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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十章 戦いの後に… フソウ連合編 

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日誌 第百五日目

僕は会議室をぐるりと見回すとため息を吐き出した。

さっきから進まない今の展開にうんざりしているといっていい。

まぁ、予想通りなんだけどね。

ただ、予想通り過ぎて、もうね…。

呆れた顔で言葉もなく、言い争う責任者達の方を見ていたが、あまりにも終わりそうに無いので後ろに座っている三島さんをちらりと見る。

どうやら進展の無い展開が続いている事に三島さんもうんざりした顔をしていた。

さっきから会議が進まない理由。

問題になっているのは、イタオウ地区の件だ。

行政機構と産業が大ダメージをうけた地区をどうするかと言う事だが、暴動があった地区、それも問題だらけの地区を誰もやりたくないのは明白だった。

それはそうだろう。

今のところ、各地区ともうまく役割分担化が進み、そこそこうまく周っている。

うまくいってないのは、イタオウ地区のみと言う有様だ。

特に、ガサ地区とカオフク地区の二つは、かなりの発展をしている。

まぁ、ちょくちょくマシナガ本島に来ては、相談されてたからなぁ。

おかげでこの二つの地区は、農業と畜産などが軌道に乗り、実にフソウ連合の消費食料の八割以上をまかなえるほどになっていた。

だからこそ、本会議の議長がシマカゴ地区の西郷さんから、ガサ地区の角間さんに変わっているのもその辺の絡みだと思う。

ちょっと話が逸れたが、つまり誰がこのお荷物の地区の尻拭いをするかと言う事から話が空回りし続けているという事だ。

時間の無駄だとわかっているものの、誰だって嫌な以上、このままではいつまでたっても終わらない。

そう思った僕は手を上げた。

「議長、いいでしょうか?」

ガサ地区責任者であり、フソウ連合の本会議議長をしている角間さんもうんざりした顔をしていたが、僕の挙手に光明を見出したかのようなうれしそうな顔をした。

そして、すぐに許可を出す。

「ああ、鍋島君、どうぞ」

僕が何かしてくれると期待満々のその顔に「期待しても何も出ませんよ」と言いたかったが、このままだらだらやられるよりはいいかなと思うので強硬手段をとることにした。

「どうも、どなたも自分の地区だけで手が回らないようですので、我々が地区の管理を継続すると言う事でよろしいでしょうか?」

僕の発言に、いがみ合っていたキザヤミ地区責任者の朱鷺さんとシュウホン地区責任者の霧間さんがおおーっと言う顔をする。

やった。馬鹿がお荷物の世話をするぞ。

そう顔には書いてある。

元々、この二人にはいい印象は持っていないので余計にそう思ったのかもしれないが、案外外れてないようにも思える。

だが、ここで話を止めるつもりはない。

「それに当たって、各地区から資金と資材の援助をいただきたい」

そう言った途端、さっきまで小馬鹿にしたような表情が渋そうなものになった。

何か理由をつけて断ってやろうと言う気が見え見えだ。

その手の輩の考えそうな事はブラック企業で何人も見てきたからよくわかる。

だから、ここで話は止めない。

「これは国難であり、その被害でもある。まさか、資金や資材の援助を断るような国の事を考えない、愛国心の無い売国奴はいませんよね」

ギラリと二人を睨みつける。

その瞬間、二人がビクンとして視線を他所に向けた。

ふっ、勝ったな。

僕のその仕草に、議長の角間さんは苦笑して口を開く。

「鍋島くん。その程度で許してやってほしい」

僕にそう言った後、角間さんは全員に向って確認を取るようにいう。

「では、イタオウ地区は、当面、マシナガ地区が管理をし、各地区は資金、資材の援助を行う。それでいいですかな?」

文句を言いたそうな顔をしているものはいるものの、売国奴とまで言われてしまえば反対も出来ない。

「では、それで決定だ。鍋島君、必要な資金や資材のリストは、早めに送ってくれよ?」

