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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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帝国第二艦隊 その1

嵐の結界を抜けて進む帝国第二艦隊は楽観的な空気に満たされていた。

もちろん、警戒しつつ進んではいるものの、緊張感があまり感じられない。

しかし、それは無理もないことだろう。

フソウ連合領に突入してから数時間が過ぎたものの、敵らしい敵も見当たらない

それに、共和国から提案されたフソウ連合討伐作戦、通称『ヒュドラ作戦』。

伝説の魔獣ヒュドラ。

いくつも首を持つ蛇の魔獣。

その一つ一つに意思を持ち、それぞれが違う獲物に襲い掛かる。

その魔獣の名を付けられた本作戦。

その作戦に、東の未開の国の海軍が敵うはずがない。

それに対抗できる戦力もない。

そう思っていた。

確かに、この前の戦いで帝国東方艦隊はほぼ殲滅の憂き目にあい、重要拠点の一つを失ったが、それぐらいで帝国は揺らぎはしない。

それにそれは彼らが間抜けで、指揮をしたのが役立たずの司令官だったからだ。

しかし、我々には『黄金の姫騎士』と帝国の最強の艦の一角であるテルピッツがいる。

また、この第二艦隊には、テルピッツよりも劣るとはいえ、最近建造された新鋭の大型戦艦シャルンホルストがいるではないか。

どこに負ける要素があるというのだろうか。

その思いが、乗組員達の心を支配していた。

しかし、そんな中、艦隊を率いるビルスキーア少将は、気を引き締めるように何度も檄を飛ばしている。

ビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードル少将。

帝国の中でも最近になって頭角を現してきた人物で、年はまた三十代と提督といわれる階級の中ではかなり若い。

いや、ほぼ最年少と言っていいだろう。

実際に彼より若い提督はいないのだから。

しかし、若いながらもその堅実的な采配は、派手さはないものの高く評価されている。

ただ、彼は長らく表に出る事はなかった。

才能はあるものの、派閥やコネを持たない為に、抜きん出る事はできなかったのだ。

しかし、黄金の姫騎士の艦隊に抜擢されてからというもの、彼は活躍し続け、そして今に至っている。

だから、彼は黄金の姫騎士に絶対的な忠誠を尽くしていると周りから思われていたが、アデリナに対しては忠誠や尊敬の念はまったくなかった。

彼が尊敬し、忠誠を誓うのはただ一人。

本当に自分の才能を見出し、取り立ててくれたあの方…銀の副官ことノンナ・エザヴェータ少佐。

彼女だけだ。

今回の司令官任命にしたってあの人がほとんど決めて、それをただ金髪のお飾り人形が言っただけだという事はわかっている。

それゆえに口こそしないが、あの方の為だけに働きたいと思っていた。

だから、これがアデリナだけの命令であれば、適当にお茶を濁していたかもしれない。

しかし、この命令は、あの方の意思なのだ。

その尊敬するあの方に報いる為には、あの方の指示に従って任務を全うする事だけだ。

だからこそ、彼は今の艦隊の空気に危機感を感じていた。

「索敵、きちんとしているだろうな?」

その言葉に、ビルスキーア少将の乗艦であり、第二艦隊旗艦となっている大型戦艦シャルンホルストの艦長は敬礼し答える。

「はっ。もちろんであります。装甲巡洋艦がそれぞれ先行しております」

「いいか、気を緩めるな。ここは敵地だぞ。気の緩みがミスを生み、その小さなミスが重なって敗北となるんだ」

「了解しております。ですがはたして敵は現れる事があるのでしょうか?」

艦長の言葉にビルスキーア少将は怪訝そうな顔をして聞き返す。

「それはどういう意味だ?」

「はっ。時間的に考えますと、我々は一番最後にフソウ連合領に突入しております。敵に果たして我々を発見する余力はあるのでしょうか?また、もし発見されたとしてももう敵の戦力は底をついてしまっているのではないでしょうか?」

