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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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テルピッツの最後

部下達の殺気だった視線に負けてアデリナは回頭の命令を出す。

しかし、さすがは『黄金の姫騎士』と呼ばれるだけはあるといえるだろう。

彼女は最上の動きを見て魚雷が来ると読んで回頭を中止させ、艦の速力を落として敵艦と垂直になるように命令を変更。

面積を小さくする事で魚雷を避けるよう選択する。

その指示は普段の海戦ならある意味正しいが、今の状態では最悪のものだった。

彼女は、それでも回頭すべきだったのだ。

或いは、そのまま回頭せずに最上に向けて突き進めばよかったのだ。

だが、もう彼女は選択してしまった。

もしアデリナが、最上が左右にある船らしきものをテルピッツへの牽制もせず砲撃で撃沈していたか、或いは今までジグザグで逃げていたのにあえて危険を犯してまで直線の逃走に変えたのか疑問に思ったらまた別の命令を出していたであろう。

しかし、彼女は戦いによってたまったイライラや鬱憤を晴らすという感情を優先し、状況を把握して考える事を怠っていた。

それは、相手を舐めきった為に起こったことでもある。

彼女はテルピッツの力に過信しすぎていた。

しかし、それは仕方ない事なのかもしれない。

前回の戦いが、王国との大海戦があまりにも一方的過ぎたのだ。

それゆえに自信過剰となり、フソウ連合でも楽勝と思ってしまっていた。

ゆえに…この選択は…テルピッツの運命を決めた。

「よしっ、魚雷は避けたわね」

アデリナは、微かだが魚雷の航跡がテルピッツの横を通り抜けていくのを確認し叫ぶ。

「はっ。魚雷本艦の横をすり抜けました。おそらく…六本です」

先ほどの牽制の際の事を考えれば、もう魚雷攻撃はないだろう。

そう読んだアデリナは、中止していた回頭を再開させる。

まだ後方では戦いが続いており、今は砲撃戦へと移行している。

あれぐらいの敵なら、テルピッツだけで十分、蹂躙できる。

そう確信し、ニヤリと笑みを浮かべるアデリナ。

そして、その様子を冷めた目で後ろから見ているノンナ。

今の彼女からは主を敬う雰囲気は微塵もなかった。

そして、回頭しかけた時、監視の兵は艦の周りになにやら浮遊するものを発見した。

潮の流れによって動いているのだろう。

それらは波に寄せられ、艦に近づいてくる。

さーっと監視の兵の顔から血の気が引いた。

もしかしたら…これは…。

だが、声をあげる事はできなかった。

口を開けようとした瞬間に艦首に爆発が起こったからだ。

派手な爆発音が響き、艦がいままでにないほど大きく揺れる。

それは艦があげた悲鳴のように聞こえた。

艦橋でも揺れによってほとんどの者が床に投げ出されていた。

唯一、咄嗟に椅子にしがみついたアデリナとノンナを除いて…。

「状況報告っ!!敵が砲撃してきたの?」

アデリナのヒステリック気味な声が響く。

「艦首に爆発発生。どうやら敵の砲撃ではありません。敵艦、速力を落としつつも戦線を離脱していきます」

「ならっ、原因…」

そうアデリナが言いきらないうちに今度は艦尾の方でも爆発が起こった。

再び大きく揺れて立ち上がりかけていた兵達は、再度床に叩きつけられる。

今度は油断していたのだろう。

アデリナも床に叩きつけられていた。

金髪が乱れ、痛む身体を押さえつつ、それでも悲鳴を抑えてなんとか椅子にしがみつくように座るとアデリナは言い切れなかった命令を言い直す。

「原因は何っ…。それと被害報告をっ」

その声に監視の兵が悲鳴のような叫びを上げる。

「艦の動きを止めてください。危険ですっ」

まるでその叫びにあわせるように艦の動きが止まった。

それで少しほっとしたのだろう。

さっきの悲鳴のような声ではなく、普段に近い声で監視の兵は言葉を続ける。

もっとも、それでもかなり興奮気味ではあるが…。

「海面近くに何か浮いているものを発見しました。その物体が今本艦の周りにいくつも浮いています…」

「それで…?」

「多分…それらは機雷だと思われます…。よって…本艦は……現在……多数の機雷に囲まれてしまっています…」

段々と尻つぼみに監視の兵の声が小さくなっていく。

言いながら、自分でもやっとどういう状況か再度理解したのだろう。

その顔は引きつっていた。

「突破口は?」

ノンナが落ち着いて聞きなおす。

「残念ながら…。完全に機雷群のど真ん中です」

そしてその後に被害報告が入る。

「艦首部分完全に大破。およそ、艦首から十分の一程度のあたりまでを失いました」

「艦尾部。爆発により機関の一部と舵の一部が破損。方向転換時の切り替え、及び速力大きく低下します」

まだ戦える…。

まだ動ける…。

しかし、それがどうしたというのだろう。

この現状でどうすればいいというのか。

誰が考えても、この機雷の中をこの巨体がこれ以上の被害を受けずに突っ切る事はほとんど不可能だった。

ノンナは、なぜ敵が左右にある船らしきものを破壊しながら進んだのか、なぜジグザグから直線的な動きになっていたのか、その理由を理解した。

ここまでしてやられるとは…。

アデリナの指揮の不味さもあっただろう。

前回の戦いがあまりにも圧勝しすぎで相手を舐めて油断しきっていた事もあるだろう。

だが、それ以上に、敵の策に、地の利を生かした戦い方に負けたといっていいのではないだろうか…。

「お嬢様…」

ノンナがアデリナに声をかける。

「いやっ…」

アデリナの口から即答で拒否の言葉が出た。

「もうチェックメイトです。どうしょうもありません…」

「いやっ…」

「ですが、もうこの艦は使えません…」

「そんなことない。まだこの子は戦えるっ。まだ敵を殺せるのっ」

駄々をこねる子供のようにいやいやと首を振るアデリナ。

しかし、打開策は一か八かこのまま進み、運に天を任せて突破を試みるぐらいしか手がない。

「仕方ありません…。誰か手を貸してください」

「な、何をするのっ、ノンナっ…貴方っ…うっ…ぐぐっ…」

ノンナの声に、二人の男が無言でアデリナを押さえ込み、拘束していく。

もちろん、口には猿轡をして…。

運び出される主人を見送った後、ノンナはため息を吐き出し、命令を下す。

「カッターの用意を…。総員退艦っ。すぐにでも後方の艦隊に合流して撤退します。なお、本艦は放棄。弾薬庫に時限式の発火装置を設置して自沈させます。それでは作業にかかってください」


そして、三十分後…。

日が沈み始める夕焼けの中、テルピッツは巨大な爆発を起し、周りのいくつも機雷を巻き込んで沈没していく。

王国の名だたる艦船を蹂躙し、無敵を誇った艦の…実にあっけない最後だった。

そして、しばらくその光景を唖然としてカッターやボートの上で見ていた乗組員達だが、自分達がまだ機雷群の中にいる事を思い出したのだろう。

慌てて機雷に近づかないように気をつけながら、後方の艦隊に向かいつつあった。

しかし…彼らが合流を目指している艦隊も、今やかなりの損害を受け、ボロボロになってしまっていた。

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