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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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帝国第二艦隊 その2

二列複縦陣で進むフソウ連合海軍の特務水雷艦隊に対して、帝国第二艦隊は、四列複横陣で待ち構えていた。

第一列が装甲巡洋艦を中心とした八隻、第二陣が戦艦五隻を中心に左右に装甲巡洋艦二隻、第三陣がシャルンホルストを中心に戦艦三隻、装甲巡洋艦二隻。

そして最後の四列目が支援艦であるがこちらは少し距離を置いている。

つまり、戦うのは、前から三列という事だろう。

まず先端を切ったのは、帝国第二艦隊だった。

射程距離の長いシャルンホルストの28.3センチ主砲が火を吹く。

それに遅れて戦艦も撃ち方を始めた。

しかし、この悪天候である。

よほどの幸運でもなければ当たらないだろう。

だが、それでも射程距離の有利を活用する為に、砲撃が続く。

そして、女神がきまぐれをおこしたのだろうか。

そのうちの一発が三日月に当たった

艦の中央部、煙突付近で派手な爆発が起こり、三日月の速力が落ちていく。

また、どうやら火災が発生したようだ。

甲板上では、乗組員があわただしく消火と誘爆を防ぐ作業で動き回っている。

「三日月、被弾。機関部に被害が出た模様です。戦列から脱落していきます」

那珂の報告に、新見准将は素早く指示を出す。

「三日月は、急いで戦線離脱させろ。ここからだと北部基地の方が近い。確か、基地には明石がいるはずだ。修理に向わせろ」

「はっ。しかし、無念でしょうな…」

少し悔しそうな表情をして呟くように那珂が言う。

「仕方あるまい。まさかこの天候で、その上この距離で当たるとはな。運がなかったというべきだな」

そう返しつつ、新見准将は、目の前の敵艦隊を凝視し続けている。

三日月が脱落した後を、次の望月が埋め、その後に第一防空駆逐隊の秋月、照月、初月の三隻が続く。

やはり急増という事もあり、その動きは少しぎこちない。

「射程距離にはいりました」

観測員の声に新見准将は無言のままだ。

「新見准将…砲撃は?」

「まだだ、まだ早い。より近づいてからだ」

敵の砲撃が続き、味方が被害を出したのである。

釣られて砲撃を開始ししてもおかしくない。

しかし、ぎっと両手で椅子の肘乗せを強く握り締め、乗り出すように前のめりになりながらも新見准将は砲撃開始を命じない。

「まだだ。まだだ…」

その呟きが新見准将の口から漏れる。

艦内が、いや、艦隊が緊張に包まれる。

それはまるで引き絞った弓のようだった。


「敵艦に命中!離脱していきます」

その報告に、帝国第二艦隊は湧き上がっていた。

「よし、そのまま一気に押し込め。砲撃を続けろ」

「まもなく、装甲巡洋艦の射程距離に入ります」

「よし。入り次第、砲撃開始だ。この悪天候の中だ。ともかく良く狙って撃ち続けろ」

「はっ。了解しました」

そう指示しつつも、第二艦隊司令のビルスキーア少将は落ち着かないでいた。

敵もさすがに射程距離に入ったはずなのにまだ打ち返してきていない。

その事実が、彼を警戒させていた。

まるで一撃必殺を狙う狩人のようだな…。

そう彼は、敵のフソウ艦隊を感じ取っていた。

「油断するな。敵はまだ一発も撃っていない」

彼の呟くような言葉に、湧き上がっていた艦橋内が再び緊張に包まれる。

そして一列目の装甲巡洋艦の射程距離に入ろうとしたときだった。

縦陣の二列で進んでいた敵艦隊が左右に別れながら砲撃を開始してきた。

「なるほど左右からの挟み撃ちか。だがそうはさせん」

ビルスキーア少将は敵の動きを見てそう呟くと第一から第三までの全艦艇に隊列維持のまま左舷方向への転換を命じた。

要は、三列複複横陣の全艦を左に向けさせ、三列複縦陣に切り替えたのだ。

そして、左側に回り込もうとする敵艦隊と平行に移動させつつ砲撃を続けさせる。

これは、第二艦隊がかなりベテランの艦艇で編成されている事とフソウ連合に着く前までに何度もミーティングと訓練を重ねていたおかげといえる。

「よしっ。うまくいったな。そのまま距離を保ちつつ、砲撃を続けろ。それと支援艦たちは思いっきり後方に下がらせろ」

思ったとおりの動きが出来てビルスキーア少将はしてやったりとパンと自分の太ももを叩き、命令を追加する。

もっとも、敵とはいえ、ここまで統率が取れ訓練された艦隊だ。

味方を見捨てて、支援艦狩りなんぞに移るとは思えんが、念のためだ。

そんな事を思いつつ、ぐっと身を乗り出して敵の艦隊の動きを見逃さないように凝視した。


敵の動きを見て、新見准将は自分の予感が当たった事を思い知る。

敵の司令官は手ごわく、そして敵艦隊は実によく訓練されているのがわかる。

一艦、一艦の熟練度はこっちの方が上だが、急増で作られた我々艦隊よりも連携が取れているということだ。

「全砲門撃ち続けろ。それと左隊列の艦艇はどうしている?」

「はっ、方向を転換し、こちらに向っています。現在は敵艦隊後方です」

「そうか…。急ぎ敵艦隊の左側に回りこませろ。そして魚雷の使用を許可するから敵の大型艦を狙えと伝えろ」

そう左隊列の艦艇に伝えるように命じた後、新見准将は那珂に命じる。

「いいか。左隊列の艦艇が回りこみやすいように敵艦隊の頭を抑える。速力を上げて曲線を描くように覆いかぶされ」

「はっ。任せてください。第二戦速(21ノット)から第三戦速(24ノット)へ移行しつつ少しずつ左に寄せろ。敵のほとんどは最大戦速二十ノット前後のはずだ。一気に頭を抑えるぞ」

