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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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魔女 対 魔術師 その2

三島小百合はドアノブを握った後、すーっと深呼吸をして精神を集中させた。

そして、ゆっくりとドアノブを回してドアを開ける。

「ふふふ…。いらっしゃい…」

準備万端で待ち構えていたのだろう。

この部屋の主人である美女がソファから立ち上がり、こちらを見て微笑んでいた。

すごい美人だと思う。

気が強そうなのが玉に傷だが、それを差し引いても見とれて惚れる男は数知れないだろうな。

そんな事が頭に浮かぶものの、すぐに我に返った。

ドアを開けた瞬間、部屋から濃度の高い魔力があふれ出して肌をビリビリと刺激したのだ。

来る途中に感じた魔力とは桁違いで、まさに化け物と言っていいだろう。

三島本家のあの方よりも下手したら魔力は高いかもしれない。

すーっと、背中を汗が流れる。

恐怖と不安に心が揺れるが、それを顔に出さずに微笑むとゆっくりと部屋の中に入った。

部屋の中は、さすがにここ最近出来た一番高い豪華な部屋に相応しく、品のいい豪華な家具が並んでまるで別の空間のようだ。

壁一枚の外で暴動が起こっているのか嘘のような感覚さえ抱かせる。

とろりと何かが思考に絡み付いてくる感覚。

それに襲われ、三島小百合はすーっと息を吐き出し、思考を動かして気を集中する。

思考が遅くなること。

それはより洗脳しやすくなるという事なのだ。

だからこそ、催眠術や洗脳は朦朧とした意識の中で行われる事が多い。

人の脳は、実に繊細で、そして簡単に書き換えされてしまうものでもあるのだ。

だからこそ、刺激や思考の回転は大事なのである。

「これはこれは御丁寧に…」

三島小百合はそう言って少し頭を下げて微笑む。

背中は汗で気持ち悪いくらいに濡れていたが、そんな素振りを見せるほど愚かではない。

そしてゆっくりと部屋にはいると魔女と対峙した。

「よくここがわかったわね」

アンネローゼは目の前の女を値踏みするような視線を向けつつ聞く。

「ええ。あなたの魔力は独特ですからね。ねっとりと絡みつく感じがして…すごく不快なのよね」

ニコニコと笑いつつ言い返す。

「あら、そうかしら…。そんな事を言う人はあなたが初めてね。でもね…」

一気にアンネローゼの魔力が膨らむ。

圧倒的な力がビリビリと三島小百合の肌を焼くように圧迫し、拒否感を現すように鳥肌が立つ。

危険…。

逃げろ。

本能がそう告げているが、それでも三島小百合は動かない。

それどころか、にやりと笑ってみせる。

自分では、この魔女には勝てない。

魔力の量も質も圧倒的に違いすぎる。

ただ、それでもまだ立っていられるのは、彼女が対魔術師のエキスパートであり、魔法の解除や感知に長けているからだ。

現に彼女の周りには、魔力解除の薄い防護膜が形成されている。

しかし、それがあったとしても微々たるものだろう。

それ以上に彼女を支えているもの。

それは…。

すーっと一瞬だが、左手の薬指の指輪を意識する。

そこからは波動が微かだが感じられる。

あの人がいる。

そう思うだけで、崩れ落ちそうになりつつあった身体に力が戻ってくる。

あの人は、異性というハンデがあって私よりも不利であったにも関わらず、それでも耐えてみせた。

なら、私もこんな女に、意地でも屈するものか。

女の意地を見せてやるから…。

自分を奮い立たせると今やるべき事に集中する。

そして、いつの間にか彼女は微笑んでいた。

そんな三島小百合を不思議そうにアンネローゼは見る。

この魔力の中、意識を保つのは至難の業だ。

なのに、この女はそれだけではなく、笑っている。

どう考えても格下と思っていた相手に驚かされてしまっていた。

しかし、それまでだ。

自分はまだまだ余裕があるが、この女にはもうそんな余裕はないだろう。

崖っぷちなのは彼女の顔色を見ればわかる。

真っ白になっている顔色と鳥肌。それに大量の汗。

あれは完全に魔力に身体が拒否反応を起している証だった。

もう少し力を強めれば、簡単に倒せる。

そう思ってアンネローゼは一気に魔力を解き放つ。

今までが一であれば、何倍、いや何十倍と言ってもいい大きな魔力だ。

それが一気に開放された。

その瞬間だった。

ニヤリと三島小百合が笑う。

さっきまでのやせ我慢の微笑とは違う。

してやったりという笑みだった。

開放された魔力が一瞬渦を巻く。

その瞬間に、彼女は右手に隠し持っていた石をピンと軽く上に放り投げる。

魔法発動に使う触媒の一種で、一時的に魔法の流れを大きく変える魔晶石の一種だ。

色は…赤。

紅色と言ったほうがいいほどの真っ赤な赤だ。

