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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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航空母艦 翔鶴にて…

雲ひとつない晴天の中、本部空港から離陸した九九式艦爆がマシナガ本島をぐるりと一周したあとで本島南部にある訓練海域に入った。

ここは海軍の訓練海域として一般の艦船の接近を禁止されている海域で、海域の外には見張り所などが設置されて一般船の接近、侵入を監視警戒している。

「よし。目標を探すぞ」

パイロットの森川少尉の声に、後部座席にいる菊見飛行兵曹長が答える。

「了解であります」

海上の目標を探す為、ゆっくりと円を描くように機体は旋回し、海面を探す。

風はそれほど強くなく、波は比較的穏やかで、上から見ると海は揺れているようには見えない。

どれほど探しただろうか。

そしてついに目標を発見した。

その視線の先には、小さな点がある。

徐々に接近していくと点は段々と大きくなり、甲板には木材が張られている為かまるでマッチ棒のように見えてしまう。

飛行甲板にはカタカナで『シ』と識別標識が書かれており、それが目的の航空母艦翔鶴であることがわかる。

「こちら、ヒトマルロク攻撃隊のヒトマルロク-ヒトです。これより着艦する」

後部座席の菊見飛行兵曹長が無線でそう連絡を入れるとすぐに返信が返ってきた。

「了解。誘導に従え」

「ヒトマルロク-ヒト、了解」

艦尾の方にちかちかと着艦誘導灯が光り、甲板では誘導員の手旗信号も確認できる。

「さて行くぞ…」

「はいっ。お願いしますよ、少尉」

「ああ、任せろ」

そう返事をするとパイロットの森川少尉は機体の高度を下げて着艦体制に入る。

速力を落とし、機体制動用拘束フックを目一杯下げる。

揺れていないと思っていたが、高度を下げてみると少し空母が揺れているのが確認できる。

思った以上に空母っていうのは揺れるんだな。

そんなことを思いつつも誘導に従い高度を下げていく。

風をうまく読んで艦を動かしているのだろう。

不意な横風等を受けることなく艦尾からゆっくりと速度を下ろしつつ侵入していく。

一本目を抜け、二本目の着艦制動策に機体制動用拘束フックが引っかかり、航空母艦翔鶴の飛行甲板に着艦した。

急に減速されて衝撃と勢いが搭乗員を襲う。

がたっ。

つんのめりそうになるが、シートベルトがそれを塞ぐものの、身体にベルトが食い込む。

「おおおっ…。思った以上に引っ張られるな…」

停止した後、機体の周りに整備兵が走り寄ってくるのを見ながらベルトを外し、風防をあける。

「ふー」

無意識のうちに息を吐き出していた。

空港内での擬似的な着艦訓練は散々やったが、同じ大きさの設定でやったとしてもやはり実際に航空母艦にするのとでは大きく違うなと実感させられる。

機体に取り付いた整備兵が機体を押し前方に移動させる。

この後の着艦する機体のスペースを空けるためだ。

機体から下りるのはきちんと機体が固定されてからだな。

そんな事を思いつつ森川少尉が空を見ると、上空には自分と同じように着艦訓練をする為に少し時間をずらしながら出発した部隊の機体が何機か見られる。

第106攻撃隊は、十二機で構成されるから、全機が着艦するには少し時間がかかるだろう。

それに着艦が終わったとしてもすぐに発艦訓練とはならない。

機体の点検と実際に着艦した感想や意見などを纏めるミーティングがある。

それを考えれば、今のうちに司令官に着任挨拶ぐらいしておいたほうが良さそうだ。

森川少尉はそう判断すると、機体が固定されたのを確認して森川少尉は菊見飛行兵曹長に声をかける。

「ミーティングまで少し時間がある。俺は司令官に挨拶にいってくるが、お前は少し下りて連中の着艦でも見るか?」

「はい。勉強させていただきます」

菊見飛行兵曹長はそう言うとベルトを外し始めた。

「じゃあ、先に下りてるぞ」

「はい。お先にどうぞ」

森川少尉が機体を降りると現場を仕切る整備兵が敬礼し、森川少尉も返礼する。

「ようこそ、航空母艦翔鶴へ。歓迎いたします」

「ああ、ありがとう。機体ともども世話になる。それで他の部隊の連中は?」

自分の機体以外着艦していない甲板を見渡して聞く。

確か、戦闘機隊、爆撃機隊、攻撃機隊がそれぞれ二個中隊の七十二機、それに偵察機隊が一個中隊の六機の合計七十八機と予備機で運用されるはずだ。

甲板にないのなら、もしかしたら格納庫に収められているのだろうか?

そんな森川少尉の考えがわかったのだろう。

整備兵は笑いつつ言う。

「はっ。少尉の部隊が一番最初です」

「そうか。一番か…」

森川少尉はそう呟くように言ってニヤリとする。

「なかなか一番乗りっていうのも気持ちがいいな」

その言葉に、整備兵も「そうですね」と言って頷く。

そんな風に話していると、やっと後部座席の菊見飛行兵曹長も下りてきた。

「お疲れ様です」

整備兵が敬礼し、菊見飛行兵曹長も返礼する。

「これが航空母艦か…」

しみじみと言う菊見飛行兵曹長の声に、整備兵と森川少尉は苦笑した。

「では、後の事はよろしくお願いします」

森川少尉はそう言うとちらりと機体の方に視線を向ける。

「了解しました。お任せください」

整備兵はそう言うと部下の整備兵と同じように機体に取り付き、熱心に事細かに機体の状況確認を始めた。

それはあまりにも神経質すぎる対応だが、まぁ、それは仕方ないのかもしれない。

世界で初めての着艦である。

念入りに障害が出ていないかチェックする必要があり、事故を防ぎ、円滑に運用していくには些細な事も見逃せない。

何事も机上の計算通りにはならないのが常であり、実際にやってみて悪い点を洗い出していく事で、より洗礼された運用になっていくのである。

整備兵たちの様子をちらりと見た後、森川少尉は艦橋の方に視線を向ける。

指揮官に報告した後は、艦橋からみんなの着艦を見てチェックするか…。

そう思って甲板をぐるりと見回す。

空から見えたときは、マッチ棒でしかなかった甲板は、いまや小さなグラウンドのような広さを感じさせる。

これから忙しくなるぞ。

森川少尉はそう確信し、艦橋に向って歩き出す。

その後を菊見曹長が慌てて追いかけていく。

こうして、フソウ連合海軍によってこの世界初の航空母艦の運用が始まる。

だが、航空母艦が戦力として機能するには今少しの時間を必要としていた。

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