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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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イタオウ事変  その3

意識がゆっくりと肉体に戻って来ている感覚と一緒に、身体を揺すられる感覚を感じて、三島小百合は薄っすらと瞼を開く。

細く写る視界には、彼女を抱き抱えて声をかける川見中佐の姿があった。

その表情は、焦りと何かを失う恐怖に震えているように見える。

「しっかりしろっ。三島くんっ」

今まで聞いた事のない必死な声が耳に入る。

あー、なんかいいなこういうのも…。

少しこのままでいいかもなぁ…。

そんな事を思いつつも、すぐにさすがに心配してくれる相手に失礼だろうと思いなおして、三島小百合は一度瞼をつぶったあとに、今度は相手にわかるようにゆっくりと開いた。

今気がつきました。

そんな感じに見せる為だ。

「よかった。心配したぞ」

そう言いつつ、ほっとしたような安心した表情の川見中佐。

それはどれだけ心配させたのかの裏返しでもある。

それをうれしく思いながら微笑み返す。

「ええ。何とか大丈夫です。よっと…」

そう言って、三島小百合はなんとか身体に力を入れようとするが、思った以上に疲弊していたのだろう。

少しよろけてしまう。

慌てて川見中佐が支えなおす。

その顔に浮かぶのは心配そうな感情だった。

「無理はするな」

その言葉に、三島小百合は素直に従う事にした。

「はい。わかりました…」

そう言って役得とばかりに川見中佐に身体を預ける。

びくんと川見中佐の身体が反応したが、その後は何もない風を装っていた。

なんかかわいいな…。

そんな事を思っていたが、目に入った床の血の染みでさっきまでの状況を思い出す。

「中佐、魔女は…」

「ああ、逃げられたよ。向こうからも見えていた…」

申し訳なさそうな顔でそういう川見中佐だったが、すぐに頭を下げた。

「すまなかった。君がそんなになるまで作ってくれたチャンスだったんだが…」

「仕方ありません。転移されたんなら、もう手の打ち様がありませんから…」

そう言ってあわてて中佐の責任ではないと首を横に振る。

実際、転移ほどやっかいな魔法はない。

確かに、一度その場所に行って、位置を把握する護符や魔道具を設置したりと手間隙が必要となるが、それさえきちんと設定してやれば、瞬時に逃げられてしまう為、捕獲や射殺するのにはかなり苦労する相手なのだ。

実際、古い文献では、外から侵入してきた転移魔法の使い手をかなり苦労して倒したという記述がある。

もっとも、それも数百年も前、結界が張られる前の事だから、参考程度にしかならない話ではあるが…。

ともかく、厄介な相手である事は間違いない。

だが、である。

あの狙撃によってかなりの深手を与えたのは間違いない。

あの傷なら、下手したら転移先で死亡、生きていたとしても治療にかなりの日数を必要とするだろう。

当面、動きを抑え込んだという事とその間に対抗策を取るための時間を稼げたという事を考えれば、うまくやった方だと思う。

だから自然と言葉が出た。

「今度は、もっと準備をして二人で魔女をやっつけましょう」

その三島小百合の言葉に、川見中佐はきょとんとした顔をした後、笑いつつ頷く。

「ああ、その通りだ」

その笑顔を見つつ、三島小百合は思う。

最初のころはいつも無感情の表情だったのに…。

少しは私の事、認めてくれたのかな。

そんな事を思いつつ、「頑張りましょう」と返事をして抱きついた。

やってしまった後、あ、少しわざとらしいかなとも思ったが、川見中佐は黙って抱き返してくれた。


イタオウ地区でおこった暴動は、魔女が姿を消して三時間後には軍によってほぼ鎮圧された。

暴動を煽っていたもの達がいきなり次々と倒れ、呆然としている暴徒達に軍が警告を発して襲い掛かったのだ。

もちろん、銃は使われず、警棒や盾などが使われたためかなりもみくちゃになって手間がかかったものの、煽っていたかなりの暴徒が逮捕され、勢いで参加していた者たちも蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまった。

もちろん、煽っていた一部の暴徒の中には帝国のスパイもいたが、彼らは抜け目なく軍の手からは逃れられたものの、結局は後日フソウ連合海軍諜報部によってほとんどが捕縛されてしまう。

こうしてイタオウ事変は、帝国軍の上陸を阻止し、暴徒鎮圧が成功した事で収まったものの、イタオウ地区の被害は大きかった。

暴徒によって襲われた商業施設や民間施設は完全に荒らされ、襲われた主要公共施設はそのほとんどが破壊された。

その被害金額は、ざっと出はあるがイタオウ地区の年間予算の実に十三倍近くになる。

また、暴走した集団によって引きずり出され、集団リンチの被害者になったものもいた。。

そして、その被害者の中にはイタオウ地区の責任者橋本公男の名前もあり、すぐに病院へ運ばれたものの半年近くはベッドから起きれない生活を送る事となるだろう。

もちろん、そうなったのは彼一人だけではない。

不正をしていた役人や政府関係者はほとんどが似たような状況だった。

つまり、イタオウ地区の政府機関は施設も人もなくなってしまい、完全に停止してしまったといったほうがいいだろう。

その為、事態を重く見た第一旅団の旅団長羽場少佐は、一時的ではあるが、フソウ連合海軍が地区を統制する事を発表した。

だが、反発を受ける恐れがあると思われたが、領民はその決定を大歓迎して受け入れた。

どうやら、映画を使った広報の成果だろう。

また、帝国の上陸部隊を攻撃した部隊や後から上陸した部隊を素早く動員し、治安回復や復旧、後処理をすぐに始めたのがよかったようだ。

こうして陸上ではなんとか落ち着きを取り戻し、少しずつではあるが復旧が始まりだしたイタオウ地区だがすべてが終わったわけではない。

まだイタオウ地区の北部海域では艦隊同士の死闘が繰り返されていた…。

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