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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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イタオウ事変  その1

十二月二十四日 昼前…。

それはいつもの出来事のはずだった。

イタオウ地区行政府に対しての抗議デモ。

いつもの通り行政府の建物の前で集まり、集会を開いて行政府に意見文書を渡す。

ここ最近では、週に一回程度に起きる今や日常的なものに近いことのはずだった。

しかし、その日はいつもと違っていた。

集まった人の数が、いつもの三倍近かったからだ。

それに初めて見る者が大勢いた。

彼らは無言で、ただ主催者やスタッフに言われるままに行動した。

少しおかしいとは思ったものの、それだけ怒りをためているのだと判断した。

また、それ以上に今の行政府に対して不満を持つ仲間が増えたという喜びの方が大きかった。

実にデモの人数は、五百人は超えている様だった。

今までのなかで、なかったことであり、快挙と言っていいだろう。

しかし、主催者やスタッフが感じたその喜びも開始して三十分もしないうちに恐れへと変わった。

行政府施設の前でデモ隊が集まって、いつも通りの抗議のエールを行おうとした時だった。

誰が言ったのだろうか…。

「こんな事で、政治は変わるのか?」

その一声が全ての始まりとなった。

「やつらは今更こっちのいう事を聞く気なんてさらさらないに違いない。俺達の事を舐めているんだ」

文句を言う声がいくつも上がり、賛同する声が大きくなっていく。

そして、その中でも一際大きな声が響く。

「そうだ、そうだっ。俺達は馬鹿にされてるんだっ。見てみろ、あの建物の上からこっちを馬鹿にして見下している役人どもをっ」

そして運が悪い事に、窓際にはこっちを見下ろしている役人達が数名いた。

それでスイッチが入ってしまった。

怒りはあっという間に広がり、人々を先導した。

今まで何度もデモをしながら何も成果が得られなかったことも関係していただろう。

全ての今まで貯まっていた不満が爆発するのには些細な事でよかったのだ。

「やっちまぇっ!!」

その声と共に、デモ隊は暴走し、開催者やスタッフを無視して暴徒と化し、行政府施設へとなだれ込んでいった。

一応、行政府施設の入口には、警備の者がいたが、何十倍の相手に何ができるだろう。

それこそ、超人なら話は別だが、少しぐらい腕が立つぐらいではどうにもならない。

一気に突破され、ものの数分のうちに行政府施設は暴徒達に占拠された。

そして、それだけに留まらず、他の施設へと暴徒は膨らみ、たまった不満は、爆発の連鎖を引き起こし、イタオウ地区を飲み込んでいった。


「こりゃ…不味いな…」

魔女対策でイタオウ地区に来ていた川見中佐は窓の外の様子を見て苦虫を潰したような顔になった。

「すごいですね…」

隣からひょいと顔を出して窓をのぞこんでそう言ったのは、彼の直属の部下である三島小百合だ。

今や、川見中佐の専属秘書官といってもいいだろうか。

体術は素人以下だが、事務処理能力や決断力と判断力は人並み以上だし、なにより魔術師としてのかなりの腕の持ち主なのである。

魔女と戦う以上、彼女の存在なしでは何も出来ないと言っていいだろう。

もっとも、川見中佐本人は否定しているものの、周りの人間には、川見中佐の婚約者とか、奥さんとかといった方面に誤解されているようだが…。

ともかく、まわりと本人達の関係の見方は違っていたが、結構いい関係を築けていると川見中佐は思っていた。

「これって…魔女が関わっていると思うか?」

「おそらくは…。暴徒の中にあの魔女の魔力を引きずっている者たちを感じますから…。」

「やっぱりだよなぁ…」

そう言うと、川見中佐はため息を吐き出した。

政府に不満を向けるようにある程度誘導していたのは自分たちだが、それをこうもうまく利用されるとは…。

頭が痛いどころではない。

