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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第九章 ヒュドラ作戦の終決

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決戦へ

今のところはなんとか互角といえる戦いを繰り広げられていた北方方面艦隊ではあったが、何度も行われた一撃離脱の波状攻撃で若干ではあるが被害が出始めており、また、かなり精神的な負担の大きい戦いであった。

数の差がじわじわと出始めており、また圧倒的な火力はプレッシャーとしてはかなりきつい。

だが、それを北方方面艦隊は質と地の利で何とかしている。

それが現状である。

早朝の五時に戦いの火蓋を切ってからすでに十時間は過ぎており、予定どおりなら今頃は連合艦隊第三艦隊と本島、北部基地航空隊と協力し、さらに長引いたとしても連合艦隊第一、第二艦隊も合流して敵を撃退しているはずだった。

しかしである。

現実はそう計画通り、思ったとおりにはならない。

俗に言う予定は未定となってしまっている。

その最大の理由は、一人でやっているのではなく、敵という相手が居るためだ。

相手の動きを読み、それを制する。

それが完全に出来れば問題ないのだろう。

しかし、現在、敵の策によって当初の計画は大きくズレてしまっていた。

真っ先に合流する連合艦隊第三艦隊と本島航空隊は、首都を狙う共和国艦隊の一部に対応するために別の海域へと向かった為に北方方面艦隊と合流できる時間は今のところ予測できない有様になっている。

