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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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ポルメシアン商業組合本部会議室にて

中央に円卓と十二脚の椅子の置かれたかなり広い会議室といった感じの部屋は緊張に包まれていた。

ここは、ポルメシアン商業連盟の中心施設『ポルメシアン商業組合本部』の一室である。

ここに集まったのは、この国。

ポルメシアン商業連盟を動かす、十二人の大商人達だ。

それぞれが得意分野を持ち、世界的な富豪の集まりでもある。

彼らのうちの一人の財産でもちょっとした植民地の一地域の年間予算に匹敵する。

金は力である。

それゆえに、彼らはこの国だけでなく、世界各地に絶大な権力を持っていた。

「それでは、本年度の決算を報告させていただきます」

一人の男が立ち上がると円卓の周りに座る他の十一人の男女を見回して咳払いの後、報告を始めた。

他の十一人はそれぞれの態度で報告を聞く。

ただ黙って頷くもの。

微笑みながら聞くもの。

祈るように目をつぶり、手を組み合わせて聞くもの。

まさに十人十色といったところだろうか。

そして事細かな報告の後、最後に総合的な報告がされた。

「以上によって、本年度は売り上げ計画の実に102パーセントを達成する事が確実となりました」

その言葉の後にすぐに拍手が起こり、歓声が上がる。

だが、その拍手の中でむすっとした表情の一人の老人が手を上げた。

「盛り上がっているところ悪いが、一つ聞いてもいいかね?」

その老人が難しい顔のままそう聞くと、戸惑いながらも報告者は頷いて発言を促す。

「発言を許可してくれてありがとう。皆、計画達成を喜んでいるようだが、わしは不思議でならん」

老人の言葉が響き、さっきまであった拍手も歓声も一気になくなって静まり返る。

しかし、そんな事はお構いなしに老人は言葉を続けた。

「たしか、中間発表では計画の120パーセントは硬いと言っておったではないか。それが蓋を開けてみれば達成するのがギリギリのレベル。この差はなぜ生まれたのだ?」

その老人の疑問に、報告者はいくつか書類を確認し報告する。

「はい。中間発表では、王国と帝国の戦争、さらにフソウ連合と帝国の戦争による物資の消費でかなりの売り上げが見込まれていました。しかし、実際は帝国の取引は計画以上のものでありましたが、王国との取引が前年より大きく下がっており、戦争によって増える分と減った分を合わせますと以前報告した予想と結果の差となります。それにより王国関係の取引が大幅に低下した事が原因と考えられます」

「では続けて聞こう。なら、その売り上げの誤差の分の取引はどうなったのかね?まさか、王国がその分を取引しなかったわけではあるまい?戦争は膨大な消費でしかないからな」

