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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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アリシア・エマーソン

「お父様。年末だというのにお仕事ですか?確か、お役所のお仕事は、昨日で終わりだっと思ったのですが…」

そう言って、自宅の書斎に篭って書類仕事をしているリッキード・エマーソンに声をかけたのは、黒と白のスラリとしたパンツスーツ姿の赤髪のセミロングの女性だった。

年の頃は十代後半に見えるが、今年二十歳となっている。

髪の毛は癖っ毛なのか少しウェーブがかかっているのを背中に流しており、整った顔の優しそうな目が印象的だ。

そして、なんとなく見た人にはわかると思うが、リッキードになんとなくだが似ているような気がするだろう。

そう、彼女の名は、アリシア・エマーソン。

リッキードの娘であり、今は彼の秘書をやっている。

周りはリッキードの子煩悩を知っている為、自分のすぐ傍にいさせるために秘書にしたと思っているようだが、実情は違う。

彼女は、リッキードのブレインとなって父親に色々とアドバイスしているのだ。

最初こそ、彼女のアドバイスを聞き流していたリッキードだったが、彼女のアドバイスの的確さに気がつき、今や彼のよき相談役となっている。

「ああ、年が明ければ東の方に行かなきゃいけなくなりそうだからな。今のうちに準備しているんだ」

その言葉にアリシアはくすくすと笑った。

「フソウ連合との講和交渉ですね?」

「ああ。もちろん、アリシアにも来て欲しい」

そう聞かれ、うれしそうに笑うアリシア。

「ええもちろんです。東の国々にはいろんな文化があると聞いています。すごく楽しみです」

「そうか。そうか。確かに民族としては我々よりも数段劣るが、それでもあいつらの文化とやらも馬鹿に出来ないものもあるしな」

その言い方に、アリシアは少し怒ったような口調で言う。

「お父様、そんな言い方は駄目ですわ。私達はお願いする立場ですから、下手に出ないと…」

アリシアがたしなめるも、リッキードは笑う。

「ああそうだったな。しかし、どうしてもあの劣った蛮族どもに頭を下げなきゃならんと言うのはな…」

ため息を吐き、そうつぶやくリッキードにアリシアは囁くように言う。

「いいじゃありませんか。いい気にさせておいても。最終的に、こっちが上だって事を教えてやればいいんです」

そして、ニコリと笑う。

「それに、こう考えてはどうでしょうか。我慢して相手に頭を下げてよいしょするだけで、本国、共和国内の圧倒的な支持を得られるんですから…」

そう言うとアリシアは書類の束を差し出した。

「これは?」

聞き返すリッキードに、アリシアは虫も殺さないような優しそうな微笑みを浮かべながら口を開く。

「お父様のいない間に、色々やりそうな人達のリストですわ」

「そうか。いつもありがとう。助かるよ」

「いえ。お父様の為ですもの。あと、そうですね、言わせてもらえるなら、赤丸でチェックを入れた人達には死んでもらったほうがいいかもしれませんね。その方が後々楽ですし…」

我が娘ながら、少し怖いな…。

そんなことを思いつつも、娘の発言にリッキードは苦笑する。

リッキードの妻、エリザベートは、実家の後継者争いに巻き込まれて血を血で洗う闘争の中で生き残った人物で、普段はのほほんとしているぼんやりした感じの美人だが、かなりの策士で陰謀家と言う話だった。