艦長の意見は確かに的を得ている。

共和国と帝国の艦隊がそれぞれ別ルートで進攻しているのだ。

情報部から送られてきた敵の予想戦力では、恐らく共和国と第一艦隊で精一杯となり余力はほとんどないと見られている。

それに帝国第一艦隊には、王国海軍の艦隊を徹底的に殲滅した黄金の姫騎士が率いる上にテルピッツがある。

普通なら負けないと思うだろう。

だが、ビルスキーア少将はあの方に個人的に呼び出されて言われた事を思い出す。

それは以外にも作戦失敗のことについてだった。

「作戦は失敗するという事でしょうか?」

そう聞き返すビルスキーア少将にあの方は無表情のままぼそりと言う。

「もしもの時の事を決めておきたいだけ」

その言葉にビルスキーア少将は感銘を受けた。

もしもの時を考える。

あまりにも失敗する確率が低すぎる場合、得てして人は失敗する事を考えようとしない。

或いは、失敗する事さえ思わない人も多いだろう。

それはマイナス思考であり、後ろめたいと思ってしまう為なのかもしれない。

そんな中、ほとんど成功するとしか思えない時に、負けたときの事を考える。

それを無駄な事のように思う者が多い中、あの方はそれを無駄と思わず準備しておきたいと言われる。

さすがだと思う。

そして、それと同時に、あの方のようになりたいとも思う。

だからこそ、彼はこの戦いを他の乗組員達のように気楽に勝てるとは思っていなかった。

そして、すぐに彼が警戒や索敵を重視させた結果が出た。

「先行する装甲巡洋艦トロンハイムから入電。『テキカンタイ ミユ ニジノホウコウ』以上です」

通信士が報告する内容に、艦長が驚いた顔をしてビルスキーア少将を見る。

その視線に気がつき、ビルスキーア少将は苦笑して呟くように言った。

「予想外の事は戦いにはつきものってことだよ、艦長」

その言葉に、艦長は表情を引き締めて頷いた。

それと同時に、この司令官を頼もしく感じ始めていた。


「敵艦発見しました。数は一。どうやら警戒の為に先行させていたようです」

軽巡洋艦那珂の付喪神の言葉に新見准将は頷きながら口を開く。

「なかなか基本をわきまえている司令官のようだ。これはちょっと苦労するかもしれないな」

そして腕を組み、自分が率いる特務水雷戦隊の戦力を考える。

軽巡洋艦二隻と駆逐艦十一隻。

軽巡洋艦一隻と駆逐艦三~六隻で、普通の水雷戦隊は構成される。

だから、数的に見たら二個水雷戦隊の戦力だ。

だが、主力の駆逐艦九隻は、雷撃戦よりも対空能力重視の秋月型というのがネックだった。

決して性能が他の駆逐艦より劣っているわけではない。

それどころか、他の駆逐艦よりも索敵能力や警戒能力は向上しているといっていいだろう。

火力では口径は12.7から10センチと小さくなり1発あたりの砲弾の威力は下がったものの、発射速度は他の駆逐艦の採用する12.7センチの毎分約十発の約1.5倍に当たる毎分十五発近くとなり対空に関しては他の追随を許さないし、この世界の一般的艦に対しても被害半径を考えるとほぼ変わりない。

ただ、敵大型艦艇に対抗する為の雷撃能力が大きく落ちている。

フソウ連合の標準的な駆逐艦が魚雷発射菅二基を持つのに対して、秋月型は魚雷発射菅は一基のみだ。

そして、敵艦隊には、大型艦がいる…。

テルピッツよりも小型という事だが、砲撃で沈められるとは思えない。

そうなると雷撃能力が重要になる。

「よし。二列複縦陣。右は本艦が先頭に立つ。第十駆逐隊、第一防空駆逐隊続け。左は夕張を先頭、第二、第三防空駆逐隊はその後に続け。挟み込んで叩くぞ。ただし、雷撃はなしだ。周りの艦艇を削ったあとに大型戦艦に対して集中雷撃をおこなう」

「了解しました。各艦に命令伝達急げ。それとまずは露払いに前方の敵艦を沈めるぞ。砲撃戦用意」

那珂の命令に艦内が慌しくなる。

乗組員達は皆やる気に満ち満ちていた。

それはそうだろう。

彼らは今までこういった戦う機会に恵まれなかった。

だからこそ、今、その鬱憤を晴らし、自分たちの優秀さを示すこのチャンスを逃したくないのだ。

「やる気に満ち満ちているのはうれしいが、いいか、みんな、緊張しすぎるなよ」

新見准将は苦笑しつつ、そう追加の命令を出したのだった。

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