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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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講和会議  その1

翌日の一月十七日十時十分。

建ったばかりの合衆国の会議室で行われたフソウ連合とフラレシア共和国講和会議に現れたのは、黒っぽい蒼色をベースとしたパンツスーツと涼しげな水色のネクタイ姿のアリシア・エマーソン、ただ一人であった。

そこに本来いなければならないリッキード議員の姿はなく、彼女と護衛と思われる黒服の男が数名のみである。

到着すると彼女は遅れた非礼を詫び、当たり前のように共和国代表が座る席に座った。

これには合衆国側も驚き、進行役だったサキ・E・ヴェリュームが思わず立ち上がり聞き返す。

「リッキード議員は…どうされたのですか?」

その問いに、アリシアは困ったような表情を浮かべて答える。

「今までの疲労が一気にきたのでしょう。ベッドで唸ってますわ。医者からも絶対安静と言われしまいましたから…」

その突っ込みどころ満載の言葉に、鍋島長官も慌てたように口を開く。

「それって…昨日の晩餐会で体調を崩したという事ですか?」

晩餐会で毒でも盛られたと言われてしまえば、そんな事実はなかったとしても大問題に発展する可能性さえある。

だから慌てたのだろう。

しかし、その問いに、アリシアはにこやかに笑いつつ答える。

「まぁ、あの晩餐会が原因と言うか、引き金にはなったのでしょうが、あの晩餐会のせいではございません。晩餐会で気が抜けて一気に疲労がぶり返したのでしょうね」

そう言った後、茶目っ気のある表情になると小声で付け加えた。

「まさか、料理とお酒がおいしすぎて、飲みすぎ、食べすぎで倒れたなんて言えないでしょう?だから、疲労で倒れたということにしておいてくださると助かりますわ。そういう訳で、私が代理人としてうかがいました。ちゃんと団長であるリッキード・エマーソン議員の承認もいただいております」

そう言って、書類を差し出す。

その書類には、アリシア・エマーソンに、今回の講和会議の件を全権委任すると書かれ、リッキード・エマーソンとサインと印まで入れられている。

しかしだ。

これが本物だという証拠はない。

彼女は、リッキード議員の秘書であり、娘なのだ。

やろうと思えば、この程度の事はできてしまう立ち位置にいる。

だが、それが本当なのかどうかは定かではないが、その場にいた誰もがもう苦笑しかなく、うやむやのままに講和会議は始まったのであった。


会議が始まると、合衆国側が共和国の講和の条件を読み上げていく。

内容は、ほぼ書簡のままであった。


一つ、フソウ連合とフラレシア共和国は戦闘行為を止め、互いに国交を結ぶ。

一つ、講和するに当たり、フラレシア共和国は、フソウ連合に共和国領であるアルカンス王国のあらゆる権利を譲渡する。ただし、五年間の統治で譲渡した領土が共和国側がきちんと統治できていると認識できなければ、譲渡した領土を返却する。

一つ、両国友好のため、共和国海軍艦隊のフソウ連合の駐在を認めること。また、その際には、きちんとした港、施設、ある一定の土地を用意し、その使用期間を99年とすること。

一つ、フラレシア共和国から輸入されたものは、絶対にフソウ連合は関税をかけないこと。

一つ、共和国国民は、フソウ連合の法律外であること。もし事件や事故が発生した場合、共和国の法律によって裁かれる。

一つ、フソウ連合の政治機関に共和国の代表を参加させること。また、きちんとした発言権を与える事。


そして、その変わらない内容に、フソウ連合側の代表である鍋島長官が拒否をする為に口を開こうかとした時だった。

アリシアが先に口を開く。

「共和国側はその条件を全て撤回し、ここに新しい条件を提案いたします」

予想外の展開に会場はざわつくが、それを気にせずアリシアは新しい提案が書かれた紙をサキ大使に手渡す。

そして、その紙に書かれた内容を何回も目で読んだ後、サキ大使は聞き返した。

「これでよろしいのですか?」

「ええ。構いません。父の指示を受けております」

しれっとそういう彼女に、サキ大使もそれ以上何も言う事が出来ず、紙に書かれた内容を読み上げていく。


一つ、フソウ連合とフラレシア共和国は戦闘行為を止め、互いに国交を結ぶ。

一つ、講和するに当たり、フラレシア共和国は、フソウ連合に共和国領であるアルカンス王国のあらゆる権利を譲渡する。

一つ、両国友好のため、互いに大使を駐在させ、前回のような不幸な出来事が起こらない様に情報の交換に務める。

一つ、貿易の各種条件は、その都度互いの話し合いを持って決定していく

一つ、両国の軍同士の交流を持ち、協力していく体制を作り上げる。

一つ、戦いで捕虜になった兵と鹵獲された艦の返還。


大まかに言うと、この六つである。

以前の条件があまりにも酷すぎたといえばその通りだが、新しく出された講和条件はいたって普通であり、だからこそサキ大使も聞き返したのだろう。

もっとも、サキ大使にしても、フソウ連合のおもてなしを直接見てからというもの、この会議が大きく荒れると予想は出来ていたのでかなりいろいろと手を用意しておいたのだが、ここまで当たり前の条件を出されるとは思っても見なかった。

ただ、はっきりとわかる事が一つだけある。

それは、用意した手が全て無駄となってしまった事だけだ。

サキ大使にしても、まさかここまで譲歩するとは予想できなかったのだ。

もちろん、新しく出された講和条約の内容に驚いたのは合衆国側だけでなく、フソウ連合側も同様であった。

代表の鍋島長官は驚いたままの顔でアリシアを見ていたし、その横にいた渋い顔をしていた軍人も固まっていた。

まさに予想外といった感じで、信じられないといったところだろうか。

その様子に、アリシアがしてやったりといった表情を浮かべてくすりと笑う。

その笑いで驚きの呪縛から解き放たれたのだろうか。

鍋島長官はアリシアを見て苦笑し、隣の軍人になにやら囁いた。

そして、軍人の方が頷いたのを確認し、鍋島長官は口を開いた。

「その条件に関し、わがフソウ連合としては反対はしませんし、受け入れることができると思います」

その発言に、アリシアはにこりと笑って言う。

「よかったですわ。これで駄目だなんて言われたらどうしようかと思いましたから」

その顔には、そんな事は微塵も考えてませんといった感じの表情を浮かべながらである。

なかなか肝が据わっているな…。

その場にいた誰もが彼女の雰囲気に飲まれていた。

この講和会議での主役は間違いなく、彼女であった。

そして、のちにこの場にいた合衆国の立会人の一人はこう語った。

「あの講和は、『鉄の女』と異名を持つことになるアリシア・エマーソンという人物のデビューであり、独り舞台であった」と…。

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