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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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日誌 第百一日目  その2

「長官、少しはお腹に入れてください。空腹ではいい考えも浮かびません」

そう言って、東郷大尉が索敵報告と簡単な作戦報告の紙を見直し、何度も何度も海図を見て唸っている僕のデスクの上に、サンドイッチとコーヒーを置く。

「もうそんな時間なのか?」

顔を上げて時計を見ると、もう十四時を過ぎていた。

本部航空隊と第三艦隊の活躍によって、首都攻略を目指した艦隊は撃退できたものの、伊-400と伊-19から連絡のあった帝国の別働隊の動きが気になっていた。

もちろん、北方方面艦隊の様子も含めてだ。

帝国艦隊の戦力が分散された事で減ったとは言え、その数は圧倒的だ。

そんな中、的場少佐は実に良くやっている。

圧倒的な戦力差を、兵器の質の差と地形を利用し、実に巧みにゲリラ戦に近い戦い方をして敵艦隊を削っている。

だが、同じ戦法はそう何度もは通用しない。

そろそろきつくなる頃だろう。

だからだろうか。

さっきの報告では、シマト諸島にてかなり大掛かりな攻撃を仕掛けるという報告が来ている。

第二艦隊は、急いでいるとは言え、多分その戦いには間に合わない。

第三艦隊にいたっては、敵首都攻略艦隊の後始末の為、もう少し時間が必要だろう。

さて、どうするか…。

腕を組み唸っているときつい視線を感じる。

なんだと思って顔を上げると、お盆を持ったままじっと僕を見ている東郷大尉がその場に立っていた。

かなり怒っているか、なんか目つきが怖い…。

どうやら、自分の言った事を無視されてしまったと思ったのだろう。

「長官っ!!」

少し大きめの声で呼ばれ、僕は思わずピンと背筋を伸ばす。

そして、苦笑するとサンドイッチに手を伸ばした。

「あははは…。腹が減っては戦が出来ぬって言うからな…。いただくよ」

そう言って、サンドイッチを食べ始めると少しほっとした表情になって東郷大尉は退室していった。

よく考えてみたら、今朝は早朝から起きておにぎり二つ食べただけだった事を思い出す。

緊張と不安で食欲がわかないと言うよりも、感じられなかっただけのようで、一口サンドイッチを口にすると空腹を思い出したかのようにお腹が鳴った。

現金なものだな…。

苦笑が漏れ、あっという間に一つ目のサンドイッチを食べ終わる。

具はオーソドックスなハムとレタスといった感じだ。

なかなかマスタードソースがいい仕事をしている。

そして、食べつつ思う。

敵は何を望んでいるのかを…。

共和国は、首都を押さえることでこの国を支配しようとしていた。

では、帝国は何を望むのか…。

帝国が望むもの。

それは勝利だ。

だが、ただ勝てばいいという訳ではないだろう。

ならどんな勝ち方を望む?

その時、王国からもたらされた情報を思い出した。

帝国は意趣返しを狙っていると…。

なら、その目標になるのは、国というよりもフソウ連合海軍の方だ。

そして、取られたものは取り返せとなるだろう。

そして魔女の暗躍…。

それらを考えた場合…。

それに当てはまるのは…。

「そうか…。そういうことか…」

僕は残ったサンドイッチを口に放り込み、コーヒーで流し込む。

そして、インターホンを押した。

「東郷大尉、すまないがすぐに第一旅団の羽場少佐を呼んで来てくれ。それと新見准将もだ」

「はい。わかりました。えっと…」

何か言い難そうな東郷大尉の口調に、僕はピンときた。

だから、感謝の気持ちを込めて言う。

「サンドイッチは美味しくいただいたよ。ありがとう」

「は、はいっ。すぐにお呼びしますっ」

うれしそうな声でそう返事をすると、インターホンは切れた。

僕は思わず苦笑しつつも、今、頭に浮かんだ考えを再度練り直し始めていた。


「本気ですか?」

十分もしないうちに長官室に来た二人に、「勝負に出る」と話すと新見准将がそう口を開いた。

「ああ、このままだと後手後手になるからね。こっちから手を打とうと思う」

「ですが読み違えたら…」

新見准将が額に浮かんだ汗をハンカチでふき取る。

別に部屋の中は暑くはない。

だが、三人とも緊張で汗が吹き出ていた。

「確かに読み違えたら、大変な事になる。しかし、運がいい事に、侵攻する帝国艦隊のうちの一つには、伊-19が張り付いていて定期的に送られている無線報告のおかげで目的地も予想できた。敵の目的の一つは、イタオウ地区の占拠だ。おそらくだが、魔女による工作と連動させて一気に占拠するつもりだろう。そこでだ。伊-19からの輸送船への攻撃を徹底させる。それで数を減らすから、二式大艇の部隊で第一旅団の精鋭を送り、敵を妨害して欲しい。もちろん、遅れることにはなるが輸送船団で増援は送る」

