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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第一章 はじまり、そして始めての海戦(ガサ沖海戦)

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日誌 第三日目 その4

会議が終わり、その日の夕食はガサ地区責任者の角間さん主催の夕食会に招待され、(細かく言ったら色々あるが、カオクフ地区の新田さんなんかも参加しており、まぁ、根回しとかこれからのことの話し合いとかがメインだったりする。おかげで腹は膨れず、結局帰って来てから東郷大尉が作ってくれたうどんをすすることになったのだが…)、翌日には朝一で二式大艇で艦隊より先に帰途に着いた。

空の上から島が見え始めるとつい無意識で言葉が漏れた。

「まだ二日離れただけなのにすごく時間が経ったような気がするなぁ」

その言葉に東郷大尉も三島さんも苦笑した。

そして、東郷大尉が笑いつつ口にする。

「覚悟しておいてください。これから何度もこの光景を見ることになりますからね」

「僕としては、あんまり行ったり来たりはしたくないかなぁ…」

僕の言葉に、東郷大尉は驚いた表情になり、三島さんは笑い転げている。

その様子を横目で見つつ、口を開く。

「僕は基本的にはずぼらなんですよ。無駄に動きたくない…」

しかし、そんな僕の言葉に三島さんが笑いながらぱんぱんと僕の肩を叩いて言う。

「残念ながら、それは無理じゃないかな…」

僕は深刻そうにため息を吐き出した。

「多分、僕もそう思います…。本当に…理不尽だ…」

その態度と口調がかなり受けたのだろう。

三島さんだけでなく東郷大尉も笑い出す。

笑わなくていいじゃないか。

こうなったのは自分自身の決めた事とわかっている。

でもさ、愚痴ぐらいは言わせてよ。



僕達は、基地に帰島すると、参謀本部長の新見大佐をはじめとする幕僚のスタッフと簡単に打ち合わせをした後、マシガナ本島の港で帰還した艦隊を迎え入れた。

甲板に並ぶ兵士達は、皆誇らしげに胸を張り敬礼する。

威風堂々とはまさにこのことだと思いつつそれに敬礼を返し、全艦隊の入港を見守る。

そして入港がおわると、そのまま負傷者の見舞いに行った。

「ほとんどが軽傷者ですので大丈夫です」と東郷大尉は言っていたが、「彼らを死地に送ったのは自分だから」と言って面会した。

全員が、僕が見舞いに来たことに驚いていた。

「傷が癒えたら、また頼む」と言うとむせび泣く者さえいたが、彼らを見舞うのは当たり前で責任者としての義務だと思っている。

だから、そんなに感動してくれるのはこっちの方が申し訳なくなってしまう。

だが、それは口にしない。

言わなくていい事なら言う必要はないからだ。

そして、その後、山本准将や南雲大尉、的場大尉と昼食を共にする事にした。

先に食堂で待っていた僕に対し、入ってくるなり山本准将は頭を下げる。

「この度、敵に攻撃させてから攻撃せよと命じたのは、私の責任であります。現場の指揮をしていた二人は関係ありません。処罰は、自分が受けます」

想像していたとは言え、あまりに気分がいいものではないな。

そう思いつつ、僕はため息を吐いた後に声をかける。

「頭を上げてください。山本准将。私が足りない部分を補佐してくださったのでしょう。おかげで助かりました」

そしてゆっくりと頭を下げた。

「やめてください。鍋島長官。長官の命令に背いたのは私のほうです。頭を上げてください」

まさかこう来るとは予想していなかったのだろう。

頭を上げた山本准将が慌ててそう言う。

「では、今回の件は、命令違反ではなく、私の言葉が足りない分を山本准将が補佐したという事でいいですよね?」

僕はニタリと笑って顔を上げる。

僕の言葉に最初は山本准将はあきれ返ったような表情をしたが、横に並んでいる南雲大尉と的場大尉がほっとしたような表情をしているのに気がついて観念したのだろう。

「わかりました。今回は長官のご好意に甘えさせていただきます」

苦笑しつつそう言った。

「そういうことにしておきましょう。でも…」

今回はそれで済ますが、本来なら命令違反は厳しく罰する必要がある。

軍とは縦割り社会なのだ。

命令は絶対なのだから。

だから釘を刺しておく。

「今度は事前に報告してください。あまり心臓によくないので…」

僕がそう言って苦笑すると、横で見ていた三島さんがくすくす笑う。

「よく言うわ。あの本会議であんな大風呂敷広げて話を進めたくせに…」

「いや、あれはきちんと構想をメモしていたから…」

慌ててそう言う僕を東郷大尉がなだめ、恐ろしい事を言い出す。

「まぁまぁ…。食事が冷めてしまいますから。それにそれを食事の話題にしましょう」

「おおっ、いいですね」

南雲大尉がノリノリで実に楽しそうに言ってくる。

「私もそういうのはぜひ聞きたいですな」

山本准将も乗り気だ。

「自分もぜひ…」

的場大尉も興味津々のようだ。

「もう勘弁してくれよ…」

僕はそう呟くが、逃げられないのは確定している。

なんせ、食事に誘ったのは、僕の方だからだ。

しまったな…。

こんな流れになるなんて…。

ちらりと横を見るとニヤリと笑う三島さんの実にすがすがしい笑顔があった。

「謀りましたね…」

「いや、何、関係者に長官殿の勇姿を知っておいて欲しかったからね」

しれっとそう言って舌を出す。

細かい調整とかいろいろめんどくさい事を押し付けた事を根に持っているに違いない。

だけどさ、この前まで一般人だったんだよ、僕は。

それにサポートするって言ったじゃないか。すごい理不尽だ。

そんな事を思って何か言おうとしたが、

「さぁ、長官。さっさとお席にどうぞ。私もその話はすごく聞きたいので…」

ワクワクした表情で東郷大尉が僕の背中を椅子の方に押す。

「わかったよ…。ふう…」

覚悟を決めると僕は席に座った。

すると他の人たちも用意された席に座る。

そして、それを待っていたかのように料理が運ばれ始める。

さすがに昼からアルコールはまずいので、ジュースや果物を絞った汁を少したらした水だ。

立ち上がると東郷大尉に急かされてそれを手に取って掲げて乾杯の音頭を取る。

「お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でした」」」」

その場にいた全員がコップを掲げて音頭にあわせる。

ふう。

これで一山超えた。

そんな達成感にやっと満たされる。

しかし、これは始まりでしかない。

海軍の軍備増強。

各地区の防衛軍(陸軍)の創設。

各地区のインフラや設備の展開。

基地や港の設置。

緊急事態に対応できる政府機関の構築。

それに今回戦闘したウェセックス王国をはじめとする外の国との外国問題。

実に問題は山済みだ。

それも失敗が許されないものばかりときている。

しかし、放り投げるわけには行かない。

みんなの協力を得て、何とか解決しなくてはいけない。

やってやろうじゃないか。

僕は、ここにいる人たちだけでなく、今回力を貸してくれた人たちの事を思いつつ、その決心を心に刻み込んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 唐揚げの旨い、イタオウ地区から応援しときますわ。
[一言] 変な島名と思ってたら、九州やん。
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