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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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日誌 第百十七日目

一月十日、午後二時。

フソウ連合海軍本部の地下にある長官室には、僕と作戦本部の新見中将と作戦統括部の山本大将の三人がソファに座って話し合いをしていた。

ある程度のミーティングのあと、本日のもっとも大切な話し合いの真っ最中であり、今は、僕が差し出した書簡を新見中将が読んでいる。

最初は無表情だった新見中将の顔が段々と気難しい顔になり、読み終わって顔を上げた。

「なんですか…これは…」

合衆国から送られた共和国との講和条件の書かれた書簡を読んでの新見中将の第一声である。

僕も読んで最初に口にしたのは似たような言葉であったから、その気持ちはよくわかる。

そして、怪訝そうな顔をしている山本大将に、新見中将が書簡を差し出す。

書簡を受け取り、今度は山本大将が目を通す。

そして、呆れた表情を浮かべて僕に書簡を返した。

「駄目ですな。これでは講和とは言えますまい。話し合いの価値さえもないですな」

その言葉に、新見中将も頷く。

だから、僕は苦笑して言葉を返す。

「だが、共和国の連中はこれで講和できると思っているようだよ」

僕の言葉に、二人は苦笑する。

まさに笑うしかないといったところだろう。

そのあきれ返った共和国との講和内容は、簡単に書くと以下の通りである。

一つ、フソウ連合とフラレシア共和国は戦闘行為を止め、互いに国交を結ぶ。

一つ、講和するに当たり、フラレシア共和国は、フソウ連合に共和国領であるアルンカス王国のあらゆる権利を譲渡する。ただし、五年間の統治で譲渡した領土が共和国側がきちんと統治できていると認識できなければ、譲渡した領土を返却する。

一つ、両国友好のため、共和国海軍艦隊のフソウ連合の駐在を認めること。また、その際には、きちんとした港、施設、ある一定の土地を用意し、その使用期間を99年とすること。

一つ、フラレシア共和国から輸入されたものは、絶対にフソウ連合は関税をかけないこと。

一つ、共和国国民は、フソウ連合の法律外であること。もし事件や事故が発生した場合、共和国の法律によって裁かれる。

一つ、フソウ連合の政治機関に共和国の代表を参加させること。また、きちんとした発言権を与える事。

大まかに以上である。

領土譲渡は難癖をつければすぐにでも譲渡を取り消して取り戻せる程度のもので、賠償金はないし、それ以外の条件も属国扱いの条件である。

どう考えても、領土譲渡以外は、戦いに勝った側が負けた側にするようなものばかりだ。

「舐められていますな…」

新見中将が呆れた顔でそう言うと、山本大将も頷く。

「恐らくだけど、こっちが疲弊しきっていて合衆国に講和を頼み込んだとでも思っているみたいだね」

「ですな…。そうでなければこんな条件は言いますまい」

新見中将がそう言うと、山本大将が「ちょっと待ってください」と口を開いた。

「ですが、ある程度の戦果や被害は駐在大使から合衆国本国に送られていると思いますが…」

その山本大将の言葉に、新見中将は頷く。

「確かに…。あの駐在大使なら、間違った情報を送るとは思えません」

「そうですね。アーサー大使ならきちんと情報を送ったと思いますよ。それと、これは二日前にアーサー大使から送られてきた資料です」

そう言って、テーブルの上にハードカバー本程度の厚さのある封筒を乗せた。

二人の視線が封筒に向く。

「資料?」

「ええ。護衛駆逐艦の礼のつもりでしょう。フラレシア共和国とアルカンス王国の資料ですよ」

僕の言葉に、新見中将が怪訝そうな顔をする。

「信用できるんでしょうか?」

「僕もそう思って、王国の大使に見てもらって大まかに確認してもらいました。彼が言うには、かなり信頼できる情報のようだとのことです」

「ふむ…。なら、王国と合衆国がグルでフソウ連合を貶めようと…」

新見中将の言葉に、僕は苦笑して答える。

「それはありえません。王国の大使は、アッシュの友といえる人物ですから」

その言葉に、新見中将は何か言いたそうな表情をする。

多分、アッシュの友と言われて信用していいのかと…。

しかし、それを僕は言わせなかった。

「確かに心配ではありますが、疑いだしたら切りがないんじゃありませんか?」

「確かに…長官のおっしゃるとおりですね」

しばらく無言だったが、観念して新見中将がそう言うと、中将の肩を山本大将が慰めるようにポンポンと叩く。

「まぁ、疑う事を止めてしまったらやられ放題だからな。用心に越した事はないさ」

そう言って視線を僕に向けた山本大将は言葉を続ける。

「では、長官は何でこんな事になったかと思われますか?」

そう聞かれ、僕は腕を組んで考える。

きちんと情報があればまずこんな条件は言わないだろう。

しかし、現実に、その無茶な要求の書簡がここにある。

なら…。

「僕の考えだけど、大使からの資料からまず舐められているのは間違いないと思う。人種差別の酷い国と言う話だったし、この人物も東側の人間、つまり、六強以外の国の人々は劣等人種だって言っている人みたいだしね」