那珂の命令が響き、艦が速力を上げつつわずかにだが左により始める。

帝国艦隊は、その速力についてこれない為か、頭を押さえ込まれて平行に並び砲撃を交わしつつ大きく円を描くように動く。

そして、その間に、後方から来た左隊列の艦隊が、帝国第二艦隊の左舷へと回り込もうとした。

しかし、その動きに帝国第二艦隊は、シャルンホルストを中心とする第三陣が別に動き、縦陣で進むフソウ連合の艦隊左隊列の艦艇の頭を押さえるように横腹を見せつつ覆いかぶさる。

その様子は、上から見たらTの字のように見えただろう。

そして、砲撃が先頭の夕張に集中して行われる。

命中率が低いとは言え、一隻に対して六隻の全主砲の砲撃である。

回避運動を取りつつ、砲撃をする夕張やその後に続く駆逐隊だが完全に押さえ込まれていた。

結局、縦陣は各艦の回避運動によってバラバラとなり、先頭の夕張は二発の砲撃を喰らい炎上。

戦線離脱を余儀なくされる。

「くっ…手強い…」

打つ手打つ手を返され、新見准将はギリっと歯を強くかみ締める。

なんとか援護したいものの、敵の第一陣と第二陣の艦艇が壁のように立ちふさがっている。

もちろん、砲撃により、敵の第一陣と第二陣の艦艇に被害は与えているものの、このままでは不味いと判断したのだろう。

新見准将は叫ぶように命令する。

「魚雷発射用意。味方援護の為、敵艦隊に魚雷を放つ。急げ」

「雷撃戦用意ーっ。急げっ」

「測量急げっ」

「雷撃戦準備完了」

「よし。全艦、雷撃戦始めーっ!」

その命令と共に、各艦から魚雷が放たれる。

合計十二本の魚雷が帝国艦隊に襲い掛かった。


「敵に頭を押さえ込まれました」

やはり速力や艦の能力は相手の方が上か…。

圧倒的に数が多いのにもかかわらず、未だに戦いは均衡していた。

敵の艦艇一隻を戦闘不能にしたが、こちらも無傷というわけにはいかなかった。

何艦も損害を受けているが、何とか小破程度で収まり、離脱する艦もなく戦いに支障はないだけだ。

だが、敵は無傷の艦艇がまだいる。

自分ならどうするか…。

ビルスキーア少将はそう思考する。

自分なら…。

その時だった。

「敵左列の艦艇、速力をあげて我が艦隊の左舷に回りこみ、左右から挟み込もうとしてきます」

やはりそうきたか…。

ならば…。

「よし、第三陣は別行動をする。そのまま、大きく第三陣は左舷に方向を向け、敵左列の艦艇の頭を抑えつ、敵先頭艦に砲撃を集中。その間に第一陣、第二陣は、敵右列の動きを抑え込めろ」

砲撃が集中し、敵の先頭艦に命中。

そして炎上するのが見えた。

「よしっ。離脱する艦は相手にするな。一気に残りの敵左列の艦艇に畳み掛けろ」

夕張が炎上しつつよたよたと戦列から離れるのには目もくれず、ビルスキーア少将は次艦である冬月に砲撃を集中するように命じた。

もちろん、敵の反撃によって味方も被害を受けていたものの、流れは帝国の方に流れつつある。

ビルスキーア少将もそれを感じており、このまま一気に流れを引き込んで勝利へと進むつもりだった。

しかし…その流れは、第一陣、第二陣で起こったいくつもの爆発に変えられてしまう。

フソウ海軍右列艦艇の十二発の魚雷による攻撃だ。

爆発を起こした第一陣、第二陣の艦艇があっけないほど次々と沈んでいく。

放たれた十二発の魚雷は、第一陣、第二陣をボロボロにするのに十分であった。

その光景を目にし、ビルスキーア少将は悟る。

気まぐれな勝利の女神が他所を向いた事を…。

そして、自分の艦隊が総崩れになりつつあるという事を…。

「くそっ…」

だんっ。

海図の載ったデスクを叩くと、ビルスキーア少将は立ち上がって命令した。

「砲撃停止。国際条約に基づいて敵艦隊に救助の為の休戦の連絡を入れろ。救助が終わり次第、全艦この海域を離脱する」

その命令に艦橋にいた乗組員達は驚いた表情で司令官を見たが、誰も何もいわなかった。

肩を震わせ、なんとか怒りを押さえ込もうとしている姿にそれが苦渋の選択であるとわかり、文句を言う事が出来なかったのだ。

こうして、帝国第二艦隊は敗北した。

しかし、大きな被害を受けほぼ全滅に近い被害を受けた他の艦隊に比べ、損害を受けたものの艦隊は三分の二以上が健在であった。

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