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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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講和への動き…  その2

マシガナ地区のナワオキ島に停泊しているアカンスト合衆国豪華客船ミッシルフール。

その奥の一室に二人の男がいた。

一人は何やら手渡された紙に視線を落とし、もう一人はテーブルに置いてあった冷えたコーヒーを取り替えている。

紙を読んでいる人物は、フソウ連合に派遣された合衆国の特使であるアーサー・E・アンブレラ。

そして、コーヒーを取り替えているのは、彼の秘書だ。

部屋の中には、報告書やら資料やらで散らかっており、またアーサーの格好からずっと部屋に篭りっきりでいたことがわかる。

服はよれよれで無精髭はぼうぼう。

その上、ろくに寝ていないのだろう。

目の下にはクマがばっちりと浮かんでいる。

だが、それは無理もないだろう。

自分のいる目と鼻の先で、帝国と共和国の大艦隊とフソウ連合海軍との大海戦が行われたのだ。

戦術や戦法といったこの研究に入れ込んでいるアーサーとしては、まさに蛇の生殺し状態といっていいだろう。

だからこそ、少ないながらも構築中だったフソウ連合の情報網を駆使して情報を集め、今回の戦いを検討していた最中であった。

そんな中、本国から特使のみという暗号電文が送られてきた。

せっかくの楽しみの最中に邪魔をされてしぶしぶといった感じではあったアーサーだったが、解読した情報に目を通し始めると、その渋い表情が変わっていった。

「これはこれは…また…」

本国からきた暗号電文に目を通し終わるとアーサーは苦笑した。

その様子に、新しいコーヒーを用意し終わった秘書が思わずといった表情で聞いてくる。

「それで本国からはどんな連絡が来たんでしょうか?」

もし国家機密や重要な事ならアーサーは笑って何も言わないだろう。

長年の付き合いで、それくらいはわかっていた。

だから、あまり返事は期待していない。

ただ、ここ最近篭りっきりだった上司を心配して声をかけたという部分が大きかった。

しかし、どうやら、今回は話しても問題ない内容のようだ。

アーサーは苦笑したまま口を開く。

「なぁに、本国がフソウ連合に恩を売りたがっているなぁと思ってね」

「恩…ですか?」

「ああ。恩だよ。どうも共和国との講和の橋渡しを画策しているようだねぇ」

暗号電文の紙を右手に持ってぴらぴらと動かしながらそう言った後、紙を秘書に手渡す。

そこには、フソウ連合とフラレシア共和国の講和の現地手配を命ずると大統領の指示が書いてあった。

それに目を通し、アーサーに渡そうとするも拒否され、仕方なくテーブルの上に紙を置く。

多分、半日後にはごちゃごちゃになってしまって探すのが大変になるだろうと思ったが、他に置く場所がなかったので仕方ない。

そして、一応、他の資料や報告書と混じらないように少しずらしながら置いて口を開く。

「上手くいくといいですね」

秘書のその言葉に、アーサーは暖かいコーヒーカップを口に運びつつ言う。

「上手くいくとかじゃないよ。あいつならどんなことをしたって上手くやってしまうさ」

アーサーの口調にピンときたのだろう。

秘書が苦笑を浮かべて言う。

「もしかして…交渉は…あのお方ですか?」

「ああ、あのお方というより、私から言わせるとあの野郎って言うのが正しいけどな」

「いや…その言い方は…」

秘書が慌てたように言う。

それはそうだろう。

自分よりも上位であり、大統領のお気に入りである人物をあの野郎なんて言える訳がない。

陰口でさえ身の危険を感じてしまうほどなのに…。

実際、自分の同期が三人ほど奇々怪々な事故や事件で亡くなっている。

全員が、その人物を快く思っていなくて、色々陰口を言っていた連中ばかりだ。

決して、あの人物が手を下したとはわかっていないし、証拠もない。