「しかし、それでは、本島の防衛戦力が大きく減る事になりますが…」

「多分だが、本島には攻撃はしてこないと思う。帝国の目的は北部基地だ」

「なぜ、そう言い切れるんです?」

「三つの理由からなんだけど…。まず一つは、場所がはっきりとわかっている事。情報がないところを攻撃なんて普通はしないからね。もう一つは、連中は意趣返しをやりたいという事は、取られたものを取り返す気があると思われること。北部基地は連中が一時的にせよ手に入れていたところだからね。そして最後の一つは東方方面の基地を欲している事。連中の一大拠点は、機雷でほぼ使えなくしてしまったからね。回復にどれだけ時間がかかるかわからない。なら、意趣返しを込めて、再度自分たちのモノにしてやろうと。そうすれば、我々は喉元に刃をつきたてられたようなものだからね。簡単に言うとざっとそんなところかな…。だから、回り込んで北部基地攻略を開始するんじゃないかと思うんだ」

「なるほど…」

「いわれてみれば…」

二人はそれぞれ自分なりに感心して聞いている。

「それにさ、今、あの基地は帝国との戦いでてんやわんやだからね。そんなところを攻撃されたら…」

その僕の言葉に、今度は二人とも黙り込む。

多分、想像したのだろう。

顔色がよくない。

「ともかく、敵からの攻撃を防ぐ為にも、イタオウ地区への陸戦部隊の派遣と輸送、それに北部基地への艦隊の派遣を実施したい。頼めないだろうか?」

僕が頭を下げてそう言うと、目を閉じて腕を組み考えていた新見准将は、目を開いて頷く。

「わかりました。すぐに編成し動きましょう。羽場少佐もよろしいかな?」

「ああ、それは構わんが、すぐに準備できるのかね?」

そう聞き返す羽場少佐に、新見准将はニタリと笑う。

「何があっても対処できるように準備は終わっています。そうですな。三十分もいただければ出発できる状態にして見せますよ」

「それは頼もしい。わかりました。部隊の召集を急がせます。では、三十分後に…」

「ええ」

二人はぱっと打ち合わせをすると、僕のほうに顔を向けて敬礼する。

それに返礼しつつ、僕は言った。

「頼みます…」

「もちろんですよ」

「お任せください」

二人の返事は、実に頼もしかった。


そして三十分後、本当に二式大艇の飛行隊によって第一波として八百名の精鋭陸戦隊が、続いて、第二派として輸送艦で部隊二千名がイタオウ地区へと出発した。

また、それにあわせて、急遽特務水雷戦隊も編成され、北部基地防衛へと緊急出撃した。

その編成は、以下の通りである。


●特務水雷戦隊

  第三水雷隊  軽巡洋艦 那珂(旗艦) 夕張

  第十駆逐隊  駆逐艦 三日月 望月

  第一防空駆逐隊  駆逐艦 秋月 照月 初月

  第二防空駆逐隊  駆逐艦 冬月 宵月 涼月

  第三防空駆逐隊  駆逐艦 霜月 春月 夏月


以上が、戦闘艦艇としては、本島に残った艦隊戦力だ。

(海防艦などの護衛隊、警護隊、支援隊などを除く)

そして、その艦隊を率いるのは、編成した新見准将、本人だった。

「まだこの土壇場を任せられる若手がいませんからな」

そう言って彼は笑っていたが、僕も行こうかというと丁寧に断られた。

長官は、軍全部の動きを見ていて欲しいとのことだった。

なんか納得いかない気持ちもあったが、やはり全体を統括する人は必要だ。

しぶしぶ諦めた。

そして、すぐに艦隊は緊急出撃していった。

それを見送った後、伊-19の定時連絡の時に命令を送る。

命令は唯一つ。

「テキカンタイ ユソウセン ヲ デキルカギリ シズメヨ」

上陸する敵を出来る限り削る為だ。

こうして、帝国との戦いは山場を迎えようとしていた。

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