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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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おもてなし  その2

「こちら、南部哨戒隊の二式ニイマルサン-ニイ。繰り返す。こちら、南部哨戒隊の二式ニイマルサン-ニイ。お客さんのお化粧直しが終わったようだ。再度入場する動きあり」

「こちら、南方哨戒隊本部。了解した。数はどうだ?」

「数は五つ。繰り返す。数は五つ」

「了解した。使者には案内人を派遣する。ニイマルサン-ニイは残った艦隊の監視を継続せよ。繰り返す。ニイマルサン-ニイは残った艦隊の監視を継続せよ」

「南部哨戒隊の二式ニイマルサン-ニイ、了解。監視継続する。繰り返す。監視継続する。以上」



旗艦であり、リッキードの乗艦する重戦艦ラル・ローフレアを中心に、戦艦二隻、装甲巡洋艦二隻の艦隊が再度フソウ連合の領海内に入っていく。

旗艦ラル・ローフレアの艦橋は、最初の時のようなのんびりとした雰囲気はなく、張り詰めた空気に満たされている。

艦橋にいるほとんどの人間は、落ち着かなくピリピリしており、それはまるでいつどこから襲われてもおかしくない場所を警戒しつつ進む臆病な草食動物のようであった。

しかしそんな中、一人浮いていたのは、その雰囲気に飲み込まれずに凛とした態度を取るアリシア・エマーソンだ。

彼女だけは、まるで別の生き物の様に毅然と振舞っており、草食動物の中に誇り高き肉食獣が混じっているかのようであった。

そして、そんな娘の姿に、父としての威厳を保ちたいリッキードも落ち着いた振りを何とかしている。

もっとも、額に流れる汗だけは隠しようがなかったが…。

だが、そのおかげか、他の乗組員だけでなく、艦長も、さすがは共和国が誇る敏腕議員だ。肝が据わっていらっしゃると評価がうなぎのぼりになっていた。

そして、ついに嵐の結界を抜ける。

一人を除く全員が息を飲み、そしてすぐに安堵の息を吐き出した。

砲撃はなく、ただはるか彼方に小さく艦隊の姿が見えるだけだ。

そして、恐る恐るといった感じで少しずつ先に進む共和国の艦隊に近づく二隻の小型艦があった。

大きさは、装甲巡洋艦より一回り小さい感じだ。

「ちゃんと、国際基準の使者の旗と白旗は掲げているだろうな」

「はっ。もちろんであります」

「そうか…」

そんなリッキードと艦長のやり取りがあった間にも艦は接近し、発光信号がある。

『貴艦の目的の確認をしたい。今よりそちらに向う』

艦長が双眼鏡で発光信号を読み、口で言う。

よく見ると、向こうの艦からボートが下ろされており、言葉通りこっちに来るらしい。

「ついに…来るか…」

ごくりとリッキードは唾を飲み込む。

甲板に行かなくては…。

しかし、身体が動かない。

さっきの砲撃ですっかり怖気づいてしまい、身体が動かないのだ。

そんな父親の手をアリシアはすーっと握り囁く。

「さぁ、お父様、参りましょう」

それでやっと決心がついたのだろう。

リッキードは一歩を踏み出す。

するとさっきまで動かなかったからだが嘘のように動く。

そして、それに釣られるように艦長も後に続いたのだった。

甲板には、水兵達が怯えながらも集まっている。

まぁ、無理もないだろう。

あれだけの事をやられたのだ。

本当なら、出たくはないし、関わりたくもないだろう。

しかし、命令は絶対ではある。

だから、仕方ないといった雰囲気が流れていた。

アリシアは、心の中で舌打ちをする。

呑まれている。

すっかり、フソウ連合の手の内じゃないの。

また、今回の話は、この後、共和国海軍内に広まるに違いない。

そして、二個主力艦隊を壊滅したという現実と今回の話が混ざったとき、恐怖と言う感情が海軍全体に刷り込まれてしまうだろう。

不味いわ…。

アリシアは、そう考えたが、彼女に発言権はない。

権力もない。

彼女が今ここにいられるのは、父が議員であり、今回の交渉に関わった為だ。

力があれば…。

この時、初めてアリシア・エマーソンは権力が欲しいと願うようになっていた。


十五分後、前部甲板に一人の男が上がってきた。

黒のシンプルな軍服を着ており、短く切り詰めた黒髪と黄色い肌、あと意志の強そうな太い眉と何もかも見通すようなぎょろりといった感じの目つきの男だ。

男はざっと周りを見渡す。

そして、その中で女性同伴のスーツ姿のリッキードを見つけると代表者と判断したのだろう。

リッキードの前まで歩き、敬礼した。

「自分は、フソウ連合海軍南方方面艦隊所属第二警備隊の青島少尉であります。失礼ですが貴艦の所属と目的の確認させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

