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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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講和会議  その2

フソウ連合とフラレシア共和国の講和。

始まる前の状況では、かなりの大荒れが予想され、誰もがこれは結ぶ事は無理なんじゃないだろうかと考えてしまっていた。

しかし、それは共和国の代表代理であるアリシア・エマーソンの、事前に知らせていたあまりにも無理難題な条件の撤回と新たに提出された当たり前の内容の条件の提案で、誰もが想像できないほどに早く締結までこぎつける事ができた。

そして、この難題をうまく取り付けてフソウ連合と共和国の両国に恩を売るつもりでいろいろと用意していた合衆国大使のサキ・E・ヴェリュームは、まったくと言っていいほど出番がなかった。

唯一、発言出来た事は、なんとか作り笑いで、「この機会を用意したのは合衆国であり、二国間がこの講和により末永く平和である事を祈る」といった事だけであった。

その様子に、合衆国フソウ連合駐在大使であるアーサー・E・アンブレラはなんとか表情は殺していたものの、内心大爆笑であった。

ざまぁみろ。

正にこの一言に尽きるのである。

そして、そんな合衆国の事情は関係なく、十時十分から始まった講和会議は、実に十一時二十分までのわずか一時間十分で終了し、講和は締結されたのである。

これは、もめる事が多いと言うか、どうしても互いの利権が絡む為にまとまらない講和や休戦条約の話し合いの中で、異例中の異例であった。

唯一、問題になったのは『共和国領であるアルカンス王国のあらゆる権利の譲渡』の部分だった。

フソウ連合側としては、鍋島長官が植民地反対主義という事と痛手を喰らったイタオウ地区の復興もあって丁寧に断ろうとしたのだが、手間のかかる問題だらけの植民地を合法的に手放したい共和国側も譲らず、まさに互いに押しつけあうというこういった場では珍しい光景を作りだすこととなった。

終いには、サキが、「それなら合衆国が一時的にでも預かろうか」と言い出す始末だったが、それは身内のアーサーに止められ、結局、共和国側の強い態度に、フソウ連合側が折れた形となった。

その際、鍋島長官が何度も「後で文句はなしでお願いしたい」と共和国側に確認を取った事で、かなりとんでもない事をしでかすんではないかと誰もがその場で思ったほどだった。

もちろん、共和国側であるアリシアは苦笑し、「全ての権利を譲るのですから、問題ありません」ときちんと対応する事となった。

こうして、フソウ連合と共和国は、講和条約を結ぶ事となった。

条件は、以下のとおりである。


一つ、フソウ連合とフラレシア共和国は戦闘行為を止め、互いに国交を結ぶ。

一つ、フラレシア共和国は、フソウ連合に共和国領であるアルカンス王国のあらゆる権利を譲渡。

一つ、互いに大使を駐在させ、情報の交換に務める。

一つ、貿易の各種条件は、両国間の代表を出した二カ国間貿易機構での話し合いによって決定する。

一つ、両国の軍同士の交流を持ち協力体制を作り上げる。その一端として士官学校生の交流派遣留学を行う。

一つ、戦いで捕虜になった兵の返還。鹵獲された兵器は、フソウ連合に譲渡する。

一つ、お互いの関係は平等であり、問題が発生した場合はまずは話し合いを持って解決に努める。


アリシアから新しく出された共和国案をベースに条件は決められ、この講和条約は、のちに共和国ではアリシア条約と言われるほどアリシア・エマーソンの名前を広めるのに貢献する事となったのであった。


「ふう…。終わりましたね」

鍋島長官は、内容も問題ない事を確認してお互いにサインし終わったフソウ連合側の条約書に手を乗せて呟くようにいった。

「ええ。ほっとしました。これで安心して祖国に帰れます。国民を安心させられますわ」

アリシアも共和国側の条約書を確認し終わってそう答える。

さっきまでアリシアは政治家の顔をしていたが、まさに肩の荷が下りたといった感じだろうか。

その顔にはほっとした安堵の色が見えた。

「しかし、こんなに早く終わるとは思ってもみませんでしたから、昼食会の準備を急がせないといけませんね」

鍋島長官の言葉に、アリシアはくすくすと笑う。

「私もてっきりサンドイッチでも食べながらだらだら話し合いしなきゃいけないのかなって思ってましたよ」

「いえいえ。そんな事態になってしまうとは考えていなかったでしょう?」

鍋島長官の突っ込みに、アリシアは年相当の女性の笑みを浮かべた。

「ふふっ。もう終わったので、そんな事はすっかり忘れてしまいました」

そして思い出したかのように言葉を続けた。

「そう言えば昼食会と言いましたよね。ふふっ。昼食会、期待してもいいですよね?」

そこには、もうただの異国の食事を楽しみにする二十代の女性だけがいるだけであった。


結局、昼食会は、十二時三十分からとなり、その場は解散となった。

控え室に戻るアリシアの顔からだんだんと笑顔が消えていく。

気が重いが、戻らないわけにはいかない。

配下から控え室でお待ちになられていると言う報告は受けていた。

控え室の前に着くと、アリシアはすーっと息を吸い込み、深呼吸を数回繰り返した。

そして控え室のドアを開けて中に入ると、そこには不機嫌そうな表情でソファに座っているリッキード・エマーソンがいた。

初めて気がついたと言うような表情を見せた後、ほっとした感じの表情をしてアリシアは口を開く。

「あら、お父様。ずいぶんよくお休みになられていましたね。ご気分はよくなられましたか?」

「ああ、おかげさまでね、かなりよくなったよ。なんせ、ついさっきまで眠らされていたんだからな」

そう言うと、苦虫をつぶしたような顔で今までに見せた事のない非難めいた視線をアリシアに向けた。

「まさか…。お父様に私が薬を盛ったとでも?」

父親のその表情と視線に怯えることなく、アリシアは驚いた表情をして言い切る。

「確かにそんな証拠はないし、お前はそんな事はしないと思いたい。しかしだ…」

だんとテーブルが叩かれ、リッキードは叫ぶように言う。

「こうして委任状なんかが用意されている件はどう説明するつもりだ?」

その問いに、アリシアは大変だったんですよといった表情を浮かべて口を開く。

「何度も起こそうとしたんですよ。でもお父様は起きなかった。でも、会議を放棄するわけにはいかない。それは共和国の恥であり、お父様のお名前に汚点となる。だったら、その時に出来る最善の事をするしかないじゃないですか。だから、慌てて委任状を作って会議に向ったんですよ」

そう言った後、今度はアリシアがリッキードに非難めいた視線を向けた。

「それに、なんか私がしたみたいにお父様は言われましたが、あれだけお酒と料理を召し上がられて、その後の私との打ち合わせの時も飲まれていたんじゃありませんか。あれだけ飲んだら、朝起きれなくなるのは当然です。それなのに、お父様ったら、私が何かしたみたいに…。お父様の代わりに…頑張ってきたのに…」

そう言うと、アリシアは顔を伏せ涙を流す。

その様子に、リッキードは慌てた。

今までこんな事はなかったのだ。

彼の知っているアリシアはいつも笑っていた。

だから焦った。

「わかった。わかったから…。もう泣くんじゃない」

なだめる様にそういうとリッキードは深くため息を吐き出した。

今更、どうこう言ったとしてももう遅すぎる。

講和条約は交わされたのだ。

国同士の条約はとても重要であり、国際的に、条約を守ると言う事は信頼の証でもある。

それを一方的にやっぱり駄目だとかぽいぽいと破ったりする国に、誰が味方してくれるだろうか。

すでに賽は投げられたのである。

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