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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第一章 はじまり、そして始めての海戦(ガサ沖海戦)
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日誌 第三日目 その3

無線から入ってくる報告を確認し、僕は息を吐く。

勝てるとは思っていたが、ここまで圧勝とは思っていなかった。

損害も駆逐艦五月雨損傷軽微、負傷者六名ということでほっとしている。

だが、それに比べ、敵とはいえ相手側の被害は大きい。

最後まで抵抗した為、敵戦艦二隻は沈没。

一等輸送艦四隻による救助をおこなったものの、拒否するものも多く、救出され捕虜となったのはたった八十九名。

あの艦だと一隻に恐らく七百名近くは乗っているはずだから、二隻で千四百人。陸戦隊などを乗せていたらもっと増えるだろうから、乗組員のほとんどが死亡したことになる。

しかし、今はそんな事を考えている暇はない。

ともかく、戦った後の処理は後回しだ。

今やるべき事は、冷たいようだがこれをどう会議で利用するかということだけだ。

僕は艦橋に用意された椅子に座って、外を眺めている三島さんに声をかけた。

「三島さん、今回の事、ガサ地区責任者の角間さんには連絡いっていると思っていいですかね?」

僕の問いに、三島さんは視線をこっちに向けて頷く。

「ええ。間違いなく入っているでしょうね。なんせ自分の治める地区の主都が襲撃されたんだし…」

「他の地区はどうでしょう?」

「隣の地区であるカオクフ地区の新田さんには間違いなく話しているんじゃないかしら。彼ら仲いいしね」

そこまで言った後、少し考え込む。

そして言葉を続けた。

「後は…そうねぇ…トモマク地区あたりは知ってそうよね」

その言葉に僕は自然と呟いていた。

「トモマク地区…斎賀露伴…さんか…」

「彼、かなりの情報通よ。情報の大切さをよくわかっているっていると思うわ」

果たして彼が情報を手に入れたとして、それをほかに漏らすだろうか?

今の三島さんの言葉から考えるに、多分情報を他に漏らす事はないと思える。

ならば…。

「三島さん、角間さんに連絡して情報を止めておいてもらえませんか?」

僕の言葉に三島さんが聞き返す。

「それは出来ると思うけど、理由はどうするの?」

「まぁ、会議の流れをうまく作るためにとか言っておいてください」

「何か考えてない?」

そう聞かれ、僕は構想していた事を話す。


地方軍でしかない海軍をフソウ連合の国の組織とすること。

海軍の管理は今までどおりマシガナ地区が行うが、各地区に地区が管理する独自の防衛部隊(陸軍)を創設する事。

各地区に、海軍用の空港、港、基地の提供と、一部の地区には各方面軍の海軍直轄となる島も提供する事。

また、現在の地区ごとの政治組織を事態の急変に対応できる一括した政府組織に変革する事。


話を聞き終わって三島さんは感心したように頷いている。

「なるほど…。そういう事を考えていたわけだ。そして、その話に持っていきたいから情報規制をしたいってわけだね」

「ええ。脅威は取り除かれましたっていうことが最初からわかっていたら、なかなかそうはもっていけないんじゃないかと思って」

「色々考えてんだねぇ…」

感心したように言う三島さんに、僕は苦笑した。

「まぁ、そううまくいかないとは思いますけどね…」


そして、僕がそう言ったためかは知らないが、会議は僕の予想通りの展開にならなかったのである。

最初に議題としてあげられたのが痩せすぎの神経質そうな感じの男、降伏派のイタオウ地区責任者の橋本公男が上げた「外の国の軍艦に対して攻撃したマシガナ地区の責任問題」という議題からだった。

うーん、口止めしておいたとは言えこうもスカスカに情報が漏れるとは…。

どうやらいろいろなところでいろんな派閥の手が入り込んでいるようだ。

こうなると最初に考えていた外の国の脅威に対する対策としてといった感じのプラン提案は破棄決定だな。

責め立てる降伏派のイタオウ地区責任者に対してさてどう言い返そうかと思っていたら、黙りこくっていたガサ地区の責任者の角間さんがダンと机を叩き声を上げた。

「それは、ガサ地区が火の海になり、虐殺や略奪が起こっても手を出すなと言うことと取っていいんですな…」

冷めた視線と声に、僕を攻め立てていた降伏派のイタオウ地区責任者の橋本がびくりと体を震わせて反論する。

「そ、そうはいっていない…」

だがその言葉は尻つぼみでぼそぼそといった感じだ。

「そうとしか取れませんが…」

反対に角間さんの言葉には冷たさが増していくかのようだ。

「それは…」

橋本は何とか反論しょうとするものの、言葉にならない。

それに対して追い討ちをかけるかのように角間さんの口が開く。

「もし、あの時点で彼らが戦ってくれなければ、間違いなく、ガサの街は火の海に包まれていたでしょう。最小限の被害で済んだのは、彼が念のためにと艦隊を派遣しておいてくれたからではありませんか。違いますか?」

抗戦派と中立派は昨日の時点でこっちに協力することを根回しにしていた為か、角間さんの言葉に頷いたり、「そうだそうだ」と相槌をうってくれる。

流れは完全にこっちに向いていた。

そこで、僕はゆっくりと立ち上がり頭を下げる。

「勝手に戦闘に入ったことはお詫びします。しかし、わが国の国民に被害が及びそうになっていたのをむざむざと見過ごしてはいられませんでした。そして、ここで今朝生起した海戦の集計をここで発表したいと思います」

