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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十章 戦いの後に… フソウ連合編 

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日誌 第百四日目  その2

定刻に仕事を終わらせて自宅に戻ってきた僕は、夕飯と風呂を済ませるとすぐに作業室に入った。

もっとも、作業室と言ってもたいしたものではない。

六畳あるかないかの程度の大きさの畳張りで、大き目の座机、壁には模型の箱がずらりと並び、それに空いたところには棚がいくつも並んでいるだけの模型製作用の部屋だ。

しかし、机の上には大きめのカッティングマットと作業に使うツールがきちんと並べられており、棚は塗料やプラ版やプラ棒を初めとする材料、それに模型についている余剰パーツや別売りのカスタムパーツなんかが分類して整理されている。

特に最近はいろんな改造用やよりリアルに仕上げる為のパーツなどが豊富にあり、きちんとした資料さえあれば同じ艦でも年代別に作り分けたりする事ができるほどだ。

そして、今、机の上には、数冊の本といくつかの模型の箱、それにニッパーやヤスリ等のツール、後は一つの模型が置いてある。

その模型は一度は完成したものだ。

塗装もされ、きちんと製作された。

しかし、艦の後ろ側の飛行甲板や四番、五番主砲の当たりは、火であぶったかのように溶けた部分があったり割れて粉々になりかけている。

また、それだけでなく、煙突も折れ、艦橋の部分も半壊していた。

だが、そんなになりながらも旧日本海軍の艦船に詳しい人なら、その模型の艦名はわかるだろう。

そのボロボロの模型の艦名は軽巡洋艦最上。

そう、フソウ連合で的場少佐の親友であり彼の乗艦だった最上の依代だったものだ。

僕は昨日吟味したパーツを再度確認する。

基本は、同じT社の1/700の最上を使うのだが、破損した模型のどのあたりをそのまま使うのか検討していて、昨日は朝方にいつの間にか眠ってしまっていた。

さて…どうしたものだろうか…。

より似た形にしたほうが、人格の継承は出来る可能性は高いと三島さんは言っていた。

だから、多分、最上本人に意見を聞かなければ軽巡洋艦最上として新しいキットのパーツを使いつつ再生しただろう。

しかし、最上本人にも僕は意見を聞いてしまった。

その意見が悩みとして僕の決断を鈍らせている。

『もし、また的場さんの乗艦になれるのなら、より強く、彼の為になる力が欲しいです』

苦しそうに顔を歪めつつもはっきりとそういう最上。

しかし、それでは人格の継承に成功する確率は限りなく低くなると言っても最上は頑として譲らなかった。

『長官、いくら人格の継承がうまくいったとしても、以前のままだと駄目なんです。私はより強くならなきゃいけない。それに…』

最上はそう言って、笑いながら言葉を続けた。

『人格が継承されなくても、より強くなった私だったら、また的場さんの役に立てる…』

その言葉に僕は何もいえなくなった。

だから、今日、的場少佐に会うまでは、重巡洋艦に改装した最上として再生するつもりだった。

しかし、僕は見てしまった。

泣いて頼み込む的場少佐の姿を…。

感じてしまっていた。

的場少佐の最上に対する思いを…。

部品や再生に使う為の新しい模型は、以前と同じ軽巡洋艦としても、重巡洋艦としても出来るように準備は終わっている。

実際、すでに両方で使ういくつかの共通の部品は製作に入っていた。

「ふう…。このままただ考え続けていても始まらない。今はともかく、先に古いほうから使える部分を抽出していくか…」

そう決断し、僕は古い模型から破損のない部分で使えそうな部分を分けていく。

そして四時間が経っただろうか。

深夜零時に近い時間になっていた。

トントンというノックの音が響く。

「誰だ?」

僕がそう言うと、ドアの向こうから声が聞こえた。

「東郷です。長官、よろしいでしょうか?」

その言葉に、僕は苦笑して答えた。

「今はプライベートな時間だからね。長官とか言う人はここにはいないなぁ…」

僕の言葉にくすくすとドアの向こうから笑い声が聞こえる。

「では、鍋島さん、いいですか?」

なんか声のトーンが落ち着いたようなやさしい感じになった。

「鍋島って人ならいるな。うん、どうぞ」

東郷さんはくすくすと笑いつつドアを開けるとお盆を持って入ってきた。

「少し休まれてはいかがですか?」

お盆の上には、おにぎりが二つとお茶の入った湯のみがある。

どうやら、夜食として用意してくれたようだ。

「ありがとう。いつも助かるよ」

「いえいえ。どういたしまして」

せっかくだから、少し何気ない話をしながら夜食をいただく。

おにぎりの程よい塩加減がなかなか美味しい。

そして最後にお茶を飲み終わって食器をお盆に戻す。

すると東郷大尉は机を見ながら言う。

「迷ってませんか?」

その言葉にドキリとした。

「やっぱりわかる?」

「ええ。なんかいつもの鍋島さんじゃないって感じですね」

そう言われて机の上を見直す。

うーん…机の状態でそんなことまでわかるものだろうか。

だが、せっかくだ。

僕はどういう風にするか相談する事にした。

「そうだったんですね」

話し終わった後、東郷さんはそう言って頷いている。

そして、言葉を続けた。

「鍋島さん、私は模型は作らないし、今までそんな風な選択をしなければならなかった事はありません。だから、何を偉そうに言っているんだと思われるかもしれませんが、私は、最上さんの意思を尊重したいと思います。もし記憶が、人格が変わったとしても、大切な人の役に立ちたい。その思いはなんとなくだけど私にもありますから…」

「そうか…。ありがとう。参考になったよ」

僕がそう言うと、東郷さんは慌てて「いえいえ。偉そうな事言ってすみません」とぺこぺこと頭を下げる。

そして、お盆を持って立ち上がる。

「じゃあ、作業頑張ってください」

「ああ、ありがとう」

そういう会話をしつつ東郷さんは退出しかける。

しかし、思い出したのだろう。

「明日は、午後から本会議ですから、無理はなさらないでくださいね」

「ああ、大丈夫だ。それに…」

「それに?」

「いざとなったら、移動中によく寝ておくさ」

僕の言葉に東郷さんは笑いつつ退出したのだった。

そして、僕は机に視線を戻す。

そこにある最上の模型を見る。

「最上の意思を尊重か…」

そう呟いて、僕は深呼吸をすると作業を再開したのだった。

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