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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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日誌 第百十日目  その2

「いらっしゃいませ」

相変わらずの心地よい声にほっとしながら店内に入る。

「あ、こんにちは」

僕がそう言って手を振ると、カウンターにいたつぐみさんがニコニコ笑って手を振り返してくる。

ぐるりと入口から店内を見回すと、店内はお年玉を握りしめた小学生から、家族連れ、年配者といった幅広い年齢層のお客が結構いた。

意外な事にカップルではなく、一人、或いは数人の女性客もちらほらと見られる。

失礼かもしれないが、普段行く時は結構お客の少ない時間帯を見計らって行くので、同じ場所ながらここまでお客が多いのはなんか新鮮に感じだ。

また新春特売として入口の近くには福袋なんかも用意されていて、結構大き目のワゴンの中にはもう一つしか残っていない。

よく見ると店内のお客さんの何人かは福袋を持っており、結構いい感じて売れているようだ。

「よう、いらっしゃい」

そう声をかけてきたのは、光二さんだ。

エプロンをして売れた模型の分の補充をやっているようだ。

「いい感じて売れているみたいですね」

「ああ、おかげさまでね。ここ何年間か、親子模型教室なんてやってたからね。それで結構口コミとかが広まっているみたいだよ。本当にありがたい事だ」

そう言ってニコニコと笑っている。

「それは多分、この模型店のみんなの頑張りが形になってきたんだと思いますよ」

僕がそう言うと、光二さんは照れくさそうに頬をかき「ありがとう」と言って作業に戻っていく。

結構忙しそうだからな。

その後姿を見送った後、僕はお目当てのコーナーに向かう。

ずらりと並ぶ1/700の艦船達。

相変わらずの品揃えだが、普段ならほぼ隙間なく並んでいるのだが、今日は結構空きがある。

多分、補充が間に合っていないのだろう。

まぁ、お金が入って大人買いしていく人も多いだろうからな…。

そんな事を思いつつ、リストを見ながら買うやつをチョイスしていく。

今、フソウ連合海軍として不足しているものは、支援艦や小型艦だ。

だから、警戒や護衛で多用する海防艦や駆潜艇、掃海艇などの小型艦、一等、二等輸送船を選んでいく。

後は…そうだなぁ。

ざっと模型の箱をざっと見て、駆逐艦、軽巡洋艦などもまだ買っていなかった分をチェックする。

だが悲しいかな、予算的なものもあるので欲しいものをそのままと言うのは無理。

だから、厳選していく必要性がある。

しかし、選択しながら思う。

個人の懐具合で、新造艦購入が決まる海軍ってある意味すごいよな…。

ふとそう考えてしまってなんかおかしくなって一人でくすくす笑っていたら、後ろから声をかけられた。

「何か面白いものがありましたか?」

模型店店主のつぐみさんだった。

「あ、いや、なんか無意識のうちに笑いがこみ上げて来てね」

まさか、個人の予算でとある国家の海軍の新造艦が決まるって考えたらおかしくて…なんていえるはずもないので、そう言い訳をするとなんか納得したような顔をされた。

「あ、ありますよね。思い出し笑いみたいにふっと笑いがこみ上げてくるの」

そう言ってくすくす笑うつぐみさん。

なかなかかわいい感じで、光二さんがほれ込んだというのはなんか納得できる。

「レジいいんですか?」

そう言ってレジを見ると、つぐみさんの妹の美紀ちゃんが立っていてお客様の対応をしていた。

「ええ。休憩交代なんです。そのついでにちょっと覗きにきちゃいました」

そう言ってつぐみさんはちょろっと舌を出して笑うと、チョイスしたものを覗き込む。

「駆逐艦に、海防艦、軽巡洋艦…。まるで艦隊編成でもするみたいなチョイスですね」

その言葉にどきりとする。

「ど、どうしてそう思いました?」

「いや、以前買っていかれた模型なんかを考えたら、そんな感じかなと…」

