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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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転移した先で…  その2

「熱いからな。気を付けな…」

ふーふーと息を吹きかけ少し冷ました後、船長は匙をアンネローゼの口に近付けてくる。

匙の中には大麦をミルクで煮込んだもの…要はミルク粥らしきものが入っており、空腹の身としてはなかなか美味しそうではある。

しかしだ。

手足が痛みでろくに動かせない為に、このような状態なのは諦めがつく。

だが、「あーん」と言って匙を近付けてくるのは止めてほしい。

そう思って言ってみたものの、「ああ、わかった」と返事をされてすぐにまた「ああーんっ」と言われて食事の介護をされてしまう。

どうも本人は意識していないで思わず言ってしまうらしかった。

まぁ、今はともかく食べて体力と傷を治さなければならないのはわかっている。

だから、諦めて口を開くと、程よい熱さのミルク粥が口の中に入ってくる。

よく煮込んであって軽く噛むだけで大麦が解けるような感じで小さくなっていく。

ああ…すごく美味しい…。

多分、塩だけのシンプルな味付けだが、空腹という最高の調味料の為、今まで食べてきたどんな高級料理よりも美味しいと思った。

だから、まぁ、それはいい…。

しかしだ…。

問題は介護するほうだ。

なんでそう嬉しそうなんですか。

ごつい感じのどっちかと言うと醜男の部類に入る船長が実に…本当に嬉しそうに介護しているのだ。

「あのね…船長…さん」

「なんだい、べっぴんさん」

次の分を匙で救いって聞き返す船長。

「食事させてくれるのはすごくありがたいし…助かってる…。本当に感謝してるわ。でもね…」

「でもってなんさ?」

「何でそんなに嬉しそうなのよ…」

アンネローゼは少し呆れ顔でそう聞く。

すると即効で返事が返ってきた。

「そりゃ決まっている。こんなべっぴんさんのお世話が出来るんだ。幸せに違いないだろう?」

そういわれて、アンネローゼの頬に熱が篭る。

今まで魔術を使い、女を武器にして男たちを好き勝手に使ってきた。

しかし、ここまで純粋に男性が好意を寄せてくれた事などなかったと思う。

だからこそ、アンネローゼは心臓がドキリと高鳴ったのがわかった。

やばい…。

今までいろんな危機を知らせ、生死の境を彷徨って来た私を救ってきた第六感が心の奥底で警告を発していたが、なぜか今はそれはどうでもいいように思えてしまっていた。

しかし、どう答えたらいいのだろう…。

えっと…この場合は…。

「そ、そう…。それはよかったわね」

「ああ。なんか、一番末の妹の世話していた頃を思い出して幸せな気持ちになれるんだ」

その言葉に、なんかがっかりしている自分がいることにアンネローゼは驚いていた。

なによ、これ…。

私、何で落ち込んでいるのよ。

まるで初めて恋をしている乙女じゃあるまいし…。

そう思って、混乱するアンネローゼだが、彼女は気が付いてはいない。

彼女にとってこれが初恋だという事を…。

生まれてから類まれなる美貌と魔法の力を与えられた為に、彼女は恋をすることがなかった。

男はその気になれば、どんな相手でも好きに出来る。

だからこそ、相手に溺れる事はなく、まるでゲームのような感覚で今まで恋愛と思っていた事をしてきた。

そして、その為、惚れるという事を彼女は経験してこなかった。

だから、彼女は今初めて恋をしている。

今までの男の中で、それこそ底辺と言ってもいい醜男だが、彼女は無意識のうちに船長に惚れてしまっていた。

最初は、些細な事だった。

今まで見たこともないような笑顔。

しかし、それは彼女の心にはっきりと刻まれていた。

今まで刻み込まれた記憶の中でも深く、深く…。

そして…パスワードを唱えて飛ばされた場所。

それは船長のところだった。

そして、今、彼に助けられ…そして生き残る事が出来た。

感謝の気持ち…。

しかし、それだけではない心の思い。

それだけで十分だった。

そんな事を思いつつ、食事をしていく。