僕はそう言って用意していたボードのメモに目を通して報告を読み上げる。

「本日の早朝、六時十五分、敵艦隊と交戦に入り、七時には完全終了。敵の損害は、王国軍重戦艦二隻撃沈。捕虜八十九名。我が方の被害は、駆逐艦一隻が損傷軽微で、負傷者六名…。以上であります」

短くそう言って椅子に座る。

シーンとした間がしばらくあった後、ざわめきが起こる。

多分、抗戦派も中立派もここまで圧勝するとは思っていなかったらしい。

あまりにもあっけないほどの圧勝に信じられない様子さえ見えた。

しかし、それは事実であり、他に言う事はない。

僕はそのまま表情を崩さず黙って座っている。

そんな中、ガサ地区責任者の角間さんが口を開いた。

「ほ、本当にそれだけかね?」

「ええ。それだけです」

そう言って思い出したように言う。

「ああ、それともう一つありました」

僕の言葉に、場にいた人の視線が集まる。

そんな視線を受けながらすました顔で言ってやる。

「今のままでは、結界はもう完全に外の国に対して対応出来ないと言うことがはっきりしました」

沈黙があたりを包み込む。

そして、それを後押しするように三島さんが口を開いた。

もちろん、結界を維持している魔法使いとしての意見だ。

「現状、結界はきちんと作動していますが、進化した外の国の船は以前のように完全に締め出せる存在ではなくなりました。それ以外の対応策が必要だと思います」

そのはっきりとした口調と言葉に、沈黙からざわめきが再び場を支配した。

そんな中トモマク地区代表の斎賀さんが発言する。

「その為の彼と海軍という事ですか?」

その問いに三島さんは笑いつつ返す。

「ええ。その為の彼と海軍です」

その答えに、今まで黙って話を聞いていた降伏派の一人が僕たちの方を見て口を開く。

白髪に顎全体を覆う白い髭。まさに好々爺といった印象だが、その視線は鋭い。

この会議の進行を務め、会議参加者の中で最年長のシマゴカ地区の責任者、西郷敏明である。

「その海軍なら、今までの結界の代わりを務める事ができるというのかね?」

その言葉に僕はゆっくりと、しかし力を込めて言う。

「もちろんです。ただし、こちらの提案にしたがっていただく必要性はありますが…」

「ふむ。おもしろい。話してみたまえ…」

一瞬だが、西郷敏明の顔がニヤリと笑ったように見えた。

だが、それは相手を見下すといった感じではなく、面白いものを見たと言う感じだった。

多分、僕は彼に試されているのだろう。

それは三島さんにもわかったのだろうか。

後ろの席から背中に手で合図を送ってくる。

僕は少し頷き、そして口を開いた。


「お疲れ様でした」

控え室に帰ってきた僕と三島さんに、待機していた東郷大尉は立ち上がって出迎えてくれた。

「コーヒーいれますね」

「ああ、頼むよ」

「お願いね…」

そう言って僕と三島さんは椅子に座り込んだ。

ああーっ、本当に疲れた…。

肉体的にはたいした事ではないんだが、精神的に疲れた。

なんか、もう何もしたくないって感じだ。

三島さんも疲れきった顔をしている。

その様子に心配になったのだろう。

「えっと…会議はうまくいかなかったんですか?」

東郷大尉がそう聞いてくる。

「いいや。そんなことはないけどね。一応、なんとかね…」

僕はそう言うと首をコキコキ鳴らす。

そして、言葉を続けた。

「ただし、条件付けられたよ…」

「条件?」

「ああ。出された条件は、陸軍にも沿岸警備の戦力が欲しいので小型艦と水上航空機の提供。これはまぁ、いいんだけどね。何とかなるから…。問題は…」

言いよどむ僕に代わって三島さんが口を開く。

「対外関係のゴタゴタを押し付けられたのよ」

「対外関係?」

「外の国の条約やら、取り決めなんかのこれからゴタゴタしそうな外交関係の案件の事よ…」

そう言って三島さんはため息を吐き出す。

「それって…今から大事な事じゃないですか…」

「一応、他の地区もサポートはすると約束してくれたけどね。それでも最終決定は、僕に任せるときたんだよね…」

思い出しただけで気が重くなる。

つまりは、これからのフソウ連合の大きな舵取りを任せられたわけで、プレッシャーが半端じゃない。

「まぁ、戦いの火蓋を切った責任ってわけよ…。あのじじいは本当にえげつないことを…」

そこまで三島さんが話した後、ため息を吐き出して、出されたコーヒーを二人ですする。

東郷大尉は少し考え込んだような表情の後、苦笑した。

「でも、それって期待されてるんじゃないんですか?」

東郷大尉の言葉に、僕と三島さんは顔を見合わせる。

「そうかなぁ…」

「あの雰囲気じゃ、そうとは取れなかったわよねぇ。責任追及って感じだったからねぇ…」

そんな僕らに、東郷大尉は笑顔を向けた。

「そんなに後ろ向きに考えてもいい事ないですよ。前向きに考えましょう。ね?」

その笑顔に、僕は苦笑する。

敵わないな…。

だから僕はこう答えた。

「わかった。そう考えてみるよ」

そして、東郷大尉を見返して言葉を続けた。

「言いだしっぺだから東郷大尉も今以上にがんばってもらうけどいいよね?」

「もちろんです」

彼女は自分の胸をどんと叩いたのだった。

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