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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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海賊

穏やかな海の上を進む二隻の艦影があった。

どうみても帝国海軍の装甲巡洋艦だが、国旗も軍艦旗も掲げておらず、さらに所々被弾していたのか破損している。

また型式が古いのだろうか。

古びた印象を受ける。

しかし、艦体の方は故障も大きなトラブルもないのだろう。

波を切って進むスピードは、通常の巡航速度を維持している。

だが、その二隻の艦の進む先に帝国領はない。

この海域は、植民地とそれらを統治する六強を行き来する船の通り道となっているが、帝国は今、植民地は所有していない。

ゆえに、ここを通る事はあまりなく、また、作戦行動にしてもあまりにもおかしな動きである。

そんな二隻の視界にゆっくりと進む船影が入った。

装甲巡洋艦ほどの大きさのものが一隻と戦艦ほどの大きさのものが二隻。

装甲巡洋艦ほどの大きさの艦は、間違いなく装甲巡洋艦だろう。

それも新しいデザインから、最新鋭と見受けられる。

80メートル程度の全長に12センチ連装速射砲八基と7.62センチ単装速射砲八基、魚雷発射菅単装四基の装備を搭載しており、艦隊決戦よりも護衛任務向けの装備だ。

次に、戦艦ほどの大きさの船だが、こっちは武装らしい武装は見当たらない。

大きさは全長130メートルにも及ぶものの、どうやら民間の船らしく真っ白の船体に所々に鮮やかな青いライン引かれ、実にのんぴりと動いていた。

どうやら後方の二隻は、客船、或いは貨物船のようだった。

先行する装甲巡洋艦が、目の前に現れた装甲巡洋艦二隻に向って発光信号を発する。

段々と距離が近づくにつれ、国旗も軍艦旗も見えないことに疑問を持ったのだろう。

念のためとは言え、乗務員はそれぞれ所定の位置に居て、いつ戦いが始まってもいいように体制を整えている。

そして、手旗信号で後方の二隻の船に距離を置くように指示をした。

ここ最近、この海域には、海賊が出没する。

だからこそ護衛として装甲巡洋艦が付けられ警戒しているのだ。

手旗信号を受け、後ろの二隻はスピードを落し、先行する護衛の装甲巡洋艦と距離を置き始める。

その距離は段々と広がっていき、取り残されたように見えるが、これはいざとなったら、後ろの二隻を逃がす為だ。

段々と二隻の不審艦と先行する装甲巡洋艦の距離が近づく。

三度行われた発光信号と交際周波数の無線からの返事はない。

そして、我慢しきれず護衛の装甲巡洋艦の艦長が警告に威嚇砲撃の命令を出そうとした時だった。

それを見計らったように不審艦から砲撃が始まった。

距離的には射程距離には入っているものの、まだかなり距離があるために命中率はそれほどよくない。

いや、多分、十中八九当たらないだろう。

だから護衛の装甲巡洋艦の周りに水柱が幾つも立つものの、艦から大きく離れている。

「ふんっ。馬鹿めっ」

敵の動きに、護衛の装甲巡洋艦の艦長はニタリと笑うと発光信号で後方の二隻にこの海域から離れるように指示し、戦闘速度へとスピードを上げた。

「敵艦を海賊船と認定する。各自戦闘用意」

艦の中が活気づき、次々と砲塔が敵に標準を合わせる為に動かされる。

「戦闘準備、完了であります」

その報告に、艦長は頷くと命令を発した。

「海賊は捕虜にせずそのまま死刑が国際ルールだからな。気にせずドンドン打ち込めっ。砲撃、開始ーーっ!!」

装甲巡洋艦も砲撃を開始し、双方の艦の周りに幾つもの水柱が立つ。

しかし、命中はない。

お互いの砲撃の熟練度は並といった感じだが、それでもかなりの砲撃の打ち合いに一発の命中もそれどころか掠めたりするものさえないのは、距離が離れていると言う事と、その距離をつめさせずに一定の距離を保ちながら砲撃している装甲巡洋艦の動きのせいだった。

