしてその後に、長官は少し冗談交じりに言葉を続ける。

「もちろん、基地の運営に必要な資材と物資、それに予算、後は基地の土地の提供はしてもらうさ。だから、みんな心配しているような無償といった事はないよ」

場に笑いが広がる。

会議と言うといつもピリピリした感じだったが、長官は実にユーモラスで場の雰囲気をリラックスさせる事に長けていると思う。

見習いたいものだ。

的場も説明で納得いったのだろう。

頭を下げると着席した。

しかし、ふと思いついた事があったので、俺は挙手した。

「南雲中佐、どうぞ」

「はっ。これはふと思ったのですが、もしかして長官は、こういった相互防衛条約を結ぶ事で、植民地支配とは違う国同士のつながりを考えられていませんか?」

俺の言葉に、長官は実にうれしそうな顔になった。

「いい意見だ。南雲中佐。その通りだよ。僕としては、植民地支配に代わる国家同士の繋がりが出来ればいいかなと思っている。基本的に対等な関係で互いを守り、共に栄えていける関係をね。もっとも、それは難しい事なんだけど、やる価値はあると思うんだ」

そう言った後、長官は俺の方をじっと見る。

それは多分、俺の返答を待っているという事だろう。

だから、俺は口を開いた。

「実に面白い試みだと思います。もちろん、自分でよければ、喜んで協力したいと思っています」

その俺の言葉に拍手が起こる。

拍手の先にいたのは、的場だった。

あいつは実にうれしそうな笑みを浮かべて頷いている。

そして、それがきっかけとなったのだろう。

また一つ、また一つと拍手が沸き、会議室は大きな拍手に包まれた。

そして、その拍手に、長官は照れたのを誤魔化すように頭をかいて笑っていたのだった。

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