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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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第二次シマト諸島攻防戦  その3

無事に味方が機雷群を抜けて離脱したという報告をうけ、牽制を中止して逃走に入って引き離そうとする最上だが、テルピッツはそうはさせじと喰らい付く。

速力だけの比較なら最上の方がはるかに上だが、最上は砲撃を避ける為にジグザグで逃げるが、それをテルピッツは直線で追うために距離は開かない。

それどころかじりじりと肉薄してくる。

「くそっ、しつこいな…」

的場少佐が舌打ちをする。

このままでは、機雷源の突破口にテルピッツも入り込んでしまい、機雷源の前に足止めして後ろから雷撃戦をして殲滅するという作戦がおじゃんになってしまう。

ならどうするか…。

迷っている暇はない。

ならやる事は一つだ。

そう決心した的場少佐は、命令を発する。

「突破口に入り次第、順に機雷源の突破口を形成しているコンクリート船を爆破しろ」

的場少佐の命令に、艦橋にいた彼の幕僚の一人が悲鳴のような声を上げた。

「少佐っ、それでは我々は機雷源に閉じ込められてしまいます」

その声とは反対に、的場少佐は落ち着いた声で答える。

「大丈夫だ。爆破したからすぐに突破口が閉まるわけではない。機雷は波によって少しずつ本来の位置に戻る。その差をつかって突っ切る」

だが、それはあくまでも予想でしかない。

ましてや、荒波で海は荒れている。そううまくいくだろうか。

そんな考えが頭を過ぎったのだろう。

「そんなのは無理っ」

否定する悲鳴のように声が響きかけるが、それ以上の声が無理という部分をかき消した。

「やってみなきゃわかんないだろうがっ」

声の主は最上だった。

そして、最上が的場少佐を正面から見て言う。

「少佐、任せてください」

その表情は、普段のにこやかな彼とは思えないほどの真剣さだった。

その顔を見て的場少佐は微笑む。

「ああ、俺はお前を信頼しているからな」

だが、それで納得できないのだろう。

「嘘だろう?!そんなことでどうにかなるわけがないんだっ、こんなの馬鹿げているっ」

さっき否定の発言をした幕僚の一人がうるさくわめきたてたが、すぐに艦橋にいた乗組員の二人がその男を拘束して連れ出していく。

わめき声がだんだんと小さくなっていき、そして聞こえなくなった。

「少佐、彼は少佐の幕僚としては失格ですね」

最上の副長がニヤリと笑って言う。

的場少佐は苦笑いをすると「そうみたいだな…。配置転換をお願いするか…」と言って頭をかいた。

多分、自分の方が無茶を言っていると自覚があるのだろう。

だが、この場合、無理を通さねば死あるのみなのだ。

その判断をあの男は出来なかった。

多分、普段はすごく優秀な男なのだろうが、現場に向いてなかった。

それだけなのだ。

やはりこういったギリギリの時に力を発揮するのは、その人の持つ心の強さなのかもしれないな。

的場少佐はそんな事を思いつつ、指示を出す。

「では、一番、二番、三番主砲はすれ違いざまにコンクリート船を攻撃して撃破しろ。続いて高角砲と四番、五番主砲は、打ち漏らしを確実に潰せ。爆薬がセットしてあるからあっという間に沈没するはずだ」