「それはまた…」

あきれ返ったような山本大将の表情。

そう、確かに向き不向きはあるかもしれないが人の能力は人種で決まるものではない。

もっとも、民族的な傾向は変えられないが…。

「あとは、合衆国内の問題だと思う」

「合衆国内の問題ですか?」

「ああ。派閥争いとかじゃないかな。どうも詳しい情報をあえて共和国側に流していない気がするんだ」

僕の言葉に、新見中将が聞き返す。

だから、僕は目の前の資料に視線を送り、答える。

「片や講和を進めている者がいる反面、その上げ足を取るように講和にマイナスになるような資料を送ったりして来ているし、こういうのを見てしまってはね」

「つまり、合衆国も一枚岩ではないと?」

「ああ。いろんな人種が入り込んでいる移民の国みたいだから、いろんな人達がいる以上、誰もが友好的ではないだろうし…」

「確かに…。フソウ連合内でも色々ありますからな」

「そういうことだ」

僕がそう言うと、山本大将がずいっと顔を近づけて聞いてきた。

「それで、長官としては、この講和の話し合い、どうされるんですか?」

その言葉には殺気がはらんでいる。

どうのこうの言いながら、山本大将はプライドが高い人物だ。

そんな人物からしてみたら、あまりにも相手を馬鹿にしている以上、講和を蹴ってもっと徹底的に叩き潰してやりたいと思っているのだろう。

その気持ちはすごくわかる。

僕だって、ここまで馬鹿にされているのなら、蹴ってやりたいと思う。

しかしだ、講和を持ちかけてきたのが合衆国だという事だ。

共和国の面子を潰すのはさぞかし気持ちいいだろうが、条約を結んでいる友好国の面子を潰すわけにはいかない。

それに何かあったとき、六強の内で敵にならず味方、或いは中立でいてくれる国は多いに越した事はない。

「講和の話し合いはするさ」

山本大将の顔が険しくなる。

だが、その表情を見てニタリと笑い返す。

「もっとも、合衆国の顔を立てて話し合いはするが、絶対に講和に応じる必要性はないからな。精々たっぷりと嫌がらせをしてちゃぶ台をひっくり返してやる」

僕の言葉に毒気が抜けたようにきょとんとした顔をした山本大将だったが、すぐに腹を抱えて笑い出す。

「いいですな。さすがは長官だ。実に気持ちいい対応だと思いますぞ」

しかし、その反面、新見中将は渋い顔だ。

「少し大人気ない対応ではないでしょうか?」

「確かに大人気ない態度かもしれないけど、これぐらいはやり返さないと他国にも舐められますからね。フソウ連合は、友好的な相手には友好を。そうでない方々にはそれなりの対応をしていきたいと思っています」

その言葉に、ますます山本大将は笑い、新見中将は困ったような顔をした。

そして、ひとしきり笑った後、山本大将はニヤニヤした顔で口を開く。

「長官、どうせやるなら講和の時、こんな感じでやればどうでしょうか?」

その表情は、まるで悪戯を思いついたような子供のようだった。

そしてその提案内容に僕は苦笑し、新見中将は苦虫を潰したような顔をする。

「それはいいアイデアだ。ぜひやってみたいな」

苦笑しつつも僕は山本大将のアイデアに賛成する。

それに慌てたように諌めようとする新見中将。

「長官まで…。それはあまりにも…非礼ではありませんか?」

「かまうもんか。舐め腐っているやつには、それに相応しい出迎えをしてやらないとな」

山本大将が笑いつつそう言う。

「そういうことだよ、中将」

僕がそう言ってニコリと笑うと、新見中将はため息をはいた後、僕を見て呟くように言った。

「長官もすっかり染められてあくどくなられましたな…」

その言葉に、僕は苦笑を返すだけであった。

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[一言] 「長官まで…。それはあまりにも…非礼ではありませんか?」「かまうもんか。舐め腐っているやつには、それに相応しい出迎えをしてやらないとな」 新見中将は、自国がなめられても、なあなあですます嫌…
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