また、連合艦隊第一艦隊は、敵艦隊殲滅任務中であり、早めに動いた第二艦隊がこちらに向かっているが補給等で時間がかかっており、あとしばらくは時間がかかるだろう。

つまり、今のままでは戦力の増援は望めない状況となっていた。

それに不運な事が重なる時は、重なるものである。

昼過ぎから天候が崩れ始め、主戦場となっているシマト諸島は嵐となっていた。

その為に北部基地航空隊の発進が遅れているのである。

「弱ったな…、これは…」

揺れる軽巡洋艦最上の艦橋で海図を睨みつつ的場少佐は呟く。

今ある戦力を考えて、機雷源に誘い込んでの敵艦隊への雷撃戦で決着をつけようと考えていたが、波が荒れて思ったように機雷設置が進んでいない為だ。

このままでは作戦通り実施するのにはなかなか厳しい。

いや、多分、間に合わない。

さて…どうすべきか…。

そう思って腕を組んで考え込んでいた的場少佐に最上の付喪神が声をかける。

「的場少佐、いっそのことこうやったらどうでしょう?」

そう言って説明を始めたのは、以前の戦いで用意していた機雷群を活用する方法だった。

「この島と島の間は機雷群が設置してありますよね。そこに相手をおびき寄せて、後ろから魚雷で一気に攻撃を仕掛けるのは?」

確かにその方法なら、機雷設置が終わるまで待たずにすぐにでも出来るだろうが、その場合、相手をおびき寄せる囮がかなりやばい事になりかねない。

コンクリート船と機雷防護網を使う事で、機雷群の間に逃げ道は作れるだろうが、この荒れた海では安定させて退路を確保するのはかなり難しいだろう。

もしうまくいかなければ、袋の鼠であり、下手すると味方の魚雷に当たる可能性もあった。

実際、太平洋戦争では迷走した魚雷での被害が意外とある。

それらを考えれば囮の負担はかなりのものになる。

「まぁ、この場合、囮はかなりの度胸と精度の高い動き、それに場に合わせた適切な指示が必要ですね」

そう言ってニヤリと笑う最上。

「つまりは?」

そう的場少佐が聞き返すと、「そういうことです」と返事が返ってきた。

要は、私達なら問題ないですといいたいのだろう。

「かなり危険な戦いになるぞ」

「ふふっ。望むところですよ」

「下手したら、閉じ込められる可能性だって…」

「要は、閉じ込められないようにすればいいんでしょう?それにいざとなったらうまく立ち回りますよ」

そう言って、最上は楽しそうに笑って的場少佐に言う。

「それに、私には、状況判断に優れた相棒がいますからね」

「それは俺の事か?」

「もちの論です」

そう言い切って笑う最上。

だから、もう言う言葉は他にはなかった。

「よし。やってやるか」

「はい。お任せあれ」


「作戦変更だと?」

「ええ。この天候で機雷設置が間に合わないそうです」

木曽にそう報告を受けて野辺大尉は考え込んだ。

その様子を木曽は楽しそうに見ている。

彼の乗艦になってからそれほど時間が経ってはいないものの、彼の成長の早さには驚かされる。

なんとか的場少佐のご希望に答えられそうだな。

そう思っていると、野辺大尉は考えながら木曽に聞き返す。

「補給の方はどうだ?」

「ほぼ終わっております」

「そうか…。しかし…」

そう言って呟くように言う。

「俺には怖くて決断できんぞ、この荒れた海の中、機雷群を突破なんぞ…」

その言葉に、木曽は答える。

「まぁ、普通の感覚なら、危険すぎるでしょうね。ですが…」

「ですが?」

「今はそれしか手がないという事と、何より彼らは互いの事を信頼し、成功するという信念があるんでしょう」

そう言われて、野辺大尉は少し悔しそうな顔をして聞き返す。

「なら、俺らはどうだ?」

そう聞かれて、木曽は少し考えるような素振りを見せた後、苦笑して答えた。

「そうですね。まだまだといったところでしょうか…」

「だよなぁ…」

野辺大尉は苦笑いをしてそう言った後、言葉を続ける。

「しかし、まだ諦めないからな。だから、木曽、俺に付き合えよ?」

「ええ。喜んで付き合いましょう」

木曽はそう言って楽しそうに笑い、それに釣られて野辺大尉も笑っていた。


艦隊編成を終えたものの、天候が荒れた海が視界を悪くしている。

いくらテルピッツといえどかなり揺れており、乗組員の中には顔を青くしているものさえいた。

「お嬢様、艦隊編成終わりました」

その報告をノンナから聞き、アデリナは命令を下す。

「では進撃を開始しなさい。敵艦隊を壊滅するわよ」

「お嬢様、目的は、敵艦隊殲滅だけではありません」

ノンナがそう言うと、少し拗ねたような顔をしてアデリナは言葉を返す。

「わかっているわよ。さっさと潰して第二艦隊に合流したいから言ったの。今頃は支援艦隊は上陸作戦を展開してるはずだから、フソウ連合も慌ててるでしょうね」

くすくすと笑う笑顔は実に美しくて花のように可憐ではあるが、時折細められる目と釣りあがる口角が冷たい印象を与える。

まさに、宝石で作られた花のような笑みと言っていいだろう。

そして、それに相応しい言葉が口から出る。

「フソウ連合の民だなんて。みんな根絶やしにしてしまえばいい…」

さすがに不味いと思ったのだろう。

ノンナが慌てて言う。

「お嬢様、そういう言葉は…」

「わかってるわよ。でもね…それが私の本音だから…」

楽しそうにそう言葉を返すアデリナ。

ふうとため息を吐き出すノンナ。

その表情には諦めがにじみ出ていた。

「気をつけてくださいませ。下手をすると…」

「はいはい。気をつけるわよ」

軽い口調でそう返事をするアデリナに、ノンナは言っても無駄だと悟る。

「そういえば、もう十五時を過ぎております。何か軽い食べ物でも用意いたしましょうか?」

そう言われ、思い出したかのようにアデリナは時計を見た。

作戦が始まって、十時過ぎぐらいに軽く食べてから、何も口にしていない。

「そうね。お願いするわ」

「わかりました。それと、艦内の者達にも軽い食事を用意させましょう。構いませんよね?」

ノンナの言葉に、アデリナは興味なさそうに答える。

「まぁ、その辺は興味ないから任せるわよ、ノンナ。適当にしておいて…」

「はい。承りました」

そう返事をするとノンナは頭を下げて艦橋をあとにした。

その顔に浮かぶ表情は、位置が悪かった為に誰も見る事は出来なかったが、そこに浮かんでいるのは侮蔑の表情だった。

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