「テルピッツへの牽制は?」

「構うな。やつに構う暇があるなら、確実にコンクリート船を沈めて機雷源突破に集中するんだ」

「了解しました」

「まもなく、機雷源に入ります。左右にそれぞれ六隻。計十二隻となります」

「各砲塔、対応急げっ」

指示にあわせて、左舷には、一、三番主砲と四番主砲が、右舷には、二番主砲と二基の広角砲、それに五番主砲が担当として動き始める。

後はいかに確実にコンクリート船を潰しつつ、塞がる前に機雷源突破口を突き進むかだけだ。

だが、ここで彼らは一つのミスをする。

突破口を突っ切る間…。

短い間だけとはいえ、直線に動く事になるという事を…。

そして、それをアデリナは見逃すはずもなかった。


「敵艦、ジグザグから直線的な動きに変わりました。そして、なにやら左右にある船らしきものを攻撃しつつ逃走しているようです」

その報告に、艦橋にいたもの全員が不思議そうな顔をする。

動きが直線になったという事も変だが、左右にある船らしきものを攻撃しているとはどういうことだろうか。

だか、アデリナはそんな事を考えるどころか楽しそうに笑っていた。

「ふふふふっ。そんなにこの子の主砲を味わいたいのね。いいわよ。味わわせてあげる。一番、二番主砲。しっかり狙いなさい。もしこれで逃がしたら殺すわよ」

その言葉に、一瞬、沈黙が当たりを支配する。

この女ならやりかねない。

その場にいた全員がそう思っていた。

だからこそ、何も言えず唖然としてしまっていたのだ。

「どうしたのっ?復唱はっ!!」

「は、はっ。一番、二番主砲、前方敵艦狙います」

乗組員の声に、アデリナはイライラして噛み付く。

「よろしい。さっさと始めなさい」

「は、はいっ」

そして、一番、二番主砲が火を吹いた。

しかし、至近距離にいくものの当たりはしない。

「何やってんのよ。当てなさいよ」

アデリナのヒステリックな声が響く。

そしてそのヒステリックな叫びのおかげだろうか。

ついに主砲の一撃が最上を捕らえた。

最上の飛行作業甲板に爆発が起こり、その余波を受けて四番砲塔、五番砲塔の動きが止まる。

「やったわ。やるじゃないのっ。さっさと次々に当てていきなさい」

その言葉に答えるように、テルピッツの主砲が火を吹く。

そして、数射しただろうか。

続けて艦橋付近に爆発が起こり、最上の艦体がぐらりと揺れながら破片をあたりに撒き散らしていく。

それに機関にも支障をきたしたのだろう。

段々と速力が落ちていくが、それでも動きは止まらない。

だが、船尾に三発目が当たり、艦体が右に傾く。

速力もすでに二十ノット以下になっていた。

そして、艦から流れる黒い煙が損傷がかなりのものである事を物語っている。

「ふふふっ。さぁ、一気に沈めてやる」

アデリナがそう言ったその時だった。

テルピッツの後方でいくつもの爆発音が響く。

慌てて艦橋にいた全員の視線が後方に向けられ、その視線の先にはただ沈められていく帝国艦隊の姿があった。

「な、なにっ、どういうことなの?」

アデリナの問いに、観測員が叫ぶ。

「敵艦隊が後方から襲い掛かってきたようです。恐らく、例の見えない魚雷での攻撃だと思われます」

まるで、紙の船に火をつけるかのように帝国の誇る重戦艦、戦艦、装甲巡洋艦が沈んでいく。

テルピッツばかりが先行しすぎ、艦隊との距離が大きく離れすぎていた。

その結果、付いていくのがやっとの艦隊は、島影に隠れていた野辺大尉率いる軽巡洋艦木曽、駆逐艦白露、時雨と上野大尉率いる軽巡洋艦太井、駆逐艦夕立、春雨に気づくことなく通過し、後方から襲撃を受けたのだった。


「各員、的場司令と最上の奮戦を無駄にするな。一気に決めるぞ」

軽巡洋艦木曽の艦橋で野辺大尉が叫ぶ。

「今こそ、我々が止めを刺すぞ。これ以上、最上に傷を負わせるな」

軽巡洋艦大井では、普段の冷静沈着であるはずの上野大尉が叫んでいた。

彼らの声は、無線で攻撃に参加したすべての艦内に流された。

目の前で仲間の為に無茶をした的場司令の乗艦する最上の姿を見せられ、この叫びである。

士気が上がらないほうがおかしい。

まさに兵士達の士気は一気にピークへと達した。

そして、飢えた狼の群れが無警戒の羊の群れに襲い掛かるように北方方面艦隊が一気に畳み掛ける。

その勢いの前に、数の有利などないに等しい。

次々と帝国の艦艇が沈められていく。

今、まさに第二次シマト諸島攻防戦の決着がつこうとしていた。

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