しかし、そうしてしまう権力と雰囲気を持っている男である事は間違いないと言える。

そして、そんな男に、あの野郎なんていえるのはほんの数人といったところで、アーサー・E・アンブレラは、その数少ない数人の内の一人だった。

「あ、そうだったね。すまないな…」

多分、秘書の恐れがわかったのだろう。

慌てて謝罪するアーサー。

「いえ。ありがとうございます」

秘書も慌ててそう言って頭を下げる。

「しかし…」

そう言いかけてアーサーは考え込む。

共和国は以前赴任していた地だが、軍師亡き後、あの国を引っ張っていけそうな人物などいただろうか。

みな、二流、三流の政治屋しかいない。

それが彼の素直な感想だった。

それに、あまり興味ないことには関心を示さなかったという事もある。

だからそれに相応しい人物を思いつかない。

しばらく考えたものの、ついに諦めたのだろう。

「なぁ、軍師亡き後の共和国を引っ張れそうな人物に思いつくやつはいるか?」

アーサーはそう秘書に聞く。

その質問に、秘書は少し目を瞑って考える。

そして、おもむろに思いついた名を順に上げていく。

その度に、「ああ、あいつは無理だ」とか「ああ、あれは年をとりすぎていて、話にはならんだろう」と言われ、名前を挙げた人物は次々と否定されていく。

そして、ついにある人物の名前で、アーサーは黙って考え込んだ。

リッキード・エマーソン。

共和国の議員の名前だ。

何度か話したことがあるが、相手を見下したような物言いと砂糖にハチミツをたらして混ぜ合わせたような自分勝手な甘い思考の持ち主である。

ある意味、性根の腐り具合は軍師と変わらないレベルではあるが、挫折を知らなかった軍師より、挫折を味わわされていた分マシであろう。

確かにあの男なら、ギリギリといった採点ではあるが、共和国を引っ張れよう。

しかしだ。

所詮、彼は良くいっても二流政治屋でしかない。

何かの出来事で二流は一流になれる事があるかもしれないが、政治屋はまず政治家へとなる事はないだろう。

政治家は国民の為、国の為に動くが、政治屋は、所詮自分の為でしか動かない。

だからこそ、彼を担ぐ事になる国民が哀れになる。

もしかしたら見捨てられるかもしれない相手を盛り上げているのだから…。

ふう…。

アーサーの口からため息が漏れた。

「あとは…誰が思いつく?」

その後に秘書の口から十人程度の名前が上がったが、アーサーによってすぐに否定されていく。

そして、結局残ったのは、リッキード・エマーソンだけだった。

実に共和国の現状が嘆かわしく思えてしまう。

やはり長期赴任していた為に思い入れがあるということなのだろうな。

アーサーはそう思うことにした。

そして、秘書に共和国の資料を纏めるように指示を出す。

もちろん、ある程度までだ。

その辺の加減は長年の付き合いでこの秘書はわかっているから心配する必要はない。

「了解しました。それで資料の送り先は、フソウ連合海軍司令長官鍋島様でよろしいですね?」

そう秘書が聞いてきたので、アーサーは頷く。

こっちの思考をある程度読んでくれる秘書は実にありがたいと思う。

だから、ついつい軽口が出た。

「ああ、この前の護衛駆逐艦の礼という事でサービスしておけよ」

笑いつつアーサーがそう言うと、秘書も笑いつつ答える。

「それでは、共和国の資料全てをお渡ししなければならなくなりますが…」

「それは困ったな。そのうち、うちの持っている全ての国の情報を全部開示しなくならなくなりそうだ。だから、ほどほどにな…」

「はい。では、ほどほどにしておきます」

そう言うと、秘書は資料作成の為に退出した。

部屋にひとり残されたアーサーは窓を開ける。

肌寒い空気が部屋に入り込んできて、一気に部屋の温度を下げた。

しかし、それが気持ちよかった。

「ふう…。これからますます忙しくなりそうだな」

そう呟くと空を見上げる。

空は重い雲に覆われ、今にも雪が降りそうになっていた。

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