「その色はっ?!」

放り上げられた石の色を見てアンネローゼは愕然とした。

あの石は、一旦魔力を集めるとそれを倍増し解放する。

結界や領域の流れを変えたり、破壊したりする時に使うものだ。

その上、石にはなにやら文字が彫られているのだろう。

うっすらと白いものが石の表面に光っている。

「たっぷりと私の魔力と術式を染み込ませ、刻んでますからね…」

ふらふらになりながらも、彼女は発動の呪文を口ずさむ。

そして術が発動する。

魔力が一気に石の周りに凝縮され、無色であるはずの魔力が黄色く見えるほど濃くなり、そして、一気に内側に向っていた魔力が外側に放出された。

それはまさに暴風雨といっていい勢いだった。

まるで鋭利な刃物で切られたように肌には無数の切り傷が作られ、二人とも部屋の隅に飛ばされた。

それだけではない。

家具も一緒に飛ばされ、壁には無数の傷がつき、窓ガラスは全て中から割れた。

入口近くに飛ばされた三島小百合は壁に叩き付けられ、そしてアンネローゼは窓際に飛ばされる。

それでもなんとかアンネローゼは立ち上がった。

とっさに魔力を纏い自分自身を守ったのだ。

しかし、そんな余裕も魔力もない三島小百合はかなりのダメージを受けているようだった。

ずるりっ…。

身体が力なく床にずり落ちる。

しかし、その目にはまた光があった。

意志の強い光が…。

「驚いたわよ、お嬢ちゃん。まさか、結界壊しに使う触媒をこんな風に攻撃に使うとはね…」

そう言って体の関節をコキコキと鳴らす。

どこも異常はないのを確認する為だ。

そして、まだ動きの取れない三島小百合に止めを刺すために歩き出した時だった。

右手を相手に向けた瞬間、右手が力を失う。

肩口に痛みが走り、暖かいもので濡れていく感覚が広がっていき、服の肩辺りから赤く染まっていく。

「えっ…」

さっきの暴風雨のような魔力の為か、キーンと高鳴りが続いていた耳がやっと音を拾い始める。

微かだが、耳が捉えたもの。

それは銃の発射音だった。

そして、続けて右足の太ももに痛みが走る。

白い肌が真っ赤に染まり、床に赤い染みを作っていく。

がくんと力が抜けて、アンネローゼはその場に崩れ落ちて倒れこむ。

なんとか身体を起こし、微かに聞こえた音の方に視線を向け、視力を一時的に上げる呪文を発動させる。

その音の先、とあるビルの屋上には、彼女の良く知っている男がライフルを構えていた。

まさか、狙撃っ…。

なんでっ。

結界があるのに…。

だが、すぐに悟る。

さっきのは…私を倒す為に使ったんじゃない。

あの女は、あの男の狙撃をさせるために…結界を壊す為にあえてあんな事をしでかしたんだと…。

「図ったわね…」

「ふふふっ。あの方との初めての共同作業が魔女退治とは、色気がありませんけどね…」

三島小百合はニタリと笑いつつそう言うと、ずるりと上半身を壁に立てかけるように起す。

怒りがアンネローゼの心を焼き焦がす。

しかし、今度は左の肩を打ちぬかれ、血を撒き散らしながら蠢くも、上半身を起こす事さえ出来なくなってしまっていた。

もはや、芋虫のように這い回る事しかできない。

魔女と呼ばれ、化け物と言われた女の惨めな姿だった。

そして、出血により意識が朦朧としてくる。

思考がゆっくりと止まりかけていく。

ああ…私はこんなところで死ぬのか…。

不安と恐怖がアンネローゼの心を蝕んでいく。

それでもいいかも…。

そう思ったときだった。

頭に浮かんだもの。

それはカワミという男の顔だった。

私を振った男。

そして、私を追い詰め、今、命を狩ろうとする男。

その瞬間だった。

諦めかけていた心に炎が揺らぐ。

その炎は、わずかではあったが、強い力があった。

このまま殺されてたまるもんですか。

遠くなりかけた意識を奮い起こし、アンネローゼはパスワードを口にする。

あのいけ好かない男の道具に頼るのはシャクではあるが、背に腹はかえられない。

たどたどしい言葉だったが、パスワードによって腕輪の力は発動する。

ゆっくりと空間がズレ初め、そして輪郭が薄くなっていく。

何度か弾がアンネローゼの身体を貫通するが、もう血は噴出さない。

ただ、床に弾のあとを残すのみだ。

そして、大きな血溜まりを残してアンネローゼの姿は薄っすらと消え去っていく。

「まてっ…」

三島小百合はなんとか邪魔をしようとしたものの、彼女も限界だった。

消えていくアンネローゼの姿を見つつ、彼女も意識を失ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 中々無理矢理にピンチを作って演出していますね〜。 普通は書類仕事よりも戦力の拡充に当てるのがセオリーなんですけど、様々な理由を付けて手足を縛ってピンチを演出していますね。 [気になる点] …
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