流暢な国際基準語でそう話しかけられ、なんとか我に返ったのだろう。

慌ててリッキードは右手を差し出し口を開く。

「共和国の使節団団長のリッキード・エマーソンだ」

差し出された右手を握り返し、青島少尉は微笑む。

「これはこれはリッキード殿。ようこそ、フソウ連合へ。それで、戦争中のわが国へどういったご用件でしょうか?」

静かな落ち着いた声だが、その声には力があった。

ぎょろりとした目が感情を読み取ろうとするかのようにリッキードの顔を見つめている。

思わずリッキードは一歩後ずさりそうになったが、アリシアがすーっと父親を支えた。

すぐ傍に娘がいる。

父親として恥ずかしい格好は見せられない。

その思いだけで、リッキードは奮起する。

握手を終わり、意を決して発言する。

「今回は、貴国との不幸な戦いを終わらせたいと思い、講和を提案しに来た」

その発言に心底驚いたような表情をする青島少尉。

「不幸な戦い…。ふむふむ。確かに不幸な戦いでしたな。宣戦布告もなく戦争を始められた我々と、その戦いで壊滅して亡くなってしまった共和国艦隊の将兵にとっては、実に不幸な戦いだったでしょうな」

皮肉交じりのその言葉に、何も言い返せないリッキード。

確かにそれは全部事実だが、ここで言い返さなければならない。

なぜなら、共和国海軍の将兵が見ているのだ。

もし、ここで言われるまま何も言い返さなければ、その無様な姿は噂として広まり、自分の議員としての生命は終わる恐れすらある。

こんな事をするんじゃなかった。

合衆国の提案を受け入れるんじゃなかった。

まだ、会ってもいないのに、リッキードは後悔し始めていた。

しかし、思わぬところから助け舟が出された。

アリシアだ。

「確かに、不幸でしたわ。もちろん、それだけではなく、虎の子の艦隊を失った我々、そして亡くなった将兵の家族もですわ。つまり、だれも幸せになっていないという事ですわね。困った事です」

アリシアの言葉に、青島少尉は苦笑しつつ言葉を返す。

「確かに、不幸しかありませんな。では、その不幸を止めに来たと?」

「ええ。これ以上、不幸になる方が増えないようにと…」

ふむふむ。

アリシアの言葉を聞き、少しうれしそうな表情をした後、青島少尉は頷いた。

「了解しました。ご案内いたしますので、先行するあちらの艦船についていってください」

「わ、わかりました。」

青島少尉の言葉に、リッキードはうなづくが、続けて言われた青島少尉の言葉に、一瞬嫌そうな顔になる。

「なお、私が案内役として貴艦に乗艦させていただきます。許可をよろしくお願いいたします」

本心では一緒にいたくはなかったが、何とか落ち着かせて笑顔を作る。

「ええ、許可します。では艦橋に行きましょう」

「はい、ありがとうございます」

フソウ連合の艦が動き出し、その後を縦一列になって共和国の艦が続く。

「どちらに向かうのでしょう?」

アリシアがそう聞き返すと、青島少尉は微笑みながら答えた。

「フソウ連合の外交の窓口であるナワオキ島です。そちらの合衆国大使館で合衆国の立会いの下、話し合いをする予定になっております」

その言葉から、もうすでに準備は整っているという事と、それと同時に共和国が来るとわかっていてあえてああいう歓迎をして見せたという事をアリシアは確認する。

それは、今回の事はまた同じような宣戦布告なしの侵攻に対しては徹底的に戦うというフソウ連合の意思表示であり、共和国だけでなく他の六強に対しても釘を刺すのに十分な牽制となっただろう。

かなり手強い相手がいるみたいね。

気をつけないと足元をすくわれる…。

アリシアはそんな事を思いつつも、それを表情に出さずにいつものように青島少尉に向けて優しそうな笑顔を浮かべつつ礼を言う。

「ありがとうございます」

「いえいえ。お気になさらずに」

そう言って笑うと右側を指差した。

「そろそろ見えると思いますよ」

その言葉に艦橋にいた視線が指を示す方に向く。

すると、島影からゆっくりと巨大な船が姿を現す。

共和国の重戦艦の何倍の大きさだろうか。

まるで大人と子供と言っていいほどの大きさの差があった。

「わがフソウ連合海軍、連合艦隊第一艦隊の戦艦金剛と比叡です」

青島少尉以外の艦橋にいた人間は、あまりの圧倒的な差に唖然としていた。

アリシアでさえも、その差に勝てないと思うしかないほどであった。

しかし、それで終わりではなかった。

その後も、次々と姿を現す連合艦隊第一艦隊の勇姿に、共和国関係者はただ呆然と見ていることしか出来ない。

そして、自分らはどれほど恐ろしい相手に喧嘩をふっかけたのかを実感させられる。

なんて事をしてしまったんだ。

宣戦布告もなく不意打ちをしたことで、不味い相手を怒らせてしまったと…。

こうして圧倒的なフソウ連合のおもてなしに、話し合いの前に共和国側は精も魂も尽き果ててしまいそうになってしまっていた。

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