装甲巡洋艦としては、別に戦いに勝つ必要はない。

護衛対象の二隻の船を逃がせばよいだけだ。

だから、その分の時間を稼げばいい。

この護衛の装甲巡洋艦の艦長はその辺を理解していた。

「どうだっ?お客さん達は無事この海域を離れられそうか?」

艦長の叫ぶような声に、無線士が叫び返す。

「どうやら、上手くいきそうです。まもなくこの海域を抜けるとのことです」

「よしっ。それじゃ、そろそろお暇をいただこうかっ。各自、逃げるぞ」

艦長の軍人らしからぬ「逃げるぞ」という命令に、艦橋内の搭乗員達から苦笑が漏れたが、文句があるはずもなくすばやく撤収準備に入る。

艦の向きを変え、一気に最大戦速へと切り替える。

敵の砲撃は続いてはいるものの、無駄な砲撃をもうする必要はない。

三十六計逃げるが勝ちである。

海賊の方も逃がさないとスピードを上げるものの、段々と距離が離れていく。

それはそうだろう。

この装甲巡洋艦は王国の高速巡洋艦アクシュールツと同じ新型の石炭専焼水管缶と直立型三段膨張式レシプロ機関を採用しており、最高速度はアクシュールの25ノットよりは劣るものの、23ノットを記録。さらに航続距離は、他の一般的な装甲巡洋艦の1.2倍を誇っている。

もっとも、最近、合衆国が採用したフソウ連合製の護衛駆逐艦ジョン・C・バトラー級に比べれば大きく劣るものの、それでも他の装甲巡洋艦よりははるかに高性能でまさに船団護衛に最も適した艦艇といえる。

そして、あっという間に距離が離れ、敵の砲撃が止まる。

海賊による狩りは失敗したのだ。

「ふふんっ。ざまぁみろ、海賊どもがっ」

艦長はそう呟くように言うと、進路変更を命じる。

「よしっ。このまま一気にお客さんに追いつくぞ」

はるか先に先行する二隻に追いつく為にスピードはそのままだ。

艦体が激しく揺れるが、それはいつもの事だ。

乗組員達は、今日も何事もなく無事に生き延びた事にほっとした。

それと同時に、「さすがは艦長だ」という認識を強くした。

だが、普段なら、それで終わりのはずだった。

しかし、今回はそれで終わりではないのである。

「か、艦長っ、先行する二隻から無線連絡っ。前方に二十隻近くの艦隊を発見し、こちらに向かって来ているそうです」

「なにっ?どこかの国の艦隊じゃないのかっ?」

「少しお待ちください…。確認するとのことです」

そして数分後…。

「どうやら違うようです。国旗、軍艦旗は見えないと…。ただ…」

「ただ?何だ?」

ごくりと唾を飲み込み、通信士が言葉を発した。

「黒地に白で三つの爪の様な模様が…」

さーっと艦長の顔色が変わる。

「そ、そりゃ、海賊国家サネホーンの艦だっ。すぐに逃げるように伝えろ。さっきの三下海賊とは桁が違う」

しかし、艦長の指示を伝えて返ってきた返信を、通信士は青い顔をして伝える。

「駄目です。もう包囲されたと…あとは…助けてくれと言う連呼ばかりで…」

「くそっ…」

艦長が海図の乗っているテーブルを叩く。

さっきまで意気揚々と海賊をあしらっていた艦長の姿はもうそこにはない。

そこには苦虫を潰して、怒りに震える男が居るだけだ。

「か、艦長…救援を……」

副長がそう声をかけるも血走った目で睨み返される。

「お前は馬鹿か?二十対一でどうにかなるとでも思っているのか?」

「い、いえ…。ですが、さっきのように…」

「無理だ。よしんばどうにかする術があったとしても、もう間に合わない…。現場にたどり着いたときは連中は略奪の真っ最中だ。そんな時にちょっかいを出してみろ。徹底的に潰されるぞ」

搾り出すような苦しみの艦長の声をこの艦に乗るようになって副長ははじめて聞いた。

彼だって助けに行きたい。

しかし、絶望しかないのに部下と共に突っ込む事はできないと言うことなのだろう。

「わかりました」

素直に副長は下がり、頭を下げる。

そして、艦長は下を向いたまま命じた。

「事件の報告をせねばならん。このまま目的の港に進むぞ……」

敗北感に打ちのめされた男の声だが、乗組員はほっとしていた。

海賊国家サネホーンの恐ろしさを知らない船乗りは、この装甲巡洋艦にはほぼ皆無で、彼らに戦いを挑むのは国単位でしか無理だという事を知っているからだ。

だからこそ、表には出さないものの、彼らは艦長の決断を責めるどころか賞賛するのだった。

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