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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十一章 戦いの後に… 世界編

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講和への動き…  その1

フラレシア共和国中央議会。

共和国建国百年の歴史の中で建築されたものの中でもっとも立派な建物であり、共和国国民の為に作られた記念すべき行政施設である。

その中でも議員三百人が入れる人民大会議室は、今や熱気に包まれていた。

理由は簡単である。

その人民大会議の中央にある発言席に一人の男が演説をおこなっていた為だ。

そして長々と続いた演説も無事終わり、彼は最後に叫ぶように宣言した。

「それでは、私はこれより共和国の為に、共和国国民の為に、講和を結ぶ使者としてフソウ連合に出発したいと思います。皆様、私は必ずややり遂げてきます。どうか、吉報をお待ちください」

その宣言と共に、会場は一気に総立ちとなり拍手が惜しみなく降り注がれた。

男は、神妙そうな顔をしつつ頭を下げていたが、心の中で笑いが止まらなかった。

この男の名は、リッキード・エマーソン。

年は今年四十になったばかりのまだまだこれからといった感じのエネルギッシュな男性で、短く整えられたグレーの髪を後ろに流し、整った顔つきでかなり女性受けしそうなタイプだ。

スタイルも本来ならかなり良いのだが、ここ最近は少し太り腹が出ているのはご愛嬌と言っていいだろう。

愛妻家で、結婚以来、彼の体重は減る事を知らない。

要は、私生活ではかなり幸せであるという事だ。

しかも、彼は共和国ではかなりの発言力を持つ重鎮であったカーチス・エマーソンの息子であり、父の地盤をそのまま受け付いている。

つまり、彼もまた父親と変わらずに共和国ではかなりの発言力を持っているという事になっている。

しかし、ここ数年は軍師アラン・スィーラ・エッセルブルドによって弱みを握られ、逆らえなくなってしまっており、自分よりはるかに若い男に顎でこき使われ、屈辱の日々が続いていた。

