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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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ある老将の死…

国際条約に基づく救助による休戦の提案に、新見准将は応じた。

このまま一気に込めたら勝てますという那珂に、新見准将は諭すように言う。

我々の目的は、敵の侵攻を防ぐ事だ。

もし、このまま戦い続けていたら、その分味方も被害がでるぞ。

その言葉に、那珂は黙り込んだ。

実際、この戦いで無傷なのは、駆逐艦霜月、春月、夏月の三隻だけで、他の艦は軽度ではあるが損傷していた。

那珂だって装甲巡洋艦の砲撃を喰らい、艦体の一部を軽傷している。

また、乗組員にも被害がでていた。

新見准将は悔しそうに肩を振るわせる那珂の肩をポンポンと叩いて慰めると、帝国側に休戦に応じる旨を伝えた。

そして、敵との交信で敵の司令官の名前を知る。

ビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードル少将。

声からして三十代から四十といったところだろうか。

これは要注意な人物だな。

情報を集めなければ…。

そう心に書き留めておく。

新見准将は、艦隊をまとめあげ海に投げ出された仲間を救助して撤退していく帝国第二艦隊を確認し、艦隊の進路を北部基地へと向けたのだった。


十七時二十三分。

早朝五時から始まった帝国、共和国によるフソウ連合討伐作戦。

通称『ヒュドラ作戦』は、こうして帝国・共和国の敗北で幕を閉じる。

だが、同じ頃、共和国、帝国とフソウ連合の戦いとは別の戦いの火蓋がある場所で切って落とされていた。

「各艦、砲撃開始っ。前回の戦いの無念を晴らすぞ」

ミッキー中佐の命令で、砲撃が開始された。

ネルソンとロドニーの40.6センチ主砲が火を吹き、圧倒的な火力によって防衛にでてきた帝国の艦隊を撃退していく。

その様は、まさに蹂躙していくと言うのに相応しい光景だった。。

「一方的だな…」

その光景を見てミッキーは呟く。

「ええ。まるで、前の時の戦いを見ているようですよ」

ミッキーの副官であるエドワード大尉がその呟きに答える。

彼は、前回の戦いに参加しており、一方的な蹂躙の中、なんとか生き残った一人でもある。

もっとも、前の時の戦いとはいっても、あの時とは帝国と王国の立場が真逆ではあるが…。

「こうも性能に違いがあるとはな…」

確かに見た目もすごいとは思っていたが、実際に戦ってみてフソウ連合製の軍艦の性能の高さに驚くことしか出来ない。

ある意味、抜きん出ているといっていいだろう。

確かに欠点はあるものの、それを凌駕するスペックを持っている。

まるで未来の兵器のようだ。

何気なくそう思いつき、何を考えているんだか…とミッキーは自分でその考えを消し去る。

そして、こんな艦艇を作れる国と同盟を結ぶ事がで来て本当によかったと思う。

別に同盟が絶対で、永遠続くとは思っていない。

しかし、あの男、サダミチがいる間はよほどの非礼がない限り、フソウ連合という国との同盟と友情は消え去る事はないだろうと感じていた。

「敵艦隊、逃走に移りました。いかがしますか?」

エドワード大尉の言葉で、ミッキーはやっと我に返る。

戦闘中だというのに、何をやっているんだろうな。

そう思って苦笑した後、ミッキーは敵の追撃ではなく、本当の目的を実行する為に、敵軍港への進撃を命じたのだった。


戦いに敗れ、散り散りバラバラで逃走する帝国艦艇。

それはあまりにも惨めであり、統率もなくただ慌てふためく様は、逃走の際に味方にぶつかって沈むものさえいる有様だった。

まさに烏合の衆といった方が正しい。

だが、その有様も仕方ないのかもしれない。

ベテランといわれる兵の多くは遠征に引き抜かれてしまい、今、本国に残されている艦艇のほとんどは新兵を中心とした訓練不足の兵によって構成されている。

そんな連中が動かす艦艇。

まともな陣も組めず、ただそれぞれが好き勝手に砲撃しているだけといった体たらく…。

そんな連中が普通に戦っても勝てるはずもなく、その上、敵にはロドニーとネルソンがいるのだ。

一方的な展開になったとしても仕方ないだろう。

また、唯一、この二艦に対抗できるかもしれない戦艦グナイゼナウは、ほとんど熟練の兵がいないために港から出撃出来ない有様だった。

そのため、今、王国艦隊を止める事ができる戦力は皆無と言っていいだろう。

そして、今まで接近する事も出来なかった帝国の主要軍港であるアレサンドラ軍港についに王国艦隊は砲撃できる距離に接近しつつある。

だが、帝国は最後の切り札があった。

最後の防衛機構である港に設置してある要塞砲28センチ砲塔。

その砲は、今までの艦艇なら十分に脅威となりえただろう。

ゆえに要塞砲は王国艦隊を迎え撃とうと動き、照準をあわせようとしていた。

しかし、その砲が火を吹くことはない。

ロドニーとネルソンの方が射程距離も長く、一方的に射程外から砲撃され要塞砲は破壊されてしまったためだ。

そして、最後の防衛機構を失った後は、帝国の主要軍港であり、長年の歴史を刻んできた港は、王国海軍のされるがままだった。

砲撃が二時間近く続き、今やアレサンドラ軍港は無残な姿に変わっていた。

その様は、帝国海軍軍人にとってまさに悪夢としか言いようがないだろう。

「何てことだ…」

軍牢に入れられ、帝国東方艦隊壊滅と東部重要拠点であったジュンリョー港を失い、軍事裁判の判決待ちであったアレクセイ・イワン・ロドルリス大将は、牢の窓の鉄格子越しに見える光景に愕然としていた。

彼が誇りとする海軍の象徴がまさに一方的に蹂躙され続けている。

海軍本部が、ドックが、士官学校が、兵舎が、格納庫が…。

すべてが無残な瓦礫へと化していく。

その様子に、彼は今まで積みあげたものが…何もかもが…崩れ落ちていくような感覚に襲われた。

絶望が…。

喪失感が…。

悲しみが…。

それらを混ぜ合わせてぬたくりまくったような暗闇。

真っ暗で、真っ暗で、何もない闇の色…。

その色に…一気に心を染め上げていく。

アレクセイ大将は、その場で崩れ落ちるように跪き、涙を流しながら、カラカラと乾いた笑い声を上げた。

そして、気が付く。

我々が誇りとした帝国海軍は、今や幻となってしまい、すべてを失ってしまったと…。

なら、判決を待ってどうするというのだ。

もう何もないじゃないか…。

力なくその場に座り込むと彼は天を仰ぐ。

それはまるで神に謝罪するかのようだ。

もしかしたら、謝罪していたのかもしれない。

帝国海軍の歴代の軍神たちに自分の不甲斐なさを…。

彼は、本当に愛していた。

帝国海軍を…。

彼は誇りにしていた。

帝国海軍の一員である事を…。

だが、今やそれらは何もない。


そして、この夜、彼は絶望し、自らの命を断ったのだった。

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