匙一杯ごとに息を吹きかけて熱をある程度冷まして食事をする為に、粥一杯でも実に三十分近く時間がかかった。

そして、水の入ったコップが口元に寄せられ、それを口に含む。

ふう…。

食事がお腹に収まった事で、生きているという実感が余計に感じられる。

「ご馳走さまっ。たいしたものじゃなかったけどよ」

「いいえ。美味しかったわ」

アンネローゼの言葉に、船長は照れたような顔で返事をする。

「べっぴんさんの口にあってよかったよ」

「アンネローゼ…」

「へっ?!」

「だからアンネローゼ」

きょとんとした顔で船長がアンネローゼを指差す。

「それって…」

「私の名前よ。そうね。貴方には特別にアンネって呼んでもいいわ」

船長がぱくぱくと口を動かしている。

まるで陸に引き上げられた魚のようだ。

くすくすと笑いかけて、痛みが身体に走りアンネローゼは顔を歪める。

「お、おいっ、べっぴんさんっ、大丈夫かっ?」

慌ててそう聞き返す船長に、アンネローゼは大丈夫と言う事を示す為に微笑む。

「アンネ…よ」

そう言われて、しばし時間が開いたが、意を決したのだろう。

「ア、ア…アンネ…さんっ…」

「はいっ」

そう返事を返すと、真っ赤になった船長がそこにいた。

なんかすごくかわいいとアンネローゼは思う。

なんとか雰囲気を変えようと思ったのだろう。

船長は空っぽになった皿を見て言う。

「えっと…だな…。次もさっきの食事でいいか?」

「ええ。すごく美味しかったわ」

「そ、そうかっ。それはよかったよ」

そう言ってほっとした表情を浮かべる船長。

それでもしかしてと思って声をかける。

「もしかして…あのお粥…船長さんが?」

「ああ。言っただろう?こう見えても赤ん坊や子供は大好きでな。よく世話をしてたんだぜ。さっきの粥も、お袋から教わったうちの粥だ」

まだ顔は赤いものの、実にうれしそうにそう言って豪快に笑う。

所々抜けた歯が見える為に、どう見ても美形ではないものの、その心からの笑顔にアンネローゼは見とれていた。

ああ、なんて気持ち良さそうに笑うんだろう…。

私もあんな風に笑いたいと…。

そして、口が自然と開く…。

「いいお父さんになれそうね…」

「ああ、妹にも言われたが、この顔じゃなぁ…」

その船長の言葉には少し諦めの色があったが、自虐しているわけではないようだった。

「そう…。そうなんだ…」

心の奥底でなんか嬉しいと思ってしまう。

「ならさ…私の事…」

そう言いかけたが、それ以上は口にできなかった。

自分が口にしようとした言葉の意味に戸惑ったのだ。

そして、それが許されるはずもないと言うのに…。

私、何を言いそうになってたの?

無意識のうちとは言え…私は…なんで…。

視線を落して口ごもった様子に船長が何かあったのかと思って聞き返す。

「ん?何だ?傷でも痛むのか?」

「いいえ。なんでもないわ」

「そっか…。ならいいけどよ」

船長がそう答えた後だった。

アンネローゼは自分の身体の変化に慌てた。

口から入れば、出るのが道理と言うわけで…。

「えっと…ごごめんなさい…。あのね…」

「何だ?」

言わなければどうにもならないと理解はするが実に言いにくい。

ましてや好意を持っている相手となるとなおさらだった。

しかし、このままでは結局どうにもならない。

だから、アンネローゼは顔を真っ赤にして小さな声で何とか口にする。

「えっとね…トイレに…」

「あ?ああ。手伝うぞ」

船長がそう言ってベッドの下からボロボロのタオルのようなものと何やら蓋のついた桶のようなものを取り出す。

どうやら尿器といったところだろうか。

すーっとアンネローゼの顔から血の気が引く。

「えっ…いや…トイレに…」

「何言ってるんだ。そんな身体でトイレに行けるわけないだろうが」

「で、でもっ…」

「それに、もう何度もしてるから安心しろ。あとな…一応言っておくが変な事はしねぇし、してねぇから」

その言葉の意味すること…。

それは…意識が戻るまで…下の世話をされていたと言う事で…。

結局、アンネローゼに出来る事は言葉にならない叫びを上げる事だけであった。

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