まさに、もう少しで完成だってところで横から掻っ攫われたといった感じだ。

だから、悔しさもあるが、やられたという思いの方が強い。

そんな事を思っていると、じーっと川見中佐の顔を見ていた三島小百合が聞いてくる。

「どうしますか?」

そう聞いてくる三島小百合に、苦笑して川見中佐は聞き返す。

「どうしたらいいと思う?」

その言葉に、三島小百合は驚いた表情をした後、うれしそうな顔でいう。

「中佐の思う通りでいいと思います。私は貴方の後ろについていくだけですから…」

なんか、この発言だけなら、夫を立てる妻のような台詞だなと思ってしまう。

まぁ、確かに、彼女はいい妻にはなるだろうが、今は関係ないことだ。

そう考えて思考を変え、自分が何をやりたいかを考える。

初動の時点でとめる事はできなかった以上、今の勢いのままぶつかっても双方被害が大きくなってしまうだろう。

なら、ある程度、熱を冷ましてから一気に抑える事の方がいいだろうか。

治安回復のために、ある程度の部隊配備は終わっている。

事前に長官の指示で用意しておいた戦力だ。

また、いざとなったら本島の第一旅団からの援軍も期待できる。

準備は整っていると思っていいだろう。

それに、帝国、共和国艦隊との海戦は、かなり有利に戦況が進んでいるとの報告もある。

なら、焦る必要はないか…。

そう思ったときだった。

ぐいっと川見中佐は軍服の袖を引かれた。

もちろん、引っ張ったのは三島小百合だ。

「あの女がいます…。それもかなり近くに…」

真剣な表情で、そう言って三島小百合はごくりを唾を飲み込む。

すーっと汗が流れ、頬を伝わり、床に水跡を作った。

あの女…。

つまりは魔女の魔力を強く感じたのだろう。

「どこだ?」

思わず川見中佐は聞き返す。

「おそらく…あそこのビルの一番高い階層に…」

一区画先の大きなビルを三島小百合は震える指で指差す。

「なぜわかった?」

「今、一瞬だけど、すごい魔力が感じられたんです。ほんの一瞬だから、普通だと気がつかないだろうけど、ここは私達の術式の結界内だから…」

「つまり、より感知能力が高められていたからわかったということか?」

聞き返す川見中佐に、三島小百合は頷いた。

「だが、相手もここに結界があるって事を知っているんじゃ…」

「いいえ。三島家の結界は、内にこそ力を発動するけど、外にはほとんど変化を与えない特殊なものなの。だから、多分、あの女は、こんな近くに私たちがいることさえもわからないんじゃないかしら…」

そう言って、三島小百合は思い出したかのように言葉を続ける。

「それに、あの手の女は、空気読むの出来なさそうだしね…」

それって、関係あるのか?

思わずそう突っ込みたかったが、空気を読めるところを見せたくて、川見中佐はでかかった言葉をを飲み込んだ。

もっとも、顔に出てた様で、三島小百合は苦笑して川見中佐に答える。

「魔術というのは、その人の本質をベースに力を発揮しますから。だから、結構性格に反映されちゃうんです」

「そ、そうか…」

なんとかそう答えた川見中佐だったが、その後どういえばいいのか言葉に迷う。

だが、すぐに真剣な表情に戻った三島小百合が聞いてきた。

「それで、どうしますか?」

その問いに対しては答えが決まっている。

「射殺するさ」

川見中佐は感情の篭っていない声でそういうと準備に向おうと身体の向きを変えた。

しかし、すぐにひっぱられた。

よく考えてみたら、袖を捕まれたままだ。

川見中佐はそのことで何か言おうとしたが、三島小百合の方が早かった。。

「ならこういうのはどうでしょう?」

そして、三島小百合の作戦の説明に、耳を傾けた後、川見中佐は頷いた。

「より確実にあの女を射殺できるなら、その方法でいこう…」

そう言った後、川見中佐は、三島小百合の顔を少し覗き込むような感じで聞き返す。

「だが、大丈夫なのか?」

「ええ。任せてください。敵の油断を誘ってうまくやりますよ」

少し緊張しつつも、笑顔で三島小百合は微笑んだのだった。

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