ああ、確かに。

前回は輸送艦とか給油艦とかが多かったからな。

ちゃんとなにが売れたのかしっかりと把握しているらしい。

もっともそのおかげで、この店は常にお客が必要としている模型をできるかぎり途切れることなく用意して販売する事を維持できているのだろう。

「まぁ、ジオラマとか作っていますし、やはり自分の艦隊を作るのって楽しいじゃないですか」

僕がそう言うと、「あ、そうですよね。わかります。彼も色々集めるの大好きだし…」と納得したような顔だ。

そう言えば光二さんも結構な数の艦船の模型を製作していたっけ。

そんな事を考えている僕につぐみさんは少し考えた後、棚から一つの模型の箱を抜いた。

「じゃあ、たまにはこんなのもどうです?」

そう言って出されたのは、PT社の模型だ。

『フランス戦艦リシュリュー』

ネルソンのように前面に主砲を集中配置したタイプの戦艦で、なかなかインパクトのある形をしており、それに未完成状態のままで米英各国軍と戦闘を交えたおもしろい艦歴がある。

へぇ…。たまにはこういうのもいいかもな。

予算的に、まだ少し余裕があったから買っていくことにする。

ついでに普段はあまり見ない海外の1/700を見て回る。

「驚いたな…。意外と戦艦や空母だけでなく、小型艦なんかも結構出てますね」

「ええ。PT社とかが色々出してますよ。それにウォーターラインシリーズでも出てますね」

つぐみさんが指で差しながら説明してくれる。

そう言えば、以前委託製作頼んだジョン・C・バトラー級護衛駆逐艦は、製作する方に艦の選択はお任せしたんだっけ。

これだけ種類があるなら、結構迷ったんじゃないかな…。

しかし、ふと思いつく。

これだけ種類もあるなら艦隊編成もできるんじゃないか?

確かに国によっては、小型艦がまったく出ていない国もある。

だから、日本海軍のように一国で艦隊編成は難しい国もあるだろうが、別に好きにいろんな国の混合艦隊を編成して楽しむのもありではないだろうか。

面白いな…。

そう思った僕は、リシュリューだけでなく、O型駆逐艦とE型駆逐艦を追加でチョイスし、つぐみさんにお礼を言う。

「ありがとう、つぐみさん。参考になったよ。試しに海外艦も作ってみるよ」

「ふふっ。そう言っていただけるとすごくうれしいです。ありがとうございます」

そう言ってつぐみさんは微笑む。

その笑顔は、薦めた商品が売れたということもあるだろうが、お客が楽しそうに模型を買っていくこと、お客が模型製作をしてくれる事がうれしくてたまらないというように見えた。


「お待たせ」

そう言って車内に戻ると、阿部上等兵曹は料理の本を読んでいた。

「いえ。問題ありません。ここは安全だといわれておりましたので少し本を読ませていただいておりました」

「そうか。ところで、その本は?」

「はっ。休憩室にあったもので、お借りしております。持ち出しは不味かったでしょうか?」

少し不安そうな顔で聞いてくるので、安心させるように言う。

「まぁ、こっちの世界で読む分なら、別にいいんだけど、向こうの世界には持っていかないように。ただし、自分でノートなんかに書き写して持っていくのは問題ないからね」

「はっ。ご配慮、ありがとうございます」

そう言って頭を下げる阿部上等兵曹。

気になる料理でもあったのだろう。

かなりうれしそうだった。

しかし、休憩室に料理の本とか置いてたかな?

そう思ったものの、本は、確かに今ここにある。

彼が嘘を言っているとは思えない。

なんか納得できないが、まぁいいかと思って荷物を後部座席に移すと車のエンジンをかける。

軽快なエンジン音が響き、車体がかすかに揺れる。

「それじゃ、さっさと帰って、おでんを作ろうか」

「はっ。ご指導よろしくお願いいたします」

緊張と好奇心で彩られた表情で、阿部上等兵曹はピーンと背筋を伸ばして頭を下げる。

「そんなに硬くならなくていいから…」

僕は苦笑してそう言うと、おでんのことについて説明しつつ帰途に着くのだった。

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