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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十二章 講和

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日誌 第百八日目

東郷さんを見送ったあと、二日かけて家の大掃除を実行した。

いやはや、意外と汚れていたようで、かなりの大仕事になってしまった。

最初は一人でやっていたのだが、警備の見方大尉の部下が見かねたのか手伝ってくれた。

職権乱用にならないかと思ったが、いつもお世話になっていますからと言ってにこやかに手伝ってくれる。

本当にありがたい事だ。

そして、夜は僕が作った年越し蕎麦を全員ですすった。

手伝ってくれた御礼を込めて、ちょっと贅沢に肉てんぷらきつねといった感じの具沢山の蕎麦になった。

みんな美味そうに食べてくれたが、なんか初めてこっち側に来た兵がいたようで、「すげー美味いっす」って言って感動していて同僚に笑われていた。

どうもフソウ連合でも蕎麦はあるものの、ざる蕎麦みたいな食べ方が主で、あまり普通の汁に入れて食べないらしい。

うまいのにな…。

もちろん、ざるだってうまいし好きだけど…。

それで色々聞いてみたんだけど、基本フソウ連合では、麺類はかけ麵、つけ麵が主流らしい。

どうりで以前ラーメンやうどん出した時に驚いていたわけだ。

なお、焼きそばはあるようで、もっとも醤油ベースで、ソースベースの甘辛い感じの焼き蕎麦には戸惑ったらしい。

まぁ、でも食べたらすぐに気に入ったみたいだけどね。

しかし、似ているようで、食事一つとっても以外と違うんだなと思う。

だから、知らないところで、ポカをやっているかもなと思ってしまったが、もう後の祭りだし、まぁいいかと言う事にした。

そんな感じで、警備の人達と話しながら食事を済ませ、僕はいつものごとく作業部屋に向った。

製作中の模型があるからそれを終わらせようと思ったからだ。

だから年越しは作業部屋で迎える事になるだろう。

低くCDを流しながら、黙々と模型を作っていく。

「うーん、思ったよりすべりがよくないな…。少し薄めてみるか…」

独り言を呟きながらも、塗料の色合いが濃すぎる為に調整をしていく。

そして、再度試しに塗ってみる。

なかなかいい感じだ。

これで一気に船体は塗り上げてしまうか…。

筆塗りだから、基本マスキングテープは使わない。

ただその分、集中して塗っていく必要がある。

まず艦上の艦橋や煙突、アンテナ、砲塔といった突起物をつけていない艦体をきちんと綺麗に仕上げる。

隙間やズレがないか確認し、接着剤がはみ出た部分やバリ等がないかをよくチェックして塗装に入る。

まず甲板のリノリウムの部分をリノリユウム甲板色で塗る。

少々のはみ出しは気にしない。

どうせ後から艦艇色で塗って修正するからだ。

そしてリノリウム部分を塗り終わったら一旦乾燥待ちとなる。

その間に、他の艦艇を作るということもしばしばあるが(特に時間的に切羽詰った時なんかは)、今日はのんびりとする事にした。

時計に目をやる。

あ…もうこんな時間か。

普段ならそろそろ東郷さんが差し入れ持ってくる頃だな。

そう言えば、今頃彼女はどうしているだろうか。

多分、久々の両親とうまくやっているのだろうと思う。

そんな事を思っていたら、少し小腹がすいたので下に下りる。

新人の警備の兵が僕を見て敬礼してきたので、「ここでは敬礼はいいよ」と言っておく。

「はっ。気をつけます」

どうやら硬くなってしまっているようだ。

僕は苦笑しつつ言う。

「こっちでは僕は一民間人だからね。それをよく考えてやってくれよ」

「了解です」

ふと気になったので聞いてみる。

「他の人達は?」

基本、警備は三人が駐在している。

夜間は三時間毎の交代だ。

僕が聞くと、兵士は笑って言う。

「はい。映画を楽しんでいるようです」

待機室にはコーヒーや紅茶などの飲み物以外にも、待ち時間などの娯楽用に、本やDVDプレイヤーなんかを設置している。

もちろん、映画のDVDも準備していて、二百タイトル近くはあると思う。

ほとんどが新品で購入だが、今では手に入らないやつなんかは中古ショップなんかで揃えた。

最初はBDでと思ったがさすがに単価が高いので、一気に数を揃えるのは結構な金額になる。

そういう事を踏まえて、あえてDVDで揃えたが、好評なのはいい事だ。

「しかし、聞いていましたけど、長官宅の警備は至れり尽くせりでいいですね」

兵士が笑いつつそう言う。

「そうなのかい?」

「はい。いつもの警備の方が休みに実家に帰らなければならなくなって、それで自分は今回初めてこっちに回されたんです。しかし、本当に噂どおりでしたよ」

「そうか。しかしどんな噂になってるんだろう…」

「えっとですね、映画が見られる。いろんな本が読める。コーヒー、紅茶が気兼ねなく飲める。食事がうまいといったところでしょうか…」

その言葉に僕は笑った。

「みんな楽しみにしてくれているとは用意したこっちとしてもうれしい限りだよ。君も任務の後は、休憩時間はゆっくり楽しんでね」

「はっ、ありがとうございます」

そう言って兵士は敬礼しかけて手を下ろした。

やはり急にはなかなか難しいものだ。

そう思いつつ、食堂でおにぎりを作る。

中におかか、海苔の佃煮など定番の具材で十二個作る。

一人三個の計算で、自分の分以外の九個は警備への差し入れた。

確か東郷さんもやっていたと言う話だったからな。

日本茶を用意し、まずは警備室に差し入れにいく。

「たいしたものではないけどね」

そう言って、お茶とおにぎりを渡す。

「すみません。ありがとうございます」

「ああ、いつもの東郷さんのと違って味は保障しないけどね」

僕が笑って言うと、「いえそんな…」言って受け取ってくれた。

なんかすごく感激してくれているみたいだ。

うーん…。

そんなに嬉しかったのかな。

そんな事を思いつつ、一旦自分の分を取りに戻って、作業室に向かう。

おにぎり三個をほおばり、お茶を飲んで一息ついた頃には、大体塗料は乾いていた。

今度は、細筆で、艦艇色を塗っていくのだが、最初にリノリウムとの境目を縫っていき、ついでにリノリウムの上に出ている突起物なんかも軍艦色で塗っていく。

これでざっとリノリウム周りの塗装が終わったら一旦塗装が乾くまで待つ。

その間に砲塔や艦橋、煙突などを組み立て、個別に塗装して製作する。

そして砲塔や艦橋、煙突などの方が終わると、次に艦体の残りの塗装を開始。

今回は、迷彩なんかではなくて、軍艦色一色なので一気に塗っていく。

もちろん、手で持っておく場所はなくなるので、艦艇の下に両面テープで割り箸に貼り付ける。

さすがに大型艦では無理なので、その際は木の板となるが、駆逐艦程度なら問題なく割り箸でいける。

よし。塗装完了…。

後は、乾燥待ちだ。

なにげなく時計に目をやる。

ちょうど零時になろうかという時間になっていた。

秒針が刻々と時間を刻む。

まるで一秒が何秒にも感じられる。

そして、ついに零時となる。

僕はふうと息を吐き出し呟く。

「あけましておめでとう」と…。

そして、傍にそういえる相手がいればなと思ってしまっていた。

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