だから、誰も付き合おうとしなかったが、そんな話を信じなかったリッキードは彼女の美しさに惚れて強引に口説いたのだ。

また、付き合い始め、結婚する前にきちんと打ち明けられた時も大して気にしてなかったし、冗談だと思ったくらいだった。

そして、結婚してからもそんな素振りはまったくなく、彼も妻を愛し、妻も彼を愛して普通に生活してきた。

だから、多分、自分は試されたんだと思うようになっていた。

覚悟を試されたんだと…。

しかし、アリシアが生まれ、成長していくごとに、妻は娘を見て怖い顔をしてため息をするようになった。

気になってリチャードが何度も聞いた為、ついに折れて妻は言った。

あの子はまるで昔の私のようだ。

血で血を洗うかのごとき熾烈な後継者争いに巻き込まれてしまったときの自分のようだと…。

そして、言葉を続けた。

また、幼い今でもそう思うのだから、多分、これからますますそう思うことになるだろう。

そして、ますます狡猾になっていき、以前の私以上の存在になるだろう。

あの子は化け物だ…と。

その時はまさかと笑ったが、今思えば、妻はわかっていたのかもしれない。

自分の呪わしき血を強く引いていると…。

そして、十八になってアリシアは父の仕事を手伝いたいと言い出した。

その時は、もうすっかりそのことは忘れていて何気ない気持ちで許可したが、それが今の彼を作り上げる結果をもたらす事となったのである。

「さすがに、死んでもらうのはなぁ…。私は血が苦手なんだ」

わざとらしく怖がったような言い方をするリッキードに、アリシアはくすくす笑う。

「お父様はお優しいんですね。お母様もそういうところが好きになったんだと思います」

「そうかな…」

「はい。そうですよ。私だったらそう思いますもん」

「ははは。ありがとう」

そう言って笑った後、リストに目を落す。

結構な人数だ。

それに、最初の方にリストアップされている赤丸でチェックの入った何人かの人物は、確かに気が許せない相手ではある。

交渉がすぐに終わったとしても、二週間は戻っては来れないだろう。

その間、好き勝手されるのは癪だし、問題を起されるのはごめんだ。

さて、どうしたものか…。

そしてリストの後を見終わった後にも何枚かまだ書類があることに気がつく。

「これは…」

そう思わず呟き、書類に目を通していく。

そこには、赤丸でチェックの入った人物の汚点となる事が、簡単に書き記されていた。

見終わった後、リッキードは驚いた顔でアリシアを見る。

「ふふふっ。お父様なら、血を流すのを好まないと思いましたので、少し探りを入れておきました」

そう言って、アリシアはニコリと笑って言葉を続ける。

「みんな身の回りの事に無頓着な方ばかりで、実に簡単でしたわ」

確かにその内容は実に簡単に書かれてはいたが、その人物の一生を左右するような出来事ばかりであった。

どうやってこれを調べたのか…。

確かに、妻の実家にはそういったことに秀でている者たちがいることは知っていたが、まさかそいつらといつの間に繋がっていたのだろうか。

しかし、いくらそういう連中がいたとしても、短時間でこれだけの弱みを握るには、かなりの手際の良さと洞察力が必要となるだろう。

そして、それをまるで図書館で料理のレシピを書き写したかのような手軽さで出す精神…。

ぞくりと背筋に寒気が走った。

「お父様、それお役に立ちましたか?」

そう聞かれてびくんと反応し、リッキードはやっと我に返って頷く。

「ああ。これで黙らせられそうだ」

そう言って笑顔を返しつつ、初めて彼は妻が言っていた事を理解していた。


やったわ。

また父に褒めてもらった。

私にとって、父に褒めてもらえる事は最高のご褒美なのだ。

褒めてもらえると心がドキドキし、ぞくぞくとした喜びが身体を走る。

気分が高揚し、幸せな気持ちに満たされる。

多分、大好きな母がいなかったら、私は父を愛しただろう。

血が繋がっている、繋がっていないは関係ない。

それほどまでに私は父を愛しているのだ。

その父の政敵だったアランは死んだ。

聞いた話では、無様な死に方だったらしい。

ざまぁみろといいたい。

私の父を…。

私の大切で愛しい父を苦しませる存在は、地獄に落ちるといい。

これでやっと父が表舞台に出て動ける。

父の夢である共和国を手に入れる。

それを実現する為に、私は誓う。

これからも父の為にがんばると…。

父に褒めてもらう為に、どんな事もすると…。

そう思いつつ、私は微笑んだ。

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