だが、そんな彼に転機が訪れる。

フソウ連合海軍との戦いで、軍師アラン・スィーラ・エッセルブルドが死に共和国の主力艦隊が壊滅してしまったのだ。

共和国にとって悲報でしかないこの二つの出来事は、しかし神が彼に与えた好機であった。

彼は、混乱する議会をまとめ上げ、全ての責任を軍師アラン・スィーラ・エッセルブルドに押し付ける事に成功したのだ。

もしアランの普段の行いに問題がないのなら、ここまで簡単には思い通りにはならなかっただろう。

しかし、彼は自分は何でも出来ると思っていた。

そして、自分の思い通りに何でもなると思っていた。

それゆえに自分の欲望に忠実であった。

だからこそ、彼は人々に好かれていなかった。

毛嫌いされていたといっていいだろう。

しかし、それでも国を救い、敵を倒している間は容認された。

彼は特別だと…。

しかし、戦いに敗北し、艦隊をほぼ壊滅させ、国を危機に陥れた時、世論は一気に逆転した。

こうしてかつての英雄は今や国を危機に陥れた売国奴へと堕ちていくことになったのである。

リッキードは、自分の思ったとおりになったことに歓喜した。

そして、そんな彼の元に合衆国からの使者が来る。

フソウ連合との講和を取り持とうという話を持って…。

最初こそあまり乗り気ではなかったリッキードだったが、帝国擁護派でなかったのも大きかったのだろう。

彼はこの話に乗ることにした。

軍師によって引き起こされたこの戦いを終わらせたかったし、なによりこのまま帝国と共倒れはなんとしても避けたかった。

それに、あの性格や行動はともかく、軍事では異彩を放つ男の策と圧倒的な主力艦隊を打ち負かした事で、共和国にいる者にとってフソウ連合は恐怖の対象となっていた。

もしかしたら、本国まで攻め込んでくるかもしれない。

そして自分たちの祖国を占領し、植民地にしてしまうかもしれない。

彼らは恐れていた。

自分たちよりも劣等民族である東の民族によって支配される事を。

それは裏を返せば、彼らが東の民族を野蛮な劣等民族として蔑み散々やってきた事をやり返されるだけという事だ。

なのに、それを恐れていた。

今まで自分達が国を侵略し、植民地化してきた事を棚に上げて。

だからこそ、彼はこの大役を引き受けた。

次は、私が救国の英雄になるのだ。

彼の心の中にはあまりにも大きすぎる野心の炎が燃え上がってしまっていた。


「さすがですな。いい演説でした」

控え室に戻ってくると手を叩きながら一人の男がリッキードを出迎える。

合衆国大使、サキ・E・ヴェリュームである。

三十後半ぐらいの小太りの眼鏡をかけたさえない容姿だが、愛嬌のある表情と巧みな話術で合衆国大統領アルフォード・フォックスの懐刀といわれるほどの人物だ。

「ああ、ありがとう。貴公にそう言ってもらえるとは、うれしい限りだ」

「いえいえ。わたしなんてまだまだですよ」

そう言いつつ表面上ではニコニコと笑っているサキだが、リッキードには心の中では何を考えているのかわからないなという印象を受けた。

しかし、今回の件は、共和国内で自分の地盤を強め、歴史に名を残すチャンスでもある。

だからこそ、この提案に乗ったのだ。

「そういえば、譲渡の植民地は決まりましたか?」

「ああ、決まったよ。アルンカスを譲渡する事にした」

リッキードの言葉に、サキは聞き返す。

「アルンカス、もしかしてアルンカス王国の事ですかな?」

「ああ、そのアルンカスだ」

ニタニタ笑いつつそう言うリッキードにサキはニコリと笑い言う。

「そうですか。確かまだ植民地にして二年程度しかたっていないと思いましたが…」

「まぁ、他の候補地もあったのだが、本国とあまりにも離れすぎている所は大変だろうし、うまみも魅力も薄れてしまうだろうからな」

「そうですな。確かにその通りです。最近は、輸送船や客船を狙った海賊なんかも横行してますから、距離がありすぎては彼らも納得しないでしょう」

サキの言葉に、リッキードは笑う。

「そうだろう。そうだろう」

リッキードの笑い声が部屋中に響き、サキも微笑んでいる。

しかし、リッキードは笑う事で気が付かなかったが、サキの唇が笑いつつも少し動いていた。

それは微かにだが、「この糞野郎が」と読む事がで来る。

アルンカス王国。

二年前、武力によって共和国の植民地とした王国だ。

共和国は武力によってアルンカス王国の富と権利を略奪し、王族の誇りさえも奪い去り、徹底的に虐待していった。

共和国にとって、東方の国は、劣った民族の作ったくだらない国であり、何をしても許されると思っていた。

だから、共和国はいつもやっている事を実施しただけにすぎない。

しかし、アルンカスの民は、誇りを持つ反骨精神たくましい民族であった。

王族は民を守る為に頭を下げ服従し、民衆も共和国に表面上は従ってはいたものの、裏では反共和国となった王国軍の一部に秘密裏に協力していた。

それゆえに、共和国側は王族のほとんどを殺し、民衆に見せつけて反逆の心を折ろうとしたものの、それはかえってより強い反共和国への反動にしかならず、余計に混沌となってしまっている。

その為、二年が経とうとしていたが、この地は植民地としてはうまく機能しない問題のある地域だった。

要は、一番近い場所と言う理由だけで、そういう厄介な地域を押し付けようと言う腹らしい。

事前に情報を持っていたサキは、共和国側の考えをそう読んだ。

この事をフソウ連合に知らせるべきだろうか?

一瞬、そう迷ったが、サキは黙っておく事にした。

それは、彼の友人であるフソウ連合への大使として派遣されたアーサー・E・アンブレラの手紙にフソウ連合を褒め称える内容が多い為だった。

彼がそこまで褒めるのだ。

これぐらいの事は察して対応するに違いない。

もし対応できなかった時は、出来なかった時で、その時はフソウ連合としての問題になっている。

合衆国は関係ない。

だから、サキは事の成り行きを楽しむ事にしたのだった。

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