そう言われ、ニヤリとする。

僕としては最初から揉めるのはわかっていたからね。

準備だけはしっかりとやらせていただきましたよ。

なんせ、うちの部下はみんな優秀なんでね。

だから、自信たっぷりに言う。

「はい。大体でよろしければ、資料は用意しておりますが…」

僕がそう言うと、驚いた顔をして角間さんが聞き返す。

「今すぐ出せるかね?」

「ええ。こちらに…。どうぞ」

資料を受け取り、目を通しながら角間さんが聞いてくる。

「それで、どういった復興を考えているのかね?」

「そうですね。まだざっとですが、、漁業と造船業で復興を考えています」

僕の言葉に、会議場がざわつく。

それはそうだろう。

マシナガ地区の造船技術は、世界でも通用するというより凌駕するレベルだからだ。

その一部の技術だけでも金の卵になりえると判断していいと思う。

その技術を他の地区に提供しようと言うのである。

驚かない人はいないだろう。

「王国の注文である大型艦船は本島のドックで建造しますが、それ以外の中型、小型船や民間船等の一部は、イタオウ地区の新ドックで製造できればと考えています。もし、合衆国からの護衛駆逐艦の注文があった場合は、イタオウ地区での製造になるでしょうね。もちろん、それにあわせて、製鉄関係なんかの関係工業やそれ以外でも工業関係を集めて、将来的にはマシナガ地区を軍事関係、イタオウ地区を民生関係の工業地区にしていこうと考えています」

まさに一大プロジェクトである。

それをぽーんと提案したんだけど、いつの間にか会議場は静かになっていた。

そんな中、さっきまで小馬鹿にしたような顔をしていたキザヤミ地区責任者の朱鷺さんが恐る恐るといった感じで聞いてきた。

「その技術の提供なんかは…他の地区には…」

「他の地区に提供するわけないじゃありませんか。もっとも、他の地区がイタオウ地区を統治すると決まっていたら喜んで僕は協力するし、この提案をして技術提供等もするつもりだったんですけどね」

ニヤリと笑いつつそう言ってやる。

要は復興の為に行うのだから工業化はイタオウ地区のみであるという事と、もし他の地区が統治するならこの提案をして助けるつもりだったと言う事を匂わせる。

キザヤミ地区責任者の朱鷺さんとシュウホン地区責任者の霧間さんの二人がすごく悔しそうな顔をしていた。

まさに金の卵を拾い損ねたのである。

ざまあみろ。

思わず顔に出そうになったが、慌てて顔の筋肉を引き締める。

多分、大丈夫だろう。

「では、その流れでお願いしますよ、鍋島君」

角間さんは苦笑しながらそう言い、カオクフ地区責任者の新田さんは笑いつつ、「必要な物は何でも言ってくれよ」と言葉を続けた。

「ええ。何かありましたら、よろしくお願いします」

僕はそう言って頭を下げたのだった。

最大の懸案だった、イタオウ地区の件が決着すると、あとは話し合いは驚いたことに何も問題はなく、スイスイ進んだ。

海軍に対しても今回の戦いの被害の為に追加予算が下りたし、各地区で建築されている大型の港の工事もより推し進める事が決定した。

また、各地区の防衛隊の方も急ぎ結成させ、実働できる状態に持っていく事が決められた。

実際、今回の戦いでは、海岸際で押さえられたものの、上陸されていたらかなり厄介だっただろう。

そして、最後に、結界の件が話題に上がった。

僕と三島さんの二人が今の結界の問題点や限界である事を説明し、今の妨害式ではなく感知式の結界への変更の提案した。

僕的には、これが一番の長丁場になると予想していたが、実にあっけないほど簡単に提案は承認されてしまった。

後で、角間さんから聞いた話だと、今回の戦いにおいて、海軍の力の再認識と結界の無力さを各地区の責任者も感じていたらしい。

だから、各地区の港の構築や防衛隊の件もすんなり通ったのだという。

ともかく、こうして本会議は終了し、敵の侵攻から始まった一連の事の後始末の大部分のメドが立ち、僕はやっと幾分か肩の荷が下りたような気持ちになって少しほっとした。

そして、会議室の時計を見るとすでに二十二時を過ぎてしまっていた。

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