老人の言葉に、報告者は「もっともなご意見です」と言って、再度資料を確認しだす。

しばしの間が空いたが、場は老人の言葉でざわめいていた。

「さすがは、アントハトナ老よ。目の付け所が違う」

「まさにこの議会の、いやこの国の長老よな」

「本当に、本当に…。あの方がおられるからこそ、この国は安定していると言える」

それぞれの言葉は老人を褒める言葉ではあったが、その老人本人はイライラしていた。

きさまらそんなことも考えていないのかと…。

何代も続く世襲によってこの国の責任者の質が実に落ちているのはわかっていたが、ここまでとは…。

実際に、ここにいるほとんどの者は父親の後、代々続く豊富な資金、揺るがない基盤、信頼できる部下、広大な輸送網をそのまま引き継いでいる。

故に商売はうまくいくものという事が当たり前となってしまっていた。

怒鳴りつけてやろうか。

老人がそう思ったとき、報告者が口を開く。

「お待たせいたしました」

「うむ。頼む」

「はい。王国の取引の減った分と増加予定分は、二つの国に流れております」

すぐに「合衆国かっ」という声が場に上がる。

しかし、もう一つの国の名前は上がらなかった。

後の国で、選択に残るのは、共和国と帝国、それに教国の三つ。

しかし、帝国は戦争の敵国のためありえない。

それに共和国は、反王国側なのでますますありえなかった。

残ったのは教国だが、教国が王国に肩入れするとは思えない。

どちらかと言うと、中立であり、他国との連携をあまり取りたがらない国だからだ。

なら…。

ざわざわとした中、報告者が言う。

「発言のありました合衆国と、最近王国との同盟を結んだフソウ連合との取引が一気に伸びております。特に、高価な戦艦や支援艦、それに弾薬などを王国がフソウ連合に注文した為、その分の材料や資材の取引が激減しております」

「それは本当かね?」

老人がそう声を上げる。

今までなら、戦艦といった軍艦は全て王国が国内で作るのが当たり前であり、海外に輸出さえされていた。

実際、この国の使用している軍艦の実に七割が王国製である。

それだけ王国は造船大国であり、工業に関してはかなり進んでいたのだが、その国が他国に自国で使う軍艦を発注するとは信じられなかった。

だからこそ、聞き返したのだろう。

「ええ。間違いありません。大型戦艦六隻と支援艦四隻が発注されたと…」

大型戦艦という単語で場がざわめく。

大型戦艦…。

それは帝国のテルピッツやビスマルクを指す言葉であり、二艦が王国艦隊を殲滅した話はかなり広まっていた。

そして、王国にフソウ連合からそれに匹敵する大型戦艦が譲られた事も…。

「フソウ連合は、やはり大型戦艦を建造できるというのか…」

呟くように老人が言うと、今度は皆に聞こえるように口を開く。

「どうやら、来年度は、そのフソウ連合と言う国と本格的に交渉に入らなければならないようですな」

その場にいた全員が頷く。

老人に無能と思われているとしてもさすがにそれくらいはわかるらしい。

そして、それで年末に行われる決算会議が終わるはずであった。

しかし、進行をしていた男が終わりを宣言しようとした時だった。

ドアが激しく叩かれる。

「誰かね?」

ドアに近い男がめんどくさそうに声をかけると、一人の男が駆け込んできた。

「会議中申し訳ありません。緊急です」

荒い息でそう報告されれば、報告するように促すしかない。

「わかった。報告したまえ…」

「はっ。報告させていただきます」

そう言って男は紙の内容を読み上げていく。

「本日、植民地から本国に向っていた客船ランフートと貨物船クルフォントの二隻が海賊に襲われました」

その報告に場が一気にざわつく。

「またか…」

「しかし、ちょっと待ちたまえ。護衛がついていたのだろう?」

その問いに報告してきた男は頷き答える。

「もちろんであります」

そして、紙に書かれている続きを読み上げた。

「相手は、海賊国家サネホーンだと言う事です…」

ため息が場に幾つも漏れる。

老人がぼそりと言う…。

「やはり、どうやら潰さねばならぬ頃合いと言う事か…」

「しかし、老よ。まさかわが国だけで対処は…無理です」

発言した男に侮蔑の視線を向けると、老人ははき捨てるように言った。

「誰が我が国だけでと言ったかね?」

「しかし、帝国も王国も共和国も戦力を失い疲弊しております。教国はほぼ間違いなく興味は示さないでしょう。残るは合衆国ですが、あの国は、あのあたりにルートは持っていませんし、海上戦力も期待できるほどではありません」

その言葉に賛同する声が幾つも上がるが、そんな連中を見回した後、宣言した。

「あるではないか…。王国、帝国、共和国を退けた、このような事にもっとも相応しい国が…」

その声に、誘導されたかのように国の名前が誰かかの口から漏れた。

「フソウ連合…」

「そう、そうよ。連中を動かせばよい」

「しかし、動くでしょうか?」

聞いてくる男に老人はせせら笑って言う。

「動くのではない、動かすのだ。うまく使ってな…」

老人はそう言うとニタリと笑みを浮かべるのだった。

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